異世界の英雄たち、赤ずきんチャチャの世界を修正します 作:hoyohoyo
「はぁぁぁ!」
アリーナが村正を握りしめ、漆黒に染まりつつある火山弾に連撃を入れる。
単に弾き飛ばしたら、地面に直撃した時にチャチャたちに影響が出るかもしれない。
瞬時に判断したアリーナは刀の連撃で細かく粉砕して、歪みそのものを消し飛ばす。
(拳や足を使えればもう少し対処出来るのに…!)
無防備な拳や足がこの火山弾に触れればただでは済まない、その焦りが剣先を鈍らせるが。
『焦るな』
村正の声が脳裏に響いた。
『地に足を付けろ。お前の腕なら―全部斬れる』
「…っ」
その言葉にアリーナが息を吐く。
「確かに、焦ってたみたいだ。ありがと、爺」
『まだジジイ呼ばわりされるほど老けてはおらん』
「うちの教育係のじいやと同じ声なんだから、爺でいいでしょ!」
軽口を叩きながら火山弾を斬りつける。
「『氷結弾(フリーズ・ブリッド)』!」
高速詠唱から何個もの氷の玉を発射させ、的確に歪みに侵食された火山弾を凍らせる。
それは地面に落ち、魔力の氷で縛られた球はやがて歪みが維持出来なくなり…塵と消え去る。
「多すぎる!」
リナが舌打ちをする。
「十や二十じゃない!」
黒魔術を使うにはリナの詠唱スピードでも追いつかないくらいの火山弾が襲い掛かってくるのだ。
幸い歪みが維持出来る時間はそんなに長くない為、こうやって凍らせて地面に叩き落とすことが最善手になるのだが…。
それでも、数の暴力に押し負けそうになる。
「マジカルプリンセスに再変身、まだなの…!」
その言葉に反応するかのように、チャチャたちは再びマジカルプリンセスに変身、今度はウイングクリスを片手に魔人に立ち向かう。
火山弾が収まり、チャチャと対峙する魔人カ・ザンダン。
「なに、アンタかわいいじゃない?」
嘲るようにチャチャに向かって吐き捨てた後、自身が回転し、魔人の両手がゆっくりと持ち上がる。
空気が震え、その掌の間に―太陽のような火山弾が生まれた。
だが、その色は本来の赤ではない。
ところどころ黒い紋様が浮かび上がっており、渦巻く瘴気がただの火山弾ではない事を物語っていた。
「なっ…!」
「マズい、その火山弾も歪み持ちか!」
アーリンたちの動揺が広がる。
「リナ、何とかして!」
「了解!」
アリーナの言葉にリナが高速詠唱を開始する。
(間に合うか…!でもやるしかない!)
「バーニングフラッシュ!」
チャチャがウイングクリスを前に突き出し、赤い輝く光線を火山弾に向ける。
「覚悟してねー!」
同じくその光線に対して火山弾を放り投げる魔人。
そしてチャチャのバーニングフラッシュは―あっさり弾かれ、消えた。
「!!」
驚きの表情を浮かべるチャチャ、目の前に飛んでくる火山弾。
「大地の底に眠り在る凍える魂持ちたる覇王、汝の暗き祝福で我が前にある敵を撃て!『覇王氷河烈(ダイナスト・ブレス)』!」
何とか詠唱しきったリナが氷の覇王の力を借りた黒魔術で火山弾を瞬時に氷結し―爆ぜた。
大爆発がチャチャの前で起こる。
「チャチャー!」
「チャチャさーん!」
叫ぶリーヤとしいねちゃん。
爆風が収まり、その中心で倒れているのは傷だらけになったチャチャ。
立てない。
指一本、動かない。
呼吸が出来ない。
胸が焼けるように痛い。
そんな彼女に慌てて駆け寄り、意識はないものの、生きている事を確認する2人。
その前に立ちふさがる赤い巨大な影。
「あんたたちー、アタシをなめてたー!」
そう言い放つと、再び火山弾をリーヤとしいねちゃん、そして気絶しているチャチャに向かって大量に放つ。
「くそっ、さっきより数が増えてる…!」
「チャチャたちの元に向かう事すら出来ない!」
大量の火山弾が容赦なくアーリンたちにも襲い掛かる。
しかも歪みそのものが脅威をこちらに向けたのか、全てが漆黒の火山弾である。
空気が焼ける音ではない。
何かが『削れる』ような音がアーリンの耳に入ってくる。
当たれば確実に命を奪う、チャチャたちに向けたものとは明らかに異質感を帯びている球。
「フルパワーで包み込めば魔力が持たない、ある程度弱らせるから他の3人はそれを潰して!」
そう言ってアーリンはホーリープロテクションを唱える。
十数ものの光の帯が火山弾を包み込み、一瞬輝いて、弾ける。
そして先程よりも威力が落ちた火山弾をルナの結界で、アリーナの村正で、リナの呪文で、地面に落ちる事なく滅していくのだ。
それでも数が多すぎる。
同じようにしいねちゃんがバリアで、リーヤに至っては拳で殴りつけてチャチャに火山弾を近寄らせない姿を歯がゆく見ながら自分たちの対処をせざるを得ない。
「大丈夫か、しいねちゃん!」
「お前こそ…!」
「大丈夫大丈夫!」
だが、魔人カ・ザンダンの火山弾の勢いは全く止まらない。
しいねちゃんは迫り来る火の玉をバリアで防ぐが、徐々に魔力が減って割れ始める。
リーヤの手も直に触れているため、火傷しはじめ、動きが鈍っていく。
「いやいやいや、大嫌いー!回って回って、トドメでいい!?」
魔人は巨大な火山弾を再び発生させ、チャチャたちに向かって投げようとする。
「ちくしょう…!」
大火傷の両手が動かなくなり、涙を流しながらその場に跪くリーヤ。
「力が…力が続かない…!チャチャさん、力が欲しい…!チャチャさん!」
震える身体を何とか支えるも、魔力が枯渇し、もう防げない自分の弱さに涙するしいねちゃん。
「ほーらほら、さっきより大きいでしょ!」
先程の火山弾より数倍大きい火の玉が魔人の手に生まれる。
「今度はチャチャたちに向かって歪みが行った!全力で防ぐわよ!」
「あたしがやる!出し惜しみ無しの増幅(ブースト)竜破斬で叩き潰す!」
「魔力を全部出す勢いで!リナを守るわよ!」
「飛んできた破片は全部ボクが斬り飛ばす!」
アーリンたちもチャチャの前に立ち、結界を張る。
同時にしいねちゃんたちも、最後の力を振り絞ってバリアを張る。
「さっきよりでっけぇなしいねちゃん!」
「ちょびっと、な!」
リーヤとしいねちゃんが強がりながらも、チャチャだけは守ろうと必死の形相で立ち向かう。
(物語を潰すわけにはいかない…私たちも、命を賭けて、守る!)
今の自分たちはまだ完全な力を取り戻していない、半ば手負いの状態。
(この世界を守るために―私たちはここにいる)
アーリンたちも覚悟を決めたその時だった。
風が止まった。
舞っていた砂が静かに落ちる。
―光。
背後から赤い光が大きく爆ぜた。
その光の柱の中でチャチャは剣を構えて、自らに降り注ぐ力を受け止めていた。
「リーヤ…しいねちゃん…アーリン先生たち…伝わってくる、愛と、勇気と、希望の力が!」
チャチャの目が開く。
「最後まで決して諦めない、強い心が!」
剣を構え、再び蘇るチャチャ。
「私の身体の中に、熱く響いてきた!」
そして剣を前方に構え、先程よりも強い輝きを持った、強烈な赤い光線が魔人に向かって放たれる。
放たれた光線は、ただの浄化の光ではない。守りたいと願うアーリンたちの意志をも乗せた鳳凰の如き一撃。
「ウイングクリス、バーニング…フラッシュ!」
不死鳥を象った真紅の力の塊が火山弾を貫き、魔人を一気に粉砕する。
その身体は聖なる光で浄化され、1枚のコインを残して消え去ったのだ。
全ての力を出し切り、その場から一歩も動けないチャチャ。
火山弾は貫かれたものの、その勢いは止まらず彼女に向かって飛んでいた。
「チャチャ!」
「チャチャさーん!」
リーヤとしいねちゃんの絶叫。
(こっちは…防げない…)
絶望の表情で火山弾を見つめるチャチャ。
「そうはさせないわよ!」
リナの声が響く。
そして砂漠の彼方から物凄い勢いで飛んできた、セラヴィーとどろしー。
「3人を!」
一瞬の間に彼らに向かって叫ぶアーリン。
セラヴィーはチャチャを、どろしーはリーヤとしいねちゃんを抱え、そのまま飛び去る。
「『増幅・竜破斬!!!』」
リナの放つ紅い魔力の大渦が球体となって火山弾に向かう。
いつもと違う、赤に漆黒が混じる彼女の本気の黒魔術。
それは火山弾に着弾すると、激しい大爆音とともにそれを飲み込み、歪みすら一気に蒸発させ―
巨大な大爆発が起こった。
(ぬああああ!!!)
(くぅぅぅぅ!!!)
アーリンとルナの結界が後ろの2人を守る。
強烈な爆風、衝撃波、残骸が結界で防がれるが、リナの魔力を持った残滓が結界にヒビを入れる。
「まだまだぁ!」
再びホーリープロテクションの重ね掛け。
魔力欠乏の症状が出たのか、口から血を流しても必死に結界を制御するアーリン。
ルナも構えた両手が自分の魂の媒体となっている為、両手だけでなく腕からも血が噴き出す。
アリーナはそんな2人が倒れないように後ろから支えていた。
爆風が収まり、辺りが静けさに包まれる。
西日がアーリンたちを照らし、ようやく安堵のため息を付いてその場にへたり込んだ。
「な、何とか防いだ、わね…」
「チャチャたちも無事みたい…」
アーリンとルナがアリーナに凭れかかる。
「ちょ、2人ともボクに乗らないでよ、重い!」
(今回は本当に危なかったけど、守れた。そして、次は…3つ目の武器の話に話は進む)
アリーナの上に寝っ転がり、悲鳴を上げる彼女を尻目に心地よい風を受ける。
「…ようやく、アークスレイヤーを元に戻すためのところまで来た」
まだ悲鳴を上げて潰れたカエルのような声を上げるアリーナをBGM代わりに、アーリンはそっと目を閉じるのであった。