異世界の英雄たち、赤ずきんチャチャの世界を修正します 作:hoyohoyo
「その昔、魔族の侵攻から王国を救ったマジカルクイーン・ジョアン1世は3つの武器を携えていたと言います。ビューティー・セレインアローとウイングクリス、そして―バードシールド」
マーサはさらに言葉を続ける。
「僕の家は、代々王家に仕える鍛冶屋で、バードシールドの作り方を秘伝としています」
「ZZZ…」
「ぐぅ…」
チャチャとリーヤは話の途中で寝てしまっていた。
「寝るな!」
一緒に聞いていたアーリンが2人を揺さぶって叩き起こす。
「でも、バリキ・マッスルと一緒に作ったバードシールド、あれは偽物でしたよね?」
しいねちゃんの質問にマーサは少し視線を下に向けながら口を開く。
「ええ…。本物のバードシールドを作るには、幻のエンジェル砂鉄が必要なのです」
「…エンジェル?」
「…砂糖?」
「エンジェル砂鉄、です」
チャチャとリーヤが寝ぼけまなこで働かない頭を使った言葉がこれである。
しいねちゃんもとほほ、といった表情で肩を落とす。
「でも、何で『幻の』なんですか?」
彼は再びマーサに質問した時、横から声が飛んできた。
「それは、私が教えてあげましょう」
セラヴィーが椅子に座り、チャチャたちに向かい合う。
「なんだセラヴィーいたのか」
リーヤが呟いたその瞬間、高速で風が舞い、一瞬にしてリーヤが消える。
そして何事もなかったかのようにセラヴィーが笑顔で説明するのだ。
…なおリーヤは裏庭の木に吊るされていた。
「それほど希少価値があるということですね。昔は、エデン鉱山にたくさんあったといいます」
「エデン鉱山…ですか?」
「そうです。ここからはるか西、エデンの里にあるエデン鉱山です、分かりましたか?」
「はーい、分かりました!」
チャチャが元気よく答える。
「分かんねーぞこの野郎ー!」
遠くでリーヤが吠えていた…。
そしてエデンの里道中。
「何で僕も付いていかないといけないんですか…?」
鍛冶道具を背負いながらひぃひぃと情けない声を上げるマーサ。
「そりゃ、貴方が居ないとバードシールドを作れないからでしょ?」
「砂鉄を村まで持ってくればいいじゃないですか…」
アーリンの言葉にマーサが抗議の声を上げる。
「大魔王の手先がいつチャチャに襲い掛かるか分からないからね、すぐに盾を作れる方が良いでしょ?」
「それはそうですけど…というか貴女たちも僕と同じで殆ど寝てないのに何でそんなに元気なんですか!?」
すでに疲労困憊のマーサに対してアーリンたちの足取りは軽い。
「そりゃ…鍛えてますからねぇ」
「そうそう、鍛冶屋なのに結構細い腕だよねー」
アリーナがマーサの腕を握る。
「勝手に触らないで下さい、それにアリーナさんも僕と同じくらいじゃないですか!」
「ボクの場合、筋肉の質が全然違うからねー。大岩も片手で持てるし砕けるよ?」
「ひぃぃぃ!」
そんなやり取りをしながらもはるか遠いエデンの里、だんだん日が暮れていく。
夕焼けを見ながらチャチャたちは大はしゃぎ、リーヤとしいねちゃんはチャチャと2人で見たかった、からの可愛らしいレベルの言い合いをしていたが。
「そろそろ野宿かな…」
その時、高らかに響く、それでいて甘い響きが混ざる金属の音が。
一同が音のする方向を向くと、夕焼けの丘にひとりの影が立っていた。
次の瞬間―甲高く、それでいてどこか懐かしいトランペットの音が空を裂く。
その音色は、どこか『懐かしさ』を孕んでいた。
「なんか喉がむずむず…遠吠えしたくなるぞ…」
「やっぱり犬だ」
リーヤが変身しそうになる姿にしいねちゃんが冷めた目で見つめる。
「うわぁ…かっこ…ええ!?」
夕日が沈み、楽器を吹いていた影は―頭をパンク姿にした、白い髭を生やした老人だった。
衣装もレザージャケットにシャツに裾が広がったズボンスタイルで、正直似合うと言われると疑問符ではある。
チャチャもそれを思ったのだろう、驚きの声を上げていた。
「あおーん!」
「こらー!」
いつの間に狼に変身して遠吠えをするリーヤを怒鳴りつけるしいねちゃん。
夜も更け、キャンプを張る一行。
老人の名前はクラウドといい、さすらいのトランぺッターを自称している。
彼は生まれ故郷であるエデンの里に行く途中だったそうで、チャチャが嬉しそうにする。
トランペット片手に世界中を巡ったが、ふと故郷に戻りたくなったという事だ。
「エデンの里はいいところじゃぞー?幼馴染の友達もたくさんおるし、ワシの初恋の人もおるでよー?」
「えぇ…」
戸惑いの表情を浮かべる他の面々。
(見たところ60歳は行ってるよね?初恋の人もそれくらい?)
(何というか…まだ自分は若いと思ってるフシあるよね)
クラウドに聞こえないようにルナとリナがぼそぼそと喋る。
そして次の日。
起床ラッパで叩き起こされ、眠い目をこすりながら力なく歩く一同。
チャチャに至っては寝ながら歩いている。
対照的に元気よくラッパを吹くのはクラウド。
「進めー!進めー!いざ行かんー!」
老人とは思えないほどの軽やかな足取りだ。
道中、揺れる吊り橋をマーサが恐怖から駆け抜けて落ちそうになりかけたが、何とか無事にエデンの里に到着するチャチャたちとアーリン一行。
「おお、あそこじゃ!あそこがエデンの里じゃ!」
丘の裾野に広がる村を指差しながらクラウドが叫ぶ。
『やったー!やったー!』
チャチャとリーヤも嬉しそうだ。
「とうとうエンジェル砂鉄が手に入るんですね!」
しいねちゃんも今までの旅の疲れが吹き飛んだかのような笑顔。
「おお我が麗しき故郷よ~」
喜びのあまりオペラのように歌い始めるクラウド。
その後ろでチャチャたちはというと…。
(いっちゃってますね…)
(どうする?)
(気が済むまで歌わせてあげましょう)
(はぁ~)
ため息を付きながら彼の歌に付き合いつつ村へ向かう一行。
「猫の子一匹いませんね…」
エデンの里に付いたチャチャたちだったが、村は荒れ果て、建物は崩れていた。
以前に合格印を探していた時の村の荒れようより酷く、屋根が吹き飛び、半壊状態の建物が殆どだ。
風が吹くたびに、崩れた屋根が軋む音だけが響いた。
「おーい、見ろ見ろ、変な像がいっぱいあるぞー」
「くだらないシャレを言ってる場合か!」と突っ込みを入れるしいねちゃんを尻目にクラウドが里の荒廃した様子にその場に崩れ落ちていた。
「これが本当に…エデンの里なのか…。ワシの、ワシの故郷はどうなっちまったんだ…」
「クラウドさん…」
悲し気な表情を浮かべるチャチャ。
その時、物陰で何か音が聞こえ、振り向くと女性らしき姿が逃げていくのがはっきりと分かった。
「あ!あそこに人が!」
しいねちゃんが指を差し、リーヤが変身して後を追う。
チャチャとしいねちゃんが空から追跡し、行き止まりに追い込んでいく。
アーリンたちも駆け足で後を付いていくのだ。
「さぁ、もう逃げられないわよ!」
「へん!いくら虎で脅かしても、もう何も出ないよ!」
チャチャの言葉に悪態を付くのは栗色の髪の毛をお団子括りにした老女だ。
「虎?」
「馬鹿犬は一匹いますけど」
しいねちゃんの言葉にリーヤが変身を解いて怒鳴りつける。
「犬じゃねぇ!狼だって言ってんだろ!」
そんなやり取りをしているうちにアーリンたちも到着する。
「ボニー…ボニーじゃないか!」
クラウドが叫ぶ。
「あんた…クラウド!?」
まさかの知り合いに周囲が驚きの表情を浮かべるのだ。
「ボニぃぃぃぃ!」
「クラウドぉぉぉ!」
お互い笑顔で抱擁しようと駆け出す2人。
「な、何か、恥ずかしいですね…!」
チャチャたちが顔を赤くして目を輝かせ、しいねちゃんが照れながらチラチラと2人の様子を見る。
ボニーとクラウドは年甲斐もなく、若い男女のように近づき―
「ふん!勝手に村を飛び出しおっていい気なもんじゃ!」
「はっ!可愛げのないところは変わらんのぅ、不愛想なババァが!」
突然お互いそっぽを向いて口喧嘩を始めるのだ。
あまりの豹変っぷりに戸惑いの表情を見せるチャチャ。
「あれ~?2人って仲が悪いのかな?」
「そんな事ないみたいですよ?ほら」
しいねちゃんが見せたのは壁に描かれた落書き。
そこには相合傘をしているボニーとクラウドの姿が描かれており、好きな人同士が愛を語る場所だった事を物語っていた。
「ふん!このフーテン爺めが!」
「玉ねぎ婆さん、まだ生きておったのか!」
まだ続く2人の喧嘩。
「やっぱ仲悪いんじゃないのか?」
「でもまぁ、喧嘩するほど仲が良いともいいますし」
「リーヤとしいねちゃんみたいだね!」
チャチャの言葉に2人はお互いの顔を見て―ふん、と首を反対に向ける。
「あのー、ボニーさん…?さっき虎とか…この辺に虎が居るんですか?」
マーサの言葉にボニーがしおらしくなる。
「そうなんじゃ…」
ある日、大魔王の家来である槍使いのキヨトーラと名乗る魔物が虎を引き連れてエデンの里を支配したそうだ。
逆らう者は石像にされ、他の者はキヨトーラを恐れ里を出て行ったため、これだけ荒廃してしまったとのこと。
「昔はエンジェル砂鉄も採れて、この村も賑やかじゃったがのぅ…」
「今は砂鉄は採れないんですか!?」
マーサが語気を強くして問うもボニーは力なく頷くだけ。
「今は全然、とっくの昔に掘りつくしてもうた」
『ええー!?』
一同はその答えに驚きの声を上げた。