ハピエン教団(団員1名)信者の俺、魔法少女アニメの世界に招かれたのでハッピーエンドを死守するため戦っていたらいつの間にかクソデカ感情を向けられていた 作:pfk
「はぁ~」
早朝の登校を終えて自分の席に辿り着いた俺は、盛大に溜息をつきながら腰を下ろした。
結局、紫先輩の誘いをうまく断る言い訳も思いつかず、後日日程合わせや下調べをして二人で猫カフェに行くことが決定してしまった。どんだけ友情に飢えてるんだよ……。
こっちはなるべく原作のお邪魔にならないように気を遣ってるのにさー!
「よーす尾張ー。そんなデカイ溜息ついてっと幸せが逃げてくぞー。なんかあったか?」
「卵が先か鶏が先か、みたいな話があった」
「どゆこと?」
俺の溜息を聞きつけて、どしたん話聞こか? と声をかけてきたのは、
どうもこの男、俺が空気のような存在として原作と調和していることを、孤立していると勘違いしてしまったらしく、ここ数日でしきりに声をかけてくるようになった。
原作や外伝にも一切登場しないモブなのだが、ハーレムラブコメの主人公かよというくらいにモテる。今のところ魔法少女関連の人物とは接点がないため見逃してやっているが、原作ブレイクというかカップリングブレイクの切っ掛けとなり得る存在として俺は密かに警戒している。
「溜息をつくから幸せが逃げるのか、幸せが逃げたから溜息をつくのか」
「なんか哲学的だな」
「そういうことだから気にしなくていいぞ。シッシッ」
「ひでー」
わざわざ朝早くに登校したのは赤羽根歩と青森空の様子を伺うためだ。池杉なんぞに構っている暇はない。手であっちへ行けとジェスチャーして追い払い、ちょうど入れ替わるように登校してきた赤羽根歩と青森空に視線を向ける。
「痛っ!」
「歩、やっぱり今日は休んだ方がいい」
「……え? あはは、大丈夫だよ! ちょっとボーっとしちゃっただけ!」
「朝からずっと心ここにあらず。無理しなくていい」
赤羽根歩はなにやら虚空を見つめるようにポケ―ッとしたまま歩いて自分の机にぶつかり、様子がおかしいと青森空に心配されている。恥ずかしかったのか少し顔が赤い。聞こえてくる会話を聞くに、朝二人が合流してからずっとあんな調子ということだ。
元気一杯というように振舞っているけど、明らかにいつもどおりじゃない。でもそれが、昨日の戦闘で心が折れてしまったからなのか、それとも別の理由かまではわからない。
一先ず、外出や登校できないほど深い心の傷を負ったわけではないということは安心か。
魔法少女として戦闘が可能かどうかは、次の水曜日に出現予定の悪魔まで待つしかないか……。
「あ、それより空ちゃん、あの落とし物ちゃんと警察に届けた? ほら、こないだ公園で拾った」
赤羽根歩が露骨に話題を逸らしにかかる。
その手に乗るような青森空ではないと思ったけど、今度は青森空の方が露骨に視線を逸らした。
「あれ? おかしいな? 私、ちゃんとすぐに届けなきゃ駄目だよって言ったよね? 一緒に行こうかって言ったよね? また面倒くさがって後回しにしちゃったのかな?」
「ち、違う。翠香が代わりに届けておくって言うから……」
「じゃああのスマホ、緑川さんに任せちゃったの?」
「……うん」
公園で拾ったスマホ、だと……?
「赤羽根さん、青森さん、おはよう。今ちょっといい?」
「え? あ、えっと、尾張くん、だよね?」
「なに?」
いきなり声をかけてきた俺に、赤羽根歩は挙動不審になりながら受け答えをして、青森空は話は自分が聞くというように一歩前に出た。赤羽根歩は人見知りの小心者だからこうなるのも仕方ない。
自分から原作キャラに接触することはなるべくしたくなかったけど、今回ばかりは例外だ。
「話聞こえちゃったんだけど、そのスマホってもしかして黒い手帳型のケースに入った白いスマホだったりしない?」
「……ん、たしかそんな感じだった」
「実は俺、こないだ桜ヶ丘第二公園でスマホ落としちゃって、もしかしたら俺のじゃないかなって。誰かに渡したって聞こえたんだけど、まだその人持ってるかわかる? 警察に届けたならどこの交番か教えて欲しいんだけど」
「お昼に聞いておく。まだ持ってたら私が預かって来るから、放課後確認して」
「ありがとー! ほんと助かる!! 青森さんが面倒くさがりで良かったー!!」
ほんとに! 拾ったのが青森空で良かった! だってそうじゃないと今の会話イベント発生しないってことじゃん!? そしたら俺が情報を知ることもないわけで……。
あのスマホには色々と大事なデータも入ってるから絶対なくしたままにはしたくなかった。まだ俺のスマホと確定したわけではないけど、手がかりもなしに探すのと比べれば全然期待できる!
「ありがたやありがたやー……、はっ!」
あまりにもテンションが上がってしまい、ついつい家で猫に対するようなノリを出してしまった。
「っていうくらい感謝してます! 放課後よろしく!」
「……ん、苦しゅうない」
強引に切り上げてそそくさと席に戻る。
幸いにも朝早いこともあってかクラスにはまだほとんど人がいない。
俺の醜態が拡散されることはないだろう。
「尾張くんってああいう感じなんだ……。変な人だねぇ……」
聞こえてるぞ赤羽根歩!
でもたしかに友達でもない相手にやるノリじゃなかったねごめんなさい!
ああ恥ずかしい! 穴があったら入りたい!