異世界の英雄たち、赤ずきんチャチャの世界を修正します 作:hoyohoyo
敵も1000体を超える魔力球を出した為に魔力切れを起こしたのか、ここ数週間は平穏な日が続く。
「魔力の歪みが無いって、平和ねぇ…」
「ええ」
職員室にて少しだらけ気味のアーリンとルナ。
「アーリンに姉ちゃんも気を引き締める!この間にも相手は力を蓄えてるんだから、その隙に黒幕も探さないと…」
「確かにそうだよね。アーリンも定期報告に困るんじゃないの?」
「定期報告?」
ルナだけが事情を知らない顔で首を傾げる。
「姉ちゃんに言うと押しかけそうだから言わなかったのよね…」
「半月に1回、天界に居るアーヤハに鏡を通して定期報告するのよ。先週にあの大量の魔力球の事件を報告したところよ」
リナの言葉に続いてアーリンが事情を説明する。
「ただ…その事件を聞いてアーヤハの表情がいつもと違ってたかな。聞いてみたんだけど『いえ、こちらの事なので大した問題じゃありません』って言ってたわ」
「そう聞かされると怪しく感じるのよねー」
「案外黒幕は天界の神様だー!とか?」
「まさか、ねぇ…」
4人がそれぞれの顔を見合わせる。
「どっちにせよ、確固たる証拠が無いから憶測以下の噂レベルね」
「まずはこっちの世界の歪みを締め上げて、痺れを切らして黒幕が出てくれば言う事無いんだけども」
アーリンとリナの言葉が終わると同時に授業開始を告げるチャイムが鳴る。
「おっと、授業が始まっちゃうわね、急がないと」
バナナ組の授業が始まり、ラスカル先生による点呼が始まる。
「やっこくん!チャチャくん!リーヤくん!」
それに元気よく返事を返すチャチャたち。
「しいねくん!」
ここでしいねちゃんが呼ばれるが、彼は返事もせず、おもむろに立ち上がる。
「先生、僕のことは『しいねちゃん』と呼んでください!」
(うわぁ…ものすごく面倒なタイプね)
出席簿に書き込みながらリナがこめかみを押さえる。
「お鈴ちゃん!」
ラスカル先生の出欠確認を聞いてチャチャが不思議がる。
「お鈴ちゃん?そんな子、バナナ組にいた?」
「さぁ、知らないですね…?」
しいねちゃんも同意の声を上げると、隣でやっこちゃんが呆れた風に突っ込むのだ。
「何言ってるの、ずっと同じクラスじゃないの」
「ええ!?でも俺、一度も会ったことないぜ?」
リーヤもチャチャたちの立ち位置だ。
「そりゃそうよ、いつも気配を消してるもの」
「凄ーい!まるで忍者みたい!」
「お鈴ちゃんは忍者なのよ…」
「ええ~!?」
チャチャとやっこちゃんが問答を繰り広げている間にラスカル先生が鞭で床を叩く。
「お鈴ちゃん、返事はどうした!?」
「はーい!」
どこからか女の子の声が聞こえてくる。
チャチャたちが周囲を見回すので、やっこちゃんが耐えかねて上を指差す。
その方向にはピンクの忍び装束姿の女の子が天井にぶら下がっていたのだ。
彼女はチャチャより小柄で、顔もずっと幼い感じがする。
その後、堂々と居眠りするお鈴ちゃんにラスカル先生がチョークを投げてそのまま落下させたり、それを庇ったしいねちゃんを見て何か様子が変になったり。
(おや?おやおや?)
それが恋する女の子の表情と察知したのかルナが教科書を口元に当てながらにやにやを隠したり。
(お鈴ちゃん、しいねちゃんの事が好きなんだね…。純粋な恋心は良いわねぇ)
しかしそのにやけ顔も一瞬で元の表情に戻る。
(でも、この後に祖父の妖刀事件に絡まれてまさかの対決が始まるのよね)
ルナは心の中で呟きながらふぅ、と一息付くのだった。
そして放課後。
校舎の前で痴話喧嘩なのか分からないレベルの言い争いをするチャチャとマリン&やっこちゃんを職員室の窓から見ながらため息を付くアーリン。
「いやー青春だねー、平和だわ…」
「それに恋する女の子の姿は癒されるわねー」
「恋?」
「ほら、噴水のところで忍んでるお鈴ちゃん…たぶんしいねちゃん辺りかな?恋しちゃってるわよー」
ルナの言葉にアーリンの表情も蕩けてしまう。
「お鈴ちゃんの初恋か…。でも物語通りなら、この後お鈴ちゃんの祖父が妖刀コテツに操られて大騒ぎになるわよね。あたしたちが裏でフォローしないと」
リナが静かに呟き、4人は真剣な顔になる。
「毎度ー!宅配便ですー」
次の日の朝、うらら学園にて。
職員室に響く配達員の声に、授業の準備をしていたアーリンたちが顔を向ける。
「ん?誰か何か頼んだ?」
一番配達員の近くに居たアリーナが他の3人を見て言うが、彼女たちは首を横に振るだけ。
「あのー、多分間違いだと思うんだけど」
「いえいえ、アリーナさん宛に荷物でーす」
「へ?ボク?」
「はいサインよろしくお願いしますー」
「は、はい…」
勢いのままサインしてしまい、配達員は去っていく。
「アリーナ、何を頼んだのよ?」
「いや知らないって、というか…なにこれ?」
長細い包装された箱が彼女の足元にある。
「もしかしてマジックアイテムかもねー、開けてみない?」
「強い武器だったらいいなぁ」
リナの言葉にアリーナは包装を剥がし、箱を開ける。
「こらこら、自分で見覚えない荷物って言ってるのに」
アーリンの突っ込みをスルーして中に入っているものを手にするアリーナ。
剣の形をしているが、刃の部分は片刃。
長さはアリーナの腰ほどあり、刃の部分に水影のようなものが映り込んでいる。
「へぇ…はやぶさの剣より少し反っていて…いいねぇ」
「あら『日本刀』じゃない」
「姉ちゃん、この武器を知ってるの?」
ルナの言葉にリナが少し目を見開く。
「赤竜神の時に、こういう武器を見る機会は結構あってね。わたしには馴染まなかったけども、アリーナなら使いこなせるんじゃない?」
「成程…うん、はやぶさの剣より使い勝手良いかも」
そして再度刀の柄を握った瞬間だった。
ひやり、と冷たいものが掌を這う。
―その感触は、金属ではない。
だが次の瞬間、それは脈打った。
まるで生き物のように。
(…呼吸?)
かすかな鼓動。
そして、耳元で囁く声。
「強くなりたいだろう?」
強くなりたい―その甘美な響きが、胸の奥にあった渇きを刺激する。
もっと強く、誰にも負けない力を。
その思いに、アリーナという個体が沈み込んでいく。
「で、刀の名前は?大抵は刃の部分に銘っていう刀の名前が刻まれているんだけども」
アリーナはルナの言葉に刃をじっと見つめる。
「…えっと、えーっと」
刀を見入りながら虚ろな表情で文字を探すアリーナ。
「あった…名前は『千子鬼丸』…」
「!!」
アリーナの言った刀の名前を聞いた瞬間、ルナの顔色が変わる。
「アリーナ!その刀を床に捨てなさい!」
ルナの叫びも虚しく、刀を抜いたアリーナの瞳から光が消えた。
手を離そうとはした。
だが、指が動かない。
彼女は無表情のまま刀を握りしめる。
妖刀『千子鬼丸』―その刃から溢れるのは、使い手を喰らい尽くす純粋な殺意。
「様子が変よ!」
「ヤバいわね…あれ、妖刀よ」
「妖刀!?」
聞き覚えのない言葉にアーリンがオウム返しで叫ぶ。
「簡単に言うと呪われた刀よ!大抵ロクな結果にならない呪いがふんだんに詰め込まれてるわ!」
「そして不味いわね…その刀に歪みが入り込んでる!」
「何でこんな時に!?」
「アリーナ!気をしっかり持って!」
3人の叫びにアリーナは青白い顔をして苦悶の表情を浮かべる。
「ボクが…ボクじゃないみたいで…ぐうぅぅぅ!」
うめき声を上げたと思うとアーリンたちに襲い掛かってきた。
職員室から飛び出し、なるべく人の居ない校庭の方へ向かうアーリンとルナとリナ。
その後ろから刀を振るうアリーナ。
「くそっ!もうすぐ生徒が登校してくる!」
「それまでに何とかしないと…」
「まさか歪みがこういう手段で来るとは…迂闊だったわ!」
アーリンとルナは剣を抜き、アリーナの攻撃を何とか押し留める。
彼女の口からは必死に呪いに抵抗しようという意思のある言葉が流れてくる。
「やめろ…ボクの身体、止まれ…」
ガギィィィン!
アークスレイヤーで受け止めたアーリンの腕に、かつてない衝撃が走った。
「重いっ…! 呪いだけで、これほどの出力を!?気を少しでも抜くと吹っ飛ばされる!」
見えているのに、防げない。
剣が交えるたびに、腕が痺れる。
普段の快活なアリーナではない、機械のように正確で、冷徹な死の舞踏。
ただの刃ではなく…本物の『殺意』。
(この子、本気で私を斬ろうとしている…!)
アーリンの背中に一筋の汗が流れる。
「危ない!呪いのせいで攻撃一辺倒になってるのは不幸中の幸いだけど、それでも速い!」
ルナも必死に彼女の攻撃を間一髪のところで防ぎながら叫ぶ。
向こうの方ではいつの間にかチャチャたちが妖刀コテツに乗っ取られた大ガマガエルと対峙していた。
物語通りなら、お鈴ちゃんの祖父は妖刀コテツに呑まれ、その果てに大ガマガエルと刀が融合して武者ガマガエルになる。
向こうでは、まさにその筋書きが進んでいた。
(お鈴ちゃんの初恋が絡んで、しいねちゃんを誤解して攻撃…。でも物語通り進んでるわ。裏で歪みが加速しないよう見守らないと)
アーリンが心の中で呟く。
そしてこちらでは何とか呪いにあらがおうとするアリーナと、言う事の聞かない身体から繰り広げられる激しい斬撃をアーリンとルナ2人掛かりで何とか防ぐ。
その背後ではリナが隙を見つけようと身構えていた。
(動きが速いのよ!ガウリィ並みじゃないの!)
自分の世界の相棒である剣士と同等と悪態を心の中で付きながら、それでも何とか動きを止める為に一挙手一投足を見逃さない。
「アーリン!一瞬でいいから貴女だけでアリーナと戦ってくれる!?」
「何か秘策があるのね!分かったわ!でもそんなに長く持たないわよ!」
その言葉にルナがアリーナの視界から離れる。
「こっちよアリーナ!早く元に戻りなさい!」
「う…あ…」
うめきながらも素早い動きで何十もの剣戟がアーリンを襲う。
防ぎきれない攻撃がアーリンを襲い、彼女の着けている鎧がまるでバターのように食い込んでいく。
「早くして、ルナ!これ本当に命がヤバい!」
「竜神結界!」
ルナが叫ぶと同時にアーリンの前に紅い結界が広がり、アリーナの攻撃を受け止める。
が、一撃で思いっきりたわみ、次の攻撃でヒビが入っていく。
「リナ!今よ!」
「確実に行くわよ!『明かり(ライティング)!』
アリーナの頭上に光り輝く球を浮かばせて、次の瞬間にアリーナの足元に向かってナイフを投げる。
「影縛り(シャドウ・ステップ)!」
地面に出来たアリーナの影、それをナイフで刺し、魔術を通してアリーナの動きを封じる。
「アーリン、後は頼んだわ!長く持たないわよ!」
「任せて!『ホーリープロテクション』!」
アーリンの手から飛び出した光の結界がアリーナの手にした刀に纏わりつき、一気に包み込む!
その瞬間、光が僅かに揺らいだ。
それは抵抗ではなく―共鳴。
(…!?呪いよね!?魔力よね!?)
歪みの力ではあるのだが、何かが違う。
まるで自分の魔力の一部が、逆に押し返してきたような感覚。
弾かれた。
同質の力―例えるなら『神の力』を相手にしているようだ。
(神?あり得ない、こんな場所で―)
疑問を浮かべるアーリンだが、それも一瞬のこと。
「こん…のおぉぉ!」
半ば力任せにアリーナの刀を強引に封じ込め、そのまま破壊しようとさらに魔力を込める。
「ほろび…ろぉぉぉ!」
『ぐぎぃぃぃぃ!』
「明らかに人の声!」
「多分この騒動の元凶よ!」
ルナとリナは周囲を見回すが、魔力の歪みなどは無い。
妖刀『千子鬼丸』はギチチィ!という不快な音を立てて結界の中で消え去っていく。
柄と握る部分を残して刃を消滅させたと同時に呪いが解けたのか、アリーナの表情が元に戻っていく。
「あ、ボク…これを握って、それで」
最後まで言い切れずにそのまま地面にへなへなとへたり込む彼女。
「はぁ~、何とか大惨事は免れたわね」
アーリンが額の汗を拭う。
向こうではチャチャがマジカルプリンセスに変身し、ビューティ・セレインアローで武者ガマガエルを消滅させたところだった。
「あっちも何とか史実通りに軌道修正出来たわね」
「しかし…本当に間一髪だったわ」
「一番の強敵は味方ってね」
アリーナを介抱しながらやれやれといった表情を浮かべる3人。
そんな中、アーリンは自分の拳を握ったり広げたりして思案にふけていた。
(あの引っ掛かり…同じ力を感じた…)
先週の定期報告でのアーヤハの表情を思い出す。
(多分…いや、とにかく証拠が無いとただの妄想にしかならないわ。物語が進めば、チャンスは出てくる)
空を見上げたアーリンの胸に、消えきらない違和感だけが残る。
黒幕はまだ姿を見せない。だが、確かにそこにいる。