ハピエン教団(団員1名)信者の俺、魔法少女アニメの世界に招かれたのでハッピーエンドを死守するため戦っていたらいつの間にかクソデカ感情を向けられていた 作:pfk
最初はいつも通りの良い人アピールのつもりでした。
青森先輩はかなり面倒くさがりな性格みたいでしたから、代わりに落とし物の処理をして、先輩思いで気の利く後輩というイメージを植え付けようとしただけです。
ただ、柄にもなくちょっとした親切心を出したことが失敗でした。
もしかしたら落とし主の人は凄く困っていて、ネットなどでも探してるかもしれないと思ったので、SNSの捨て垢を使って落とし物を拾ったことを写真を添えて投稿しました。
大してフォロワーもいないアカウントですし、一週間何も反応がなければ素直に警察に届けるつもりでした。
結論から言うと私は炎上しました。
そのスマホは背面にメーカーの名前が書いてあったのですけど、そのメーカー名が実在しないものだったのです。
AI生成画像を使った話題集めの炎上商法だと邪推されて、拡散が拡散を呼んで、私の投稿とは関係ない空中戦にまで発展して、私はひっそりとアカウントを削除しました。
幸いにも拾った具体的な場所などは書かなかったですし、普段からリアルの情報は一切載せていないので身バレや特定に繋がることもありません。後は放っておけばその内鎮静化してみんな忘れていくでしょう。衆愚どもめ。
匿名掲示板やSNSの捨て垢でレスバするのは日常茶飯事ですから炎上したこと自体はもうどうでもいいんです。
ただ一つ気になったのは、手元に残ったこのスマホについてです。
電源ボタンらしき部分を押すと、ちゃんと液晶が光ってロック画面が表示されます。
パターン認証と、それから指紋認証が搭載されているみたいです。中身は見れてないですけど、こうして見る限りではちゃんとしたスマホに見えます。
もちろん、存在しないメーカー名だって指摘された時に自分でも調べはしました。たしかに検索してもヒットしないメーカーで、念のため地域設定を海外に変えて検索してもスマホメーカーらしきものは出て来ませんでした。
存在しないはずのメーカー。なのに挙動自体はスマホと言って差し支えないものに見えます。
これから新しく参入するメーカーの試作品でしょうか? それとも一般には出回ってない端末? 私の想像もつかない何かが関与しているのかも。
「面白いことになってきましたね」
警察に届けるという選択肢はなくなりました。
このスマホをなくした人物はさぞ困っているでしょう。それは最初に考慮したのとは全く違う意味で。
いい気味です。私を炎上させた代償は払っていただけなければ気が済みませんね。
ネット上では随分と話題になりましたし、もし何か大きな組織が絡むような事案なら流石に補足していると思います。いずれは接触があるかもしれません。
などと考えつつ、魔法少女活動もしながら日々を過ごしていたところ、意外なところから接触がありました。
なんでも青森先輩のクラスメイトが持ち主かもしれないという話でした。
持ち主が同年代というのは少し意外でしたが、試供品のテスターだとか、あるいは親族が開発に関わっているとか、パッと思いつく限りでも筋の通る理由は挙げられますし、あり得ないと断じることはできません。
一度預かった以上は責任を持って自分で対応しますと適当な理由をつけて、推定持ち主と接触する段取りをつけました。
「失礼しまーす」
「こんにちわ、尾張先輩でよろしかったですか?」
「どうも、尾張幸人です。そちらは緑川翠香さんで大丈夫?」
「はい、初めまして、緑川翠香と申します」
昼休みに一度偵察に行きましたけど、どこにでもいそうな冴えない地味男子という風貌です。
ほんの少しではありますけど秘密組織のエージェントが使用してるデバイスだとか、そんな非現実的で面白そうな可能性を期待していた部分もありましたが、この男子が本当に持ち主ならそんなことはなさそうですね。
「青森さんから聞いてると思うけど、落とし物のスマホが俺のなんじゃないかなって」
「こちらですね?」
「俺が使ってるのと同じカバー! 中も見せて貰っていいかな?」
実物を取り出してみても動揺する様子はありませんね。
本当になくしたスマホを見つけて喜んでいるように見えます。
「はい、もちろん」
地味男子がカバーを開いて電源ボタンに指を添えると、当たり前のようにロックが解除されました。
「良かった~~~!」
「ふふっ、持ち主が見つかって私も安心しました。一応、動作に問題ないか少し試して貰えますか?」
「お安い御用だ!」
スワイプによる画面の切り替えもスムーズで普通のスマホと変わらないように見えます。
いくつかアプリを開いて、それが問題なく動いていることも確認出来ました。
メーカー名以外は特段おかしなところもないスマホで、この男子が持ち主であることも間違いなさそうです。
やはりテスターか何か、常識的な範囲に収まる程度の話だったのでしょうね。
少々ガッカリですが、一応答え合わせはしておきましょう。
「ところで一つ、お伺いしてもよろしいですか?」
「うん? なに?」
「こちらの端末はどちらで購入したのでしょうか? ネット通販などですか?」
素直に試供品の類なのか聞かなかったのは、私のイメージを考慮してのことです。
拾ったスマホに刻まれたメーカー名が現時点では存在しないなんて、普通の女の子が気づくようなことじゃありません。実際、私もSNSで指摘されるまでは気づきませんでした。
変に核心を突いたことを言って、機械オタクか何かと思われたくはないですからね。
当然ですが、ネットに強い女子というイメージがつくのもありえません。
本当にただそれだけのことで、それ以上の他意はありませんでした。
「うん、そだよー」
「……そうですか」
返された答えが完全に想定外で、一瞬だけ表情を作るのを忘れてしまいました。
……嘘をつきましたね。息をするように。
想定していたような、開発途中の製品などと言われればその真偽を確かめるすべはありませんでしたが、この男は嘘をつきました。
市販されていないものをネット通販で買ったと。
仮に試供品のテスターをしているだけだった場合、わざわざ嘘をついて隠すほどのことでしょうか?
「実は私も買い替えを考えているのですけど、ネット通販というのはどうにも慣れなくて不安だったんです。でもこうして実際に購入されている方もいるわけですし、何事も挑戦してみないといけませんね」
「そ、そうだね。じゃあ、今日はありがとね。俺はこれで」
話題としてはいささか唐突である自覚はありましたので、念のため質問の意図をでっちあげておきましたが……、どうしたことでしょう。先ほどまでの自然体な様子が嘘のように狼狽えていますね。
なぜ唐突に? しかもさっき、明らかに「しまった!」という顔をしていました。
何かもっと、非現実的な面白いことを隠している? それに勘づかれたかもしれないと考えているのでしょうか?
「尾張先輩」
「なんでしょう」
そそくさと立ち去ろうとした先輩を呼び止めると、ギクリとでも音が出そうなほど不自然な動きで足を止めました。
ふ、ふふっ、怪し過ぎますね。何か隠し事があると言っているようなものじゃないですか。反応がわかりやす過ぎです。
これじゃあさっきの息をするような嘘は何だったのかと思ってしまいます。それともあれは、本人の中では嘘ではなかった、とか?
現時点ではわからないことが多すぎて何を隠しているのかはさっぱり見当も付きませんけれど、どうも試供品のテスターをしているだけという感じではないように思います。
「これも何かのご縁ですし、良ければ連絡先を交換しませんか? ネット通販のことなど、教えていただきたいです」
こんな面白そうなこと、見逃すわけにはいきませんよね? 何を隠してるのか、気になるじゃないですか。
それにこの先輩、痛いところを突っつくと反応が面白いです。私が炎上で不快な思いをした分くらいは、楽しませていただいても罰は当たりませんよね?