異世界の英雄たち、赤ずきんチャチャの世界を修正します 作:hoyohoyo
「…何だ?」
ロキが初めて、眉を顰める。
光が降りた。
天でも空でもない、この場所に―上から。
光だけが、そこにあった。
そして、形になる。
誰も動けない。
ただひとりを除いて。
その中を歩くひとつの影。
金色の光を纏い、静かに―そこだけが、暗黒魔界ではなかった。
「…チャチャ?」
アーリンが口を開く。
そう、目の前に居る女性の形をした人影は、マジカルプリンセス。
今まで何度も死線を潜った、あの少女の姿。
しかし、彼女は今は地上で、この暗黒魔界へ続く道を封印したはず…。
「よくここまで耐えましたね」
柔らかな声。
チャチャに似ているが、その柔らかさの中に響く統治者としての重さが残る声。
魔力の質も量も、チャチャとは全く異なる。
むしろ、アーリンたちに近い―英雄の存在だ。
「貴女は…」
「…『マジカル・ヒーリング』」
彼女が呟くと、暗黒魔界の淀んだ空気が一変した。
聖なる温もりが、焼き切れたリナの魔力回路を繋ぎ直し、アーリンの傷ついた誇りを癒していく。
それは王家の始祖にして、慈愛の化身のみが成せる奇跡。
その声とともに紅い光がアーリンたちを包む。
(これは…何て温かい光)
リナは、自分の失われた体力が戻っていくのを感じ取っていた。
(そうだ、この回復状態なら、ひょっとして)
彼女は自分のベルトポーチから2本の薬を取り出し、一気に飲み干す。
(ああ、失われた魔力が…ありがとう、やっこちゃん)
そう、リナが飲んだのは以前に貰った魔法薬。
本来ならここまでの効果は無いのだが、マジカル・ヒーリングの回復に後押しされるかのようにその効果は増大していく。
その結果、彼女の魔力は元の状態に戻ったのであった。
「わたくしの名は…ジョアン1世」
そう言ってアーリンの隣に立つ。
「チャチャたちのホーリーアップに必要なアイテムであの地を封印したことにより、わたくしの魂が具現化された」
手に持っていた弓矢をロキに向けて構える。
「ここからは、わたくしも加わりましょう。さぁ、立つのです、この哀れな神を、我々の手で」
「ジョアン1世、ありがとうございます。戦いましょう、私たちと、共に」
(彼女が居れば、今までの理は崩れるかもしれない。私たちの剣が、届くかもしれない!)
アーリンは気合を入れ直し、再び白く輝くアークスレイヤーを構え直す。
ロキが、笑う。
「アーヤハの世界のくたばりぞこないが加わろうとも、この私には勝てまい」
再び、黒い力の渦が触手となって蠢きだす。
「神と人が滅びる姿を、その身に刻むがよい…クックックッ、ハーッハッハッハッ!」
彼の歪んだ笑い。
ジョアンは、ロキを見ていなかった。
その背後―黒い奔流を見ている。
お互いが動き出す。
「竜神結界!」
ルナが再び結界を発動させる。
アーリンもアークスレイヤーを前に出し、守護の力を展開させる。
「ほう、防御を中心にしたか。しかし、私の力は無尽蔵!先に貴様らの方が果てる!」
嘲りながら、ロキが錐に変えた黒い力をアーリンたちに放つ。
「マジカルシュート!」
ジョアンの聖なる力を持った矢が何発も放たれ、黒い錐を消す。
「ほう…」
少し感心したかのような表情を浮かべるロキ。
「ならば、これはどうかな?」
今度は多数の黒い触手が空間を埋め尽くし、アーリンたちに再び襲い掛かる。
「マジカルシュート!」
紅く輝く光の矢―もはや槍といってもいいくらいの巨大な矢が触手を一気に引きちぎる。
残った触手もアーヤハの神力とルナの結界、アーリンの守護の力の三重結界により防がれるのだ。
眉を顰め、再び触手を展開させようとするロキ。
「そこですね」
先程とは違う、か細い矢がジョアンから放たれる。
それはロキの横を通り過ぎ―背後に刺さる。
黒い空間に矢が吸い込まれる。
ギャギィィィィィィ!!!
黒いエネルギーが、悲鳴のような振動を上げた。
「何…!?」
ロキの顔色が変わる。
ジョアンは静かに言う。
「あなたは強いのではない」
顔を上げ、ロキを見る。
「力に『寄りかかっている』だけです」
「馬鹿な!あの暗黒魔界のエネルギーが!」
黒い力の渦が、小さくなっていく。
自分の身体に取り込んでいたあの莫大なエネルギーがどんどん失われていく。
「おのれ、ジョアン1世!」
「アーリン!」
「―分かってる!」
今が反撃のチャンス。
リナの言葉にアーリンとアリーナが飛び出す。
「アーリン!あたしの世界でやったあんたの武器をさらに強化する方法、今試すわよ!」
「了解!任せた!」
内容も知らない、何をするかも分からない。
しかし、リナだから信用出来る。
アーリンはためらうことも無く、自分の剣をリナに向ける。
「『竜破斬(ドラグ・スレイブ)』!」
赤黒い閃光がアーリンのアークスレイヤーに直撃し―その刃の周りに絡みつく。
「よし成功!とっととロキをぶった斬っちゃいなさい!」
「分かった!」
そしてまだ体勢を整えていないロキに斬撃が走る。
今度は―通った。
「ぐっ…!?」
「手応えあり!」
ロキが、初めて後退する。
「さっきの様には行かないよ!」
今度は紅く光るナックルガードが煌めき、腰の効いた拳の一撃がロキの脇腹を貫く。
「がはぁ!」
轟音を立ててロキの身体が折れ曲がる。
「なぜだ…なぜ通る!?」
さらに背後から。
「今までの分のお返しよ!」
セレネシアブレードの一撃。
ロキの背中を叩き切る。
「あり得ない、神に、届くはずがない!」
よろめきながらロキが叫ぶ。
「―違う、これは…理が、壊れている?馬鹿な!私の計画は完璧だ!」
ぶつぶつと呟くロキの顔が、憤怒に包まれていく。
「調子に、乗るなぁぁぁぁ!」
怒りのロキが放った衝撃波が彼女たちに襲い掛かる。
思わず吹っ飛ばされ、しかし何とか体勢は保つ。
その中心の存在から、黒翼が展開される。
空間が引き裂かれる。
「死ね!」
神の身体に似つかない漆黒の翼をはためかせ、今度はリナに突進していく。
「させない!」
「させません!」
ルナとアーヤハが同時に結界を展開させる。
紅と白、2つの光がリナの前に広がる。
バキバキィ!
力技で、その結界を叩き潰すロキ。
しかし―一瞬、その動きが止まる。
「今よリナ!」
アーリンが叫ぶ。
至近距離。
目と鼻の先に居る、邪に魂を売った神。
リナは高速で詠唱する。
悪夢の王の一片(ひとかけ)よ
世界(そら)のいましめ解き放たれし
凍れる黒き虚無(うつろ)の刃よ
我が力 我が身となりて
共に滅びの道を歩まん
神々の魂すらも打ち砕き
「『神滅斬(ラグナ・ブレード)』!」
リナの両手から現れた、バスタードソード大の虚無の刃。
金色の魔王の力を使った、神をも滅ぼす刃。
それは、抵抗らしい抵抗もなくロキの脇腹をえぐり取った。
空間が、裂けたまま―閉じることを忘れた。
「―――!!!!」
ロキが声にならない悲鳴を上げる。
彼の苦痛がそのまま、空間の歪みとなっていく。
えぐり取られた脇腹の部分が虚無に返され、大きな穴となっていた。
素早くリナから離れ、自分の身体を元に戻していくが。
「おのれ、おのれおのれおのれ!!」
塵芥の存在にここまで傷を付けられ、ロキのプライドがへし折られる。
ロキは全身を広げ、まだ少し残っていた暗黒魔界のエネルギーを再び吸収する。
「足りぬ…まだ、足りぬ!」
さらにエネルギーを、この暗黒魔界に残っているであろうエネルギーを吸収しようとする。
「まだだ…私は…こんなところで終わるものか…!」
その瞬間。
ジョアンが、目を細める。
「…限界を超えましたね」