異世界の英雄たち、赤ずきんチャチャの世界を修正します 作:hoyohoyo
神殿の中は暗く、外から見えなかった部分もまだ見づらい。
しかし目を凝らして遠くを見てみると―
「お父さん!?」
正面にアクセスが縛られた状態で気絶している姿が。
慌てて駆け寄るしいねちゃん。
「ちょっと!罠があるかもしれないから…って、ああ、もう!」
チャチャやリーヤ、アーリンたちも後を付いていく。
全員がアクセスの居る部屋に入ると、全ての通路が勢いよく上からスライドしてきた扉によって閉められ、閉じ込められてしまう。
「ぎゃ~!真っ暗!」
「はいはい落ち着いて、明かりの魔法唱えるから…!?」
チャチャが叫び、リナが呪文を詠唱しようとした次の瞬間。
天井からいくつものライトが一方に照らされ、そこに2人の人影が立っていた。
「初めに、音ありき」
「音ありき!」
どこぞの黒ずきんと人魚の凸凹コンビみたいな口上を垂れ流しながらこちらに向くのは、双子の魔族、ソプラノとバリトン。
「音あるところに、歌が生まれ、歌あるところに人生がある」
「歌は世につれ、世は歌につれ…」
「正直爺さん、ポチを連れ!」
「俺はポチじゃねぇ!」
最後の言葉にリーヤが思いっきり反応する。
(いや、どこぞの場末の酒場みたいなノリで言われても)
2人の口上にちょっと臨戦の気概が落ちたルナ。
「そうか、お前たち…!お前たちがお父さんをこんな目に遭わせたんだな!」
しいねちゃんが今にも飛び掛かろうとソプラノたちを睨みつける。
「ご名答!」
その瞬間、ソプラノは金色のマイクを取り出し、バリトンは巨大な音叉をギターのように構え、音を鳴らした。
「うわぁー!!」
大音量かつ暴力的な音の塊がチャチャたちを襲う。
強烈な超音波に思わず耳を塞ぐ彼女たち。
「あたしたちは音の魔族、ソプラノ!」
「同じく音の魔族、バリトン!」
「さぁ、アクセスのようになりたくなかったら、この鳥が何なのか、喋っちまいな!」
濁流の如く押し寄せてくる音の波でその場に蹲るチャチャたち。
しいねちゃんが耳を塞ぎながらアクセスの方を見ると、まだ気絶したまま動かない。
(お父さん…!)
脳裏で「しいね、お前は私の誇りだ」というアクセスの言葉がよぎる。
「みなさん!音には音で対抗するんです!」
そう言うと、魔法で3人が変身する。
「なにっ!?」
チャチャは着流しに三味線姿、しいねちゃんはアフロヘア―にフォークシンガー風の衣装、ギター。
リーヤはアロハシャツを身に纏い、手にはウッドブロック。
(えぇ…)
同じように音の嵐に耳を塞いで身動きが取れないアーリンたちはその姿にドン引きする。
(っていうか、何でアーヤハは無事なのよ!)
(私は神様ですから。こんな超音波なんて平気なのです~)
苦しむリナの念話にアーヤハは涼し気な表情で返す。
「行きますよ、チャチャさん、リーヤ!」
「うん!」
「おう!」
3人はそれぞれの楽器を鳴らして大声で歌う。
大人向け、子ども向け、童謡や歌謡曲など、知っている限りの歌をあらん限りの声で叫ぶ。
「ほう、なかなかやるじゃないか」
「ならこちらも本気で行くよ!」
ソプラノとバリトンも先程より上回る音量で叫び返す。
もはや公害レベルの音の嵐。
アーリンたちは耳を塞いでも脳に響く音波に全く身動きが出来ない。
そんな4人とは裏腹に、アーヤハはにこにこしてチャチャたちの演奏を聴いている。
「人間界の歌も良いですね~、天界では『音楽は堕落だ』とか言われて禁止でしたからねぇ」
チャチャたちに加勢しないというところが、やはり神様なのだろう。
不必要な介入は神にとって禁則事項なのだ。
その騒音にアクセスの指が反応する。
それに気づいた鷹はアクセスの周りを飛び回り、くちばしで軽く突っつくのだ。
音の洪水は続くが、次第にチャチャたちは劣勢になっていく。
やはり素人に毛が生えた程度の演芸ではソプラノとバリトンの音量には勝てない。
どんどんトーンダウンしていき、リーヤの「腹へった…」、チャチャの「わたしも…」でトドメを刺された状態に。
とうとう変身が解け、元の姿に戻ってしまったのだ。
「ほほほ、勝負あったわね!」
勝ち誇った表情でソプラノがチャチャたちの元に近づく。
音の洪水が止まり、一瞬、世界から音が消えた。
その時、静寂の中で。
哀愁を帯びたギターの音色が響いた。
「歌は心だ!」
そこには鷹が変身したギターを持って立っているアクセスの姿が。
「歌は心なり…。歌は人の心を打つもの。心なき歌は人の心動かすこと叶わず」
アクセスの口上もまたソプラノとバリトンのような場末の酒場のノリである。
しかし本人は大真面目も大真面目。
「今、この時の気持ちを篭めて歌うのだ、そうすれば、勝てる!」
「アクセスさ~ん!?」
「芸人さんですか?」
ルナがギャップ崩壊に思わず叫び、アーヤハが首を傾げる。
「騎士よ騎士」
アーリンが思わず突っ込む。
「真面目な人なのに…あれはないよね」
「でも本人は至って真面目なのよね」
アリーナとリナが困惑した表情。
「そうか、今の気持ち…!」
あっけに取られている面々からいち早く復活したのはしいねちゃん。
「チャチャさん、リーヤ、行きますよ!今の気持ちです!」
そして3人がソプラノとバリトンに真っ向から向かい合う。
「今の気持ちね!」
「よっしゃ!」
気合を入れて大きく息を吸い―
「お腹すいたー!!」
「カレー!!!」
もはや歌ではなく、ただの今の心境である。
しかし威力は絶大だったのだろう、チャチャとリーヤを除く全員がその場でズッコケた。
「リーヤ、すごい!」
「オールKOだぜ!」
喜び合う2人にソプラノが本気モードでキレる。
「おのれぇ~!歌を冒涜しおって!こうなったら行くよ、バリトン!」
「はいよ姉さん、バトルモード、変身!」
ソプラノとバリトンの周囲に禍々しいオーラが現れる。
「こっちも行くわよ、リーヤ、しいねちゃん!」
チャチャたちもホーリーアップを始め、マジカルプリンセスに変身する。
「ライトニングフェザー・スキルアップ!」
そして不死鳥の剣を構え、ソプラノたちに対峙する。
アーリンたちも体勢を整え、武器を抜いた。
「ほーう、お前がマジカルプリンセスのチャチャかい?」
「大魔王を倒したってやつだよな」
ソプラノとバリトンがお互いの背を向けながらくっつく。
「なら、こちらも敬意を払ってあげなくちゃね、フルパワー、120%で戦うわよ!」
その姿にアクセスの顔色が変わる。
自分が喰らった超音波の威力をこの身に受けたから知っている、すぐに手に持っていたギターをソプラノたちに向けて飛ばす。
「バードシールド・ビルドアップ!」
チャチャが盾を構え、ソプラノたちから繰り広げられるであろう攻撃に身構える。
『ソニック・ブラ…』
ソプラノたちの詠唱が完了しようとした時、アクセスが飛ばしたギターが鷹に変身し、彼女たちの前を横切り、詠唱を乱す。
それでもその衝撃波の威力はすさまじく、バリアの右半分が刃物で斬り飛ばされたかのように欠けていた。
「シールドが!」
驚きの声を出すチャチャ。
その衝撃波の余波がアーリンにも飛んでくる。
「守護の力よ!」
アークスレイヤーが輝く。
白く光る壁がアーリンの前に立ちふさがり、金属が擦れる音を立てて衝撃波を防ぐ。
(なんて威力…!ホーリープロテクションじゃ壊されていた!)
嫌な予感がしてアークスレイヤーの力を使ったのだが、正解だったみたいだ。
「何をしている!第2波が来る前に反撃だ、行け!」
「はい!」
アクセスの言葉にチャチャは頷く。
「ウイングクリス・バーニングフラッシュ!」
聖なる紅い光がソプラノとバリトンを包む。
「うわー!!」
バリトンがその光をまともに浴びてしまい、神殿の天井を突き破り遥か彼方へ飛ばされていく。
しかしソプラノの姿は無く、光を浴びて消滅してしまったのか、それとも逃げたのかどうかは分からなかった。
残されたのはホーリーバードの姿だけ。
『さよーならー!』
飛んで行ったバリトンに手を振るチャチャたち。
「流石プリンセス、あの強力な魔族を一撃で倒すとは」
「えへへ…」
アクセスに褒められ、喜ぶチャチャ。
「しいねちゃんも良かったね、ホーリーバード、見つかったもん」
そう言ってしいねちゃんを見つめる。
「これでお父さん、旅をしなくて済むもんね」
「チャチャさん…」
そしてアクセスの方にも顔を向ける。
「じゃあさ、早くホーリーバードをお城に返して、ご飯だご飯!もう腹ペコだよ!」
リーヤが城の食事を思い出してよだれを流す。
「きっとお城でご馳走ですよ!」
『ばんざーい、ばんざーい!』
チャチャたちが喜び万歳をしているその後ろで―地面が歪む。
空気が、一瞬『止まった』。
黒い水面が浮かぶ。
そこからゆっくりと現れた両手が、がっしりとホーリーバードを掴む。
「うふふ、これがあのホーリーバードだったのかい」
ゆらり、と地面から出てきたのはソプラノ。
あの時、バリトンを盾にして自分は精神世界に逃げ込んでいたのだった。
「お願い、それを返して!」
「ほほほ、これがホーリーバードと分かった以上、そんな訳には行かないよ!」
そう言うなり、邪悪なオーラをホーリーバードに注ぎ込むソプラノ。
「やめろ、お前の手に負える代物ではない!」
アクセスの言葉も一蹴し、ホーリーバードに邪な魔力を注ぎ続ける。
「やってみなければ分からないよ、ほーら」
ホーリーバードの色が金色から段々と漆黒に染まっていく。
「あははは! 見てごらんよ、この色が似合いじゃないか!」
ソプラノの魔力が注がれるたび、ホーリーバードの羽先から墨を流したような闇が広がる。
浄化の調べは、聴く者の精神を削る不協和音へと変貌し、大気を震わせた。
「汝目覚めよ、我の命ずるままに!」
ホーリーバードの目がソプラノの声に反応して、妖しく光る。
空が黒く染まる。
天地が歪み、上下の感覚が一瞬狂う。
不協和音が激しく辺りに響く。
風が逆流し、吸い込まれそうになる。
「いかん!」
「ここは私たちが防ぎます!アクセスさんはチャチャたちを!」
アーリンが前に立ち、アークスレイヤーの守護の力を発動させる。
それでもホーリーバードの威力はすさまじく、まだ激しい力がチャチャたちに襲い掛かる。
アークスレイヤーの守護結界が音を立ててたわんでいく。
「これでも足りないの!?ならわたしも!」
ルナが竜神結界を張ってようやく、それでも力の半分はまだ残ったまま。
そんな中、アクセスはチャチャたちを抱きかかえ、そのままテレポートで脱出する。
「あたしたちも危ない、離脱するわよ!」
リナが叫ぶと、全員一斉に空を飛んで脱出。
「流石にこれを喰らうと不味いので、私も結界を張りますね!」
アーヤハは5人を包む光り輝く結界を張り、結界ごと飛んでいく。
ドカーン!!!
とうとう大爆発が起き、神殿はおろか、山もクレーターが出来るレベルで破壊される。
「みんな、大丈夫か?」
「ええ、何とか…」
紅い球体のバリアの中でチャチャたちは守られていた。
「うおー、すげー!」
「山が吹っ飛んじゃいましたね!」
そして爆風の中からホーリーバードに乗ったソプラノが高笑いをしながら飛び去っていく姿が。
バリアを解除し、地面に降り立つチャチャたち。
同時にアーリンたちも無事に合流するのだった。
そして―静寂が辺りを支配する。
「くそっ!」
「このままじゃ、世界がソプラノの好きな世界にされちゃう!」
「それだけで済まない」
『ええっ!?』
アクセスの言葉にチャチャたちが思わず振り返る。
「ホーリーバードは封印された暗黒魔界の扉を開くことが出来るのだ」
「えええ!?」
今度はアーリンが驚きの声を上げる。
「ソプラノが暗黒魔界の扉を開ければ…」
「ロキが、そこから出てくる!」
アリーナとルナが叫ぶ。
暗黒魔界の扉が開き、闇の向こうから何かが蠢く。
そんな未来を想像してしまい、リナが唇を噛みしめる。
「不味いことになったわね…最悪の結果も覚悟しないといけないのかもしれない…」
そしてとうとうアクセスが膝を付く。
先程のテレポートで体力を消耗しきっていたのだ。
「お父さん!」
「私は、大丈夫だ…それよりも、ホーリーバードを…」
その言葉にチャチャたちはソプラノが飛んで行った方角を見る。
「暗黒魔界の手下どもを呼び寄せれば、チャチャなどもう問題ではない。今にお前たちを恐怖と絶望の淵に引き摺りこんでやる!」
飛び去りながらソプラノはアクセスが危惧していることを行おうとしていた。
その先にあるのは、世界の終わりかもしれなかった。