異世界の英雄たち、赤ずきんチャチャの世界を修正します 作:hoyohoyo
数日後。
アーリンたちは当面の戦力強化の為に、この世界にもあるであろうダンジョンを攻略していた。
「でも、アーリンの剣まで行かなくても、歪みと真っ向に立ち向かえる武器なんてゴロゴロ出てこないわよね」
ルナが手に持った剣―この世界では業物クラスなのだが―を見ながら呟く。
「まぁね…。アリーナの村正がイレギュラー過ぎるのよ」
「でも、この刀も扱いにくいよ?ボクにしか聞こえないんだけど、喋ってくるし」
「インテリジェンスソードなの、その刀?」
アリーナの愚痴にリナが返答する。
「いんてり・・・?なにそれ」
「要約すると知性を持った剣、ってやつよ。大抵は持ち主に有用な事を言ってくれるんだけど、たまにひねくれ者みたいな剣も居てね…」
「きっとそうだよ、この刀で戦ってると『左からの斬り込みが浅い』とか『刀と身体を上手に合わさっていない』とかまるでじいや…元の世界の教育係ね、みたいな事を脳内で語りかけてくるからもう煩くて」
「まぁ猪突猛進なあんただから、それくらい客観的に冷静な分析してくれる剣で良かったんじゃないの?」
「うへー、声もじいやに似てるから元の世界でお小言喰らってるみたいだよ…」
そう言って苦虫を嚙み潰したような顔をするアリーナ。
「取りあえず戻りましょ、そろそろ物語も進むはずよ」
アーリンの言葉に他の面々が頷く。
(とは言っても…この剣じゃアークスレイヤーの足元にも及ばない…。何とかしないと)
ひとつだけ剣を復活させる目途はあれど、それはまだ先の話であり、今の状況を打破する為には攻撃力不足なのは否めない。
「…暫くはアリーナとリナ頼りかな」
重い声でそっと呟くアーリンなのであった。
帰ってくるとチャチャが『わたしのお家~!』とスキップして喜んでいる光景とその隣に置かれたピンク色の猫型ハウスが。
「セラヴィーにでも貰ったの?」
「違うよー、ミケネコ博士っていう猫の科学者から貰ったの~!収納もバッチリなのよ!」
「実際には僕たちに襲い掛かってきて、ニャンダバーというロボットで攻撃してきたんです。それをチャチャさんが倒して逃げ帰ったのですが、その置き土産みたいなものです」
しいねちゃんがそっとアーリンに耳打ちする。
「でもいいじゃない、これがあれば長旅も大分楽になるわね」
そんな話をしながら家に入る一同。
チャチャたちがすごろくをしながら遊んでる最中、どろしーから手紙を受け取るしいねちゃん。
そこには父親と母親が聖なる温泉で身体を癒している旨が書かれており、それを見たチャチャが、
「私…お父さんお母さんと一緒に温泉に行く!」
(いや、石にされたまま温泉は無理でしょ…)
アーリンの困惑した表情とは裏腹に、チャチャは力強く拳を握りしめ、箒に跨り突っ走ろうとする。
「チャチャー、貴女、大魔王の城がどこにあるか分かってるんですか?」
お茶の準備をしたセラヴィーが飛び去ろうとする彼女に声を掛けると、箒がぴたりと止めて一言。
「しらなーい…」
恥ずかしそうに頭を掻くチャチャにどろしーと追っかけてきたリーヤとしいねちゃんがずっこける。
結局全員で家の前の野原でシートを敷いてお茶タイムに。
「大魔王はお城に魔法を掛け、何人も近づけないようにしたのです」
「ああ、試しに向かってみたけど…あれはヤバいわ」
セラヴィーの言葉にリナが反応する。
「ええ、リナ先生行ったことあるの!?」
「物見遊山がてらにね。でも、空から近寄ったら恐ろしい量の魔導レーザーが飛んできてね。あたしだから迎撃出来たけど、チャチャたちだと…ひとたまりもないわね」
「それじゃ、お城には行けないの!?」
「いいえ、ひとつだけ方法があります。しかし、それは長く厳しいものになるかもしれません」
『チャチャ、貴女にその覚悟はある?』
セラヴィーとエリザベスの真剣な表情にチャチャたちは迷いなく答える。
「あります…!先生、教えて」
その言葉が終わるとともに、遠くから聞こえるリーヤの祖父の声。
「リーヤ!受け取れー!」
次の瞬間、空から降ってくる巨大な巻物。
リーヤがそれを両手で受け止めた瞬間、巻物が広がり、セラヴィー以外(セラヴィーはお茶のお替りを準備して離れていた)がその巻物に飲み込まれてしまう。
「時が来た…!時が来たんじゃあぁぁぁ!…あれ?みんな、どこに行ったんじゃ」
大声で叫びながら走ってくるリーヤの祖父が見たものは、巨大な巻物―タペストリーに飲み込まれてもがいているチャチャたちにアーリンたちだった。
この巨大なタペストリーに書き込まれているすごろくのような地図は、城への秘密の抜け道が記されたものだという。
先代の大王―ジーニアスは、城が異変に襲われた時の用心として、秘密の抜け道を作っていたのだ。
「その道を通れば、大魔王の城まで行けるって事ね?」
「ええ…でも簡単な道のりではありません。それに大魔王もチャチャたちがここを通る事は想定済みでしょう」
セラヴィーがそう言ってお茶に口を付ける。
「あの子たちは結構呑気にしてるけど、ここから先は一筋縄では行かないってことだね」
アリーナの言葉に彼は頷く。
「おじいさんも昔はお城に?」
どろしーが尋ねるとリーヤの祖父は鷹揚に頷く。
「ワシも、セラヴィーも王宮の中心部で働いておっての」
「なるほど、だから秘密の情報も知ってるって訳ね」
リナが感心したかのように相槌を打つ。
「…それと、大魔王以外にも居るであろう歪み。これはチャチャたちの手には余ります。アーリンさんたちが頼りです」
「とりあえず戦力は居るし、何とかしてチャチャたちは守るよ。物語を、壊さない為に」
アーリンはそう言うと、タペストリーを使ってすごろくで遊ぶチャチャを見守るような視線を送っていた。
「真実の鏡のほこら、って書いてあるわ」
あの後、旅の準備をして旅立ったチャチャたち。
のどかな野山はだんだん薄暗くなり、リーヤの「最初はどこに行くんだ?」の台詞でチャチャが地図を広げる。(タペストリーはセラヴィーの魔法で小さな地図サイズになっていた)
「しかし、暗すぎてよく分かりませんね…」
しいねちゃんが辺りを見回しながら言うと、どこからか声が聞こえてきた。
『ようこそ、真実の鏡のほこらに続く道へ』
「誰だ!?」
リーヤとしいねちゃんが周囲を警戒する。
「あ、あそこ!」
赤く光った何かに指を差すチャチャ。
そこにはマントに身を纏った明らかに人ではない生物が居た。
『我はこのほこらの番人、ミラード。真実の鏡は心の中の思いを映す鏡。もし嘘を付けば、たちどころに鏡が真実を暴くであろう』
「嘘なんて俺ついたことないぜー」
「わたしもー!」
「2人とも本能のままに生きている、って感じですもんね」
(しいねちゃん、地味に辛辣すぎません?)
(あの2人見てたらそう思うわよね…不憫だわ)
アーリンとリナがこっそりと突っ込みを入れる。
ミラードは自分のマントを広げ、その中に広がる通路にチャチャたちが進んでいく。
その後ろをアーリンたちが付いていくのだ。
鏡の通路を抜け、荒野に瞬間転移したチャチャたち。
その前にあるのは、大の男の全身が映るくらい大きな鏡が、石で出来た宮殿のような鏡の枠組みに固定されて立っていた。
(この鏡…単なる魔道具じゃない。感情を操作してる?)
鏡から溢れる異様な気に眉をひそめるアーリン。
(明らかに邪悪な気が垂れ流されてるわね…。この量だと、チャチャたちは気付かないかな)
そして鏡の本性がチャチャたちを襲う。
心が見抜かれるだろうと、チャチャに告白しようとしたら『チャチャなんて大嫌いだよ』と鏡の中のしいねちゃんが言う。
慌てて違うと言っても真逆の事を叫ぶ鏡の中のしいねちゃん。
そして次はリーヤも真逆の本心を叫ぶ。
トドメはチャチャもリーヤとしいねちゃんが嫌いと連呼。
灰になる彼らを尻目に鏡の中のチャチャはセラヴィーがタイプと言う始末。
(いやー、あの鏡はウソツキの鏡って分かってても笑えるわ)
(真逆の事になるから本当はお互い好きなのにね)
笑いを噛み殺しながらその様子を見つめるアーリンたち。
「この鏡…心を壊すためのものね」
ルナが呟く。
「でも、ボクたちがあの鏡に映ったら何て言うか…気にならない?」
アリーナが興味を持った表情で鏡を遠巻きに見つめていた。
「嫌な予感しかしないわね」
リナが即答した。
「分かるわ」
アーリンも頷く。
「でも…気にならない?」
ルナはにやりと笑う。
「…なる」
「なるね」
「なるわね」
そして三人同時にため息をついた。
「ああもう、嫌な予感しかしないのに!」
リナが繰り返し強く言葉を放つが、ルナは他の3人を引っ張りながら鏡に立たせる。
鏡の中の4人の顔が、妖しく歪んだ。