異世界の英雄たち、赤ずきんチャチャの世界を修正します 作:hoyohoyo
今日も今日とて平和なうらら学園―のはずだった。
キーンコーンカーンコーンと始業の鐘が鳴る。
「あれ、しいねちゃんがまだ来てないのね」
アーリンが教壇横から教室を見渡す。
ぽっかり空いた席が一つ、しいねちゃんの席だ。
アーリンの言葉にルナが眉をひそめる。
「珍しいわねぇ…遅刻なんてする子じゃないのに」
ルナの声音に、わずかな違和感が混じる。
その時、扉の隙間にひとつの影がゆらり、と揺れる。
ゆっくり、音もなく。
(え、あれ…しいねちゃん、だよね?)
背中に弓、肩に矢筒と明らかに物騒な装備。
(思い出した!確かあのアホな悪魔…確かきゅーぴふぇるちゃんって名前の悪魔に身体を乗っ取られるんだっけ)
(あからさまに怪しさ満点よね…)
しかしそんな挙動不審なしいねちゃんを見たラスカル先生が彼(に憑依したきゅーぴふぇるちゃん)を席まで引き摺ったり、チャチャにそっと矢を打とうとするもリーヤに邪魔をされてぎゃいぎゃい言ってるうちにまたラスカル先生に叱られたり。
(まぁあの程度の悪魔なら放っておいても問題ないわね。歪みも無さそうだから観客に徹しましょう)
4人がぼそぼそと呟きながらしいねちゃんを見つめる。
アリーナが小さく拳を握り「ボクも混ざりたい…」と漏らす。
一瞬の沈黙。
次の瞬間、リナに「我慢よ」と頭を軽く叩かれていた。
休み時間、廊下でチャチャ目掛けて弓を打とうとするきゅーぴふぇるちゃんだが、マリンの邪魔が入ったり、お鈴ちゃんと一緒にバク転したり、やっこちゃんの投げた黒板消しが命中して体勢を変えさせられて回避されたりと全く当たる気配がない。
「こっちにばかり矢が飛んでこない?」
飛んでくる矢をペシペシ叩き飛ばして様子を見るアーリンたち。
「これ全部ボクの頭を狙ってる気がするんだけど!?」
文句を言いながら剣で薙ぎ払うアリーナ。
「ある意味才能よねぇ」
「非力さという意味での才能の無駄遣いだわ…」
ルナとリナが呆れた表情でリーヤに憑依したきゅーぴふぇるちゃんを見つめる。
しかし、矢が地面に刺さった瞬間、ほんの一瞬だけ黒く滲む。
(…あれ?今、一瞬だけ魔力が歪んだ?)
リナが訝しげに矢の刺さった部分を見る。
リーヤがしいねちゃんの頭を殴ってきゅーぴふぇるちゃんの本体を引きずり出したは良いが、あっさり憑依されてしまい、リーヤの姿でチャチャに矢を放つ。
「この矢に当たってゾンビになるが良い!」
渾身の一撃はチャチャの横を通り過ぎる。
「え?」
次こそは、と何発も矢を射るが全く命中せず、何故か後ろで見ていたアーリンたちに全弾襲い掛かってくる。
「わざとか!?わざとやってんのかあの牛!?」
アリーナがはやぶさの剣で叩き落としながら怒りの声を上げる。
「リーヤの不器用さは筋金入りだわ、ありゃ」
「むしろこっちを狙ってるんじゃないの?しいねちゃんに負けず劣らずの才能よね」
「当然、悪い意味のね」
ルナの言葉にリナも呆れながら返す。
そして矢が全部無くなり…。
「よわった」
きゅーぴふぇるちゃんの悲しげな声が廊下に響く。
リーヤの不器用さに嘆きながら、そのうちチャチャの召喚したゴムボールに本体の本能に負けてボール遊びを行うきゅーぴふぇるちゃん(というかリーヤ)。
プライドを傷つけられてボールを咥えながら逃亡するきゅーぴふぇるちゃん。
しいねちゃんを介抱するお鈴ちゃんを見て「あら~」と満更でもない表情を浮かべるルナを尻目にチャチャの後を追う3人。
そのうちラスカル先生に憑依したきゅーぴふぇるちゃんがチャチャたちに矢を放つが、通りすがりのうらら学園長に全て捕獲された上にビンタで憑依解除。
憑依するための技『あっちむいてホイ』をするも逆に返される始末。
プライドをズタズタにされたきゅーぴふぇるちゃんは大魔王の力を借りて強化…というか憑依しなくても弓が撃てるように(なおチャチャたちからは逆にパワーダウンと言われる始末)。
そして矢の連射で校庭の木々をゾンビ化していく。
「どれだけの矢を放つのよー!」
チャチャだけでなくアーリンたちにも襲い掛かってくる大量のウッドゾンビの群れ。
幹が軋み、枝がねじれながら腐臭を纏った腕が地面を掴む。
「ウッドゾンビ…!?ゾンビ化する木なんて初めて見たわよ!」
リナが大声を上げて距離を取り、詠唱を開始する。
「ゾンビ系なら私に任せて!『ホーリーライト』!」
アーリンが放つ神聖な光が、腐敗した樹木を次々と塵に還していく。
「所詮は木材!正拳…突きぃぃ!」
アリーナの拳がウッドゾンビを粉砕する。
「ちぇすとぉー!」
ルナの赤竜の一閃で幹ごと真っ二つにして浄化。
そのまま二股に分かれて倒れ、呪いを維持できなくなって溶けるように地面に消えていく。
「フレアアロー…ブレイク!」
リナが放つ大量の炎の矢がさらに分散され、群れだけを綺麗に焼いていく。
断末魔の悲鳴を上げて炭となっていくウッドゾンビたち。
最後の1体を消し飛ばした時にチャチャもビューティ・セレインアローできゅーぴふぇるちゃんを消滅させていた。
「ゾンビ化するしもべが多いほどあの悪魔は力を付けるみたいだったけど…」
「全部こっちでやっつけたからね、正直下級悪魔クラスの能力状態じゃあっさりよね」
「歪みの気配も無かったから、今回は楽だったわねー」
「もうちょっと歯ごたえある相手が欲しいなぁ」
ハイタッチをするチャチャたちを遠くで見つめながら準備運動にもなりゃしない、といった表情を浮かべる4人だった。
アーリンが小さく笑って呟く。
「まぁ、たまにはこういう楽な展開も悪くないわね」
「次はもっと本気で来て欲しいけども」
「確かに!」
「でも前の夜通しずっと戦い続けとかは嫌よ?」
4人の声が校庭に響き、残った灰が風に舞い、穏やかな午後の陽光に溶けていった。