異世界の英雄たち、赤ずきんチャチャの世界を修正します   作:hoyohoyo

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~異世界転移、赤ずきんチャチャの世界へ~

光が収まり、視界が戻る。

森の匂い。湿った土の匂い。

だが…どこか色が鮮やか過ぎた。

木々の緑は絵具のように濃く、遠くの城下町の屋根は宝石箱をひっくり返したようだ。

そして山奥を挟んで佇むやや暗い影を潜めた白亜の城が見える。

 

「ここが…異世界」

アーリンは無意識に周囲の魔力の流れを探る。

空気が軽い、戦場の匂いがしない。

しかし、違和感がある。

(妙に整い過ぎている)

この世界はまるで『物語の舞台装置』のようだった。

 

「あそこが魔法の国の城下町、さらに奥にある城が…この物語における黒幕の大魔王が居る城ね」

4人は町の様子を遠目から観察するが、本来賑わうはずの大通りには人はいるものの数は少なく、活気が薄い。

「どうする? 町に入る?」

アーリンが口を開くも、リナが首を振る。

「まだこの世界の細かな情報を知らないし、この町しか知らないわ。町には入るけど、この先必要なものを買うだけで情報収集は後回し。チャチャって子も物語が始まる数か月前だから、今変な行動を起こすのはマズい」

「確かに。まずは生活基盤を作って、この町以外の地域も回らないと。情報は徐々に集めていきましょう」

「鍛錬も続けないとね…ってルナ、何してるの?」

アリーナが振り返ると、ルナが自分の頰をすりすりして恍惚の表情。

「お肌…もちもち…ああ、いい…」

そんなルナをジト目で見つめるリナ。

「そんなおばさんじみたこと…イエナンデモナイデス(ガクガクブルブル)」

余計な一言に殺気を飛ばされ、リナが真っ青になって震える。

(完全に主従関係はっきりしてるよね)

(まぁ逆に私たちもルナの虎の尻尾を踏まないようにしなきゃ)

そんなやり取りを横目に、二人は苦笑い。

 

行動は早かった。

魔法の国を中心に移動し、途中で馬を購入。

この世界の馬も、彼女たちの世界とあまり変わらない。

購入する際も、アーヤハから貰っていた宝石でおつりが出る程だった。

(ちょっと金銭感覚を整えないと、今後困るわね…)

財布係のルナが困惑しつつも、無事に交渉成立。

乗馬可能なアーリンとアリーナを中心に、ルナはアーリンの後ろ。

リナは遠距離を移動する場合、飛翔魔法「翔封界(レイウイング)」で飛行、近距離はアリーナと一緒の馬に二人乗り。

近隣の街を回り、情報を仕入れ、簡単な依頼で金銭を稼ぐ。

そして仕入れた情報を精査しながら、次の段階へ。

「…妙ね。国王夫妻が消えたのに、王位はまだ空席のまま」

「大魔王が『王位を譲ってもらった』と宣言しているそうだけど、国王の印が無いから国民からは認められていない」

リナとアーリンが仕入れた情報を突き合わせる。

「もちもち山に住む大魔法使いセラヴィーの弟子が王の娘に似ている、って噂も流れているみたいね」

ルナが注文したエールに口を付けつつ、アリーナが続けて言葉を繋げる。

「大魔王が情報を操作しているってのは考えられるかしら」

「可能性としては薄いわね。物語上ではチャチャの存在を知ったのはこの後だから」

アーリンは窓の外から遠くに見える王城をじっと見つめる。

「…そろそろ物語が始まるのかもしれないね。とにかくセラヴィーのところに行ってみる?」

アリーナの言葉に全員が頷く。

 

数日後、アーリンたちはもちもち山の麓に到着。

「物語の舞台はここか…」

山を見上げてぽつり、アーリン。

「とりあえず行動の確認をするわね」

リナが地図を広げ、他の3人を座らせる。

「これからセラヴィーのライバル、どろしーが大魔王から送られた鏡によって正気を失い、鏡の甘言に乗せられて大魔法使いの座を奪おうと企み、セラヴィーを誘拐する事件が起こる」

地図のセラヴィーの家(もちもち山)とどろしーの城(うりずり山)を指す。

「その後チャチャがマジカルプリンセスに変身して、どろしーが召喚したドラゴンを倒し、セラヴィーを救出…ってのが本来の流れ」

「でもその流れを歪ませる何かが存在している、って訳ね」

ルナが続ける。

「そう。あくまでも主人公はチャチャたち3人だから、私たちがメインで動いちゃいけない」

「裏で物語を正しく導く、ってことね」

リナの言葉にアーリンが応える。

「歪ませる何かがわからないけど、少なくともチャチャに危害を加えるパターンになりそう。何せ主人公が途中で退場すれば物語は破綻する」

「その歪み…ひょっとしたら余計な魔物や異物が出てくる可能性もあるから、それをボクたちが片付ける」

アリーナが拳をぱしん、と叩く。

「行動方針は決まったわね? それじゃあ、行きましょう」

地図を丸め、立ち上がる4人はそのままもちもち山へ入っていった。

 

物語は史実通りに進んでいた。

どろしーの城に差出人不明の宅配便が届く。

中身は全身を映す鏡。

鏡を見ながら『世界で一番美しいのは』など言って遊んでいたが、鏡の中のどろしーに『世界一の魔法使いはもちもち山のセラヴィー』と言われ逆上。

さらに鏡の魔力で操られ、変貌した彼女はそのままもちもち山に特攻していく。

 

「物語は順調…ね」

「でも出てくる人物がみんなポンコツ過ぎて…」

チャチャ、狼少年のリーヤ、大魔法使いのセラヴィー、揃いも揃って何か抜けている。

チャチャは天真爛漫な可愛い女の子だが、召喚魔法を失敗ばかり、成功した時は他の要因でドジを踏む。

リーヤは精悍な少年、本人曰く『強い狼男』なのだが変身後の姿はどう見ても子犬にしか見えない。

セラヴィーは世界一の大魔法使い…とは一見見えない上にお気に入りの人形、エリザベスを腹話術で喋らせる変態だ。

(こんなので大丈夫かなぁ)

アーリンが一抹の不安をよぎらせつつも順調に物語は進んでいく。

そのエリザベスを人(というか物?)質に取られてあえなく捕まるセラヴィーがビンに閉じ込められてそのままうりずり山に連れ去られていく。

「よし、私たちも行くわよ!」

チャチャとリーヤがほうきに乗って飛び立つ姿を見て、アーリンたちもこっそり後を追う。

 

うりずり山ではどろしーの弟子、しいねちゃんがチャチャに一目惚れしたり、それに嫉妬したリーヤが対決したり。

紆余曲折あり、再び外に追い出されるもチャチャの花を咲かせる召喚術が巨大な木となり、どろしーの部屋へ侵入する事が出来た。

大魔王に操られているどろしーは弟子のしいねちゃんともども倒す為に人間の身長の倍以上ある巨大なドラゴンを召喚するも、当の本人は道中でチャチャが召喚した鳩ならぬダチョウに追い掛け回されてしまう。

 

「ここまでは物語通り…待って!」

どろしーが召喚した巨大なドラゴンが顎を開く。

その背後―空間が、ひび割れた。

 

鏡の表面に亀裂が入るように、空気が裂ける。

そこから『押し出される』ように、もう1体。

さらに、もう1体。

 

だがそれは正常な召喚ではない。

輪郭が二重にぶれ、鱗の色が一定しない。

鳴き声が遅れて響く。

 

「…違う」

リナの呟きが、戦慄を帯びて響いた。

本来、どろしーが召喚するはずのドラゴンは1体のみ。

だが、空間のひび割れから這い出したのは、色の定まらない『異形』がさらに2体。

「召喚魔法じゃない。何かが『割り込ませてる』」

「流石に1体ならまだしも3体はチャチャたちじゃ荷が重すぎるわね」

アーリンが背中のアークスレイヤーに手を掛ける。

「しかもその2体の魔力反応が明らかにおかしいわ、多分これが物語の『歪み』よ!」

魔力感知に優れたリナが本来居るドラゴンの後ろで蠢く2体のただならぬ魔力の歪みを察知していた。

「でもどうするの?今飛び出したら表立っちゃうわよ!?」

ルナの言葉にリナが即答した。

「仕方ないわね…!『通りすがりの旅人』で何とか誤魔化すわよ!」

「えぇ…」

「それで通るのかなぁ」

アーリンとアリーナは困惑するが、今は緊急事態と割り切ってチャチャたちの前に躍り出る。

その姿に驚くチャチャたち。

「あなたたちは?」

「私たちは偶然通りかかった旅人よ!チャチャたちは目の前のドラゴンを何とかして!あとの2体は私たちが引き受ける!」

「わ、分かった!」

アーリンの勢いのある言葉に、チャチャが反射的に頷く。

「おいチャチャ、明らかに怪しい奴だぞ!?」

「でも、わたしたちだけじゃ、あのドラゴンを何とかすることは出来ない。この人たちにも手伝って貰わないと」

 

(…やっぱり無理があるんじゃないかしら)

(でも、何とか理解してくれたみたい)

ルナとリナがこっそり呟く。

 

「化け物竜!ボクたちが相手だ!」

アリーナが素早い動きで片方のドラゴンに飛び掛かる。

石畳が砕けるくらいの勢いで床を蹴ると、彼女の身体は弾丸のように跳ぶ。

ドラゴンの顎を踏み台にし、空中で捻りを加えた回し蹴りを側頭部へ叩き込む。

ドォン!

肉が弾ける音ではない。

大岩が砕けるような轟音が響き、ドラゴンの首が不自然に曲がる。

だが次の瞬間、ドラゴンの尾が空間を裂く。

アリーナの頬を、わずかに血が伝うが。

「遅い!」

さらに追撃。

彼女の拳が鱗を割り、衝撃が脳天へ貫通する―はずだった。

(…!?)

だが、感覚がずれる。

まるで分身を相手にしているような、感覚。

「ええい!」

勢いのままに蹴りをドラゴンの脳天に叩き落とす。

 

「部屋のサイズにドラゴンが合っていないから動きが鈍い…ならば動きを止める!」

アーリンのアークスレイヤーが唸る。

魔剣の刃が青白く輝き、振りぬいた一閃が空間ごと切り裂く。

ドラゴンの前足が、遅れて地に落ちた。

 

「赤の竜神の力よ…!チャチャたちを守れ!」

ルナは自らに封じ込められた赤竜神の力を開放する。

赤く輝く竜の紋章が手の甲に現れた瞬間、その手をチャチャたちにかざす。

同じ色の結界がチャチャたちの前に広がり、ドラゴンのブレスを弾き返す。

「無駄よ、叩き割りたいなら神様でも連れてきなさい!」

 

「闇よ 集いて深淵となりて 我が前にある敵を討て!『黒妖陣(ブラスト・アッシュ)』!」

魔力が重く沈む。

リナの唱えた黒魔法は前足を失いもがくドラゴンの周囲を黒い何かで包みこみ、一瞬のうちに黒い塵となる。

そして片割れの1体はあっという間に崩れ去っていく。

チャチャたちが放つ、どこか愛嬌のある魔法とは根本的に「質」が違う。

それは、数多の死線を越えた者だけが放つ、純粋で冷徹な暴力の結実だった。

「中級魔族よりは若干強い程度ね…。まぁこのあたしにかかればちょちょいのちょい、よ!」

そんな理不尽な暴力を軽口で済ます彼女たちはやはり『英雄』なのだろう。

 

「これで、どうだ!」

アリーナのはやぶさの剣がもう1体の眉間を貫き、串刺しにされたドラゴンはそのままズシンと音を立てて倒れる。

 

「ふっ、他愛もない」

「とりあえずこれで歪みは消えたかしら」

恰好を付けるアリーナと少し安堵の溜息をつくリナ。

ちょうど向こう側ではチャチャがプリンセスメダリオンによってマジカルプリンセスに変身し、本来のドラゴンをビューティ・セレインアローで消し飛ばしたところだった。

 

その後どろしーは正気を取り戻し、エリザベスも無事回収(リーヤはエリザベスがセラヴィーお気に入りの人形とは気づかなかった)、もちもち山に帰る一行だったが―

 

「チャチャ、リーヤと先に家に帰ってなさい」

「うん、分かった!ありがとう、通りすがりの旅人さんたち!」

手を大きくぶんぶん降るチャチャたちの姿が見えなくなった瞬間…!

 

空気が、一瞬で凍り付いた。

風が止まる。

虫の声が、消えた。

先ほどまで『変な人形使い』だと思っていた青年の瞳から、一切の温度が消えている。

軽かった世界が、一瞬にして重くなる。

セラヴィーの口が開くが、何も詠唱している様子はない。

だが次の瞬間。

 

「!!」

雷鳴がアーリンたちに襲い掛かる。

アリーナが反射的に剣で弾き飛ばすが、飛ばした雷撃が近くの木に当たり、激しく燃え上がる。

「一体何を…!?」

驚愕するアーリンの目の前には、さっきの人畜無害な青年の姿はなく。

「本気ではありませんよ…死なれては、話が聞けませんからね」

セラヴィーの瞳が細くなる。

周囲の魔力が渦を巻く。

木々が軋み、英雄の自分たちさえ油断すれば飲み込まれてしまいそうだ。

「…貴女たちは一体何者なんです?」

厳しい表情を浮かべ、バチバチと電撃を手に纏わせながらゆっくり近寄るセラヴィー。

 

「やば…完全にバレてる」

「やっぱり通りすがりの旅人は無理があったのよ」

冷や汗をかくリナとルナ。

そしてはぁ~、と大きい息を吐くと、アーリンが両手を上げて降参のポーズを取る。

「隠し事しても仕方ないわね。とりあえず貴方と敵対する気は無いわ」

「そちらが無くてもこちらは不信感でいっぱいです。明らかにどろしーちゃんの魔力を超えたドラゴンが複数召喚された事も、それをいとも簡単に倒す貴女たちも」

「それも踏まえて、話がしたいの。信じられないかもしれないけど、私たちは貴方たち…チャチャたちの味方よ」

言葉はしっかりとしているが、大魔法使いセラヴィーの魔力に中てられ、大粒の汗が一筋流れるアーリン。

「…話を聞くだけですよ」

 

魔力の重圧の中、アーリンはわずかに目を細めた。

(この世界は、思ったより甘くない)

そして彼女は悟る。

物語は、誰かの遊びではない、と。

どうやら、今夜は長くなりそうだった。

 

 

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