異世界の英雄たち、赤ずきんチャチャの世界を修正します 作:hoyohoyo
~うらら学園潜入~
「あらあらあらまぁまぁまぁ!セラヴィーさんの推薦なのね!良かったわー、最近人手不足でちょうど良いパシ…もとい、優秀な臨時講師を募集しようかと思っていたところなのよ」
うらら学園長は目を輝かせて4人の手を握り、ぶんぶん振り回した。
背後では書類が勝手に宙を舞い、判子が次々と押されていく。
(今パシリって言おうとしなかった?)
(したした。優しい顔して鬼だわ、この人…)
アーリンとルナがほぼ念話レベルの小声で囁き合う。
(この学園長、絶対に只者じゃない)
アーリンは直感する。
「じゃあ早速テストを受けてもらうわね~」
「え、テスト!?」
「紹介状を出しただけじゃダメなの!?」
リナとアリーナが驚きの声を上げる。
「ほほほ、生徒は学ぶ意欲さえあれば無試験で入学出来るのですけれども、臨時の講師は専属教師と同じくらいにあらゆる生徒の才能を引き出す能力が必要なの。だからまずは知識テストと実技テストをするのよ~」
「き、聞いてないよ~!」
アリーナの悲鳴が学園長室に響き渡った。
なお結果は…
「あらあらあら!セラヴィーさんが紹介しただけあって皆さん優秀なのね~!」
満足そうなうらら学園長とは対照的に、4人は死屍累々だった。
「学園長も異世界の記憶とかあるんじゃないの?テストの内容が多種多彩過ぎてヤバかったわ」
実技も知識も高い水準だったアーリンですら、額に冷や汗を浮かべている。
「あたまが…しぬ…」
実技では文句なしの結果を叩き出したものの、知識問題で大きく消耗したアリーナは机に突っ伏した。
「文武両道の先を行ってるわね、これ…そりゃ人手不足にもなるわよ」
ルナは深々とため息をつく。
こちらも高水準でまとめたが、さすがに余裕はなかった。
「全身の筋肉がぴくぴくしていたひ…」
リナは床にへたり込んだまま、半ば魂の抜けた声を漏らす。
知識問題は満点どころか不備まで指摘したが、実技の消耗があまりに激しかった。
4人が揃って動けなくなっているというのに、うらら学園長はいつも通りにこにこと告げる。
「では早速明日から来て下さいね~。そういえば明日から新しく入学する子が来るそうなので、その子と同じクラスの副担任をしてもらいましょうか」
「セラヴィーの言ってた癖ってこれの事かぁ…」
「優しい口調と素振りしながらやらせる事は鬼」
「まだあたまがプスプスいってる~」
「あたしは身体が鉛の様に重いわ…」
学園長室を出た4人は、誰からともなく揃って大きなため息をついた。
朝の陽光が石畳を照らす。
前を歩くチャチャたちは何の警戒もなく笑い、その少し後ろを、アーリンたちは自然な距離を保って歩く。
だが視線だけは休まず周囲を測っていた。
(今は平穏。でも、いつ壊れてもおかしくない)
物語は着実に進んでいる。
だからこそ、油断は出来ない。
「あ、通りすがりの旅人さんたち!」
アーリンたちの姿に気づいたチャチャが目を輝かせて駆け寄る。
「おはようチャチャ、リーヤ、しいねちゃん。私たちも、今日からあの学園で先生をすることになったのよ」
アーリンの言葉に、チャチャたちが一斉に目を丸くする。
「すごーい、先生なんだー!」
「強そうな気配してるのに頭も良いんだなー!」
「先生たちの授業も楽しみです!」
(良いわねぇ…リナもこんな時期あったかしら…)
ルナが幼い頃のリナを思い出しながら優しい笑みを浮かべる。
学園に到着すると、うらら学園長がセラヴィー、どろしーとの懐かしい挨拶を交わし、チャチャたちの紹介を済ませる。
「園長先生、わたしたちは何組ですか?」
チャチャの質問にうらら学園長が少し考え込む。
「そうねぇ、とりあえず1年生からお勉強しましょう、えーっと、バナナ組のラスカル先生のところにしましょうか、アーリンさんたちもラスカル先生の副担任という事で。ラスカル先生はとっても優しい先生よ~」
そして学園長の言葉が終わった瞬間、背後の扉が開く。
「呼んだか園長、私に何の用かな言ってみたまえハッハッハッ!」
現れたのは半袖シャツに長ズボン、セミロングの髪で片目を隠した長身の男性。
手にした鞭を軽々と遊ばせている。
声は大きく、大雑把な印象に見受けられるが―その鞭の動きは無駄がない。
(この人も素で強いわね…うらら学園の講師が一筋縄ではいかないのも分かる気がする)
アーリンは即座に判断する。
うらら学園長がチャチャの紹介とアーリンたちの紹介をすると、目にも止まらぬ早業でリーヤとしいねちゃんを鞭で縛って持ち上げ、チャチャを片手でつまみ上げる。
「ほう、貴様らが今日から教鞭を取る臨時講師か…ようし来い。私は『優しい』先生だ、ハッハッハッハッ!」
恐怖で泣き顔になるチャチャたちを連れ、教室へ。
アーリンたちも顔を引きつらせながら、その後に続いた。
教室に着くと、ラスカル先生は鞭を振り回しながら自己紹介を兼ねた「芸」を強要させようとする。
(一応物語通りなんだけど…いやー濃い先生だなぁ)
どう見ても教育者より、猛獣使いに近い。
(一歩間違えたら教育じゃなくて虐待になっちゃうんだけど、ギリギリそれは回避してるのよね)
アーリンとアリーナがぼそぼそ囁き合う。
まずリーヤが狼の子どもに変身し、ラスカル先生から『ラブリーわんわん』と抱き上げられる。
続いてしいねちゃんは一面に花を咲かせ、『ビューティホー』の一声をもらった。
そしてチャチャはわざと召喚を間違えて本来の召喚物を呼び出すという逆転の発想からウサギの代わりに牛を召喚するが、それが見事に成功してしまう。
しかも彼女のかぶっている赤ずきんに反応して牛が興奮し、教室中を暴走する始末。
チャチャにも襲い掛かろうとした牛をリーヤが噛み付いて消し、ぐちゃぐちゃになった教室を真っ青な顔で見るチャチャ。
その様子を見たラスカル先生は彼女を鞭で捕まえ黒板に吊るし…
『元気で良い、花丸!』と黒板に大きな花丸を書くのだった。
その瞬間、黒板消しが勝手に動き、ラスカル先生の顔面を直撃してしまう。
(うん、間違いない。あの黒板消し、大魔王の手下よ)
(でも…何かがおかしい。歪みが薄すぎる)
リナとアーリンが物語の確認をこっそりと行う。
動きがぎこちない。
操られているわけではないのだが、黒板消しの影がブレる。
(多分…『混ぜられてる』わね)
リナの瞳が細くなる。
その後、帰ろうとするセラヴィーとどろしーに、同じクラスの少女が窓から声を張り上げた。
黒ずきんを被った、チャチャより少し大人びた魔法使い―やっこちゃんだ。
彼女は『愛してるわー!』と窓から大声でセラヴィーに告白して、周囲のクラスが同じように視線の先の彼を注目。
大衆の視線が苦手なセラヴィーは逃げ帰るようにスタスタと歩いていく。
(へぇ…セラヴィーは大勢の視線が苦手っと…いい弱点ねぇ、後で嫌がらせしてやろっと)
キシシ、と小悪魔風に笑うリナ。
その後、チャチャがセラヴィーの弟子と判明した瞬間にやっこちゃんは嫉妬と怒りの炎に燃え、チャチャと魔法勝負を挑む事に。
憑依されたラスカル先生が用意した『触れると感電するボクシングリング』の中で赤ずきんと黒ずきんの対決が始まる。
やっこちゃんの攻撃魔法は珍しくチャチャの成功した召喚魔法でことごとく防がれ、チャチャは彼女が次に攻撃するものを予測し(地震→雷→火事、の次)、召喚。
熱々のおじやがやっこちゃんの頭上を越え、その後ろに当たる。
(しかもラスカル先生…を洗脳させた大魔王の手下に直撃させてるのは流石というか何というか)
(あれは熱いだろうなぁ)
4人は半ば呆れながらも、事の推移を見守っていた。
ラスカル先生の様子がおかしいと気づいたうらら学園長が応戦するが…目力で負けてこそこそと退散する。
憑依状態の先生の鞭がチャチャを襲い、彼女はそのまま箒で外に飛び出し脱出。
しいねちゃんもリーヤと2人乗りで箒に跨って後を追う。
『暴れん坊鞭!チャチャを捕まえてしまえ!』
ラスカル先生が自分の得物である鞭に魔力を込めて鞭で出来た巨人を召喚し、チャチャに襲い掛かる。
しかし即座にマジカルプリンセスに変身したチャチャ。
彼女はビューティー・セレインアローで仕留めようとするが―何か様子がおかしい。
「ん?魔力の揺らぎが変ね!?」
「暴れん坊鞭の色がますます濃くなってる!」
「ちっ!歪みが本性現したってところね!」
窓辺で見ていたリナとルナが異変に気付き、全体が見えやすい様にクラスの視線が外れた瞬間に、素早く窓からバルコニーに飛び移る。
鞭が伸びる。
しかも本来ただの鞭が巨大化しただけのものが、無数の棘が生えて肥大化している。
瘴気も帯び、万が一チャチャに当たろうものならその命は尽きてしまうだろう。
立ち上がった巨人の中心を見ると黒と紫が混ざり、脈打つ様子がはっきりと分かる。
「一番濃い部分!あそこにぶち当てるわ!『烈閃咆(エルメキア・フレイム)』!」
リナの指先から放たれた精神を焼く光が、巨大な鞭の怪物の「背後」を射抜いた。
本来、マジカルプリンセスの矢だけで浄化されるはずの魔物が、不自然に膨張し、黒紫の瘴気を噴き上げている。
(ただの憑依じゃない。無理やり『外側』から魔力を注ぎ込まれているわ!)
リナの読み通り、光の柱が命中した瞬間、鞭の中心部から「ギィ…!」と、この世のものならぬ怨嗟の声が響いた。
(何、今の音…いや、声?)
しかし次の瞬間に貫かれた魔力を帯びた鞭が千切れるように霧散し、衝撃の音で消える。
ラスカル先生に取り付いた手下の気配が消えると同時に校庭の真ん中で倒れる。
「ラスカル先生~!」
急いで駆け寄るチャチャ、それにバナナ組の生徒たち。
「ふぅ…」
リナは額の汗を拭いながら息を吐く。
「成程、ああやって魔物を強化させようとしてるのね」
「しかも直接じゃない、上から押さえつけてる感じ」
アーリンは校舎の屋根を見上げる。
雲一つない青空が彼女の視界に広がるが。
(確実に黒幕はどこかで私たちを見てるわね)
「とりあえずは物語通りに敵が出没した時に歪みを探して、狙い撃つ」
「魔法で聞かなければ、ボクたちがこっそりと叩き潰す」
ルナとアリーナは霧散した方角を向きながら、拳を握りしめる。
見えない敵は、確かにいる。
そして次もまた、物語の裏側から牙を立ててくるのだろう。
なお夜中にこっそりとリナがデフォルメされた2等身の視線強化型ぴこぴこリナちゃんを大量に作り、セラヴィーの寝ている間にベッドの周囲を埋め尽くす。
(朝になったら…ふふふっ)
しかし、翌朝。
「何ですか、この不細工な人形は?」
大量の視線強化型ぴこぴこリナちゃんの視線に怯える事もなく、指先で魔法陣を書いたかと思うとあっさりと消し去っていく。
「ふぁ…詰めが甘いですね。面白い術式ですが、うるさいだけです」
セラヴィーは欠伸をしながら覗き見しているリナに声を掛ける。
(この天才美少女魔導士がここまでコケにされるなんてぇぇぇ!)
徹夜で頑張ったリナの力作を意にも介さず魔法で消していくセラヴィーを見て彼女はその場に崩れ落ちるのだった。