異世界の英雄たち、赤ずきんチャチャの世界を修正します 作:hoyohoyo
あの騒動から数日後、バナナ組の面々は南の海へ遠足に向かう。
ラスカル先生が運転する観光用の大型箒で生徒たちを乗せて移動。
アーリンたちは、学校から支給された『飛翔バッヂ』でその箒の周りを飛び交う。
「これ便利ねぇ…空を飛べない私やアリーナ、ルナもこうやって移動できるんだから」
満足そうな表情で宙に浮かぶアーリンは、そのままバナナ組の大型箒の傍まで飛ぶ。
「アーリン先生~!」
手を振るチャチャに笑顔で手を振り返す彼女。
「満更じゃないって顔してるわね」と笑顔のルナ。
「先生って呼ばれるの、意外と悪くないかも…」
アーリンは照れ臭そうに呟く。
「ボクもみんなに格闘技を教えようかな?」
「いやいや、アンタの場合は授業で教えたら生徒全員へばっちゃうって…。体力が違いすぎるのよ」
アリーナが拳を握りしめて燃えている隣でリナが呆れ顔。
南の海は宝石のように澄んでいた。
白砂が陽光を反射し、潮風が甘く香る。
遠くでは魚群が跳ね、空と海の境界が溶け合っている。
(こんな場所では本来争いなんて起きないはずなのに…物語の強制力はある意味一種の呪いみたいなものね)
アーリンは水平線を眺めながら、胸の奥にわずかな警戒を抱く。
そんな彼女を尻目に「海だー!」「海よー!」と叫ぶチャチャとリーヤ、やっこちゃんがそれを止めてセラヴィーの愛を語り。
(純粋で良いわね…。地味に先生って職業も悪くないかも)
ルナの母性本能がくすぐられる。
南の島を満喫するチャチャたちは離れの小島まで冒険を始める。
飛べないリーヤの為に船…という名前のゼンマイ式おもちゃの船に乗って向かうも大波にさらわれてしまう。
泳げない3人、チャチャはイカダ、しいねちゃんは浮き輪で事なきを得るが、リーヤはそのまま溺れていた(本人は泳いでるつもり)。
チャチャが助けようとイカダを召喚するが、何故か船の錨が出てきてリーヤの頭を直撃、そのまま沈んでしまう。
(本当は助けたいけども…まだ介入する場面じゃない)
少し歯がゆい思いをしながらも、手出しはせずに遠くから見守るアーリンたち。
(歪みが入る可能性があったとは思うけども、異常はないわね)
リナが魔力の揺らぎを感知しようと集中するも、今のところは問題ない…
(?)
一瞬、リーヤが沈んだ場所に黒い泡が浮かび上がった気がするが…気のせいだろうか。
彼女は再度魔力感知を行うが、魔力の揺らぎはやはり検出されない。
「気のせいかしら…」
「マリンどの、どうしても拙者とお付き合いしてくれぬと申されるか?」
「そうよ」
海中では、チャチャと同じくらいの年頃の、少し勝気な美人魚マリンが、海坊主の告白をきっぱり断っていた。
相手は巨大な頭と身体に、不釣り合いなほど凛々しい顔をした奇妙な海の怪人である。
「そんな…拙者のどこが気に入らぬと…」
「全部よ!」
マリンの言葉に、その場に打ちひしがれる海坊主。
そんな彼を放っておいて遠くへ泳ごうとした時、海中で沈んでいくリーヤを見て一目ぼれ。
錨で頭を打ったリーヤは記憶喪失になっており、マリンがこれ幸いにと自分の恋人扱いに。
チャチャがリーヤと出会うも、記憶喪失の彼に『誰?』と言われた挙句マリンの恋人宣言されてしまい、思わずビンタ。
「リーヤのバカ~!!」
泣きながらリーヤの頬をビンタをしてその場から逃げ去るチャチャ。
混乱とすれ違いの末、チャチャは確信する。
『あのリーヤは違う』―もう一度、確かめなければならない。
当然マリンはそれを良く思うわけがなく、リーヤを海の中に押し込んで隠そうとする。
「…青春ね」
「あの2人、放っておいてもどうにかなりそうだけど」
半ば出歯亀と化したアーリンたちはその様子をほのぼのと遠くから見ていたのだが。
大魔王の手下のヒトデの悪魔に精神を乗っ取られた海坊主がチャチャの命を奪う為に襲い掛かる。
「チャチャ殿、お命頂戴致す…!」
明確な殺意を噴き出しながら海坊主がひしゃくを持ちながらチャチャに飛び掛かる。
本来の物語なら、ただの水遊びのはずの一撃。
だが、それは別物だった。
歪みに汚染されたそれは、触れた岩を音もなくドロドロに溶かす即死の劇毒と化す。
「これは不味いわね…!瘴気が渦巻いてるわ…『歪み』よ!」
海坊主も歪みによって強化されていると認識した4人はチャチャの前に躍り出る。
「アーリン先生!アリーナ先生!ルナ先生!リナ先生!どうしてここに?」
「話は後!あのひしゃくの攻撃を喰らわないで!」
海坊主がひしゃくを振り下ろす。
飛び散った海水は、もはや水ではない。
黒紫色に変色し、空気を焦がしながら落下して、付着した岩や泳いでいた魚が音も立てずに溶けていく。
「ひぇぇ!」
チャチャとしいねちゃんは4人の後ろに隠れる様にして回避行動を起こす。
「ええい、これも浄化ね!」
アーリンのホーリープロテクションで海を浄化し、アリーナとルナがひしゃくを攻撃。
(この世界の範囲を超えてるわ!敵も容赦なくやってきたわね!)
舌打ちしながら浄化を続けるアーリンの横でリナが水竜破(シーブラスト)を唱え、大きな波を起こし、海坊主の動きを阻害する。
「小癪なぁ!」
激しい剣戟の音ならぬひしゃく戟の音。
海坊主が回転すると、その巨大な体躯が波を巻き上げる。
ひしゃくが唸りを上げ、弧を描く。
「なんの!」
アリーナも跳躍し、はやぶさの剣で受け止める。
「隙あり!」
ルナが横合いから斬撃を滑り込ませるが、斬りつけた箇所が再生していくのだ。
「くっ…!長期戦は不利だ…流石にこの瘴気はまずい!」
アリーナが苦い表情を浮かべる。
「チャチャ、マジカルプリンセスに変身するのよ!」
飛び散る瘴気を帯びた海水を回避しながらアリーナが叫ぶ。
「でも、リーヤが居ないの!」
「リーヤが記憶喪失で勇気の力が…!」
しいねちゃんの言葉にようやくチャチャはリーヤが自分の錨が原因だった事に気付く。
「ごめん、リーヤ…」
自分の召喚、その失敗。
それが勇気を奪った。
胸が締め付けられる思いがチャチャの中で広がる。
(わたしのせいで…)
視界が滲んでいく。
「そうはさせるかこの野郎~!!」
聞き覚えのある声と共に水面が爆ぜる。
歪みに支配された海坊主に臆せず体当たりをするリーヤの姿が。
海亀に変装したセラヴィーによって記憶を取り戻したリーヤが半ば水上歩行に近い泳ぎを見せ、チャチャを助け出す。
リーヤの体当たりでバランスを崩した海坊主は海の中に倒れ、今がチャンスとばかりにチャチャはマジカルプリンセスに変身する。
「ヒトデの周り!歪みが集まってる!」
海坊主の憑依を止めて逃亡しようとする大魔王の手下であるヒトデの周りに黒く光る魔力球が飛び交う。
だがそれは球体では留まらず、形を歪ませてまるで生き物のように蠢き、触れたものを腐食させていた。
「見つけた、諸悪の根源!」
高速で飛翔するアリーナが腐食されるリスクをあえて受ける。
魔力球が腐食を撒き散らし、その一部が彼女の腕に当たる。
肉が焼ける感触。
一瞬だけ視界が白む。
それでも、アリーナの勢いは止まらない。
(ここで止まったら、物語が壊れる!)
そのまま魔力球を一刀両断、さらに周囲の瘴気を拳で叩き潰す。
最後は蹴りでまだ残っていた魔力球を消し飛ばし、体勢を変えてはやぶさの剣で一閃する。
最後のひとつを切り飛ばしたと同時にチャチャのビューティ・セレインアローがヒトデを粉砕。
花火の様に破裂させて周囲に雪のような聖なる光の欠片を降らせた。
それに触れた海は、元の姿に戻っていく。
遠足も終わり、うらら学園への帰路につくバナナ組の面々とアーリンたち。
空を飛びながらアーリンがほっとした表情で軽口を叩く。
「やれやれ、とんだ遠足になったわね」
「でも歪みの見つけ方も分かったし、今後は目標を定めやすくなるわ」
リナは確信を持った含みを見せながら飛び続ける。
「あとはこの歪みを撒き散らしている根源を何とかしなきゃ、ね」
「物語が順調に進めば相手も尻尾を見せるかもしれないわ」
アリーナとルナも、今までより確かな手応えを感じているようだった。
「しかしあのマリンって人魚の女の子はイイ性格してるねぇ」
「ぶりっこ全快でリーヤを独占しようとしてたけども…ツメが甘いというか何というか」
「ある意味恋愛方面に尖り切ったリナみたいなもんかしら」
「あ~の~ね~!」
笑いながら茶化すアーリン、アリーナ、ルナをリナが叱り飛ばす光景。
だが彼女たちは知らない。
後日、そのマリンによってうらら学園が大混乱に陥り、アーリンたちも巻き添えを喰らう事を…。
そしてその騒動の裏で、再び歪みが忍び寄っている事を…。