異世界の英雄たち、赤ずきんチャチャの世界を修正します   作:hoyohoyo

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~クモノース遺跡~

セラヴィーの家では、傷ついたアクセスを看病するどろしーを中心に彼を見舞う一同。

アーリンの回復魔法で表面の傷は治ったが、長らく大魔王の呪縛に蝕まれていた為に体力が著しく低下していた。

「ウイングクリスは悪のパワーを奪い去るだけです。アクセスも暫く静養すればきっと元気になることでしょう」

セラヴィーの言葉にしいねちゃんは「ええ…」と口数少な目だ。

「だけど…お母さん一体どこに居るんだろう」

母親の捕らえられた場所が分からずにまだ元気を取り戻せないしいねちゃん。

 

その時、眠っていたアクセスの口から「クモノースの監獄…」と呟く声が。

セラヴィー曰く、ここからはるか東の荒野にある監獄で、大魔王に逆らった者が収容される場所とのこと。

「しいねちゃんのお母さんもきっとそこに…」

チャチャとリーヤもしいねちゃんの母親探索に協力するという言葉にようやく顔を上げ、笑顔を見せる。

「私たちも手伝うわよ、日数が掛かるなら私とルナの結界魔法で道中の安全を確保出来るわ」

「アーリン先生…」

彼女にも笑顔を見せるしいねちゃん。

(後はアリーナとリナと合流したいんだけども…日数差を考えたら、クモノース監獄辺りになるのかしら)

「セラヴィー、多分ここにアリーナたちが来ると思う。その時は私たちの行先を教えといて」

その言葉にセラヴィーが頷く。

 

飛び交う砂と風。

箒で飛ぶチャチャたちが吹き飛ばされてしまう。

それはアーリンたちも同様で。

「これは…きついわね、一旦降りて場所を確認しようか」

全員砂嵐の比較的弱い岩肌に集まり、周囲を見回す。

「困ったな、西も東も分からない」

しいねちゃんの困惑した声。

「取りあえずは飛んでくる砂だけでも防ぎましょ」

アーリンがホーリープロテクションを唱え、チャチャたちの前に光の壁を打ち立てる。

「これじゃクモノースの監獄に行けねぇぞ?」

「もう少しなんですけど…」

リーヤの悪態にしいねちゃんが目を細め、遠くを見つめる。

「どっちにしても、この砂嵐じゃまともに動けないわよ?」

ルナが簡易テントを組み立てようとした時、どこかから歌声が。

「ん?何か聞こえる」

「子守歌だわ」

女性の、優しく慈しみが込められたかすかな歌声。

「この声…何だか懐かしい感じがする…」

どうやら流れてくる歌声がしいねちゃんの母親の面影を感じたようで、チャチャたちはその歌声の聞こえる方向へ足を進める。

(物語は順調に進んでいるわね)

アーリンたちもてきぱきと片付けを行い、彼女らを見失わないように後を追うのであった。

 

「ここがクモノースの監獄か」

辺り渦巻く砂嵐の荒野を抜けた先。

岩山をくり抜いて作った、蜘蛛をイメージした監獄の前に立つチャチャたち。

「よし、行くぞー!」

勢いづいたリーヤがダッシュで駆け抜けようとするが―

バチバチバチ!

「ぎゃいん!」

入り口に張ってある結界がリーヤを黒焦げにしてしまい、そのまま吹っ飛んでチャチャの前に転がってくる。

「リーヤ、大丈夫!?」

「だいじょうぶじゃない…」

「これは…結界ですね」

ボロボロのリーヤを介抱するチャチャ、そして目の前の結界を見て2人に説明するしいねちゃん。

「けっかい?結界って?」

「ケツ痒い?」

「結界じゃドアホ!」

リーヤのボケにしいねちゃんが突っ込みを入れ、言葉を続ける。

「魔法のバリアーみたいなものです、結界を突破しないと、中には入れません」

「ならこれで、どうだー!」

どこからか持ってきた岩をぶん投げるリーヤ。

しかしその岩は結界に阻まれ、音を立てて粉々に砕ける。

「ぎゃん!」

次は飛んできた岩の破片が頭に当たり、そのまま蹲るリーヤ。

「どうしたらいいのー?」

「結界を解く呪文か何かあると思うんですけど」

「呪文?」

「ジュゴン?」

「呪文じゃボケェ!」

再びしいねちゃんの突っ込みで吹っ飛ばされるリーヤ。

 

(いや、こんな場面でボケてたらそら怒るわよ)

そんなやり取りを見つつルナが苦笑する。

「ひゃっひゃっひゃっ!」

高笑いをしながら入口から出てきたのはヨーダスとハイデヤンス。

蜘蛛の着ぐるみを着た彼らはさらにチャチャたちを煽る。

「お前たちじゃその呪文は絶対に分からないダス、スパイディアさんが考えた完璧な呪文ダスよー」

どうやらこの監獄の主、スパイディアが作った結界のようだ。

 

「とにかく、呪文を唱えればいいのね!…『開け、ゴマ』!」

しーん。

「『アブラカダブラ!』」

しーん。

「『パラレル、パラレル、結界よ解けろ』!」

しーん。

チャチャとしいねちゃん、2人が呪文を唱えるが全く解除される気配はない。

「ほら、アーリン先生もルナ先生も唱えて!」

「え、えぇ…」

彼女たちはこの物語を知っている為、その呪文が何かも知っている。

しかし今ここでそれを唱える訳にはいかない。

「仕方ないわね…『天界のアホ女神が余計な事したせいでどんどん大変なんだけども』!」

神聖語で呪文…とは言えない愚痴を唱えるアーリン。

「『早くアーヤハから報酬巻き上げたいわ本当に』」

赤竜の騎士時代の上位竜語でこちらも愚痴を振りまくルナ。

「アーリン先生もルナ先生もすごーい…!」

「僕たちの知らない言葉を流暢に使ってますね!」

チャチャとしいねちゃんがうらら目にして尊敬の眼差しを向ける。

(いや、単なる文句なんだけどね…)

(知らぬが花、って事かしら)

彼女らに聞こえないように小声で囁く2人。

 

当然結界は開くはずもなく、ヨーダスとハイデヤンスが嘲笑をこちらに向ける。

「はーら減ったー!メシよこせー!」

とうとうリーヤが適当な呪文、ではなくもはやただの願望を叫ぶ。

もちろん結界は解除されず、それどころかしいねちゃんが怒りの表情で飛び出す。

「そんな呪文があるわけないだろ!」

「あるかもしれない」

そんな怒りの声もどこ吹く風、白々しくそっぽを向くリーヤにますますいきり立つしいねちゃん。

「リーヤの馬鹿ー!」

「なんだと!もう一回言ってみやがれ!」

「リーヤの馬鹿ー!!」

2人の言い合いに結界がぴしり、と揺らぐ。

反応があったことに取っ組み合い寸前の彼らは一旦冷静になり、しいねちゃんが耳打ちをする。

「悪口だよ、何か悪口を言ってみなリーヤ」

「任せといてくれ、悪口は得意なんだ!」

リーヤは胸を張り、そして大声で叫ぶ。

「しいねのアホー!」

ビリビリ…!

結界がさらに反応する。

「リーヤ見直したぞー!」

「いやー、悪口言って相手に褒められたの初めてだなー」

「リーヤのアンポンターン!」

しいねちゃんの悪口…もとい呪文に睨みつけるリーヤ。

「俺にケンカ売ってんのか!?」

「何言ってんだよ、呪文だよ呪文」

それを皮切りにお互いの悪口合戦が始まる。

「リーヤのオタンコナスー!」

「しいねのトンマー!」

「リーヤの短足ー!」

「しいねのアホー!」

結界はぴしり、ぴしりと反応するが解除されるまでには至らない。

 

(リーヤの悪口も、僕の悪口も大きな変化が無い…ひょっとして)

しいねちゃんがチャチャの方を向く。

「?」

少し首をかしげるチャチャを見て、しいねちゃんが冷や汗をかき始める。

「ま、まさか…言えない、僕には言えないー!」

(その『まさか』なのよねー)

(チャチャ大好きなしいねちゃんからしたら断腸の思いかしら)

 

そう、この結界を破る呪文は『チャチャの悪口』。

当然そんな事も言えるわけなく…。

苦悶の表情で悩むしいねちゃんを不思議そうに見つめるチャチャとリーヤ。

そのうち覚悟を決めたのだろうか、真面目な表情でチャチャに耳を思いっきり塞いで欲しいとお願いする。

チャチャが耳を塞いだのを確認して、しいねちゃんが息を思いっきり吸って―

「チャチャさんのばかぁー!」

その瞬間にリーヤがしいねちゃんを思いっきり蹴り飛ばす。

と、その時に結界が激しく波打ち、火花が飛び散る。

ダッシュで戻ってきたしいねちゃんが効果あり、といった表情で再び声を上げる。

「よし!チャチャさんのアホー!」

その声と共に再度リーヤに吹っ飛ばされる。

さらに結界は激しく歪み、スパークしていく。

「リーヤも手伝えよ」

「口が裂けても言わないぜ」

「僕だって言いたくないんだ、でも結界を解かなければ…」

葛藤に苦しむ2人だったが、腹を括ったのか、一緒にチャチャの悪口を言い始める。

『チャチャの不細工ー!』

結界の歪みがどんどん広がり、あちこちから激しい火花が広がる。

「すごいすごーい」

チャチャが驚きの表情を浮かべ、ヨーダスとハイデヤンスは動揺する。

「まだパワーが弱い、もっと大きな声で!」

しいねちゃんの言葉にリーヤが頷く。

『チャチャのへたっぴ魔法ー!』『チャチャの胸ぺったーん!』

(何だかんだ言ってノリノリなのよね…)

(思うところは結構あったのかしら?まぁストレス発散にもなるし良いんじゃない?)

(後のフォローをちゃんとしないと大変だけどね)

火花が稲妻に変わり、結界が維持するだけで精一杯になっている様子を見ながらアーリンたちは苦笑する。

「すごいすごーい!わーいわーい!」

いつの間にか耳から手を離して拍手するチャチャ。

そんなことに気付かない2人はさらにエスカレートする。

『チャチャのへたっぴ魔法!チャチャの胸ぺったん!チャチャのオタンコナスー!!』

「え…え…えええ…」

チャチャの嘆きと同時に結界が維持出来ず、結界の媒体となっていた両サイドの石柱が崩れ落ちる。

「やったやったー!…ううう~」

自分の悪口を言われたチャチャが大粒の涙を流し、俯く。

「はいあんたたち、チャチャのフォローする!」

「必要な事とは言え、女の子泣かせちゃったんだからね!誠心誠意謝る!」

アーリンとルナが男子2人の背中をポン、と押す。

 

「素直に喜べないの…分かってる、結界を破るためだもん、2人とも本当の気持ちじゃないって分かってるもん」

それでも涙が止まらず、ぐしぐしと目を擦るチャチャ。

「ごめんチャチャさん…。僕のお母さんを助ける為に、チャチャさんの気持ちを傷つけちゃって…」

「俺もだ、しいねちゃんも俺もチャチャのこと大好きだからな、だから信じろよ」

「リーヤカッコいい~」

その瞬間に舌を噛んだリーヤを笑顔で突っ込むしいねちゃん。

「慣れない事言ったから舌噛んでやんの」

「うるへぇ~」

そして3人は勇んで監獄の中に入っていく。

もちろんアーリンたちも。

 

闇夜の監獄の中に、彼女たちの影が消えていった。

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