異世界の英雄たち、赤ずきんチャチャの世界を修正します 作:hoyohoyo
流血表現あります。
「リナ!私がやる!」
「アーリン…」
(リナはきっと戸惑っている。自分の攻撃はアクセスに大きな傷を残しかねないという事を。ならば、私が)
攻撃の構えを取り、アーリンがアクセスに対峙する。
「お前に、この私が倒せるかな?」
余計な事をすればアクセスの命も無い、と示唆しているような口ぶり。
その言葉に呼応して、歪みの中心が脈打つ。
漆黒の宝珠がまるで呼吸しているかのような幻覚を見そうになる。
「…倒すわ。そしてアクセスを『元の物語』に引き戻す!」
アーリンは地を蹴った。
視界の隅で、アリーナが地面に倒れてピクリとも動かない姿が見える。
反対側で木の根元に崩れ落ちるルナの姿も。
それでも、足は止まらない。
(絶対勝つ。それが私たちの使命!)
アークスレイヤーが激しい青白い光を帯びる。
刀身を伝うその光を見て、歪みが拒絶するように震える。
「神に、逆らうというのか…!なら貴様は絶対に殺す!」
アクセスも同じくアーリンに向かって駆け出した。
周囲が止まったように感じられた。
アーリンは無心で、その胸元の歪みに向けて大剣を片手に持ち替えて突く。
両手持ちが基本の大剣アークスレイヤーを、敢えて片手で突き出す。
威力を殺し、アクセスの命を奪わずに「歪みの核」だけを貫くための、捨て身の一撃。
世界が、静止した。
その刃は、確かに『そこ』へ届いた。
宝珠に刃の先端が突き刺さり、そこから漆黒が裂けると同時に空間が軋む。
歪みの中心に走る、細い光。
(届いた!)
その一瞬、アクセスの視線が『自分ではない誰か』に向いた気がした。
次の瞬間、アーリンの視界が反転した。
斜めに走る衝撃破。
音が遅れてやってくる。
ほぼ本能的に、アーリンは自分の右手を手前に寄せ、アークスレイヤーで防ごうとする。
鈍い音が聞こえたと同時に肩口から腰へ、焼け付くような熱が走る。
何が起きたのか理解するより早く、足の力が抜けた。
目の前の光景を見る。
アクセスの歪んだ表情と共に振り下ろされた刀身が見える。
その刀身には誰かの赤い血がべっとりと付いていた。
誰か?
―自分の、血だ。
袈裟懸けにされた自分の身体から鮮血がほどばしる。
着ていた鎧はただの鉄屑と化して、身体から外れていく。
そして防いだはずのアークスレイヤーの刀身の中心に筋が入り、そのまま2つに離れていく。
地面に落ちた金属片が、乾いた音を響かせる。
アークスレイヤーが―折れた。
「あ…」
声にならない。
膝を付き、急速に失われていく体温を全身で感じていく。
(まだ、立てる…立たないと、チャチャたちが)
だが視界が滲む。
凍えるような寒さの中で自分の流す血の、温かい感触が衣服を濡らしていく。
(みんなを…守る、って言ったのに)
そのまま地面が近づいていく。
最後に見えたのは、大地でも空でもなく―こちらへ駆け出そうとする、リナの姿だった。
意識は、そこで、落ちた。
「やめてぇぇぇぇぇ!!!」
足が勝手に動いていた。
赤。
赤。
また、赤。
(やだ…!やだやだやだ…!)
あの時と同じ、守れなかった時と同じ匂いだ。
「アーリン!しっかりして!」
リナは崩れ落ちるように駆け寄る。
止まらない赤。
しかも傷口からどす黒い何かが侵食している。
「治さなきゃ…!早く、アーリンたちを、」
そう言って震える口で詠唱を始める。
「リカバ―」
「駄目よ!」
気絶から回復したルナがリナに駆け寄り、その腕を掴む。
「放して姉ちゃん! 直さなきゃ…死んじゃう、アーリンが死んじゃう…!」
「駄目!今この状態で『治癒(リカバリィ)』を掛けたら、傷は塞がっても体力が持たない!」
そう、『治癒』の魔法は生き物に対して本来備わっている生命力を利用して自身の治癒能力を高める回復魔法。
その代償として自身の生命力が失われるため、今回のような場合、確実にアーリンの生命力が尽きる。
「でも、でもおぉぉ!このままじゃ、アーリンも、アリーナも…!」
涙を流しながらルナの胸にしがみつくリナ。
「もうこれ以上、奪われるのは、嫌ぁぁぁぁぁ!!」
リナの慟哭が辺りに響いた。
「チャチャ!」
「チャチャ~!」
遠くから聞こえる、セラヴィーとどろしーの声。
「…命拾いしたな、マジカルプリンセス」
アクセスは青ざめた表情のチャチャたちに背を向けて馬に乗り、そのまま駆け抜けていく。
風の音だけが残り、目の前には倒れたアーリンとアリーナ、取り乱したリナとそれを押さえるルナの姿が残るだけ。