異世界の英雄たち、赤ずきんチャチャの世界を修正します 作:hoyohoyo
「ここは…」
アリーナは周囲を見回す。
闇よりも深い闇。
そして自分は…手を赤く、染めていた。
「!」
目の前に広がるのは―自分の居た世界、そして自分の住んでいる城、サントハイム。
しかしあの美麗な造りの城はあちこちが壊され、血が床に広がっている。
逃げる民。
男女問わず、アリーナに背を向けて逃げる。
それを―斬り付ける。
「やめ、やめろぉぉ!」
アリーナの悲鳴、しかしその声は誰にも聞こえない。
自分の身体が勝手に動き、無抵抗な民を斬り伏せていく。
「どうだ…これが、力だ…」
アリーナの口から出てくる、自分の声ではない声。
場面が変わる。
血まみれのアーリンとルナ、そしてリナが横たわる。
泣き叫ぶチャチャ、アーリンたちと同じようにピクリとも動かないリーヤとしいねちゃん。
そして―血まみれの刀を握りしめた、自分。
「力を手に入れるという事は、全てを捨てなければならない…」
また口から出てくる言葉。
「守りたいのなら斬れ…迷うな、情は弱さだ。仲間も大切なものも斬り捨てる非情さが必要なのだ」
「うわあぁぁぁぁぁ!!!」
自分が守りたいものを自分で壊していく、その感触に心が軋む。
「お前には力を持つ資格はない…このまま、闇に飲まれていけ」
「くうっ、ううっ…!」
足が震える、力が抜ける。
しかし、ここで消えれば、誰がこの世界の歪みを直すのか?
自分たちしか、居ないんだ。
アリーナは自分の震える足に刀を突き刺す。
「ぐうぅぅぅぅ!」
脳天まで貫く、今までに経験した事がない痛み。
歯を食いしばり、涙を流しながらその刀を握りしめる。
「ボクは…ボクは!それでも!守る!王女として!アーリンたちの仲間として!そして、チャチャたちを守る為に!」
「ほう…そんな甘い覚悟で、この我らを従えられると思ウカ?」
声は一つではない。
老人のような響き、若者のような嘲笑、女の冷笑、子どもの泣き声に似た悲鳴。
無数の怨嗟が重なり、刀から滲み出している。
「オトナシク闇に飲まれろ、我々の怨念となって一生喰いつくサレルガイイ!」
心に闇が侵食していく。
(駄目だ、ボクは…このままでは、ちくしょう…)
「…違う」
声が、聞こえた。
誰のものでもない声だ。
「強さとは…喰らうものではない」
その言葉にアリーナの正気が戻っていく。
「守るために、その力を制御しろ。心を取り戻せ、お前は―ひとりではないのだから」
(ああ、そうか…ボクはひとりじゃない、仲間が…チャチャたちが…みんなが居る)
そして刀を握りしめ、目の前に居る邪悪な闇に立ち向かう。
「ボクはサントハイム王女、アリーナ!民を守れなかった過去を繰り返さない!仲間も、世界も、斬るために握るんじゃない―守るために握るんだ!」
邪悪な闇が答える。
「では貴様は、何の為に斬るのか?」
その問いに彼女は間髪なく答える。
「ボクは、みんなを守る。でも必要なら斬る」
一瞬、言葉が止まる。
「…守るために斬る。決して迷わない。それが王女としての覚悟だ!」
言葉が終わると闇が一気にアリーナを飲み込んだ。
リナの目の前には大広間の寝台に寝かされたミリーナの姿。
眠っている様に見えるが、その命はもう尽きている。
敵の毒によって、そしてその毒を治す手段が誰も無く―彼女は命を落としたのだ。
場面が変わる。
ミリーナの相棒、ルーク。
彼は彼女を救えなかった事により魔王の魂が目覚め、自分を含めて世界そのものを終わらせようとしていた。
「そろそろ…はじめねぇか…?」
世界を憎んでしまった彼を何とか止めようとするも、それは叶わず。
最後は自分の手で彼を、滅ぼした。
「いやあぁぁぁぁ!」
リナが叫ぶ。
また守れないのか、あれだけ死闘を繰り広げ、何とか彼だけでも助けたかったのに。
そして場面が変わる。
アクセス戦で倒れるアーリン、アリーナ、ルナ。
その身体を踏みつけながらリナに近寄るアクセス。
「お前は、また守れない。これからも、永遠に」
足が、前に出ない。
輝きを失った魔血玉が自分の身体を縛り付けるように、その場から一歩も動けない。
そして徐々に足元から漆黒の闇が自分の身体を飲み込んでいく。
アクセスの剣が、頭上から振り下ろされた。
「違う」
彼女の声じゃない、別の声。
「お前は、もう守れる力を持っている。ただそれを自覚していないだけ」
その言葉に、身体の拘束が解き放たれる。
「魔力を制御しろ、お前の力なら、この悪夢も打ち破れるはず」
「守れる…力?」
「そうだ、自分の魔力をその宝珠に入れるのだ」
リナは言われるがままに魔力を注ぎ込む。
「これは…」
黒に近い赤色が次第に濁りを薄めていく。
やがて深紅色に染まり―済んだルビーのような色に変わる魔血玉。
それと同時に自分の身体に異なる魔力が駆け巡る。
「それが、その宝珠の魔力だ。飲まれるな、逆に飲み込め」
パリン、と身体から音がする。
ああ、自分の魔力が『飲み込んでいる』。
「…もう、逃げない」
全身に広がる真紅の魔力が広がったかと思うと、次の瞬間、自分の魔力がそれを一気に取り込んだ。
ゆっくり目を開ける。
「…どうやら、制御出来たみたいね」
魔血玉は、鮮やかな輝きを持ちながらリナの胸と腕、腰で光り続ける。
「あの声は…多分、この宝珠を作った人。助かったわ」
そして後ろを振り返り―その場に横たわって動かないアリーナを見た。
「アリーナ…!」
近くまで寄る。
息はある、ただ意識はまだ戻っていない。
「刀の試練が続いているのね…」
ふぅ、とため息を付き、その場に座ろうとした瞬間だった。
「お目当ての人間どもが居るとはなぁ」
部屋の前に立っていたのは、白衣に身を纏ったほうき髪の老人と青黒い身体をした人間型の化け物。
「あんたは…ホウキング博士!」
「おや、覚えていたのか。『あの方』が言ってた通り、計画を邪魔する人間が居るというのは正しかったようじゃの」
「…歪みに憑りつかれたみたいね。それにあの方…?」
「ほっほっほ、一番戦闘力が低いお前が起きていて、もうひとりの戦闘力の高い方は眠っているのは僥倖。行け!人造人間よ!」
リナの問いに答えずに人造人間―フランケンちゃんとそっくりだが、その表情は狂気に満ちていた。
「こっちも歪みを取り込んでるのか…!接近戦は不利になるわね!」
素早くリナの詠唱が始まる。
「『魔竜烈火砲(ガーヴ・フレア)』!」
魔血玉が輝き、リナの手から一直線に紅蓮の炎が放たれる。
本来の世界では、この呪文を司る魔族の王が滅びた為に使えないのだが、この世界では魔血玉の助けにより再現出来ているのだ。
人造人間にそれが直撃しようとした時、ホウキング博士の手に持っていたリモコンが動く。
その瞬間、人造人間の前にまるでガラスのような板が発生し、リナの魔術を防ぐ。
「これがワシの秘密兵器、『絶対魔力防御装置』じゃ」
ホウキング博士の言葉が終わった瞬間、再び人造人間がリナに接近する。
「これはどうかしら!『獣王牙操弾(ゼラス・ブリッド)』!」
再び魔血玉が輝き、今度はリナの手に光の帯が生まれる。
それはまるで鞭のように自由自在に動き、斜め上から人造人間を襲う。
「甘い、防御装置はひとつだけじゃないんじゃよ」
ブゥン、と音を立て、その鞭を弾き飛ばす。
「なら、これはどう!?」
連続して鞭が唸り、防御装置の角度をずらし、その隙間に侵入させる。
そして人造人間の足元に着弾し、衝撃波で身体を吹き飛ばす。
「ほほう、距離を離したか…しかし大したダメージにもなってない上に、ワシのこの装置がある限り、お前は決定打は打てまい」
「くっ…!」
確かに、このままではジリ貧だ。
魔法を放てばホウキング博士の装置で防がれる。
さりとてホウキング博士を狙えば人造人間の攻撃であっという間に瀕死の重傷を負うだろう。
洞窟内なので大技は打てない。
「さぁ人造人間よ、ワシが守ってやるからお前は人間どもを捻り潰してしまえ!」
ホウキング博士の声に呼応して、人造人間が雄叫びを上げる。
再び距離を詰め、そして拳の風圧がリナの肩を掠める。
「ふははは!もはやこれまでだな、人間どもよ!」
声が、聞こえる。
幾多のノイズの中から聞き覚えのある声が耳の中に入ってくる。
「アリーナ!あたしが守ってあげるから!早く目を開けなさいこの脳筋姫!」
辺り一面に広がる闇に、一筋の光が差し込む。
(ああ、まだ動けてないんだ、ボクは)
手足が、鉛のように重い。
(でも、ボクはまだやれる。守らなきゃ)
魂が、震える。
アリーナの重い目がゆっくりと、開いていく。
(もう、あたしは失わない!この力で、守り抜く!)
リナは人造人間の突進をそのまま許す代わりに混沌の言葉(カオス・ワーズ)を詠唱する。
「天空のいましめ解き放たれし 凍れる黒き虚ろの刃よ 我が力 我が身となりて 共に滅びの道を歩まん 神々の魂すらも打ち砕き―『神滅斬(ラグナ・ブレード)』!」
リナの両手に現れる、虚無の刃。
彼女の魔力だけでは使えず、魔血玉の魔力を借りてようやく発動できる禁断の魔法。
「歪みよ…!消えろぉぉぉぉ!!!」
一直線に突進してきた人造人間にその虚無を振り下ろした。
空間が歪む。
人造人間の動きが止まり、その空間の中に身体が入り込んでいく。
装置ごと真っ二つに斬られた事すら理解出来ないのか、手足をばたつかせて前に進もうとするが、その身体が空間に飲み込まれ―存在すら消えた。
「そこっ!」
何が起こったのかが分からずに動揺を隠さないホウキング博士に虚無の刃を投げつけると、それは音も立てずに彼を貫き、その貫いた刃に飲み込まれていくのだ。
悲鳴を上げる間も無く、ホウキング博士の存在も消えた。
「はぁ、はぁ…何とか、倒したぁ」
その場にへたり込むリナ。
彼女と魔血玉の力を持ってしても、その刃を維持するのに魔力を吸われるらしく、敵がこの魔法を知っていれば少し待機するだけで戦局は大いに変わっていたのだろう。
「…お疲れ様、よく頑張ったね」
後ろから聞こえる、いつもの声。
「アリーナ…」
「何とか、ボクも還ってきたよ」
そう言うと拳を握ってリナに拳でタッチをする。
「ふふっ、おかえり」
リナも笑顔でそれに応える。
「さて、アーリンたちを追いますか」
「そうね、丸一日くらい経過してるかしら。上手く行けば道中で会えるかもしれないわ」
アリーナは腰に村正を下げ、出口に向かう。
リナも一瞬だけ台座に目を向け―そして彼女の後を追うのだ。
(ありがとう、この武器の製作者さん。あたしたちは―守る為に、戦うわ)
彼女の思いが伝わったのだろうか、台座が一瞬だけ光り、沈黙を保ち続ける。
アリーナたちが出て行ったのを見計らって、まるで役目を終えたかのように。
あるいは持ち主を選び終えたかのように、洞窟は静かに崩れ始めた。