異世界の英雄たち、赤ずきんチャチャの世界を修正します 作:hoyohoyo
そしてその夜。
「はい、家は元に戻しておいたわよ」
リナが作ったゴーレム、ぴこぴこリナちゃんの手によって元の姿に戻ったマーサの家。
「ありがとうございます、えっと…」
「アーリンよ」
アーリンはそこまで言って改めて近くの居間に座る。
「実は…貴方にお願いがあって来たの」
「それは、姫様が居る時では駄目だったのですか?」
マーサの言葉に頷く。
そして折れたアークスレイヤーの柄部分と砕けた刀身を彼に見せるのだ。
「この剣を―復活させて欲しい」
「…!」
流石元王家筆頭鍛冶師、折れた剣であってもその魔力の反応に驚きの表情を浮かべるのだ。
「あと、この力に耐えられる剣も打って欲しいの」
ルナがマーサの手をそっと握り―赤竜の魂をほんの少しだけ、流し込む。
「!!」
慌てて手を離し、自分の手を見つめるマーサ。
「貴方たちは…一体、何者なんですか?」
「詳しくは言えないけど、チャチャの味方よ」
「敵は大魔王なんだけど、その他にも厄介な存在が居てね…。その露払いの為に、わたしたちには武器が必要なの」
アーリンとルナの言葉に沈黙するマーサ。
そして何かを決めたかのように、戸棚の奥を開け、ごそごそと何かを探し始める。
鍛冶場に置いてある台にこぶし大の袋を開け、中身を出す。
「これは…」
七色に光る砂鉄。
光を反射しているのではない。
それ自体が、淡く光を放っていた。
「エンジェル砂鉄です」
マーサの声。
「ちょっと、バードシールドを作るのに必要な砂鉄じゃない!?」
「そうです。…あそこでこの存在を知らせなかったのは、バードシールドを作るには―量が少なすぎるのです」
そう言ってアークスレイヤーの欠片にエンジェル砂鉄を振りかける。
「でも、この剣を復活させるには…十分すぎる量です」
「それじゃ…!」
「やってみましょう。生まれてこの方、見たことの無い剣…鍛冶師のプライドが疼くのです」
マーサの呪文が響く。
「大地と、風と、火と、水よ!闇を打ち払い、聖なる光に包まれた力よ!今一度、その光を取り戻せ!」
砕けた刀身が溶ける。
広がる。
そして―大剣の形を取った。
「異世界の神よ、赤き力よ、その力を秘めし銀の刃を今、ここに!」
さらにもう1本、長身の剣を形どった金属の塊が生まれる。
「アーリンさん、ルナさん、貴方たちの魔力を込めて下さい!」
頷く2人。
火造箸を持ち、そこに自身の魔力を込めて金属に伝わらせる。
マーサは魔力を帯びた金属を交互に叩き、剣の形にしていく。
アリーナとリナは火種を作り、水を汲む。
明け方。
ようやく二振りの剣は完成した。
「これが…わたしの、剣」
銀色に輝く刀身。長さはアリーナの村正ほどあるだろうか。
ただ違うのは真っすぐに伸びた刃と、魔力の質。
「…赤竜の魂を込めるわね」
ルナが剣を持ち、その力を込める。
刀身が紅く染まり、真紅のオーラが溢れていく。
その時、剣が、呼吸するように脈打った。
そして今までなら刀身が震え、ヒビが入っていたのに、この剣は傷一つ付かない。
「…壊れない。これなら、行ける」
「やったね!」
アリーナがルナにハイタッチ。
「で、名前どうするの?」
「名前?」
「せっかくだから名前付けようよ。ルナ専用の剣なんだからさ」
アリーナの言葉にルナが少し困惑する。
「と言っても、何て名前にすればよいのやら」
「姉ちゃん、いい名前があるよ!」
リナの言葉にジト目を見せるルナ。
「あんたのネーミングセンスは壊滅的だからねぇ…」
「そんな事無いよ!…ルナちゃんブレードって名前はど、うきゃっ!?」
「却下」
ふざけた名前を考えたリナにげんこつを落とす。
「セレネシア―」
アーリンが小さく呟く。
「アーリン?」
「セレネシアブレード、ってのはどう?」
そのまま彼女は言葉を続ける。
「私の世界の言葉でね―『月』を意味する言葉なのよ。ルナの世界ではその名前が月を意味するんでしょ?お揃いじゃないかしら」
アーリンの言葉にルナの表情が和らぐ。
「そうね…いい名前だわ。セレネシア…この剣は、セレネシアブレードよ」
まだ闇が残る外で照らす月の光に刀身がきらり、と反射する。
アーリンもまた、アークスレイヤーの柄をゆっくりと握る。
だが、いつもの重みがない。
「アークスレイヤー…復活はしたけど、何か…しっくりこない」
青白い輝きを残した刀身、破壊される前と同じ大きさ、同じ形、同じ魔力。
しかし、アーリンの表情は暗い。
「剣が…。剣が、後悔してるんです」
「後悔?」
マーサの言葉にアーリンがオウム返しをする。
「大事なものを守れなかった、そんな悔恨…剣に迷いが生まれてます。しっくりこない理由はそれでしょう」
「迷い…大事なものを、守れなかった」
(私の迷いがそのまま剣にも伝わってるのね)
アクセス戦からずっと心の片隅にへばりついていた迷い。
物語を、世界を、仲間を、そしてチャチャたちを守る。
その意志が―揺らいでいる。
「ただ…その迷いが無くなった時、この剣は―大魔王すら滅ぼせる力を持つでしょう」
「分かったわ、ありがとう」
(おかえり相棒。私の迷い…貴方の迷い…共に、断ち切りましょう)
「そしてアリーナさん…その刀は。リナさんもその宝珠…」
「初代の魂が込められた妖刀…」
「この世界の人間では扱えない妖刀と宝珠。あたしたちは無事『選ばれた』」
リナの言葉に、マーサが何かを理解したかのように目を見開く。
「そうか…君たちは」
「おっと、これ以上は言っちゃ駄目よ?貴方の心の中に仕舞っておいて」
アーリンが人差し指の腹をマーサの口に当てる。
夜が、ゆっくりと明けていく。
太陽の光が、部屋に入り込む。
「エンジェル砂鉄の件は、頼むわよ?」
「分かりました、これから僕はセラヴィーの家に行ってエンジェル砂鉄の詳しい情報を話します」
マーサが覚悟を決めた表情を浮かべる。
「私たちも付いていくから安心して。貴方は…チャチャを信じて、付いて行ってあげて」
アーリンはそう言って仲間と共に帰路につくのであった