異世界の英雄たち、赤ずきんチャチャの世界を修正します   作:hoyohoyo

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流血表現注意です。


~いけにえの輿(こし)~

「どこだ~合格印~」

リーヤの叫びが荒野に響く…。

乾いた風が、その声をすぐにさらっていった。

他の仲間とはぐれてしまい、チャチャたちは丸一日荒野を歩きどおし。

「というか旅の準備もせずに勢いで行って荒野を彷徨ってたら意味ないよねぇ!?」

唯一はぐれなかったアリーナが後ろでチャチャたちを叱責する。

「だってぇ…」

「合格印のために…」

「すぐ見つかると思ったんですよぉ…」

チャチャ、リーヤ、しいねちゃんの力ない声にはぁ、とため息を付くアリーナ。

空からの探索も体力を消耗しきったチャチャとしいねちゃんにはほぼ不可能。

 

「せめて飲み水くらいは…!出でよ、飲み物ー!」

出てきたのはアリーナの倍の背丈はあるオレンジジュース…の入った缶。

(水じゃないのか!)

心で突っ込みを入れるアリーナを尻目に、プルタブを開けようとして「大きすぎて開かない…」と涙目のチャチャ。

「なら俺が!」と叫んでリーヤが開けようとするも今度はプルタブだけ引きちぎってしまう。

やけくそで缶にパンチすれば衝撃でヒビが入った場所からジュースが噴き出し…結局飲めず。

「ちょっと溜まってる~」

「犬じゃあるまいしそんなの飲めないだろ!」

地面に溜まったジュースを見ながら悲しく呟くリーヤと怒りの声を上げるしいねちゃん。

「馬鹿力だけじゃなくて本当の馬鹿だな、こんにゃろ、お前ぇ…」

「ジュース~」

泣きながら罵倒するしいねちゃんと打ちひしがれるチャチャ。

(そりゃそうなるよね…どうしようも無くなったら用意した水をあげるか…)

これも修行だよ、とちょっと遠い目で3人を見守るアリーナ。

「まぁ、こういうのも課外授業だね」

 

「リーヤくんは馬鹿じゃなーい!」

4人の姿を見つけたのか、全力で近寄りリーヤの悪口に対して抗議の声を上げたのは道中ではぐれたマリン。

「水だったらわたしに任せて!」

マリンの魔法で地面から大量の水を噴き出させて…

「わー凄い!…うえぇぇぇぇ」

飲もうとして口に入れた瞬間あまりの塩辛さに吐き出す3人。

「塩水…」

「そりゃあ海水だからねぇ…」

アリーナは人魚が使える水って言ったら海の水だよなぁ、と思いながらその様子を見つめる。

 

「余計喉が渇いた…」

力なくへたれ込む3人に仕方ないなぁとアリーナが水筒を出そうとした時。

「宝石が…!」

チャチャのブレスレットから宝石が外れ、宙に浮いたかと思うとチャチャたちを誘導するように飛んでいく。

「あの宝石の後をついていけばきっと助けてくれるわ!」

笑顔でチャチャはその宝石に向かって駆け出す。

リーヤも、しいねちゃんも、遅れてマリンも。

(どうやら、物語通りになりそうだね)

アリーナも軽く笑みを浮かべて彼女たちの後ろをついていくのであった。

 

宝石の後をついていくと、そこに見えたのは小さな村だった。

村の中に入ると、建物の屋根は壊れ、人の気配はなく、瓦礫があちこちに放置されたまま。

「ゴーストタウンかしら…リーヤくぅん」

マリンがチャンスとばかりに怖がる素振りをしてリーヤに凭れかかる。

チャチャが「リーヤから離れてよ!」と言葉で噛み付き、マリンが「いや~んこわ~い」とぶりっ子。

リーヤは空腹と渇きでヘロヘロ。

しいねちゃんが井戸を見つけるも井戸水は枯れており、とうとう3人はその場に倒れ込んでしまう。

 

その時近くの建物の扉が開き、ドレスを着た老婆を必死に止める男性数人が現れる。

「ええい離せ!ワシは乙女じゃ!ワシがヤマタノオロッシーの…ん?」

老婆が井戸に居たチャチャたちに気付き、老婆を止めていた男の一人が彼女に耳打ちをする。

何度か首を横に振るが、耳打ちを何度もしたところでしぶしぶ頷く老婆。

 

そして夜。

チャチャたちは村の広場に連れて行かれ、ごちそうを振舞われる。

「美味しいー!」

「昨日から何も食べてなかったですからねぇ!」

「おかわりー!」

3人は遠慮なく食事を堪能するのだ。

 

しかし見守る村人の中で子どもが『おなかすいた…』の言葉に疑問を覚えたしいねちゃんが老婆―この村の村長―に問いただす。

「実はあんたたちが食べている食料がこの村の最後の食料なんじゃ」

『えー!?』「おかわり!」

驚きの声を上げる3人と空気を読まないリーヤ。

リーヤの口に食べ物を詰め込ませて黙らせ、老婆の話の続きを聞く。

「ヤマタノオロッシーという8つの頭を持つ大きな化け物が村を襲い、村を荒らしてしもうたんじゃ」

そこまで言ってチャチャたちを見つめる。

「言い伝えによると、ヤマタノオロッシーを静めるには清らかな乙女のいけにえを捧げなければならぬという…何しろヤマタノオロッシーは可愛い乙女が好きでのぅ」

「結構エッチなんですね…」

苦笑いするチャチャの傍でしいねちゃんが突っ込む。

「ところが村の若い女はみんな都会に行ってしまって誰もおらんでな、仕方なくこのワシがいけにえに…!」

『お、乙女~!?』

「ヤマタノオロッシーが怒っちゃいますよね」

しいねちゃんの言葉と苦笑いをするチャチャたちにずいっ、と老婆―この村の村長―が近寄る。

「そこでじゃ!3人もめんこい女の子がおるし!」

「それってわたしの事!?」

しいねちゃんを突き飛ばして老婆に同意を求めるマリン。

「そうそう!だからちょっくらなってくれんかのぅ」

「何に?」

疑問の声を上げるチャチャに村長は満面の笑みを浮かべて。

 

「い・け・に・え」

 

「ははは…」

引きつり笑いのまま逃げようとするチャチャたちだったが、村人の悲壮感溢れる懇願により逃げられなくなる。

「わたし、本当は可愛くないのよー」

「わたしもー」

可愛い乙女、という事を否定するためにわざと変顔をするマリンとチャチャ。

「そうなんです、2人とも醜い!身も心も穢れているんです!」

さらにしいねちゃんが言葉で上乗せする。

「チャチャは可愛いー!」

復活したリーヤがしいねちゃんを突き飛ばすが、逆にしいねちゃんも蹴りをリーヤに入れる。

「ぼけぇぇぇ!当たり前だろうが!チャチャさんはすごく可愛い!世界一可愛い!」

「だったら寝言を言うな!」

何とかチャチャ(あとおまけでマリンとアリーナ)をいけにえにさせない為に作戦で心にもない事を言ったのだが、あっさりと崩壊してしまう。

 

「オババさま!いけにえの輿の準備が出来ました!」

村長の背後で男が報告に来る。

その横には飾りの付いたいけにえ用の輿が置かれていた。

「チャチャさん、あそこ!」

しいねちゃんが指を差した場所、輿の飾りの中央。

「合格印だ!」

そう、合格印が飾りの真ん中に鎮座されていたのだった。

喜んでそれを取ろうとした時―

「何をしておる!それは天から授かったお飾りじゃー!」

どうやら村の言い伝えで、天から降ってきた光る物はいけにえの輿のお飾りとして捧げよ、となっており、それを持ち帰ればいけにえの神通力が無くなるという。

「わたし、いけにえになる!」

チャチャが決意を秘めた表情で拳を握りしめる。

「だから、いけにえになったフリをしてヤマタノオロッシーをやっつけちゃうの」

彼女の言葉にリーヤとしいねちゃんは賛同し、作戦会議を練る。

「それなら堂々と合格印を持って帰れますね」

「俺たちは隠れて、ヤマタノオロッシーが出てきたらぶっとばす!」

「ボクも隠れておくね、課外授業の一環として点数入れとくよ?」

「わたしも賛成ー(チャチャが食べられたらリーヤくんはわたしのもの…)」

 

ひとり不謹慎な思いを持っているが、これで方向性は決まった。

チャチャにいけにえ用のドレスを着せ、「いけにえは2人必要なんじゃ」と言われマリンも強引に着せられて輿へ。

「アリーナ先生がいけにえになりなさいよ~!!」

閉じた輿の蓋に頭をぶつけ、そのまま気絶するマリン。

 

 

(リーヤとしいねちゃんは何してるんだ…?)

ヤマタノオロッシーがチャチャたちの前に立ちはだかり、輿を壊され表に放り出される。

アリーナは気配を殺しながら背後に近寄るが…。

 

(!?)

祭壇のさらに後ろ、山奥の方からとてつもない邪悪な気配が。

魔力感知に鈍いアリーナでも分かる程の殺気。

空気が重くなる。

肺に命の源が入らない錯覚。

山奥から吹き降ろす風が生温い。

辺りが腐臭に帯び、鳥の鳴き声が止まる。

 

(これは…本気でまずい)

彼女の皮膚が粟立つ。

自分より明らかに格上の相手と立ち向かった時の感覚…その本能が『死』を確信していた。

(仕方ない、早くリーヤとしいねちゃんが来る事を願うしかないか!)

彼女は舌打ちをすると山奥の方に身を躍らせた。

 

チャチャたちがヤマタノオロッシーと戦っている祭壇から少し離れた開けた場所。

そこに佇んでいたのはヤマタノオロッシーと同じ姿をした8つ首の龍。

しかし肌の色は青ではなく、黒。

「歪み…!ここで出してきたのか!」

空気が、軋む。

破壊衝動に駆られている歪みオロッシーはアリーナの姿を見ると問答無用で襲い掛かってくる。

「…チャチャたちの方には、行かせないよ!」

本来のヤマタノオロッシーも、チャチャたちもソーゲスも纏めて屠る様子を見せている歪みオロッシー。

咆哮を上げて伸ばした首がアリーナ目掛けて飛んでくる。

「甘い!」

素早く身を躱し、返す刀でオロッシーにはやぶさの剣を叩きつける。

「―っ!?」

いつもならそれで斬れるはずなのに、まるで存在そのものが拒絶しているかのように弾かれそうになる。

「こ、のぉ!」

さらに力を込めてようやく皮膚を切り裂くに留まるレベル。

複数の首が的確にアリーナを襲う。

「ちっ!」

最小限の動きで敵の首を避け、今度は拳で殴りつける。

「硬い…!なら、速度を「点」に凝縮させるだけ!」

拳からのかかと落とし、そして首を踏み台にしてもうひとつの首を斬りつける。

 

「ゴオオオオオオ!」

オロッシーの口から漆黒のブレスが吐き出される。

「くっ!これは喰らったらまずいやつ!」

自分の首ごとアリーナに向けてブレスを吐きつけ、間一髪で回避する彼女。

周囲の木々がまるで泥のように腐敗し、崩れていく。

「ここっ!せいやぁぁぁ!」

懐に潜り込み、一番柔らかいであろう胴体に渾身の一撃を入れるが、さしてダメージを与えてない様子。

 

(まずい…有効な決定打が、ない)

背中に流れる冷や汗は焦りとなり、オロッシーの噛み付きを回避しそこねてしまう。

「ぐっ!」

牙が肉を裂き、骨の近くまで届く衝撃が走る。

ごりゅ、という鈍い音。

遅れて灼熱の痛みが彼女を襲う。

呼吸が詰まる、視界が一瞬白く弾ける。

(まずい、立て…立て!)

力なく片膝を付き、血が温かく腹を伝う。

服がみるみる赤く染まり、地面にぽたぽたと血が落ちる。

(血を流し続けるのはまずい…このままじゃ動けなくなる)

何とか立ち上がり痛みは気合で誤魔化し、転がるように茂みに隠れる。

(いつもはアーリンたちと連携取りながら戦ってたからなぁ…ひとりは、流石にきつい)

リナの魔法が隙を作り、ルナが援護し、自身が敵を叩き、アーリンが回復を入れる。

(だけど今は―全部自分で、やるしかない)

その事実が、ほんのわずかに胸を冷やす。

ともすれば迷いと弱気が出てしまう彼女だったが、歯を食いしばって自らの頬を両手で叩く。

「しっかりしろボク!何のために戦ってるんだ!チャチャたちを守るためだろ!」

自身を鼓舞し、迷いを消す。

 

(慌てるな、歪みも生き物に憑依してるだけだ。どこかに弱点があるはず)

服の上から滲み出す血から分かる様に脇腹からの傷は浅くない。

(血を流し続けるのはまずい、ならば!)

手を傷口に当て、自らの気功術でその傷を塞ぐ。

「よし!」

再びオロッシーに突進していく彼女。

 

何度も攻撃を繰り返すうちに自分の体術と剣が一体化していく感覚を覚える。

「さっきより手応えを感じる…行ける!」

オロッシーも今までと違う彼女の攻撃に脅威を感じ取ったのか、チャチャたちの方に行くのはやめて目の前の脅威を排除する方向にシフトチェンジする。

「もう二度目は喰らわない!」

噛み付きも素早く避け、スムーズな流れでかかと落とし、さらにその足を軸にして鋭いはやぶさの剣の一撃がオロッシーの首を斬り飛ばす。

「グギャアアアアアッ!」

痛みにのたうち回る首を尻目に他の首が一斉にアリーナに向かっていく。

「甘い!」

首のひとつが吐き出したブレスを避け、別の首の噛み付き攻撃を避ける。

そして―見つけた。

動きが一瞬だけ、遅れる場所。

「首の付け根!銀色に光る文様、そこだあぁぁぁぁ!」

目の前に見えるのは銀色に鈍く光る紋様、それに呼応するかの脈打つ歪み。

両手に持ち替えたアリーナのはやぶさの剣での渾身の突きが、銀色に脈打つ紋様を貫く。

皮膚を貫き、中の肉部分、そして歪みの核を貫く。

核の悲鳴がオロッシーの口を通して撒き散らされ、世界が軋む。

倒れたオロッシーの影が、一瞬だけこちらを嘲るように歪んだ風に見えたのは気のせいだろうか。

それも一瞬のこと、歪みを潰された身体はもはや維持できず、溶けていく様に地面に消えていく。

 

「向こうも終わったみたい…はぁ~、疲れたぁ」

ビューティ・セレインアローの聖なる光が見え、それを見たアリーナは地面に大の字になって寝転がった。

「合格印もこれで手に入ったし…あ、試験問題作らなきゃ…」

心地よい疲労感に包まれながらアリーナは夜空の星を見上げる。

(この傷の跡を見られたら、絶対文句言われて滅茶苦茶心配されるかな)

小さく笑うアリーナ。

それでも、仲間がいる場所へ帰ることを疑いもしない。

夜空の星の一つがやけに強く輝いて、まるでアーリンたちの笑顔のように瞬いている気がした。

 

 

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