異世界の英雄たち、赤ずきんチャチャの世界を修正します   作:hoyohoyo

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~深夜のセラヴィー宅にて~

チャチャが先にベッドへ上がり、夢の世界へ旅立った頃。

アーリンたちはこっそりセラヴィーの家に上がり込み、居間のテーブルを囲む様に座る。

チャチャの寝息が奥の部屋から規則正しく響くが、それとは対照的にこの場所の空気は張りつめていた。

向かい合うのは、相変わらず殺気を消さないセラヴィー。

セラヴィーのお気に入りの人形でもあるエリザベスがテーブルの上にちょこんと置かれ、静かに状況を見守っている。

魔力の圧は、自分たちにだけ向けられていた。

(本気で敵対されたら、ただでは済まないわね)

アーリンは悟られぬよう、わずかに重心を落とす。

いつでも動けるように。

 

「貴方が気を張る気持ちは分かるけど、私たちの話を聞いて欲しい」

彼女は冷や汗を浮かべながら、丁寧に、しかしはっきりと説明を始める。

この世界が物語の世界だという事。

自分たちはこの世界と物語を創った女神アーヤハ・ナミーンに頼まれて物語の歪みを直して物語通りに進める役割を負っている事。

この物語を歪める『何か』を探し当て、それを排除しなければならない事。

本来の物語を知っている為、未来の展開を把握しているが女神からは詳細を言わない様にと口止めされている事。

 

セラヴィーは黙って聞いていたが、アーリンの説明が終わるとため息をつき、冷めた声でぽつり。

「…とりあえず麓の街に良い病院がありますから、そこで頭の治療をして貰ってはどうですか?」

セラヴィーの声はどこまでも穏やかだったが、その瞳には凍てつくような蔑みが宿っていた。

『セラヴィーったら辛辣ぅー、でもわたしもその通りと思うわ』

テーブルの上のエリザベスが追い打ちをかける。

「ですよねー…信じるわけ無いって最初から思ってたわよ」

分かってたとは言え、容赦ない2人の言葉がアーリンの心にぐさぐさ刺さる。

 

「なら貴方と一部の人間にしか知らない情報を言えば信じて貰えるかしら?」

リナが不敵な笑みを湛えて彼の顔を見据える。

「ほう…例えば?」

「あの子…チャチャは魔法の国の王じょ―」

 

ぱちり。

暖炉の薪が弾けた。

 

そして、世界が止まる。

言葉が途切れる前に、空気が凍った。

音が消える。

次の瞬間―

 

床が裂けるほどの魔力が噴き上がった。

無詠唱、無予備動作。

そして純粋な殺意が形を持つ。

彼の瞳に、感情は無かった。

ただ、守る者の色だけがある。

「その名を軽々しく口にするな」

低く抑えた声と共に、無数の光の矢が4人を襲う。

 

「チャチャが起きるでしょ!」

アリーナが小声で叫びながら、拳とはやぶさの剣で、最小限の動きを見せて光る矢を弾き飛ばす。

「くっ、威力が強すぎて、音を押さえて弾きにくい!」

彼女はそれでも強引に、ともすれば握りしめるようにその矢を押さえつける。

さらにアーリンが四方に飛び散るセラヴィーの魔法の残骸を封じる為に手を翳す。

「ホーリープロテクション…!」

叫ぶ代わりに、アーリンは息を殺して術を解き放つ。

戦の神マイリーから教わった彼女限定の特殊魔法。

敵意を持った飛び道具や魔法、邪悪な存在を弾く光の結界を作るだけではなく、それを袋のように包み込ませて消滅させる事も出来る魔法だ。

光の矢は一瞬で結界に飲み込まれ、跡形もなく消えた。

セラヴィーは初めて見る術にわずかに目を見開き、ふーっと大きな息を吐いて席に座る。

「…チッ。それも『物語』の情報ですか」

「今舌打ちした?したよね!?」

アーリンの突っ込みにルナがそれを制する。

「アーリン、声が大きい。とにかくわたしたちは敵対する気もないですし、むしろ巻き込まれた被害者なんですよ」

「その割にはみんな報酬を要求したけどね、あたしもだけどぐぶっ!」

ルナの言葉を茶化すリナのみぞおちに肘打ち一発。

「…とにかく、何とか物語通りに結末まで進んで貰わないと」

そこまで言ってからルナは懐からスキットルを取り出してぐびり、と一口飲む。

お茶も出されていないので喉を潤すのがこれしか無いのだ。

「お酒はここではやめてくださいね、チャチャの教育に悪い」

「えー」

しかしセラヴィーに言われてしぶしぶ懐に戻す彼女。

 

「未来の話は出来ない、という事ですが一つだけ、もし可能ならで良いので教えて欲しい事があるのですが」

「…なに?」

アーリンがセラヴィーの言葉に反応する。

「その未来は我々にとって良いものになりますか?」

 

暖炉の薪が爆ぜるだけの一瞬の沈黙。

「…確実にとは言えないわ」

アーリンは少し力を抜いて言葉を続ける。

「だけど、本来の物語の結末…つまり貴方たちの『未来』は良かったわよ。勿論チャチャたちの道中は大変だし、途中何度も挫折しそうな事はあるけども最後は笑顔で終わるわ」

彼女が言い終わると同時にセラヴィーの殺気が消え、いつもの好青年(黙っていれば)の姿に戻る。

「…分かりました。全面的に信じる気はありませんが、少なくとも今この場で敵ではない、とは見ます」

そこまで言って椅子に再び座るセラヴィー。

「その代わり…あの子たちに害を成すなら容赦はしません」

アーリンは緊張の汗を流しながら頷く。

「…これからは、貴女たちがチャチャやリーヤ、しいねちゃん、魔法学園に通う事になるのでそこで出来るであろうお友達を守ってあげて下さい。物語を歪ませるほどの敵意にはあの子たちは太刀打ち出来ませんから」

その言葉に4人は力強く頷く。

 

そして翌日、セラヴィーに連れられて向かった先はチャチャたちが通う魔法学園―正式な名前は『うらら学園』。

「これが紹介状です、貴女たちはこの魔法学園の臨時講師として働いてもらいます」

「なるほど、私たちが講師になる事で近くでチャチャたちを守れるわけね」

紹介状を受け取りながらアーリンが納得の表情を浮かべる。

「そういう事です。ただ…学園長は癖のある人なのでそれだけは気を付けて下さいね」

「癖?」

アリーナの言葉にセラヴィーはただ苦笑するだけ。

「行ってみれば分かりますよ」

その言葉に、一同は首を傾げるだけだった。

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