異世界の英雄たち、赤ずきんチャチャの世界を修正します 作:hoyohoyo
無事に卒業試験も終わり、うらら学園に卒業式の朝が訪れた。
校庭に並ぶ椅子、磨かれた壇上、春の風に揺れる校旗。
それは確かに『一区切り』の景色だった。
保護者席ではセラヴィー、どろしー、リーヤの祖父が座りながら感無量(特にどろしー)な表情で式を見つめる。
「えー、それではバナナ組」
うらら学園長が卒業証書を渡そうと呼びかけるが、言い切る前にラスカル先生が壇上に上がって鞭を振るう。
「えぇい!ひとりひとり渡すのは面倒くせぇ!ガキども全員上がって来い!」
彼の言葉に困惑しながらも壇上に上がるバナナ組の面々。
「おやおや」
「情緒もへったくれも無いわね」
保護者席でも、セラヴィーとどろしーが揃って目を瞬かせていた。
「代表者に証書を受け取ってもらう…チャチャ!」
「ええ、わたし!?」
「そうだチャチャ、お前だー!」
ラスカル先生の鞭が飛ぶ。
他のクラスメイトがチャチャを後押しして先生に向かって歩くが、当然ガチガチに緊張しており、手足が同時に動いてしまう。
「チャチャさん、リラックスリラックス!」
しいねちゃんの助言に今度は脱力しまくり、会場の皆がずっこける。
(どんな時でもマイペースなのよね…そこがチャチャの良いところなんだけど)
正装で卒業式に挑むアーリンたちがよろよろ立ち上がる。
(あの無邪気さがある限り、この世界はまだ壊れない―そう思いたいわね)
壇上で騒ぐチャチャたちを見て彼女は口元を緩ませる。
学園長が卒業証書を渡し、温かい言葉を掛けて場が感動の渦に。
セラヴィーもどろしーもリーヤの祖父も、アーリンたちも涙するのだ。
「良いよねぇ、こういうのも…ってリナ、何その顔? 呪いの装備でも着けてるみたいな顔よ」
「…あんたは知らないでしょうね。郷里の魔導士協会で称号を授与される時、あたしが渡されたローブの色が…よりによって『桃色(ピンク)』だったのよ! 《桃色のリナ》なんて、末代までの恥だわ…!」
「ぶっ…!似合いそうじゃない、フリルとか付いてたの?」
「笑うな馬鹿! 屈辱以外の何物でもなかったわよ!」
囁き合っていたアーリンが思わず吹き出したのを脇腹を肘でどつくリナ。
「ええい、じめつくのは性に合わん!チャチャ!卒業記念に一発派手な魔法を披露しろ!」
ラスカル先生の言葉にチャチャは驚くが、うらら学園長の後押しもあり『ほたるの光』を召喚しようとする。
地面が震え、光が立ち上る。
誰もが奇跡を期待した、その瞬間…!
ズズズズ…ズーン!
地響きが鳴り、体育館の地面から飛び出してきたのは光り輝くホテル。
「ほ、ホテルの光ぃ~!」
召喚失敗したチャチャにラスカル先生が至近距離まで近づいて『ナイスジョーク』となでなで。
立ち去ろうとするラスカル先生の目に涙が浮かぶ。
その姿にバナナ組の生徒が駆け寄り、『先生~!』と叫びながら抱き着いて涙の嵐。
「感動じゃ…!教え子との師弟愛…うおおおおおん!」
巨人並みの体格のリーヤの祖父からも滝のような涙が。
それは体育館をあっという間にプールのようにして、みんな溺れたり浮き輪につかまったりと散々な目に遭うのだった。
~???~
「このバカ者がぁ!」
「ひえぇぇぇぇ!お許しを、今度こそは、今度こそは!」
大魔王の怒りにソーゲスが土下座をするが、その怒りは収まる事を知らず。
掃除夫に変身して媚びを売るソーゲスの上にいつの間にか鷹が乗っていた。
「ひえぇぇぇぇ!」
「案ずるな、使いだ!」
鷹はソーゲスを一瞥すると大魔王の隣に立ち、大魔王の呪文で一瞬で手紙に変化する。
「なに…アクセスが戻ってくるのか」
「アクセス?それは一体何者で…」
「まだ居たのか!」
ソーゲスに向けて雷鳴を飛ばす大魔王。
そのまま逃亡し、ゴマすりの為に掃除を行うソーゲスだったが、王家の紋章の付いた扉を掃除中に扉が開き、その中に入ってしまう。
そこには、女性を庇う男性の石像。
「先の国王夫妻の石像でゲスね、それにしてもやけにリアルな石像ゲスなぁ~」
指先の皺、衣服の繊維の流れ、瞳に浮かぶ恐怖。
それは彫刻ではなく、時間を止められた人間そのものだった。
「それはそうだ」
いつの間にか背後に立つ大魔王。
「正真正銘、本物だからな」
「な、なんですとぉ!」
大魔王はソーゲスに向かって歩み寄る。
「国王と王妃は儂が石像にしたのだ」
「そんな…!それでは王位を大魔王様に譲ったというのは嘘でゲスか!?」
「そうだ、先の大王も儂が宝石に封じ込めた。国王の一人娘さえ居なければ儂がこの国を完全に支配したものを」
「まさか…一人娘というのは、チャチャ!?」
「そうだ、秘密を知ってしまったからには…消えて貰わねばな、ソーゲス!」
そこまで言うと大魔王は腰の剣を抜いてソーゲスに振りかぶる。
「あれほど大魔王様の為に忠誠を尽くしてきたのに…!」
「忠誠とはな、使い捨ての駒が口にする言葉ではない。アクセスが戻ってくれば―お前には用はない、ソーゲス!」
言葉が終わらないうちに勢い良く剣を叩きつける。
ソーゲスはネズミに変身し、その攻撃を間一髪で回避、そのまま逃亡するが。
「ふふふふ…ソーゲス…!」
背後から押しつぶしてくる圧。
大魔王がソーゲスの命を消そうと剣を何度も振るうのだ。
「はははは…いつまで逃げれるのかな?」
何とか城の外に脱出するものの、魔力が尽き変身が解けてしまう。
「助けてくれでゲス…お願いでゲス…!」
必死に這いずりながら逃げようとするソーゲスに剣を振るおうとした時!
「ぐわあああああああ!」
大魔王が苦悶の表情を浮かべ、全身に激しい電撃を受け身動きが取れない状態に。
「け、結界でゲスか…!大魔王様がこの城から一歩も外に出なかった理由はこれでゲスね…!」
ソーゲスは後ずさりしながら絶叫を上げる大魔王を見つめる。
「おのれ王家の血!またしても儂の邪魔をするのかあぁぁぁ!!」
絶叫が終わらないうちに箒に乗って逃げるソーゲス、そして後を追いかけるヨーダスとハイデヤンス。
「お前たちも騙されてるでゲス!」
「ふふん、貴様の首を取れば次の幹部は我々ダス!」
「おとなしく首を置いていけでヤンス!」
聞く耳など持たず、自分たちが昇進する事に欲が向いて真実を知ろうともしない哀れな2人。
「ひぃぃぃぃ!ターボエンジン全開でゲス!」
何とか回復した魔力でスピードを上げ、2人の追撃を振り切ろうとするソーゲス。
それを見た2人はお互いのいがみ合いを一時休戦にしてソーゲスに追いつくために砲弾と大砲に変化。
ヨーダスが変身した砲弾が発射され、ソーゲスに追いつこうとした時、足元に絡みついた魔力紐がまるで犬のリードみたいに引っ張られ、その場で落下。
「ふふん、抜け駆けは許さないでヤンス…。ソーゲスの奴、もちもち山に行ったな?」
ハイデヤンスが逃げ延びるソーゲスを見ながら不敵な笑みを浮かべるのであった。
「ぐぅ…!」
何とか結界から抜け出し、城の中に戻る大魔王。
玉座に座り、荒い息を吐きだす。
「おのれ…!おのれぇぇぇぇ!」
自身を閉じ込めた結界に呪詛を吐きつける。
「おやおや…大魔王とあろう者が無様な様子で」
「貴様…何をしに来た…」
玉座の背後から聞こえる声に大魔王はどす黒いオーラを噴き出す。
「部下は能無し、それでも何度も討伐に向かわせた貴方はただの無能」
「ほざけぇ!」
「私の手助けも元がこうでは、ねぇ」
背後の嘲るような声に大魔王がさらにオーラを撒き散らす。
「アクセス、でしたね。今までの駒みたいに、すぐ壊れる手合いでは困りますよ」
「奴なら行ける…!」
「ふんふん、じゃあ今回は特別サービスです、アクセスにこれを埋め込ませましょう」
そう言って指先から漆黒の魔力球を浮かび上がらせる。
その魔力球は大魔王のオーラをも喰らい、バチバチと音を立てて宙を漂う。
(人間の英雄ども…矮小な存在の分際で、私の盤上に立つとは)
背後の声は大魔王に聞こえないほど小さく呟いていた。