異世界の英雄たち、赤ずきんチャチャの世界を修正します 作:hoyohoyo
チャチャたちはアーリンがアークスレイヤーで浄化した道を進んでいく。
「大魔王の城はもう少しでしょうか…」
しいねちゃんが呟く。
「お父さん、お母さん…」
拳をぎゅっと握りしめて前だけを見つめ進むチャチャ。
「浄化した道はこの洞窟に続いているようね」
邪悪な瘴気に包まれた周囲を裂くように道が光り、それは目の前に広がる洞窟に伸びていた。
「この中が安全なのか?」
「多分ね。まぁ万が一危険があっても今のチャチャたちなら乗り越えれるわよ」
そう言ってアーリンがまず洞窟の中に入る。
その後を続く一行。
洞穴の中は、大の大人が数人並んでもまだ余裕があるくらいの広さだった。
リーヤがチャチャに魔法で出して貰った提灯を手に先頭を歩く。
「さっきまでの嫌な雰囲気が無いね」
「空気も何だか澄んできたぞ」
チャチャとリーヤが鼻をひくひくさせ、しいねちゃんが静かに口を開く。
「何か…聖なる気に満ちているような…」
少し斜面になっている道をどんどん進むチャチャたち。
「気を付けて、下り坂になってる。滑らないように…っておい!」
足元に気を付けていたはずなのに、チャチャとリーヤとしいねちゃんだけが足を滑らせてそのまま落ちていく。
「あーあ、何やってるんだか…」
呆れ顔のアリーナ。
「怪我でもしたら大変よ、あたしたちも急ぎましょ」
リナの言葉に全員が少し速度を上げて、先に滑って行ったチャチャたちを追う。
「ひゃああああ~!」
叫びながら滑り落ちるチャチャたち。
そして通路の先が光っていて、一気に滑り落ちた先はうらら学園の講堂くらいの広さの空洞に出る。
空洞に着いた時に足元を見る3人。
地面から数メートル上から射出された彼女たちは、なんと宙に浮いていた。
そして次の瞬間、そのまま地面に落下していく。
「出でよ、クッション!!」
チャチャが慌てて召喚魔法を掛ける。
すると狼リーヤの顔そっくりな巨大クッションが落下先に現れ、3人はその上を弾みながら事なきを得る。
「何だか間抜けなクッションですね!」
「うるせぇぞ!」
いつもの口喧嘩が始まるが、そんな事してる場合じゃないとクッションから滑って地面に着地する。
「やれやれ、やっと追いついた…」
アーリンたちもふわり、と地面に着地する。
「ここどこだろう…ええ!?」
チャチャが驚きの声を上げる。
地下とは思えないほどの、柔らかな光が空間を満たしていた。
「…すごい」
彼女の声が自然と漏れる。
地面には草花が咲き乱れ、蝶が飛んでいる。
空洞の中心に配置された魔法陣。
洞窟の壁一面に描かれた絵。
戦いの記録。
「うわー綺麗!」
「あそこにも、ここにも蝶がいるぞ!」
チャチャとリーヤがはしゃぐ中、しいねちゃんは壁や天井に描いてある絵をじっと見る。
「地下だというのに、何でこんなに明るいんだろう…。あれは…」
壁に描かれていたのは、魔族らしき姿をした者が炎を吐き、家を焼いている姿が。
その隣には光を放つ杖を持った人間を先頭に兵士や魔法使いが挑みかかる絵。
反抗する魔族、そして天井の中心にはマジカルプリンセスが描かれている。
彼女を中心に魔法陣が広がり、その周囲を7人の人の姿で囲まれている。
その魔法陣の中心には何か六角形の金属がはめ込まれていた。
さらにその隣には先程描かれていた魔族と手下が剣を抜き、彼ら背後に広がる黒い雲が纏わりつく様子が描かれている。
それは誰かに見せるためではなく、『残すため』に描かれているようだった。
「チャチャさん…!?違う、ジョアン1世…?」
何かに気付いたしいねちゃんが声を上げる。
「そうか、あれは昔の魔族との戦いの絵だ…!」
「ご名答」
リナが横でしいねちゃんの頭を撫でる。
「大昔、ジョアン1世は7人の仲間と共に魔族の王に挑み、勝利した…って絵物語ね」
そう言いながらリナは少し考える素振りを見せる。
(魔族の王は分かる。しかしその後ろで湧き上がっている黒い雲は何を意味するのかしら…)
「チャチャさん、不思議だと思いませんか?」
「へ?」
その言葉で、ようやく壁に描かれている絵に気付くチャチャ。
なおリーヤは蝶を追いかけ回していた…。
「天井に描かれたたくさんの絵…。ジョアン1世、魔族との戦い…そしてお花畑の中の魔法陣」
そこまで言ってその魔法陣を見つめる。
「ここは一体、いつ何の目的で作ったんでしょうねぇ…」
真剣なしいねちゃんの姿に、チャチャも少し考えて―
「そりゃ簡単だよ!ここは…ジョアンさんのコンサートホールだったんだよ!」
「は?」
リナが眉を顰める。
「やっぱ平和になったなら歌も歌いたくなるよね!」
「ならないわよ」
即座に否定する。
「な、なるかもしれませんね…」
困惑しながらも同意しようとするしいねちゃんにさらにチャチャは言葉を続ける。
「だって嬉しいもん、きっとそうだよ!」
チャチャの脳内では魔法陣の中心でマイクを持ってアイドルのように歌うジョアン1世の姿を想像していた。
「やったぜチャチャ、歌って踊れるプリンセスだ!」
「うん…チャチャ頑張る!」
目をキラキラさせて手を取り合って笑う2人を見たしいねちゃんも―
「…チャチャさん!僕…作詞と作曲、やります」
意外にしいねちゃんもノリノリであった。
「アリーナも歌って踊れるプリンセス目指す?って拳痛い!いだだだだ!」
その後ろで揶揄するルナの脇腹を軽くぐりぐりするアリーナ。
「アリーナ先生も王女様なの?ならわたしとお揃いだね!2人でユニット組んで歌おうよー!」
「いや、ボクはそういう柄じゃないから…」
このまま続けるとこの世界でアイドルを演じる羽目になる、そう思ったアリーナは話を変えようとする。
「あ、この魔法陣!何かを入れる穴があるよ」
実際彼女が指を差した先には六角形の窪みがあった。
地面の魔法陣に描かれている円の全てにその窪みがあり、いかにも何かをはめ込んで下さい、と言わんばかりだ。
「この形…ひょっとして、このコインかもしれません」
しいねちゃんがチャチャから手渡されたコインを握りしめ、その円の中心部の窪みにそっとはめ込む。
それは綺麗に収まり、その瞬間に魔法陣が淡い光を放ち始める。
その光は脈打つように広がり、やがて強く閃いた。
「これは…」
「すごーい、わたしも置いてみる!」
「俺も俺も!」
チャチャとリーヤがしいねちゃんが置いたように、コインをゆっくり窪みに入れる。
コインが嵌まる。
カチリ、と乾いた音。
次の瞬間―魔法陣が、呼吸するように脈打った。
光が広がる。
円が、一つ、また一つと点灯していく。
その瞬間、音を立てて魔法陣の描かれている場所が周囲ごと上昇していく。
「何!?」
「地上に…出ます!」
天井の絵が描いてある部分が綺麗に真ん中で割れ、左右に広がる。
同時にチャチャたちの身体がまるで金粉で光らせたように発光し始めた。
「うわ~!俺たちの身体、ピカピカに光ってるぞ!」
「一体何が起こるんでしょうか!?」
少しワクワク感を見せるリーヤ、対照的に慌てふためくしいねちゃん。
「どうなってるの~!?」
チャチャが叫んだ瞬間に、3人の身体が消えた。
そして外部の円が順番に光っていく。
舞台は変わってセラヴィーの家。
セラヴィーと、セラヴィーを心配して…と言いながらも昼食をご馳走になっているどろしーが食後のお茶を飲んでいた。
そんな時に、セラヴィーとどろしーの身体に光が粒子のようにきらめいていく。
「これは…始まりましたね」
「始まったって何?なんで私まで光るの~!?」
『光るだけじゃないわよ!』
エリザベスがどろしーに声を掛ける。
「さぁ出発!」
そう言った瞬間、2人の身体がフッと消え失せた。
さらに場所は変わり、もちもち山の近くにある草原にて。
マリン、やっこちゃん、お鈴ちゃんがのんびりとお茶を楽しんでいる。
「あーあ…リーヤくんはどこにいるのかしら…」
マリンが憂鬱な表情で空を見上げる。
「セラヴィーさま…チャチャが居ない今こそがチャンスなのに、貴方に迫れないのはなぜ?え、倦怠期?いやーん、まだ想いを遂げてないのに~」
こちらは脳内で物語を作りながら照れるやっこちゃん。
と、その瞬間に彼女の身体が強く閃く。
驚き、慌てふためく3人。
さらにマリンとお鈴ちゃんの身体も同じように輝き、ますます慌ててしまう。
「えぇ、あたしも!?」
「私も光ってます~!」
そして、彼女たちも次の瞬間にその場から消えていた。
「ん!?」
大魔王が気配を察知する。
そして聞き覚えのある声に顔を上げるのだ。
(大魔王…今行きますよ!)
「何!?」
「アーリン…!」
「うん、ようやく…『揃う』」
史実を知っている4人はこの後の展開を知っている。
(いよいよ…最後の戦いね)
光る魔法陣を見つめながら、これから起こる出来事をただじっと見つめていた。
「今こそ蘇らん―!愛と勇気と希望の名の元に集う、我ら8人の聖戦士なり!」
空間を震わせ、セラヴィーの声が魔法陣に響く。
言葉が終わり、それぞれの円の中心に立つように、おぼろげだったチャチャたちの姿が再びはっきりと現れる。
全員の姿が具現化したと同時に魔法陣は輝きを失い、まるで砂が流れるように消えていった。
誰も、すぐには言葉を発さなかった。
ここに集まった意味を、全員が理解していたからだ。
そしてチャチャは満面の笑みで「格好いい~!」と両手を上げてポーズを決めた。
(これで全員揃った…もう逃げ場はないわね)
アーリンは静かにチャチャたちを見つめる。
その声には、僅かな安堵と確かな覚悟があった。
「わーいわーい、先生~!」
喜びの声を上げてチャチャがセラヴィーにしがみ付く。
強く、強く。
ようやく会えた。
その温もりを確かめるように。
「おやおや…」
セラヴィーも満更ではない様子。
「苦しい旅でしたがよく頑張りましたね。これからはみんなが一緒です、8人の力で大魔王を倒しましょう!」
彼の優しくも力強い言葉にチャチャも信頼に満ちた表情で見つめ返す。
師弟の感動の再会…も次の瞬間、やっこちゃんが突き飛ばして終わりを迎える。
「はい終わり!」
嫉妬の表情に塗れた彼女はチャチャを睨むと、瞬時に乙女な表情を浮かべセラヴィーに擦り寄る。
「ああ、セラヴィーさま…。貴方のお役に立てるなんて…」
勿論チャチャが間に入ってやっこちゃんを威嚇するのだ。
「よしなさいよ、先生が迷惑がってるでしょ!」
「あんたこそ迷惑よ!」
お互いディフェンスとオフェンスに徹しながらセラヴィー争奪戦と化していた。
その後ろではマリンが嫌がるリーヤを頬ずりしながらベタベタとしがみ付く。
「リーヤくんと力を合わせるなんて素敵~!」
「うわ~やめろぉ~」
そこに今度はチャチャが2人を引き剝がす。
「みんなよみんな!みんなで力を合わせるの!」
大混乱の中、しいねちゃんとお鈴ちゃんは仲良く2人で旅の経過を話し合っていた。
「…という訳で、僕たちは大魔王の城を目指して旅を続けていたんですよ」
「そうだったんですか…」
「でも、心強いな。セラヴィーさんやお師匠様、それにお鈴ちゃんが居るんですから」
「そ、そんな…」
「頑張りましょうね、お鈴ちゃん」
お鈴ちゃんフィルターでキラキラに光るしいねちゃんを見て頬を赤くしながら頷く彼女。
「ちょっとちょっと、このメンバーで大丈夫なの?」
心配するどろしーを尻目にセラヴィーは笑顔のまま返事をする。
「はい、みんな友情と信頼で結ばれたいい子たちですよ」
相変わらずセラヴィーの取り合いでせめぎ合うチャチャとやっこちゃん。
狼に変身したリーヤに気付かず探し求めるマリン。
仲良く会話を続けるしいねちゃんとお鈴ちゃん。
カオスな状態を見ながらどろしーは眉を顰める。
「私が心配なのはむしろどろしーちゃんですよ」
『そうよね、おばさんにはちょっとキツいかもね』
エリザベスの毒舌にどろしーが顔を真っ赤にして怒りの表情を浮かべた。
「なんですって~!」
そして魔法使いの恰好に変身して勝気な言葉を吐く。
「見てなさい、誰が本当に世界で一番の魔法使いなのか教えてあげるわ!」
セラヴィーは微笑みながらどろしーを見つめる。
「本当に大丈夫かなぁ…」
「どろしーの言う事が一番合ってる気がするわ…」
「友情と信頼…?いがみ合いと暴走で結ばれた、の間違いじゃないのかしら」
アリーナ、続いてルナ、最後にリナがはぁ、とため息を付く。
「ま、まぁ友情と信頼はある…と思うけど、はは…」
流石にフォローのしようがないのか、アーリンも苦笑いを浮かべることしか出来なかった。
その時、突如雷鳴が轟き、チャチャたちはその光った先を見つめる。
大魔王の城。
これから向かう、敵の本拠地。
城が、まるで生きているかのように脈打っていた。
「お父さん、お母さん…待ってて。」
一度だけ、目を閉じる。
そして―
「必ず、助けるから」
チャチャはまだ見ぬ石像となった父と母を想い、真剣な表情で睨みつけるのであった。