異世界の英雄たち、赤ずきんチャチャの世界を修正します 作:hoyohoyo
不死鳥の羽根が描いた山はセラヴィーの家からそんなに距離が離れていない、アリガト山という山頂が指の形に似ている山だった。
そこに向かうチャチャ一行。
半分ピクニック状態の彼女たちを見てルナは小さくため息を付く。
(…危機感がなさすぎるわ)
チャチャたちの笑い声が山道に響く。
けれども、ルナの胸には焦燥が沈殿していた。
(アーリンはまだ目を覚まさない、歪みは今は落ち着いてるだけ。時間はそんなに残されていないのよ)
それでも―物語の流れでは、この後に不死鳥に出会える。
(今は、それを信じるしかないわね)
唇を噛みしめながら前方でスキップを踏むチャチャたちを見つめる。
しかし次の瞬間に彼女たちの姿が消えた。
「え?…チャチャ!」
姿が消えたところまで駆け寄ると、目の前にはすり鉢状に開いた大穴。
滑り落ちる様にチャチャたちは一番深いところまで落っこちていた。
「誰だー!こんなところに穴を開けた奴はー!」
リーヤの怒りの声が響く。
道中の村は、まるで時間だけが切り取られたかのようだった。
洗濯物が揺れている。
辛うじて生活臭のする部屋。
テーブルの上に置かれたままのぬいぐるみ。
人の気配だけがない。
逃げた―それも慌てて。
「鳥の声が聞こえない…」
リーヤの低い声が、静まり返った空気に溶ける。
「消えた村人、聞こえない鳥の声、一体何が…うーん」
一同腕を組みながら考える。
(地面が抉れている。この大きな穴を見るに…上から何かが落ちてきた感があるわ)
ルナは指先で大穴の縁をなぞり、土の崩れ方を確かめた。
その背後でピンク色の丸っこい小さな鳥が『こっちに気付け!』とばかりにピピピピと鳴いてる事にようやく気付くチャチャたち。
「わ~可愛い!」
「何だこいつ!」
チャチャとリーヤがそれぞれ異なる反応を示すのをよそに小鳥はピピピピと叫び、ジェスチャーで何かを訴えようとしている。
最初はチャチャも『うんうん』と頷いていたが、結局ひとつも分からなかった。
結局はしいねちゃんがカラスに変身して話を聞くことに。
「村の人たちは岩石魔人ガンダーが怖くて逃げだしたそうです」
『岩石魔人ガンダー?』
チャチャとリーヤが同時にハモる。
「ガンダーはこの辺りの鳥を捕らえて空を飛ぼうとしているそうです」
「ちょっと待て、じゃあ何でこの鳥はここに居るんだ?」
リーヤの疑問に小鳥は冷や汗をかき始める。
「ふんふん…最初はガンダーに捕まっていたそうなのですが、飛べないという事で弾かれたそうです」
「えー、この子飛べないの?」
チャチャの言葉の刃でだばだば涙を流す小鳥。
それに反応するかの様にリーヤとしいねちゃんも辛辣な言葉を。
「『確かにぼくは飛べないけれども、お願いです、仲間を助けて下さい』だそうです」
涙を流して懇願する小鳥を見てチャチャが「助けてあげようよ!」と意気込み、それに同意する他の面々。
しかし道中、小鳥の足取りが疲労で重くなり、だんだん速度が落ちていく。
置いていこうと言うリーヤとしいねちゃんに対して「わたし、ピー助(チャチャ命名)と一緒に行く!」と涙を浮かべてお願いをする。
「まぁ…チャチャがそこまで言うなら、一緒に行きましょう」
ルナも少し困った笑顔でチャチャの手を取る。
その後ピー助が飛べるようになる訓練をするも、全然上手く行かず。
しいねちゃんが鷹の姿に変身して一緒に飛ぼうとするも、その迫力に気絶してしまうピー助。
なお木の下でおやつを食べていたリーヤのバスケットに落下して一緒くたに食べようとしてチャチャにどつかれていた。
特訓の成果か、少しだけ飛べるようになったピー助の目の前にガンダーが現れる。
ガンダーは電流で鳥を操って空を飛ぼうとしていたのだ。
「ひっどーい!ならば、出でよ、ハサミ!」
チャチャの召喚術で出てきたのは…お祭り会場。
「これは花見だー!」
マイクを持ったリーヤが突っ込みを入れる。
「なら僕に任せて下さい!」
「わたしも手伝うわよ?」
しいねちゃんはハサミに変身、それをリーヤがぶん投げて高速回転したハサミ(しいねちゃん)はガンダーと鳥を結び付けている蔦を切る。
「はっ!」
ルナも大ジャンプからガンダーの肩を利用してその蔦を一刀両断。
そのままガンダーは落下していく。
「よし、鳥は逃げたし、ガンダーも大したことなかったな!」
リーヤが得意げに胸を張る。
「そ、そうですね…うえぇ」
目を回したしいねちゃんも同意しながら、ガンダーが落ちた大穴を覗いてみると―
その穴の淵に手を掴み、チャチャたちの前に着地して睨みつけた。
「むぅん!」
掛け声とともに手から電撃が放たれ、慌てて逃げるチャチャたち。
そしてある程度距離を取ったところでチャチャはマジカルプリンセスに変身する。
「ビューティ・セレインアロー!マジカルシュート!」
桃色に輝く光の矢がガンダーに放たれ、その身体を貫こうとしたが。
「ぬん!」
掛け声一閃、ガンダーが手を突き出すと、手のひらでアローを受け止め、無造作に握りつぶされる。
「アローが…効かない!?」
「ピピーッ!」
ピー助の悲鳴が響く。
それでもビューティ・セレインアローを連発して一撃を喰らわせようとするもガンダーの表面で弾けて消えるアロー。
「これは…不味いわね、わたしも加勢するわ!」
ルナも剣を抜いて跳躍し、セラヴィーから借りた業物を叩きつける。
だが、手応えは硬い。
刃が岩肌を滑り、火花が散るだけだ。
「くっ、この剣じゃ足りない…!」
ガンダーの拳が振り下ろされる。
それを躱して返す刀で斬り付けるが―やはり決定打にはならない。
(赤竜の魂を込めれば…斬れる。でも)
柄を握る手に、嫌な軋みが伝わる。
この世界の鋼では神の魂には、耐えられない。
アーヤハから貰った剣でも赤竜の魂を込めた時、刃は微かに悲鳴を上げていた。
セラヴィーの家から勝手に借りたこの業物のバスタードソードですら、全くの力不足なのだ。
(折れれば…暴発する。ここで暴発すれば、チャチャたちまで巻き込む)
ルナは歯を食いしばる。
アーリンの剣が折れたあの日の光景が脳裏をよぎり、回避が一瞬遅れた。
「マジカルシュート!」
チャチャがガンダーの放った電撃の球に向かってアローを放ち、光の衝撃波がガンダーを包む。
「やったー!」
リーヤが喜びの声を上げる。
しかし、ガンダーの身体から素早く伸びた蔦がチャチャとルナの手足に絡みつく。
「なっ!」
チャチャは手応えを感じた油断、ルナは一瞬の逡巡が回避を遅らせた。
そのまま身体を拘束され、地面に叩きつけられるチャチャとルナ。
しかし、その前にしいねちゃんがトランポリンに変身して事なきを得る。
ガンダーはさらに蔦を伸ばし、しいねちゃんとリーヤを巻き添えにして縛り付け、4人全員がガンダーの拘束下に置かれてしまう。
リーヤが全身を使った馬鹿力でガンダーを引っ張ろうとするが、そこに電撃が走り、チャチャたちはそれをもろに喰らってしまうのだった。
「ああああ!」
骨が軋み、筋肉が痙攣する。
呼吸をする度に肺が焼けそうになる。
リーヤの腕が震え、しいねちゃんの顔が歪む。
ルナも歯を食いしばる。
(ここで倒れるわけには―いかない!)
隣ではチャチャが悲鳴を上げている。
視界の端で、唯一拘束されなかったピー助が弾き飛ばされる。
「ピー助、おまえは逃げて!」
苦痛を堪えながらチャチャがピー助を逃がそうとするが。
「ピ!」
それでも、小さな身体は逃げなかった。
覚悟を決めたかのようにピー助はガンダーに向かっていく。
そしてガンダーは光球を放ち―
「ピー助ぇぇぇぇ!」
チャチャの絶叫と共に―ピー助は空を飛んでいた。
「あれ、飛んでるのか?」
必死になってあちこちぱたぱた飛ぶピー助。
そしていつの間にかガンダーの鼻の中に侵入していく。
ガンダーの鼻の中でも暴れながら飛ぶピー助。
何度もくしゃみをしながらその場で悶えるガンダーはチャチャたちを縛っていた蔦を緩めてしまっていた。
「僕たちどころじゃないみたいですね…」
しいねちゃんが呟く。
しかしひと際大きなくしゃみをしたガンダーの鼻の穴からピー助が飛び出し、チャチャたちの前に転がってしまう。
『ピー助!』
3人が慌てて駆け寄ろうとするが、同時にガンダーがピー助を押しつぶそうとするのだ。
「危ない!」
リーヤとしいねちゃん、そしてルナがガンダーの足の下に潜り込み、つっかえ棒の様に支える。
「お、重い…!」
アリーナならいざ知らず、ルナの純粋な肉体的な力はアーリンより下。
それでも3人はピー助が踏みつぶされないように守る。
「ピー助…よかったね、ピー助、飛べたんだよ」
チャチャがピー助をそっと抱きしめてその場から離れようとするが。
足に電撃が纏わりつき、足に体重を掛けるガンダー、その衝撃をダイレクトに喰らう4人。
「駄目…これ以上、耐えられない!」
再び全身の骨が軋む、筋肉が悲鳴を上げる。
電撃の痛みが頭上から足元まで蝕む。
「やるしか…ない!ありったけの、力で―!」
ルナは支えたままの状態で持っている剣を握り直す。
柄が、じわりと熱を帯び、赤竜の魂を剣に込めようとする。
(砕けてもいい。わたしが燃え尽きてもいい…この子たちだけは守る)
剣が紅く光る。
刃が、微かに軋んだその時―
ピー助を抱え、這いずるチャチャ。
その小さな身体が、ふっと光を帯びる。
時間が―止まったような感覚。
電撃が空中で凍り付き、舞い上がった土埃が宙に留まっている。
赤い光が、脈動する。
それは大きな光となって、ガンダーの足を跳ね飛ばす。
爆ぜるように広がった光は空を舞い、赤く光る翼を形作る。
(やっと、復活したのね…これはただの奇跡じゃないわ。選ばれたのは、あの子よ)
そう、ピー助は伝説の不死鳥だったのだ。
七色の残光を引きながら、不死鳥が舞い上がる。
大地を覆う圧倒的な神気。
それはチャチャの手元に突っ込み―
「ライトニングフェザー…スキルアップ!」
光が収束し、剣となる。
その刃は、炎の翼を宿した形をしていた。
チャチャの手が震える。
それでも―剣を握りしめて構える。
「ピー助…行くよ!」
その言葉と共にガンダーの放つ光球を一撃の元に消し飛ばし、拳の攻撃を躱して上段斬りの構えから―
「ウイングクリス…バーニングフラッシュ!」
一閃。
その数秒後にガンダーの巨体が、静かに―真っ二つに割れた。
一拍遅れて、爆ぜる。
崩れ落ちる岩の破片が、燃え尽きながら光の粒子となって舞い散った。
やがて、風が戻る。
静寂。
(やれやれ、やっと手にいれたわ…不死鳥の剣。これでアーリンたちも…)
安堵のため息とともにその場にへたり込むルナ。
脳裏に浮かぶのは血に染まった地面。
折れたアークスレイヤー。
眠ったままのアーリンとアリーナ。
そして、拳を震わせて俯くリナの姿。
喜びの舞を踊るしいねちゃんとリーヤの姿を見ながらチャチャが横に立つ。
「これで…アーリン先生も、治るよね?」
その声は、希望そのものだった。
ルナはゆっくりと立ち上がり、微笑む。
「ええ。きっと、間に合うわ」
今度こそ、本心からの言葉だった。
空には、不死鳥の残した七色の軌跡が、まだ淡く残っていた。