異世界の英雄たち、赤ずきんチャチャの世界を修正します 作:hoyohoyo
瘴気と獣の鳴き声が渦巻く暗黒魔界に続く通路。
アーリンたちはそこを飛びながら目的地へと目指す。
「変ね…地上に出た魔物みたいに、もっと群れて襲ってくるかと思ったんだけど」
リナが周囲を見回す。
岩をくり抜いただけの通路。
その壁にはどす黒い瘴気がコールタールのように張り付いていた。
しかし本来なら有象無象の魔物が全くと言っていいほど居ない。
せいぜい大ムカデやトカゲなどの小動物(といっても体格は地上世界の何十倍もあるが)が動き回っているだけだ。
「ロキはこの方角に居るんでしょ?」
アーリンがアーヤハに言う。
「はい…ただ、少し気になることが」
「気になること?」
ルナが疑問の声を投げかけた。
「神力はあるのですが、それ以上に邪悪なパワーがその周りを包んでるのです。決して神とは相容れない力…」
「ロキが襲われてるのかな?」
「いや、上位神ならここの魔物や魔族も余裕で倒せると思うわ。なのに包まれているのが気になるわね…」
「あんまり考えても仕方ないよ、とにかく暗黒魔界に行ってみれば分かるって」
そして速度を上げるアリーナ。
「こら、先に行かない!」
慌てて他の面々が後を追いかける。
暫く進むと、道が広がっていく。
そして目の前に広がるのは赤黒い空にと枯れた大地。
岩が転がり、枯れた木が広がる。
山も谷も、川も無い。
そして草は1本も生えていない。
「こんな場所でよく魔物たちは生命活動を維持出来るよね…」
アリーナが近くの小石を蹴る。
「その魔物も全然居ないんだけどね。明らかに様子が変よ」
そう、本来ならあちこちに生息しているであろう魔物の姿が無い。
風の音もなく、アーリンたちの足音しか響かない状況が却って不気味さを醸し出す。
「どうなってるの…?」
ルナの言葉も、皆は首を傾げるだけ。
グオォォ…グオォォ…
遠くから鳴き声が聞こえる。
「あっち側!何か居るよ!」
アリーナが鳴き声のした方向を指差す。
「かなり遠くからよ、行ってみる?」
「…ええ、ここに居てもロキの姿は見当たらないし、ひょっとしたら暗黒魔界の魔物と戦っているのかもしれない」
アーリンはそう言って再び飛翔バッヂを起動する。
「何が起こるか分からないからみんな、油断しちゃ駄目よ!」
リナの言葉と同時に全員再び空に舞った。
鳴き声がだんだんと近づく。
「でも様子がおかしいよ…?何かに怯えて逃げるような鳴き声みたいだ」
アリーナの言葉がその通りだということが判明したのは数分後。
その光景にアーリンたちは言葉を失っていた。
逃げ惑う暗黒魔界の魔物。
それが光の触手に絡み取られ、そのまま握りつぶされ、消滅する。
邪悪な瘴気が光の鞭に絡み、根元の方へ吸収していくような動きを見せる。
「なるほど、ね…」
「リナ、どういうことなの?」
アリーナが質問する。
「ロキは…暗黒魔界の魔物を全て取り込んで、自分のエネルギーとしてるのよ」
「ええ!?」
驚きの声を上げるのはルナ。
「一応、神様でしょ?普通邪悪なエネルギーなんて毒にしかならないはずよ」
「でも、あれを見たら毒と言えなくなるわ、ほら」
リナの指を差した先―光と闇のオーラを身に纏った暗い蒼の長髪の男が、恍惚の表情で魔物のエネルギーを…『喰らって』いた。
「うわ…ひょっとして、一番最悪のパターンかしら」
「多分そう。ロキは、神としての力だけでなく、暗黒魔界のエネルギーも吸収してるわ」
そんなやり取りに気付いたのだろう、ロキが音もなくこちらに向かってくる。
彼女たちの数メートル先で着地し、歪んだ笑みを浮かべる。
「ほう…人間どもが、この地へやって来たか」
そしてアーヤハを一瞥して再び口を開く。
「アーヤハ、おとなしく天界の連中に捕まっておけばこれから苦しむ必要は無かったのに…」
「あの神官たちは、お前の仕業か、ロキ!」
「私の罪を全部アーヤハに擦り付けて、その間に私はアーヤハの世界で目的を果たす。それをお前らが邪魔をした」
ゆっくりと、アーリンたちに進んでいくロキ。
「ロキ…あんたは、一体何をしたかったの?」
「そうなのよね。早い話がアーヤハをスケープゴートにした時間稼ぎでしょ?そこまでしてこの暗黒魔界で何がしたかったの?」
リナも口を開く。
その間、アーヤハは神力を練り、なるべく隠遁した結界をアーリンたちに掛ける。
上位神の攻撃を喰らえば、たとえ英雄だろうが一撃で命を落としかねない。
何十にも重ね掛けした結界を纏わせれば、多少なりとも耐えれると見込んでの結界である。
その時間稼ぎとして、アーリンたちはロキに質問をしているのだ。
「…ユグドラシルを知ってるか?」
「ユグドラシル?」
アリーナが首を傾げる。
「天界にあるという世界樹よ。神々や人間、他の生き物の世界を結ぶ軸になる大樹」
リナが答えるとロキがほう、といった表情を浮かべる。
「人間にしては博識だな。そう、そのユグドラシルにここの―暗黒魔界のエネルギーを注ぎ込み、意図的にラグナロクを起こす。それが、私の計画だ」
「ラグナロク!?」
「リナ、ボクには全然ちんぷんかんぷんなんだけど」
新しい情報を詰め込みすぎてとうとうアリーナが考えることを放棄する。
「簡単に言えば神様同士の戦争よ。当然、人間界も全部影響を受ける…というか世界が滅びるわ」
「ご名答。私は今の天界も、人間界も、その他の世界も全部滅ぼして新たな世界を創っていきたいのだよ」
「はぁ?手の込んだ自殺ね」
ルナが呆れ顔気味に答える。
「そうだ、私も含め、全ての生きとし生ける者は全て滅びる。しかし―神はまた再生する」
そこでロキは恍惚の表情で笑い始める。
「ククク…そして、今までの記憶を持って再生するのは私だけだ」
「…なるほど、自分は前の記憶があるから、自分の思い通りの世界を創造出来る。思い通りに行かなくなれば再び滅ぼして、また再生」
「何てことを…」
リナの冷ややかな言葉にアーリンが思わず口を押える。
「神も人間も何もかも私にとっては塵芥なのだよ」
自分の思想に酔っているのか、うっとりとした表情でその言葉を吐き―
「全ての神も人間も私の思うがまま…もし駄目ならば再びラグナロクを起こしてまたやり直せば良い」
ロキの表情は半ば狂気に蝕まれているかのように見えた。
そんな彼の前にルナが立ち、セレネシアブレードに赤竜の魂を篭めながら厳しい視線を向ける。
「一応神の魂持ちとして言わせて貰うならば…『巫山戯るな』ね」
「貴様は…ほう、神の残り滓か」
おどけるような表情のロキを前にルナの言葉はいつもの雰囲気からは想像が出来ないほど鋭い。
「悪いけど人間の世界も捨てたもんじゃないわ。神の魂を持っているけど、わざわざその世界を壊すほど人間やめてないのよ」
「ふん…所詮はなり損ないの戯言よ」
隣でアーリンも剣を構える。
「どっちにしても、ロキ…お前にはここで『滅んで』もらうわ。アーヤハの世界も、私たちの元の世界も、一欠片もお前にくれてやる気は無いのよ」
アリーナも村正を抜き、ロキの前に付きつける。
「確かにアーヤハはポンコツだけど、優しい世界を構築しようとしてるだけあんたの数百倍マシだよ」
「世界の理の歪み…いや全ての歪み、ロキ!そのまま黙って滅びなさい、『竜破斬(ドラグ・スレイブ)』!」
アーヤハの結界が掛かり終わったと同時に、高速詠唱からのリナの竜破斬が飛ぶ。
それが合図となり神との戦いが始まった。