異世界の英雄たち、赤ずきんチャチャの世界を修正します 作:hoyohoyo
「ついに魔界の扉を開けてしまったんですね…」
穴の淵に立つチャチャたち一同。
「なんだか気味が悪いわ、吸い込まれちゃいそう」
どろしーが覗き込んだ瞬間、視界が歪んだ。
『戻りたくなる、の間違いでしょ?』
こんな緊迫した状況でもエリザベスの毒舌は相変わらずで、怒り狂ったどろしーがセラヴィーの頬を抓って引っ張っている。
「このままにしておけば、暗黒魔界から溢れ出る魔物たちでこの世界が覆われてしまいます」
先程の魔物や魔族が暫くすれば再び現れる…その事実にチャチャたちの顔は暗い。
「平和は脅かされ、また戦いの世の中に逆戻りしてしまうでしょう」
その言葉を聞いたリーヤが脱兎の如く走って、近くにあった岩石を持ち上げる。
「こんな穴、塞げばいいじゃんか!」
叫びながら岩をぶん投げ、穴を塞ごうとしたが、入口で岩は止まり、そのまま破壊されてしまうのだった。
呆然とするチャチャたちを尻目に、セラヴィーは再び口を開く。
「魔界の扉は、魔族と我々が共同で結界を張ったもの。塞げばいいというものではありません」
「おバカ」
「何!?」
しいねちゃんに揶揄されてムスッとするリーヤ。
そんな彼らを横にして、セラヴィーが少し沈んだ表情でチャチャを見る。
「魔界の扉を再び封ずる方法が、ひとつだけあります」
『えっ!』
チャチャたちの表情が明るくなる。
「マジカルプリンセスのホーリーアップを誘う3つのアイテム…チャチャのメダリオン、リーヤくんのブレスレット、しいねちゃんの指輪」
セラヴィーが穴の周囲を見回し、言葉を続ける。
「その3つのアイテムをこの扉の周りに置くのです。その聖なる力が魔界の扉を永遠に封印するでしょう」
「あの…それを置いたあと、ホーリーアップに必要なアイテムはどうなるんですか?」
しいねちゃんが質問する。
セラヴィーの表情が憂いを帯びたものに変わり、重く口を開く。
「…一緒に、封じこめられてしまいます」
「えっと、メダリオンやブレスレット、指輪が封じ込められるということは…」
チャチャの顔がだんだん青ざめていく。
『もうマジカルプリンセスに変身出来ない!』
3人の声が重なる。
「セラヴィー、他に方法は無いの!?」
どろしーの言葉にセラヴィーは黙って首を横に振るだけ。
そしてアーリンたちを見る。
「アーリンさん、アリーナさん、ルナさん、リナさん、アーヤハ様。貴女たちも、暗黒魔界に行くのでしょう」
「ええ!?」
ホーリーアップが出来ないだけでなく、アーリンたちも暗黒魔界に…
チャチャの頭の中はぐちゃぐちゃになる。
「そんな、何で…」
目に涙を浮かべるチャチャの前に立ち、そっと頭を撫でるアーリン。
「ごめんね…私たちは、この世界でやることがあるんだ。それには、暗黒魔界に行く必要がある」
小さなプリンセスの身体を軽く抱きしめるアーリン。
「大丈夫、私たちは強いんだから。封印されても、暗黒魔界からちょちょいのちょい、と抜け出して会いに行くわよ」
「そうそう、だからチャチャも頑張って!」
アリーナが横から口をはさむ。
「すごく悲しい出来事が続いてるけれども、貴女たちなら大丈夫」
ルナも揃えて口にして。
「今度はチャチャを倒して世界一の魔法使いになるわよ?だから、すぐ戻ってくるわ」
リナが軽口を叩く。
「本当?本当に本当?」
大粒の涙を流しながらアーリンたちを見つめるチャチャ。
「ええ。だから、チャチャたちも…あなたたちだけにしか出来ないことを成し遂げなさい」
そこまで言って、一緒に岩陰に置かれているホーリーバードを見る。
元の姿に戻ったホーリーバードの隣に、一輪の花が咲いていた。
(わたしたちだけにしか、出来ないこと…あの花がずっと咲き続けられるような平和な世界を作ること)
涙が一粒、零れ落ちる。
そして泣き続けるリーヤとしいねちゃんの傍に寄り添う。
「やろうよリーヤ、しいねちゃん!」
チャチャの言葉に振り向く2人。
「せっかく大魔王をやっつけてやってきた平和だもん、ずっと続いた方がいいよ!」
そこで震えそうになる声をぐっと飲み込み、再び言葉を続ける。
「ホーリーアップ出来なくても、愛も勇気も希望も消えちゃうわけじゃないよ」
「チャチャ…」
「チャチャさん…」
「わたしたちは、いつも一緒だよ!だから泣かないで、リーヤ、しいねちゃん!」
チャチャの言う通り、3人はホーリーアップをして敵を倒す為に旅を続けていたわけではない。
それだけの繋がりなら、とうの昔に旅を止めていたであろう。
それに気づいたリーヤとしいねちゃんもチャチャの真意を理解して、微笑み返す。
アーリンたちも飛翔バッヂを発動させ、暗黒魔界の扉へ足を進める。
足元の暗黒魔界の入口は空間が歪み、今か今かと魔物が跳梁跋扈している。
「アーリン先生!アーヤハさん!」
チャチャが叫ぶ。
「アリーナ先生!」
リーヤも。
「ルナ先生!リナ先生!」
そしてしいねちゃんも。
涙を浮かべて別れを惜しむ彼女らにアーリンはあえて笑顔を浮かべる。
「また、会いましょう!それじゃ…行ってきます!」
彼女の言葉が終わると同時に全員が暗黒魔界の通路を飛んでいく。
「アーリンせんせー!!!」
チャチャの叫びが、穴に響き渡る。
そして3人は所定の位置に立ち、身に着けていたアイテムを外し、地面に置く。
「愛よ…」
「勇気よ」
「希望よ!」
脳裏には大魔王を倒すまでの旅路、色々な仲間、そして―マジカルプリンセスに変身したチャチャ。
(さようなら、マジカルプリンセス…もうひとりのわたし…)
その時、3つのアイテムから眩いばかりの光が溢れ、絡まり、ひとつの大きな光の柱となる。
暗黒魔界の扉を覆い、天に昇るほどの激しい光。
その光が全てを飲み込む直前、音が消えた。
チャチャたちの鼓動だけが聞こえる。
しかしそれも一瞬、光が大爆発を起こす。
音が消え―周りが見えなくなるほどの光の奔流。
その中を悠々と飛ぶ不死鳥の姿を、チャチャは見た。
風の音だけが、残った。
光が収まり、穴のあった場所を見ると、そこには何もない地面があるだけ。
「おお、穴が塞がったぞー!」
「ばんざーい!」
リーヤとしいねちゃんが喜びの声を上げる。
「ピーッ!ピーッ!!」
ふと天を見上げると、不死鳥の役目を終えたピー助がチャチャに向かって真っすぐに飛んで…いや、落下していく。
「わー!ピー助!」
彼をキャッチして、抱きしめて喜びを爆発させるチャチャ。
ピー助が真ん丸になった、ということが世界に平和が訪れた何よりの証。
これからはこの平和がずっと続くことだろう。
セラヴィーもどろしーも、そんな彼女の姿に満面の笑みを浮かべていた。
そしてこちらは暗黒魔界の通路をひたすら飛ぶアーリンたち。
「神の力を感じます…ロキ様は、この先に!」
アーヤハが先導してアーリンたちを招く。
「いよいよね…」
「ロキ…今度は遅れを取らないよ」
「天界の上位神、実力はわたしたち以上でしょうね」
「でも、負けるわけにはいかない。チャチャたちの世界の平和を保つためにも!」
アーリンの言葉に全員が頷く。
暗黒魔界の揺らめきが、まるでアーリンたちを誘うかのように手招きしている風にも見えた。
真の決着は、近い。