異世界の英雄たち、赤ずきんチャチャの世界を修正します 作:hoyohoyo
「とりあえずは校舎が直るまで授業は課外授業にさせたわ~」
大きな目をうるうるさせて破壊された校舎を悲し気に見つめるうらら学園長。
「…課外授業ってキャンプじゃないの」
「2泊3日のキャンプみたいだから、次の日の休み入れて4日でこの無残な状況を直せってのが鬼よね」
「本当ならボクたちもキャンプ参加なのになぁ」
「羽目外せるチャンスだったのに」
愚痴をこぼしながら瓦礫を片付け、建設に必要な建材を運ぶ4人。
その瞬間、校舎を見つめてたうらら学園長がアーリンたちに近づく。
そして首だけこちらを向け、無言のまま物凄いスピードで近寄ってきた。
「ほらほら手を休めないで、来週の月曜日までに元に戻すのですよ」
そしてか細い声で各々の耳元で囁く。
「ひっ!」
「怖すぎるわ!」
リナとルナが思わず飛びのき、そしてアリーナは―
「惚れ薬のせいだ…」
まだ前日の惚れ薬の薬効が残っているアリーナ。
「このタイプの惚れ薬は蓄積型の上にあんた、たくさん昼ご飯食べてたからねぇ…まぁ頑張れ」
アーリンが慰めるように肩をぽん、と叩くと。
「ひぐっ!アーリンのばか…」
アリーナは再びびくん、と身体を何度も震わせてしまう。
「あのアホ2人は放っておこう、とにかく早く直さないと学園長が夜な夜な呪詛つぶやいてきそう」
「あたしが大量に作ったぴこぴこリナちゃんをフル稼働させているから多分間に合うと思うけども…」
校庭を縦横無尽に駆け巡るぴこぴこリナちゃんを見ながら『はぁ~』と力のない溜息を付く2人。
ゴーレムの手助けもあり、何とか前日までに校舎が元の状態に戻る。
最後の扉を取り付けて、建付けに異常が無いかを確かめた後、その場にへたり込む4人。
「あー疲れたぁ…。今日は早く帰って寝よう」
「物を運ぶのは余裕だったけども…細かい角度の調整が必要な場所とかもう勘弁して欲しいよ」
「こらこら、最後に校舎の見回りをしなきゃいけないんだからだらけないの」
「まぁあたしのゴーレムが完璧に仕事してくれたから問題は…!?」
リナが不意に空を見上げる。
何もない青い空。
しかしリナの魔力感知にはとんでもない数の『歪み』が情報として流れ込んでいた。
「…来やがったわね」
リナの視線の先、虚空から滲み出したのは数百、いや千を数える黒い魔力球だった。
校舎を包囲するように蠢くその様は、空にぶちまけられた不吉な汚泥のようだ。
数えてはいけない。
数えた瞬間、心が折れる。
そんな状況に他の3人も先程のだらけたモードから一転、手に得物を持って臨戦態勢に入る。
魔力球からは不気味なオーラが漂っており、触れたらどうなるか…想像もつかない。
「これは…不味いわね。校舎に潜り込まれたりしたら見つけるのは至難の業になるし、何より生徒に何が起こるか分からない」
「片っ端から潰していくしかないわね…!私とルナは校舎に結界を張って歪みを通さないようにするわ!アリーナとリナは各個撃破で!」
「了解!」
学園から支給された飛翔バッヂのスイッチを入れ、風の結界を身に纏いながら空へ飛び立つ4人たち。
「ホーリープロテクション!」
「竜神結界!」
白銀と深紅の光が学園を包み込み、そこに触れた黒の魔力球がジュッと音を立てて蒸発する。
「こんのぉおおおっ!」
アリーナがはやぶさの剣を振るい魔力球を一刀両断、返す刀と言わんばかりに振った剣の勢いをバネにして別の魔力球を蹴りつける。
「黒狼刃(ダーク・クロウ)!」
リナの黒魔術が炸裂する。
黒い羽虫のような球体が相手の球体とぶつかり、音もなく消滅する。
「…ええい、キリがない!」
斬っても斬っても減らない魔力球に苛立ちの声を上げるアリーナ。
「落ち着いて!焦ってあたしたちがあの球に触れたらただじゃ済まないわよ!?」
リナが強い声でアリーナを落ち着かせる。
「消し飛べ、歪み!『覇王雷撃陣(ダイナスト・ブラス)』!」
空中に五芒星が描かれ、その頂点に稲妻が着弾、さらに伸びた雷撃が周囲の歪みを消し飛ばす。
「何度も重ね掛けはきついわね…物量作戦は予想してなかったわ…!」
「でもやるしかないのよ!それに学校が始まる前に歪みをひとつ残らず消さないと!」
「分かってる!」
数に物を言わせて魔力球が結界を打ち破ろうと何度も突進していく。
最初は防いでいた結界も数回突進されるとビキッ!とヒビが入りそうになる。
いつもの結界と違い、広い校舎を覆いつくすくらいの結界を張っているので、総合的な強さは薄まってしまうのだ。
アーリンとルナは剣で魔力球を斬りながら校舎の周囲を飛び回り、脆くなった結界部分に新たな結界を張り直す。
途中から学習してきたのか、魔力球がフェイントを掛けながらアリーナとリナに襲い掛かる。
幸いな事に歪みそのものはあまり強力なものではなく、飛翔バッヂによる風の結界によって魔力球はピンポン玉のように飛んでいくので実害は無いが、鬱陶しいのは変わりない。
結界の方も魔力球が結界の一番弱い部分に集中するようになったが、それ幸いとばかりにそこに剣を叩きつけて吹っ飛ばすのはアーリンとルナ。
一瞬、結界をすり抜け、魔力球が校舎の壁にへばり付く。
「こ、のっ!」
焦りを隠さないアーリンの剣が壁ごと魔力球を叩き潰す。
「アーリン、校舎の壁!」
「後で直すわ!」
とにかく1体でも入れるわけにはいかない。
それでも数の多さで時間が掛かり、いつしか夜に差し掛かろうとしていた。
月が雲に隠れ、一瞬の闇が広がり…次の瞬間に黒い球体だけが浮かび上がる。
まるで星空が逆さまに落ちてきたかのように。
「うわっ!闇に紛れ込んだら圧倒的に不利になる!」
「大丈夫、あたしに任せて!」
リナが『明かり(ライティング)』を唱え、その光の玉を校舎の屋根の庇部分に等間隔に固定させる。
校舎の周囲を明るく照らし、魔力球もはっきり見えるほどだ。
「これで暫く持つわ!さぁ、やるわよ!」
再び4人は校舎周りを中心に飛び立つ。
気付けば、空が白み始めていた。
それでも死闘はまだ続く。
魔力球自体の能力は大したことは無いが、とにかく数が多い。
それに当たった場合に何が起こるか分からないという恐怖もあり、必然的に搦め手状態で倒していくことになった為に時間が掛かったのだ。
「これで、終わりよっ!!」
朝日が昇ってくると同時に最後の1体をアーリンがアークスレイヤーの刃部分の腹で思いっきりフルスイングし、校舎の外に弾き飛ばす。
「おー、良く飛んだわねー」
魔力球が放物線を書いて消えていく姿をリナが確認して、そのまま地面に降りる。
続けざまに他の3人も降りて、そのまま地面に寝っ転がる。
「あー疲れたぁぁぁ」
「この後授業よ…無理、絶対無理」
「保健室で寝ましょ…ラスカル先生には後で言っておこう」
「ここで寝ないの、保健室まで頑張って…」
疲労困憊の4人はそのまま保健室に入るとベッドに倒れ込み、寝息を立てて夢の世界へと旅立っていくのだった。
なお吹っ飛んだ魔力球は地面に叩きつけられ、べちゃりと潰れた。
黒い油膜のように道路に広がる歪み。
そこにトラックが走ってきてタイヤにその魔力球の残骸がへばり付きコントロール不能に陥る。
それが原因で自転車に乗って通勤中のラスカル先生はトラックに轢かれてしまい全治1日の怪我を負ってしまった。
結局はその日の授業は雪女のお雪先生が担当する事に…。
そして彼女のやらかしで、チャチャたちは次の日風邪を引いてまた学級閉鎖となってしまうのであった…。