異世界の英雄たち、赤ずきんチャチャの世界を修正します 作:hoyohoyo
~歪みの正体~
チャチャたちが3つ目の武器の正体などをセラヴィーからお昼ご飯ついでに教わっていた頃、別室ではアーリンたちがテーブルを囲んで座っていた。
アーリンを見つめる他の3人。
誰も口を開かない。
カップの縁に触れた指先だけが、かすかに震えていた。
ルナが最初に口を開く。
「アーリン…貴方、黒幕の正体を知ってるんじゃない?」
「ええ!そうなの!?」
アリーナが驚きの声を上げる。
「…何となくあたしも予想してたけどさ。強敵のタイミングが結構物語の重要な場面に重なってるのよね」
「確かに。特に強力な歪みが現れたのはアクセスの時、後はこの前の魔人の時ね」
リナの言葉に反応を返すのはルナ。
「物語を知っていないとピンポイントで狙えないじゃない?」
「なるほど、という事はわたしたち以外で物語を知ってる者は…天界の連中の誰かね」
そこまで言ってアーリンが口を開く。
「歪みの攻撃を防いだ時に疑惑が生じたのよ。完全な闇なら私の結界は防ぐか喰らいつくすんだけど、受けた歪みは共鳴していた」
「あの魔人との戦いでもそうね、わたしの結界もいつもなら完全に防ぐのに、まるで…相殺された感じがしたわ」
「影アクセスと戦った時もそう、『あの方』と上位の何かを示唆する言い方だったし…多分、黒幕は―」
「アーヤハ!?」
アリーナの言葉に全員ずっこける。
「違う!アーヤハの上司!証拠が無いからまだ疑惑の段階だけど、私の中では限りなく黒に近いグレーで見てるわ」
「なら、アーヤハに言わないと…」
アーリンの突っ込み、そしてアリーナの提案。
しかし、リナが首を振る。
「駄目よ、今はまだ言えないわ」
「どうして?」
「まず確固たる証拠が無い…その上司である証明が出来ないとただの言いがかりになるのよ。それにアーヤハが腹芸出来ると思う?」
「…無理よね、あの性格だから確実に上司を問いただすわ。そしてポンコツっぷりを発揮して逆に良いように使われるのがオチね」
ルナが頭を抱える。
「だから―今は動かない。確証を掴むまでは」
アーリンはその言葉で締める。
しかし彼女の脳裏ではまだ迷いがあった。
(それに…もし違っていたら?ただの思い込みなら?)
その可能性を、アーリンはあえて口にしなかった。
「あと、昨日アーヤハと定期連絡をしたんだけども」
アーリンが話題を少し変える。
「天界が少々ごたついてるらしい。天界にある世界樹…ユグドラシルって言うんだけど」
「知ってるわ、天界の中に存在する世界を体現する巨大な木」
リナが彼女の言葉に答える。
「上位の神々が作った世界がそこに集約されているそうよ。それとは別の、アーヤハのような中位神が自分で作った世界は世界樹の周囲にまるで大きな池のように並べられてるとか」
「へー…」
ルナが感心したかのように言う。
「で、何者かが侵入して、世界樹とその他の世界に『ケーブル』とやらを張り巡らせた跡があったそうよ」
「けぇぶる?」
「私もあまり分かってないんだけど、世界のエネルギーを流す管みたいなものよ。ただ、世界樹からすれば異質なものだから、必ず天界の神々の許可が無いと本来は繋げちゃいけないものなの」
「それが、あちこちに?」
リナがアーリンの目を見る。
「そう、アーヤハの世界にも伸びていたそうよ。幸い、何も運ばれた跡が無かったからそれは回収され、後は侵入者の痕跡を辿ってみたそうなんだけど…」
そこまで言ってはぁ、とため息。
「まさか、アーヤハの神力とか言うんじゃないでしょうね?」
「正確には、アーヤハの神力と近い力、ね。本人はずっと自分の仕事部屋に籠ってたからアリバイがあって、結局は無罪放免になったんだけども」
「…怪しいわね。どう見てもあわよくばアーヤハに罪を擦り付ける算段じゃないかしら」
リナが眉を顰める。
「そうね、この状態でアーヤハに黒幕は上司です、と言える?」
「…下手したら雇い主ごと消されるわね。そうなったら、わたしたちも一緒に粛清されるかもしれない」
「それどころか、もし気付かれていたら、私たちはもう消されているわ。だから今はこの場で収めてるの。あ、念のために周囲に結界張ってるわ」
そこまで言って自分のマグカップの紅茶を飲む。
(でも、もしこれが本当なら―私たちは、神を相手にしないといけないってことね)
ため息を付くアーリン。
「黒幕の目途はついた、後は確固たる証拠が必要…。尻尾を出してくれればいいんだけど」
「難しいわね…物語で、大きなポイントはこの後のチャチャの3つ目の武器、バードシールド入手くらいだけども」
「魔人戦で相当強い歪みを出したからそこに歪みが現れる事は少ない、って訳ね」
ルナの言葉に空気が少し和らぐ。
「と、なると…後は大魔王戦」
「そこで黒幕の証拠を引っ張り出す、またはそのものを撃退する」
ようやく話に参加出来たアリーナが拳を握りしめる。
「とは言うものの、簡単じゃないわ。それには、まず私とルナの武器を何とかしないといけないのよ」
そう言って砕けた刃の破片が収められた袋と、ほぼ柄だけになっているアークスレイヤーを見つめるアーリン。
「目途は立ってる。チャチャのバードシールドを作り上げる鍛冶師…ムーラ・マーサにお願いする」
彼女は自分のカップを揺らしながら言葉を続ける。
「但し、これは物語とは違う流れ。本当に直してくれるのか、直すのに必要なものがあるのか…全くの未知数ね」
「でも、試してみる価値はあるでしょ?正直このままだとわたしとアーリンの戦力が戻らない。アリーナとリナの負担が激増しちゃうわよ」
ルナも同意する。
「そうと決まればまずはチャチャたちと一緒にその鍛冶師のところに向かうわよ。そろそろあっちもお話は終わったみたいだし」
そう言ってアーリンが結界を解いた瞬間…。
「リーヤがわたしたちのお昼全部食べちゃった~!」
チャチャの悲鳴と他の面々の嘆き声が居間に響く。
「もうちょっと…真剣味というか…悲壮感ってものはないのかしら」
「まぁまぁ、あれがチャチャたちの魅力じゃない」
頭を抱えるアーリンを慰めるルナであった。