異世界の英雄たち、赤ずきんチャチャの世界を修正します 作:hoyohoyo
「なんだあの穴!?」
「も、もしかすると…」
リーヤとしいねちゃんが声を上げる。
「魔界の扉!」
「ちっ!一番最悪な事態かっ!」
アーリンが舌打ちする。
「奥底から神力を感じます!『居ます』!」
アーヤハもロキの気配を感じ取ったのか、すぐ結界を張る準備を始める。
「ほーっほっほっほっ!何とチャチャが魔界の扉を開けてくれるとは!」
ソプラノの笑い声とともに、ホーリーバードが彼女の傍に戻ってくる。
「ほーれ見るがいい、あたしのしもべが地の底から続々とご登場だ!」
遠くの空が黒く染まり始め、同時に地面が脈打つ。
瘴気の中から現れたのは、青白い肌の悪魔に、空を舞う恐竜型の魔物。
他にもさまざまな魔物や魔族が穴の淵を持って地上に出てくる。
知性がある、というよりは本能のまま暴れ回る、といったタイプで、大魔王のように自分が世界を支配するという感じではない。
ただあるのは圧倒的な暴力。
呆然とするチャチャの傍にリーヤとしいねちゃんが駆け寄る。
「チャチャ!」
「チャチャさん!」
あっという間に周囲は魔物たちに取り囲まれてしまう。
それはアーリンたちも同じであった。
ソプラノの周りも血に飢えた魔物が集まるが、彼女は余裕綽々といった表情でホーリーバードを竪琴の形にする。
「お前たちもホーリーバードが気になるんだねぇ?」
そう言って竪琴を掻き鳴らす。
並の人間が聞けば、それだけで魂を支配されかねない不協和音。
魔物たちも例外ではなく、襲い掛かろうとした魔物たちがソプラノの前で跪いている。
「ああ!」
その様子を見たチャチャたちも驚きの声。
「よーし、いい子ね。あたしの言う通りにするのよ」
そして視線をチャチャたちに向ける。
「さぁ、暗黒魔界の魔物たちよ、あの生意気な小娘をやっつけておしまい!」
その言葉が終わるや否や、魔物たちがチャチャたちに襲い掛かる。
アーリンたちにも襲い掛かってくる魔物。
「アリーナ!リナ!魔物たちの相手は任せた!主にリーヤとしいねちゃんをカバー!ルナは結界を!」
「了解!」
アーリンの指示で他の皆が一斉に動き出す。
「たあぁぁぁ!!」
リーヤに襲い掛かろうとしていた魔物を村正で一刀両断にする。
「アリーナ先生、助かったぜ!」
「お喋りは後!まずはこの状況を何とかしないと!」
「任せろ!」
そう言って2人は魔物の群れに突っ込んでいく。
「『冥王降魔陣(ラグナ・ブラスト』!」
逆五芒星の頂点に闇の柱が吹き上がり、そこから黒いプラズマが近くの魔物を打ち倒していく。
「数が多すぎる、ならば!『黒妖陣(ブラスト・アッシュ)』!」
魔物の群れの中心を空間ごと黒いエネルギーが包み込み、そこを中心に魔物や魔族が塵と化していった。
何発も強力な黒魔術を使うも、敵の数が多すぎてなかなか減らない。
さらに穴からはどんどん魔物が這い出していく。
「ひゃっ!姉ちゃんの結界で傷は負わないけども、これは骨が折れそうね…」
ルナの結界に敵の触手が阻まれるのを見て思わず肩をすくめるリナ。
竜破斬で一気に吹き飛ばしたいが、この乱戦だと味方も確実に巻き込む。
アーリンだけならまだしも、チャチャやリーヤ、しいねちゃんが居る戦いでは意外に使えない呪文なのだ。
「せいっ!」
ルナは全員が見える位置に陣取り、結界をそれぞれの周りに張る。
彼女に向かってくる魔物はセレネシアブレードで一刀の元に屠り、弱くなった結界を見つければ再度張り直す作業。
「地味にわたしが一番大変なんじゃないのかしら…」
リーヤ、しいねちゃん、リナの動きを見ながらその都度結界を張り直し、同時に近寄ってくる魔物を斬る。
異なる動きを同時にしなければならない技量が無ければあっという間に蹂躙されてしまうであろう。
「アーヤハ、追加報酬の上乗せよろしくね!」
そうでもしないとやってられない、といった表情で結界を張っていくルナであった。
「アーリンさん、行きます!」
アーヤハが魔界の扉の傍に立ち、目を閉じて神力を開放させる。
「貴女の背中越しに立ってればいいのね!」
「はい、意識を神力に集中させてください!」
「OK!ええぃ、邪魔っ!」
集中させながらも襲い掛かってくる魔族をアークスレイヤーで斬り飛ばす。
守護の力を発動させ、それを乗り越えてやってくる魔物や魔族を叩き切り。
同時に神力の集中。
ルナ以上に技量が必要な作業をアーリンはやろうとしている。
(くっ!意識がアーヤハに引き摺り込まれる!)
(アーリンさん、自我をしっかり持って下さい!)
(分かってる!)
穴全体に白く輝く結界が広がっていく。
(これは、ロキ様だけを遮断する結界です。暗黒魔界の魔物は素通りします)
(ったく、全部遮断してくれればいいものを…!)
(人間の作った結界とは勝手が違うんです!)
念話で会話しつつ、アーヤハは薄い膜のような結界を形成し、まるでミルクを流し込むかのようにゆっくりと広げていく。
「ぐっ…!」
アーリンが吐血する。
思った以上に身体の負担が激しい。
視界が歪む。
膝ががくり、と崩れそうになる。
視界が真っ赤に染まり、全身の血管が焼き切れるような熱。
それでもアーリンは歯を食いしばる。
「…あの子たちが、ただの女の子として笑える世界を、壊させはしない!」
「アーリンさん!?」
アーヤハが彼女の方を向く。
「アーヤハは結界を維持!私は大丈夫!」
血の塊を吐き捨てて何とか立ち上がり、アーリンは守護結界を超えてきた悪魔を一刀両断する。
「私たちの邪魔はさせないよ!」
チャチャ、リーヤ、しいねちゃんも体勢を立て直し、魔物たちを追い払おうとするが。
「駄目、キリがない…!」
その言葉通り、次々と出てくる魔物の数に圧倒され、防戦一方となっていく。
回避しきれずにバードシールドで何とか受け止めるチャチャ。
リーヤとしいねちゃんもルナの結界で何とか敵の攻撃を弾き返すものの、その衝撃までは防げない。
「ホーリーバードの威力はたいしたものね!」
ソプラノが高笑いをしながら竪琴を弾く。
「さぁ、一気にカタをつけておしまい!」
彼女の言葉に反応するかのように、魔物たちがチャチャを襲う。
飛び掛かってきた魔物を不死鳥の剣で切り払い、次の敵に視線を向けた時―
死角から飛んできた鞭がチャチャの手首を絡め取り、そのまま引っ張られて倒れてしまう。
「もういいかしら!ホーリーバードよ、全ての力を出し尽くしてチャチャを打ち砕け!」
ホーリーバードの色が金色から漆黒の闇に染まり、飛行形態に形を変え、チャチャを襲おうとする。
「さようなら、プリンセス」
ソプラノの手からホーリーバードが飛び出し、チャチャに向かって飛翔する。
何とか立ち上がったチャチャを見て笑いを止めないソプラノ。
「ほほほ、安心おし!プリンセスの名はあたしが継いであげるわ!」
高速でチャチャに向かって飛んでいく漆黒のホーリーバード。
チャチャもバードシールドを構えるが、耐えれるかどうか不安な表情を浮かべ、それでも身を守る。
「プリンセスって名前は、お前みたいな薄汚い魔族が名乗っていい称号じゃないんだよ」
亜麻色の髪の少女が、ホーリーバードの前に立ちふさがる。
真紅に光るナックルガードから突き出された拳がホーリーバードを直撃する。
激しいプラズマを発しながら飛翔の威力を弱め、そのまま角度を変えて弱々しく飛んでいく。
さらにそのホーリーバードに向かって天から光の柱が。
凄まじい光を浴びるホーリーバード。
黒いオーラが暴れ、何とか抵抗しようとするが、光が徐々にホーリバードを飲み込んでいく。
そして完全にその制御を失い、光の柱に包まれながら宙に浮かぶ。
「何!?」
そして漆黒のホーリーバードは徐々に元の金色に戻り、形を彫像に戻して、チャチャの前に落ちていった。
「何者!?」
ソプラノが見上げた先に居たのは箒に跨ったセラヴィーとどろしー。
セラヴィーがホーリーバードを拘束して浄化したのだった。
「よそ見してる暇は無いよ!」
「なっ!ぐぶっ!」
瞬時にソプラノの至近距離まで移動したアリーナがそのがら空きのボディに一発打ち込む。
あまりの衝撃に思わずくの字になって蹲るソプラノ。
「プリンセスの名を穢そうとしたお前は、絶対に許さない!」
顎を蹴り上げ、後ろに吹っ飛んだ背後に回り、両手を組んで背中に叩きつける。
「ぐぎゃあっ!」
地面がえぐれるほどに沈み込み、それでも何とか逃げようとするソプラノだったが。
「遅い!」
回し蹴りが再び腹に叩きこまれる。
「この…人間が!」
逃げられないと悟ったソプラノが魔力の鞭をアリーナに飛ばそうとするが。
「うりゃりゃりゃりゃー!!」
腰の効いた、激しい拳の連撃がソプラノの鞭はおろか、本人の胴体を打ち抜く。
身体がだんだん宙に浮き、止まらない猛攻に彼女は半ば意識を失いかける。
最後に宙返りからの蹴りを放ち、空中に吹っ飛ばされるソプラノ。
「今です、チャチャ!」
セラヴィーの声にチャチャは頷き、自分の剣を地面に突き立てる。
「ウイングクリス・バーニング…フラッシュ!!」
全身が真紅の光に包まれ、地面に刺さった剣を中心にその光が辺り一面に広がっていく。
その光を浴びたソプラノは、悲鳴を上げる間もなく存在ごと消滅していった。
同時に暗黒魔界から湧き出てきた魔物も、その聖なる光により浄化されていく。
「行けました!結界、完了です!」
アーヤハも制御しきった光の結界をゆっくり地底に降ろしていく。
「はふー、やったわね…」
アーリンはその場に思わずへたり込んでしまう。
「人間の身で…凄いです!英雄を召喚したのは、間違いじゃなかった…!」
「ははは…英雄なんて柄じゃないけどね」
笑顔を見せるアーヤハの拳をこつん、と自分の拳で当てるアーリンであった。
「すごいわ、魔物がみんな消えていく…」
空から見ていたどろしーが驚愕の表情を浮かべる。
『まだどろしーちゃんが残っているわ』
「何ですって~!」
魔物扱いされて激昂するどろしー。
セラヴィーは、そんな彼女をよそに開いてしまった穴をじっと見つめていた。