異世界の英雄たち、赤ずきんチャチャの世界を修正します 作:hoyohoyo
~アクセスとしいねちゃん、運命の対決~
「急ごう、この間にも歪みが先回りしているかもしれない」
アーリンたちは来た道を駆け足で戻る。
物語はしいねちゃんがアクセスの息子という事実を知って、父子で戦う場面に突入するのだ。
そこに歪みが万が一入ったならば…まだ戦闘能力があるチャチャではなく、肉弾戦をするには脆弱なしいねちゃんが狙われる。
焦りは禁物だが、それでも風雲急を告げるこの事態に彼女たちは無言で駆け抜けるのだった。
空は曇り、雷が鳴り響く。
アクセスとチャチャとリーヤが対峙する。
チャチャの手から炎が噴き出すが(自分のスカートにも燃え移った)あっさり消され。
ブリザードを巻き起こせば飛び掛かったリーヤを氷漬けにしてしまい。
全く歯が立たない2人。
「ここまで、か…」
アクセスが無表情で剣を突き付ける。
「やっぱりマジカルプリンセスに変身しないと勝てない…!」
「しいねちゃんは何で来ないんだよ!」
焦るチャチャとリーヤに茂みから出てきたヨーダスとハイデヤンスがその理由を説明し始める。
「しいねには戦えない訳があるでヤンス」
「魔界においても親子の絆は強いという事ダス」
「え!?」
驚きの声を上げるチャチャ。
「しいねはそこのアクセスの実の息子でヤンス!」
「親子で殺し合いとか愉快ダス!」
「…失せろぉ!」
嘲り嗤う2人に怒りの表情で魔法弾を放ち吹き飛ばすアクセス。
さらにチャチャたちにも魔法弾を逃げる2人に向けて放った瞬間だった。
脇から飛んできた魔法弾で相殺され、衝撃で吹っ飛ぶチャチャとリーヤ。
アクセスがその方向を向くと、そこには―しいねちゃんの姿が。
『しいねちゃん!』
喜びの声を上げるチャチャとリーヤ。
「僕は…僕は、戦います。お父さん、貴方と…そして貴方を、倒します!」
「しいね…」
覚悟の表情を浮かべたしいねちゃんがアクセスの正面に立つ。
「やめてー!アクセース!しいねちゃーん!」
駆けつけたどろしーの悲痛な叫びを号令に、魔法弾の撃ち合いが始まる。
しかし力量は歴然、圧倒的な魔力差の前ではしいねちゃんは傷つき、倒れてしまう。
「本当のお父さんでも…大魔王の手先になったお父さんなんて、許せない…!」
立ち上がるのもやっとだが、それでも胸を押さえ、ゆっくり膝を立ててよろめく。
「僕は…一生懸命、この世の悪と…大魔王と、戦うチャチャさんが、好きだー!」
魔力を練り、アクセスに魔法弾を飛ばすが、盾であっさり防がれる。
「大好きなチャチャさんと一緒に、僕は…!僕は戦う!」
「ならば息子よ、この父を恨んで冥府へ逝けぇぇ!」
どちらもこの一撃で決める、とばかりに魔力を解き放ち、お互いの手が青白い火花を散らした魔力の塊を撃ち出した。
「うあっ…」
ダメージの大きかったしいねちゃんの身体が崩れ落ちる。
「しいねちゃん!」
「駄目だ、しいねちゃん死ぬなー!!」
チャチャとリーヤの悲鳴。
「間に合った、そしてあれ見て!」
ルナが2人の戦う姿を見て少し安堵のため息を付くが、すぐに異変に気付き指を向ける。
しいねちゃんに向かうもうひとつの暗黒の魔力弾。
このままだとしいねちゃんにアクセスの魔力弾が届くと同時に炸裂し、彼の命をあっさり奪う事は明白だった。
(もし間に合わなかったら?また、誰かを失うのは…嫌よ!)
「私が行く!」
アーリンが即座に駆け出し、黒く光る魔力弾に向けて手を掲げる。
「物語は壊させない!『ホーリープロテクション』!」
光り輝く神聖なバリアがアーリンの前に広がり、暗黒の球体がぶつかる。
「…消えろ!」
掛け声とともに、その球体は塵と消え去るのだ。
ほっとしたのも束の間、速い動きでアーリンに近寄る影。
「!」
影が剣を抜き、アーリンに斬りかかる。
彼女もまた抜いたアークスレイヤーでそれを防ぎ、バックステップで続く一撃を躱す。
「アーリン!」
ルナも駆け寄り、自らの得物を抜いて影に立ち向かう。
外見はアクセスと全く同じ、しかしその色は黒。
「…おのれ、またしても邪魔するか」
声の質も同じ、喋り方も同じ。
「あの騎士と再び同化しようとしたが、奴は拒んだ。しかし、その能力は私の力で再現出来る」
そう言って剣を再び向ける『歪み』。
「父子の情、愛、葛藤。それこそが物語の歪みの温床よ」
剣先をアーリンに向け、さらに口上を述べる影。
「チャチャも、騎士も、全員滅ぼしてしまえば良い。そうすれば『あの方』の計画が進むというものだ」
「計画…?」
「おっと、口が滑りすぎたようだな。―死ね!」
影が、動く。
素早い連撃をアーリンに放ち、それを折れたアークスレイヤーで防ぐ。
ルナが飛び掛かり、横薙ぎするが回避する影。
「まだまだ!」
反動をつけて影を逆に薙ぐ。
上段斬り、下段斬り。
アーリンもその隙を狙いえぐり取るように右下から突き上げる。
「ふっ、人間風情が」
手のひらから同時に出した暗黒の魔法弾をアーリンたちに放つ。
「当たらないわよ!」
ルナが前転で躱し、アーリンは剣の腹で弾き返す。
その前転から弾みを付けて影の前に飛び出し、影が体勢を戻す前に一撃を放つ。
「ふふ、その剣では私に大した傷を付けれまい」
手応えはあった、しかし影は苦痛を見せる素振りすらない。
「ちっ…!ただの剣じゃかすり傷を負わせるのが精いっぱいか…!」
ルナの顔が歪む。
(どうする?赤竜の魂を剣に込める?…いや、絶対持たない)
一瞬の迷い。
(もうひとつの手…でも、これを使えば、アーリンの剣は確実に壊れる。)
その刃が持つかどうかは全くの未知数。
しかし、体感では1割持てば奇跡。
(失敗すれば、アーリンの命も巻き込む。でも…ここで躊躇すれば、歪みを止められずにしいねちゃんが死ぬ)
迷いが深まり、ルナの動きが止まる。
「ルナ、危ない!」
一瞬無防備になったルナの間に入ったアーリンが影の剣戟を受け止める。
もう一度間合いを取る2人と影。
「アーリン…このままだと、こっちの疲弊が激しくなるだけよ」
「分かってる、でも、やるしかないのよ」
折れた剣を構え、影と相対するアーリン。
「…ひとつだけ、方法があるの。でも…アークスレイヤーが完全に壊れるかもしれない」
その言葉にアーリンがぴくり、と肩を動かす。
「貴女にその覚悟があれば、やってみようと思うのだけど」
「いいよ、やって頂戴」
間髪を入れず返事をするアーリンに驚きの表情を浮かべるルナ。
「アーリン…でも、その剣は相棒で」
「大丈夫、例え刃が砕けようが、この剣は滅びない」
アーリンもルナが何をしようか分かったようだ、剣をルナの手に近づける。
「一撃で決めてくる、だから…お願い、ルナ!」
覚悟を決めた表情のアーリンを見て、ルナもゆっくり頷く。
「出し惜しみ無しで行くわ!『赤竜の魂よ、この神殺しの魔剣に、いま一度…力を!』」
弱々しい光に包まれていた、折れた剣に紅い光が纏わりつく。
折れた断面から、真紅の光が咆哮とともに伸び、巨大な「光の刃」を形成する。
(これが…赤竜の魂。神の力を感じるわ…)
ルナの世界の神の力が柄を通して伝わってくる。
(でも、これは人間には過ぎた力ね…ルナだから出来る芸当、かしら)
歴戦の戦士でもあるアーリンでさえこの力を長時間制御することは不可能と判断していた。
「ほう、異世界の神の力か…面白い」
「行くわよ…!」
影の声に反応してアーリンが走る。
「決める…この、一刀で!」
「愚かな、神に神の力が通用するものか」
アーリンは赤竜の魂を得たアークスレイヤーを構え、そのまま影に飛び掛かった。
「ならば、あえて受けてやろう、己の愚かさを悔いて冥府に逝けぇぇ!」
アクセスと同じ言葉を吐き、アーリンの剣を自らの身体で受け止める。
確かな手ごたえ、しかし神の力がその中枢に届くことはない。
「神の力など、我が主の前では塵同然!」
「確かに、神の力だけじゃ届かないわ。でも、これは―『神殺し』の剣なのよ!」
「ぬ…?ぐ、わっ!」
赤竜の魂では深く斬り付けても奥までは届かない。
折れたアークスレイヤーでは深く斬り付けられない。
しかし、そのふたつが融合したなら?
深くまで斬り付けた部分、歪みの核。
その鼓動が、動揺したかのように激しく動く。
「だから言ったでしょ?これは神を『殺す』ための剣だって…消えなさい、影よ」
「お、のれぇ…!この、私が…!」
身体の大半を斬られ、ガクガクとその場で形を維持出来なくなる影。
「あんたの親玉に言っておいて―『物語は、私たちが守る』ってね。…ああ、言う気力も残ってないか」
かつてアクセスだった影はもう形を失い、そして音も無く消え去った。
それと同時にアーリンのアークスレイヤーにも異変が生じる。
残された刃に走る亀裂。
紅い光が暴れ、そして―音を立てて砕け散る。
破片が、地面に落ちる音だけが響く。
手に残ったのは、重さの消えた柄だけだった。
「ふぅ…」
「やったわね、アーリン!」
ルナがその手を握りしめる。
(お疲れ様、アークスレイヤー。ごめんね…でも後悔はしない。貴方はしばらくの間眠ってていいわよ、私が―復活させてみせるから)
赤竜の魂に耐えきれず、刃の根元を残すだけのアークスレイヤーを持ちながら、遠くでマジカルプリンセスに変身したチャチャがアクセスの悪しき心を砕く瞬間を見届ける。
赤い光がアクセスの額を貫き、そして彼の蝕んでいた大魔王の瘴気が溶けていく。
曇り空が少し晴れ、横たわるアクセスを見つめ、安堵の表情を浮かべたチャチャを見る彼女であった。
アクセスは捕らわれた妻―しいねちゃんの母親の命を大魔王に握られ、大魔王の呪縛から逃れられなかったのだ。
気絶したアクセスを運びながら、事の顛末を知るチャチャたち。
「しいねちゃん!お母さんを助けよう!」
「おう、今すぐだ!」
「チャチャさん、リーヤ…!」
父との再会を経て、チャチャたちの絆もより一層強くなったのだった。