異世界の英雄たち、赤ずきんチャチャの世界を修正します 作:hoyohoyo
~ムーラ・マーサ~
セラヴィーから鍛冶師ムーラ・マーサの場所を聞いたチャチャたち。
何故かお茶菓子の手土産を持ちながら村の中心部に足を進める。
頑固なお爺さんをイメージしている3人、鍛冶屋の扉をノックするが返事はない。
「お留守ですかー?」
「おーい爺さん!」
「ムーラさーん、こんにちはー!」
呼びかけるも返事はない。
(そもそもお爺さんじゃないのよね…)
物語を知っているアーリンは苦笑い。
そして背後からそっと若い声が聞こえるが、チャチャたちは帰ろうとして慌てて大声を掛ける若者。
黒髪を後ろでひとつに束ね、シャツにズボンという動きやすい格好。
両腕には鍛冶仕事の火傷を防ぐためのリストバンド。
―彼こそが、元王家筆頭鍛冶師。
ムーラ・マーサ、その人だった。
「ははは、お爺さんとは酷いなぁ」
苦笑しながらお茶を用意し、セラヴィーが持たせてくれた茶菓子をつまみながら会話が弾む。
「ところで、君たちは何を作って欲しいんだい?」
マーサの言葉にチャチャたちはお互いの顔を見合わせ、声を揃えてはっきりと言う。
『バードシールドでーす!』
「ぶーっ!」
彼女たちの言葉に思いっきりお茶を噴き出すマーサ。
「汚い!」
「チャチャさん、大丈夫ですか?」
しいねちゃんの言葉にマーサがさらに引きつった表情を浮かべる。
「チャチャを知ってるのか!?」
「し、知らないよ…僕はただの村の鍛冶屋だし」
リーヤの言葉にしらを切るマーサだったが、チャチャが湯呑みをドン、と置いてマーサに言い寄る。
「セラヴィー先生、ムーラさんが王家筆頭鍛冶屋さんって言ってたもん」
「せ、セラヴィー?」
明らかにセラヴィーの事も知っている表情で焦る彼をさらに壁際まで追い詰めて懇願するチャチャ。
「お願い!わたし、どうしてもバードシールドが必要なの!」
その言葉に怯えた表情で扉を開け、逃亡するマーサの姿。
その背中は、明らかに『逃げ慣れている』動きだった。
「僕は、ただの村の鍛冶屋だ!ムーラ・マーサじゃない!!」
(まぁ、親を大魔王によって石にされたものね…)
アーリンは逃亡するマーサと鬼ごっこと勘違いして追っかけるチャチャを見送りながら遠い目をする。
「…ん?アリーナ、どうしたの?」
よく見るとアリーナの表情が暗い。
「この刀…村正を作った人が、分かったよ」
そう言って刀身を抜くと、銀色に光る刃から―
ぽたり、と水滴が一滴、落ちる。
それはまるで、涙のようだった。
「初代ムーラ・マーサ…。あの人の、お爺さんだよ」
「ええ!?」
驚きの声を上げるのはルナ。
「名前が似ているから関係あるのかな、とは思ったけども…まさか関係者だったとは」
リナも腕を組みながらその刀身を見つめる。
「『我が孫よ…』と声が、泣いてた。それと『あのような怯え方、一体何があったのか』だってさ」
「そうか、初代ムーラ・マーサは先代が大魔王によって石化させられた事を知らないのね」
アーリンの声と同時にルナが鍛冶屋の扉を開けて出てくる。
「見つけたわよ、この地図の切れ端」
書籍の棚の奥に置いてあった、何かが書かれた紙の切れ端。
ルナが地図を合わせると…。
「やっぱり、これは宝の地図じゃなくて封印の地図だったのね」
「『この世界の人間では使いこなせない魔の刀―村正。同じくこの世界の人間では存在すら消え去る宝珠―魔血玉。決して触れるべからず、見つけた者はただちにこの地を封印せよ』」
「…あの洞窟の台座に記されていたのと同じ言葉ね」
リナが紙の上の文字をなぞりながら言う。
「本来はこの地図はここにあったって事か…誰かが盗んだのか、それとも奪われたのか」
「考えられるのは、物語に出てくる魔族のバリキ・マッスルかしら?先代から破門された時にひと悶着あったのかもしれない」
「そろそろムーラ・マーサが戻ってくるかもしれない、少し離れて見ておこうかしら」
チャチャたちが戻ってきた時、マーサはバリキ・マッスルを引き連れてバードシールドを作る作業に取り掛かっていた。
マーサが砂鉄の前に立つと呪文を唱える。
途端に全身が青白く光り、砂鉄が宙を舞い、用意していた火種が吸い込まれるように包み、一気に赤い溶けた鉄の塊になる。
「いざ鍛えん!火よ!風よ!水よ!」
青白い高熱を放ちながら、宙を舞う金属が形を変えていく。
流れる鉄が、まるで意思を持つかのように集まり―やがて盾の形を成していった。
「これが…ムーラの技」
バリキ・マッスルが呆然とした表情で唾を飲み込む。
「はぁ!」
両手を合わせると、光が飛び散り、灼熱の金属が地面に落ちる。
「ルー!さぁ、鍛えるぞ!」
金属を叩き、鍛えるマーサとバリキ・マッスル。
その様子をじっと見つめるチャチャたち。
途中でアーリンたちもその様子を見るのだった。
そして完成したバードシールド。
しかしサイズ的にチャチャには大きく、それをひょいと摘まみ上げるのはバリキ・マッスル。
自分の腕に付けると、その本性を現し、ムーラ・マーサとチャチャを抹殺すべくハンマーを振るうのだ。
「危ない!」
アリーナがそのハンマーを両手を交差させ防ぐ。
激しい衝撃に歯を食いしばる彼女。
「邪魔だ!」
さらにハンマーをぶん回し、マーサやチャチャたちだけでなく、アーリンたちにも襲い掛かる。
「この狭い部屋だと剣も抜けない、呪文も使えない!」
「さらにわたしたちがバリキ・マッスルを倒すわけにはいかないからね…!」
バックステップで何とか回避するルナ。
マーサはこっそり扉を開けて逃亡し、バリキ・マッスルはポーズを取って変身する。
「これが、本当の俺様の姿だぁぁ!」
一気に光ったと思うとゼロ距離で爆発が起こった。
「あ、危なかった…」
「流石に物理的な爆風は喰らったら痛いじゃ済まないからね…」
ルナとアーリンがそれぞれ結界魔法で全員をガードするが、急な詠唱だったので発動が不完全だった。
その為、ダメージこそないものの、チャチャたちを含め全員が煤だらけになっていたのだ。
建物は無残にも破壊されていたが。
目の前に現れるメタリックボディのバリキ・マッスルがチャチャたちにホーリーアップを要求する。
お望みとばかりにマジカルプリンセスに変身、ウイングクリスを構え、臨戦態勢に入ると思ってたが…。
「ラブリィ~!オーマイスイート!戦いなんてやめて、俺とデートしない?」
一目ぼれしてしまったバリキ・マッスルがチャチャを口説き始める。
「いやー!」
本能的にウイングクリスでどつくチャチャ。
「やいチャチャ!可愛い子がそんな物騒なもの振り回してると、お嫁に行けないよー!」
バリキ・マッスルが叱責する。
「俺がいるぜ!」「僕がいます!」
「そんな事よりバードシールドを返して!」
(…この世界、想像以上にカオスね)
チャチャのある意味失言にアーリンがやれやれといった表情を浮かべてしまう。
その言葉が深く刃となって心に突き刺さったリーヤとしいねちゃん。
『そんなこと…そんなこと…』
真っ白な灰になって三角座りで落ち込む2人。
慌てて駆け寄るチャチャに銀色に光るハンマーを振り下ろす。
(ムーラ・マーサは多分セラヴィーに説得されてるわね、こっちは手出しは出来ないけど、歪みだけ無いか確認しないと)
リナが魔力追跡を始めるが、幸いにもその痕跡は無い。
「やはり、歪みにも制限がある感じかしら」
「そうね。敵の強さにも比例するから、どれもこれも歪みを植え付けていたら神力が足りない、ってところかしらね」
アーリンとリナの言葉が、先日の打ち合わせの内容に対しての解答となった。
遮二無二攻撃をするチャチャだが、バードシールドによって全て跳ね返されてしまう。
無駄な体力を奪い、迷いが生まれるチャチャ。
後ろではリーヤとしいねちゃんがチャチャの勝利を信じて祈っている。
それに反応するかのようにウイングクリスに再び光が灯る。
「無駄だ、バードシールドは無敵だ!」
バリキ・マッスルが不敵な笑みを浮かべる。
(どうしよう、何をやっても通用しない…!)
迷いが動揺に移りかけたその時―
「迷いを捨てろ!あの盾は本物のバードシールドじゃないんだ!姫様の技が通じない訳が無いんだ!」
マーサの自信に満ちた声が響く。
「で、でも…」
「迷いを捨てろ!心で打ち込むんだ!」
セラヴィーの言葉を思い出すように、マーサは目を伏せた。
(怖い…でも、みんなが信じてくれてる)
チャチャがマーサの目を見つめ、バリキ・マッスルに再び対峙する。
「私は信じる!ウイングクリス!バーニングフラッシュ!」
腰から一気に抜き身を放つと、不死鳥の光が、一直線に走る。
炎の翼を広げた光が、偽バードシールドへと突き刺さった。
「わっはっはっは!バードシールドは無てき…何!?」
金属部分にヒビが入り、一瞬にして砕かれる。
そしてその不死鳥の一撃はバリキ・マッスルの邪悪な心を消し飛ばして大空に舞わせたのだった。
「プリンセス、愛してるぜ~!!」
世が世なら不敬罪な発言を残して彼は遠くに消えていった。
(とりあえず、次会ったら反省するまでぶん殴っておこう)
同じプリンセス同士のアリーナがはるか彼方へ飛んで行ったバリキ・マッスルを見ながら舌を出す。
『練習作品!?』
「まずは手慣らしのつもりであれ作ったんだけどね」
まさかの練習作品だった、というマーサの偽バードシールド。
本物のバードシールドを作るには幻のエンジェル砂鉄が必要だという。
チャチャたちはその砂鉄を探すために鬨の声を上げて士気を上げるのであった。