異世界の英雄たち、赤ずきんチャチャの世界を修正します 作:hoyohoyo
確認すべく、チャチャたちとマーサ、そしてアーリンたちもエデン鉱山に入る。
鉱山の奥の壁を調べ、石を拾い上げて明かりに近づけ見るが―
「駄目だ…。ボニーさんの言った通り、エンジェル砂鉄は掘り尽くされてしまったんだ…」
そう言って肩を落とすマーサ。
「じゃあ、バードシールドは!?」
チャチャの問いにも黙って首を横に振るだけ。
「あー!誰か!!」
鉱山の外から聞こえる女性の悲鳴。
「何だ!?」
「ボニーさんの声です!」
脱兎の如く走り出すチャチャたち。
チャチャとアーリンたちが到着した瞬間、目の前でそれは起こっていた。
キヨトーラが棒を持って抵抗しようとしたクラウドに石化光線を放つ。
「クラウド、危ない!」
「やめろボニー!」
ボニーは彼の前に立ちはだかり、両手を横にしてクラウドを庇う。
彼女の指先が、ゆっくりと石に変わっていく。
「ボニー!!」
クラウドが叫んだ時には全身が石と化していた。
その石像に縋り付いて慟哭するクラウドを見て、満足したのかそのまま空に消えるキヨトーラ。
他の面々はその姿に悲痛な表情を浮かべることしか出来なかった。
夕日が里を照らす。
里の近くの丘の上でトランペットを吹くクラウド。
その音は、もう戻らないはずの時間を連れてきた。
物悲しい音が、まるで彼の心を表現しているかのようだった。
「ボニーさん…かわいそう…酷い…」
チャチャの目から涙がこぼれる。
その悲し気な演奏が終わりを告げ、クラウドはチャチャの前に立つ。
「チャチャさん、このトランペットをあげよう」
「え?」
「ワシの夢は全て消えた…故郷も、友達も、初恋の人も…」
悲愁の表情を浮かべるクラウド。
「じゃあ、やっぱりボニーさんはクラウドさんの…」
チャチャの言葉にゆっくり頷く。
「…初恋の人じゃ。ワシは若い頃、ボニーに振られたと思ってこの村を出たんじゃ」
荒れ果てた村を見ながらクラウドは言葉を続ける。
「だがボニーはずっとワシの帰りを待っていてくれた…。今ワシにあるのはこのトランペットだけじゃ」
そう言ってチャチャにトランペットを渡す。
「そのトランペットは昔にこの村を旅立つ時に持って出たものじゃ、エンジェル砂鉄で出来ておる」
「エンジェル砂鉄!?ならそのトランペットでバードシールドが出来ます!」
マーサが喜びの声を上げる。
「え…いいの?」
チャチャの戸惑いの声にもクラウドはゆっくり首を縦に頷く。
それでも、トランペットを握る手は震えていた。
「…ありがとう、クラウドさん」
色々な感情が渦巻き、チャチャは再び大粒の涙を零す。
清らかな涙がトランペットを濡らし、まるでそのトランペットはチャチャに寄り添うかのように泣いている風に見えたのだった。
そして夜。
まだ無事だった建物を借り、そこで盾を作るための火を起こし、水を用意するリーヤとしいねちゃん。
アーリンたちも重い薪を準備したり、キヨトーラの襲撃が無いか見回りをしたりと忙しそうにする。
「さらば、ワシの青春…」
クラウドはトランペットを熱せられた窯の中に入れ、やがてそれは金属の塊となって溶けていく。
マーサがその金属を打ち、徐々に盾の形に変わっていくのだ。
「クラウドさん、私に火造箸を持たせてくれないかしら?」
「ああ、構わんよ…」
アーリンが交代し、箸を通して自分の魔力を注ぎ込む。
(チャチャたちも私たち…というかあの女神の尻拭いに負けずに頑張ってるものね。少しでも、力になれば)
エンジェル砂鉄に白い魔力が纏わりつき、それが金属に吸い込まれる。
「これは…良いですね、最高の出来になりそうです」
マーサが笑みを浮かべる。
夜が明け、ようやく盾が完成する。
熱が消えた瞬間、空気が一変した。
大きさは小型の盾程度だが、明るい紅色の金属をベースに、不死鳥を象った外見。
中央にはアーリンが込めた魔力の宝石が埋め込まれ、ただの盾ではない事が見て取れるように分かる。
「これがバードシールド!?」
「すごく綺麗ですね!」
「どーれ!」
早速リーヤが持ち上げようとするが、その怪力を持ってしても持ち上がらない。
「…重い」
「馬鹿力のリーヤでも持ち上げれないなんて…」
しいねちゃんが驚いた風に言う。
「わたし、使いこなせるのかしら?」
「大丈夫、姫様なら使えますよ」
そこまで言って今度はアリーナの方を向くマーサ。
「どうしたの?」
「盾を作るときに少しだけ金属が余ったので、こんなものも作ってみました」
そう言ってアリーナに渡したのは彼女の髪の毛の色に近いナックルガードとすね当て。
「前に『拳と蹴りで自分の手足を痛めることがある』って呟いてたのを聞いて、それならばと作ってみました」
「すごい!ボクが気にしてたことをちゃんと聞いてたんだ」
アリーナが目を輝かせて喜びのポーズを取る。
「もし良かったら装着して下さい」
「もちろん!」
マーサの言葉にアリーナは両手にナックルガードを、ブーツの上にすね当てを付ける。
「軽い…着けたことを感じさせないくらいだよ、これ」
「アーリンさんの魔力が入ってるのでかなり防御力は高いです。ナックルガードも邪悪なものを退けるおまじないが込められています」
「良かったわねー、これで遠慮なく戦えるんじゃない?」
ルナの言葉に満足げに頷くアリーナ。
「あとは、あのバードシールドをチャチャが使いこなせるか、だけども…ん?」
建物の外に溢れる異様な魔力。
彼女たちは瞬時にそれを感じ取っていた。
「…来るわよ!」
アーリンたちは剣を抜き、身構える。
「え?え?」
「そこっ!」
ルナが建物の壁ごと斬り付けると、崩れた壁からキヨトーラの引き連れていた虎が飛び出してきた。
「ひぇぇぇぇ!」
慌てて逃げ出すチャチャたち、そして追いかける虎。
「ボクたちも向かう…!?」
「これは…気を付けて、『歪み』よ!」
虎が飛び出した反対側の壁、そこがまるで焼けたチーズのように真っ赤になり、どろりと溶ける。
出てきたのはキヨトーラそっくりの魔物。
ただ違うのは目の色は漆黒、引き連れてきた虎も漆黒の肌に白の模様が走っていた。
「ほほう…あのお方の邪魔をする人間はお前たちか」
キヨトーラは槍を持っていたが、この魔物は両刃の斧だ。
「俺様の名はマサトーラ、あのお方によって作られた忠実な家来だ。そして一番の片腕でもある!」
そう言い放ち、チャチャたちの逃げた方向を一瞥する。
「チャチャたちはキヨトーラで十分だろう」
そしてその斧を片手で軽々と持ち、もう片方でやや短めの片手斧を握りしめる。
「この魔神斧で貴様らの首、貰い受ける!」
言葉が終わるや否や、思いっきりアーリンたちの居た場所に叩きつけるが、アーリンたちは素早く身を躱す。
「ぬぅん!」
今度は横に薙ぎ払う。
「させない!」
アリーナの拳がその刃を受け止める。
ガィン!と激しい音が鳴り、火花が飛び散るが、アリーナのナックルガードには傷一つ付かない。
「歪みの武器でも防げるのはすごく助かる!」
「だからといって無茶は禁物よ、アリーナ!」
リナの言葉に頷く彼女。
「アーリン、アリーナ、リナ。ちょっと今回はわたしだけでアイツと戦ってみたいの」
「どうして?」
「せっかくセレネシアブレードを作って貰ったんだから、試し斬りしてみたいのよ」
ルナの言葉にアーリンが苦笑する。
「まぁ、構わないけどね…。危なくなったら助太刀するから、思う存分やっちゃいなさい」
「ありがとう!じゃあ…行きますか」
そしてルナは腰に差したセレネシアブレードの鞘から銀色に光る剣を抜く。
「お前ひとりで俺様と戦うってか!?舐めた真似しやがって…」
マサトーラのプライドが傷ついたのか、怒りの表情を浮かべる。
「ひとりでも十分よ?大人しくセレネシアブレードの錆になりなさい」
そう言ってルナは剣に自身の魂を込め始める。
刀身が銀色から真紅に輝き、まるで湯気のようなオーラが刀身から溢れ出る。
(軋みもない、むしろ魂がスムーズに通るまである。これは…凄いわね)
「こちらから行くぞ!」
マサトーラの斧がルナに振り下ろされる。
ブン!
豪快な風の音とともに、ルナの頬に斧の刃がかすめる。
だが、髪の毛を数本切っただけで、彼女の顔には傷ひとつ付いていない。
「大変涼しい扇風機ね…」
煽るルナに激昂するマサトーラ。
「減らず口を!!」
再び斧を振るうが、ルナの掛け声とともに自分の剣で真っ向から受け止める。
紅い火花が弾け、何かが欠ける音。
「なっ…!」
そう、マサトーラの魔神斧の刃は大きく欠けてしまっていた。
「今度はこっちの番よ!」
ルナが剣を振るう。
マサトーラが受け止めた片手斧はまるでバターのようにすっぱり斬れ、慌てて魔神斧で防ぐが―
「そんな、馬鹿な!」
斧の刃の上半分が抵抗もなくすっぱりと切り取られ、返す刀で虎の首を一撃で刎ねる。
「姉ちゃん、つっよ…」
「一応相手もそれなりの強さなんだけどね…」
「明らかにルナの方が数段上だよね」
その言葉通り、マサトーラの身体にだんだんと切り傷が増えていく。
マサトーラもルナに向かって斧を振るうが、全くかすりもしない。
「遅すぎるわよ?武器ってのはこうやって使うのよ」
軽く、一閃。
「…!!」
マサトーラの両手が、どこかへ消える。
「こんなものね…。じゃあ、60%くらいでたたっ斬ろうかな」
「や、やめろ…!」
相手の強さに今頃気付いたマサトーラがそのまま逃亡しようとするが。
「また、来世があればいいわね」
背を向けたマサトーラに思い切り斬り付けるルナ。
それは右の肩口から左足の先まで綺麗に真っ二つ。
絶叫もないままに塵と消えるマサトーラ。
虎の尻尾が、消える瞬間に黒く歪み、床に溶けて無くなる。
「準備運動にもならなかったわね」
軽口を叩くルナに仲間は感嘆の声を上げる。
「どう?武器の感触は」
アーリンの台詞に嬉しそうに返す。
「強いわね…そしてわたしの魂を入れても壊れない!これが大事よ」
それから剣を鞘に戻すルナ。
向こうではチャチャがキヨトーラと対峙していた。
「バードシールド、ビルドアップ!」
激しい光と共にバードシールドがチャチャの腕にはめ込まれる。
「俺様の槍を受けてみろ!」
キヨトーラが渾身の一撃をチャチャに向かって放つが、バードシールドから広がる桃色のバリアによりキヨトーラの槍を防いでいた。
激しい爆発にも関わらず、彼女の身体には傷一つ付いていない。
「ウイングクリス、バーニングフラッシュ!」
返す刀でチャチャが剣を水平に振ると、地を這うように不死鳥の光が飛び出し、キヨトーラの胸に直撃する。
そしてキヨトーラは内部から浄化され、そのまま消え去ったのだ。
キヨトーラが倒され、石にされていた村人が元に戻っていく。
そしてボニーも…。
「ボニー…ボニー!」
クラウドが思い切り彼女を抱きしめる。
「く、クラウド…」
少し顔を赤らめながらも拒絶せず、彼に抱きしめられるがままになるボニー。
だが、その背後で満面の笑顔のチャチャたちを見ていつもの彼女に戻る。
「何すんじゃいこのジジイ!」
その頬を張り倒す。
そして始まる口喧嘩。
「あのー、僕たちはこれで」
「行くねー」
「ふり組み中らしいぜ」
「取り込み中だ」
延々と口喧嘩をする2人を放っておいてとっとと帰路につくチャチャたち。
それでも振り向くと、クラウドとボニーが仲良くステップを踏みながらダンスを踊っていたのだ。
「やっぱり喧嘩するほど仲が良い、ですね」
しいねちゃんの言葉にみんな頷くのだった。
数日後―
「クラウドさん、居る?」
アーリンがエデンの里に降り立つ。
魔物によって崩壊していた里も復興のきざしが見え、アーリンたちは同じように幼馴染の友人だろうか、談笑しながらも壊れた瓦礫を取り除く姿が見えた。
「おー、アーリンさんたちか。どうじゃ、里もちょっとマシになったじゃろ?」
新しい建物も順調に建っており、半月もあれば元の姿に戻っているだろう。
「ところで、どうしたんじゃ?チャチャさんたちは来てないのか?」
「今回はあたしたちだけよ?」
リナがそう言ってアリーナを呼び寄せる。
「えーっと…クラウドさん、これお土産!」
アリーナはクラウドに赤ん坊大くらいの包みを手渡すのだ。
「何じゃこれは…箱?」
取っ手の付いた軽い木製の箱、横にはその箱を開くためのフックが掛かっている。
「まぁまぁ、開けてごらん?」
言われるがままに彼がその箱を開けてみると―
銀色のトランペットの姿が、そこにあった。
「こ、これは…」
クラウドの震える声。
「あなたのトランペット、盾になっちゃったでしょ?」
アーリンがそんな彼に声を掛ける。
「だからお返しよ。ちょうど彼女の剣を鍛えた時、少し金属が余ったのよ。それを王家筆頭鍛冶師がそれを鍛えて」
ルナが続く。
「世界一の魔法使いと世界一の魔法使いになる予定の2人がちゃんと音が綺麗に鳴るかテストして、みんなでチェックした世界一頑丈で音の綺麗なトランペットよ」
リナがドヤ顔で胸を逸らす。
「あ、ちゃんと綺麗に掃除はしてあるからね」
アリーナがそう言ってトランペットをクラウドに渡す。
「お前さんたち…」
クラウドの頬に、一筋の涙が伝った。
自分の失われた半身が、また戻ってきた。
クラウドが丘の上でトランペットを吹く。
輝かしくも甘い音色が里に響く。
ボニーが隣で微笑みながらうっとりと聞く。
里の人も、クラウドの演奏を耳に作業を続ける。
アーリンたちも彼の演奏をじっくりと傾聴する。
その時、隣に置いていたアークスレイヤーが、微かに『応えた』気がした。
(剣が…反応してる?)
剣の刀身をそっと抜く彼女。
いつもと同じ、自分の相棒をじっと見つめる。
(音楽は、人を救うのね…。それなら―剣だって、人を救えるに違いない)
アーリンはそう思いながら、自分の迷いを振り払おうとしたのだった。