ハピエン教団(団員1名)信者の俺、魔法少女アニメの世界に招かれたのでハッピーエンドを死守するため戦っていたらいつの間にかクソデカ感情を向けられていた 作:pfk
あっと言う間に授業は終わり、放課後を迎えた俺は早速青森空に話しかけることにした。
「青森さん、朝の件ってどう?」
「ん、翠香が直接渡したいらしい。1年5組の緑川翠香。用事があるから16時30分に1年5組に来て欲しいって言ってた」
「そっか、了解。ありがとう」
朝言っていたとおり、てっきり昼休みの内に預かって来てくれてるものだと思ってたから肩透かしを食らった気分だ。
でも直接渡したいってことは警察にはまだ届けてないってことだよな。色々手続き面倒くさそうだし、そこはラッキーだ。
青森空と赤羽根歩はそれだけ伝えて帰って行った。人見知りと面倒くさがりのコンビだからそんな気はしてたけど、立ち合いもしてくれないらしい。
まあ俺は原作知識で緑川翠香のこと知ってるからいいけど、そうじゃなかったらお互い顔もわからなくてすれ違いになってたかもな。
16時30分っていうと、まだ30分以上もある。
日直とか委員会の仕事でもあるのだろうか。もしくは生徒会絡みかもしれない。緑川翠香は部活には入ってないけど、生徒会の書記をやってるんだよな。桜ヶ丘高校の生徒会選挙は9月で、原作通りなら今年の選挙で緑川翠香が生徒会長になる予定だ。
ちなみに部活動の話で言うと、赤羽根歩、青森空、紫蝶の三人は帰宅部で、黄海透華は女子サッカー部に所属してる。俺はもちろん帰宅部だ。
やることもないので、魔法少女戦隊フラグメントのハッピーエンドを脳内で反芻して時間を潰していればあっと言う間に時は過ぎ、約束の時間5分前。
少し早く行くかと1年5組へ向かえば、人気のない教室で一人静かに本を読んでいる少女がいた。緑川翠香だ。
「失礼しまーす」
「こんにちわ、尾張先輩でよろしかったですか?」
「どうも、尾張幸人です。そちらは緑川翠香さんで大丈夫?」
「はい、初めまして、緑川翠香と申します」
うむ、にこやかで礼儀正しい。
ただしこれは擬態である。緑川翠香の本性は非常に性格が悪く、計算高く、ねちっこいのだ。
外面を大事にしてるからよっぽど親しい相手以外にはその本性をおくびにも出さないけどな。
原作でも彼女の仮面が剝がれるのはかなり終盤であり、視聴者たちは驚き、悲しみ、絶望のズンドコに叩き落されたものだ。一方で新たなファンが定着したこともたしかである。
なお勘違いされがちではあるが、性格が悪いのと悪人であることはイコールじゃない。少なくとも緑川翠香は、魔法少女に変身できるだけの正義感は持ち合わせている。
今回青森空にスマホ渡さず、わざわざ直接の受け渡しを選んだのは、多分一度引き受けたものだから責任もって対応する姿をアピールするため、かな?
「青森さんから聞いてると思うけど、落とし物のスマホが俺のなんじゃないかなって」
「こちらですね?」
緑川翠香はにこにこしながら鞄のチャックを開いてハンカチに包まれた物体を取り出した。うーん、実に完璧な擬態。
包みを開けば、そこには見慣れた手帳型のスマホカバーがあった。
「俺が使ってるのと同じカバー! 中も見せて貰っていいかな?」
「はい、もちろん」
手に取ってカバーを開き、指紋認証機能搭載の電源ボタンに触れる。
最近買い替えたばっかの最新型だからバッテリーは長持ちで、スリープ状態だったこともあって充電は残ってた。
問題なくロックが解除されて、操作を受け付けるようになった。
「良かった~~~!」
「ふふっ、持ち主が見つかって私も安心しました。一応、動作に問題ないか少し試して貰えますか?」
「お安い御用だ!」
スイスイーっと画面をスワイプしたりアプリを開いたりして見せる。
指紋認証によるロック画面の解除は緑川翠香も一緒に確認してたから、これが俺のスマホだってことは信じてくれてるみたいだ。
壊れてないかの確認も一緒にやるのは流石だな。あとでイチャモン付けられないように対策してるんだろう。
「ところで一つ、お伺いしてもよろしいですか?」
「うん? なに?」
「こちらの端末はどちらで購入したのでしょうか? ネット通販などですか?」
「うん、そだよー」
店頭で買うと色々わけわからんオプションを付けられたりするからな!
バイトして溜めた金で買ったのだー! ふふふ、お目が高いな緑川翠香! 欲しくなってしまったかな? なんなら使い勝手のレビューを教えてあげても……、!!
「……そうですか」
ほんの一瞬だけ、緑川翠香の視線がこちらを値踏みするように変わった気がした。
このスマホは、元の世界で買った最新機種。時系列的に、恐らくこの世界ではまだ、……発売されていない。
「実は私も買い替えを考えているのですけど、ネット通販というのはどうにも慣れなくて不安だったんです。でもこうして実際に購入されている方もいるわけですし、何事も挑戦してみないといけませんね」
嘘だッ! 緑川翠香は作中でもトップクラスでネットを使いこなしてるキャラだった。たしかに表向きはインターネットなんて全然わかりません、なんて顔をしてるけど実際は対戦型SNSも使いこなしてるし匿名掲示板でレスバもするしVPNも通してるし自分用のPCは持ってるしモニターは3枚も所有している。
この俺に匹敵するインターネットモンスターが、通販が不安なんて見え見えの嘘をつきやがって! もしかして、何か気づいたのか!?
「そ、そうだね。じゃあ、今日はありがとね。俺はこれで」
俺は想定外のアクシデントに弱いんだよー! このまま話してても絶対ボロ出すから一先ず撤退! 何がどこまでバレたのかもわかんないしさー!
「尾張先輩」
「なんでしょう」
用事は済んだのだからここで帰っても不自然ではないはずだ。
しかし緑川翠香に名前を呼ばれると、まるでそれを咎められているような気がして、思わず敬語で返してしまった。
「これも何かのご縁ですし、良ければ連絡先を交換しませんか? ネット通販のことなど、教えていただきたいです」
自分の可愛さをわかっているタイプの上目遣いで、緑川翠香が自分のスマホを取りだし近づいて来る。
こ、怖い! 嫌いなキャラじゃないけどいざ秘密を抱えた状態で対面すると怖いって!
蛇めっ……!