ハピエン教団(団員1名)信者の俺、魔法少女アニメの世界に招かれたのでハッピーエンドを死守するため戦っていたらいつの間にかクソデカ感情を向けられていた 作:pfk
緑川翠香からの追及をのらりくらりとかわしたり、紫蝶と活動時間が重ならないように息を潜めて過ごしていれば、あっと言う間に時間は過ぎて水曜日の放課後を迎えた。
「
「
みんなが教室で帰る準備をしたり駄弁ったりしてる中、赤羽根歩と青森空が魔法少女に変身して窓から飛びて行く。認識阻害の効果を受けてるクラスメイトはそれに気が付くことなく、いつも通りの日常を過ごしている。
バッドエンド警報がまだ出てないから、すぐさまピンチになるってことはないと思う。
それと、赤羽根歩が戦意喪失してないかはずっと気になってけど、とりあえず変身して戦いに行けるなら大丈夫そうかな。
「
変身しないで徒歩で行くのは時間がかかりすぎるため、2人が出て行ってから少しだけ時間を置いて俺も変身し、こっそりと現場へ急行する。例の登場曲はオフにしてるからバレはしない。
ピンチになったらバッドエンド警報が出てワープできるからわざわざ自分から向かう必要はないんだけど、それじゃあピンチになるまでの戦いを観察出来ない。
1ファンとして魔法少女戦隊の戦いを生で見たいという気持ちはもちろんあるし、それプラス赤羽根歩がちゃんと戦えてるかってのも見ておきたい。
「クッ! 数が多すぎる!」
光学迷彩の魔法で姿を隠しつつ空から戦況を観察すると、魔法少女戦隊は苦戦を強いられてるようだった。
「フハハハハ! この程度か魔法少女ども! 口ほどにもないわ!」
今回は原作の第8話に相当する戦いで、相手の悪魔は騎士爵・分身のテディリベア。
二つ名の通り実体のある分身を作り出す能力を持っていて、魔力が尽きるまでは際限なく分身の数が増えて行く。
原作では、スカーレッドアーミーの血の兵隊と、バイオレットトキシンの召喚虫で数に対抗しつつ、サンフラワーゴーストの注目を集める鮮烈魔法でヘイトを買って、その隙にスカイブルーアーチャーの雨の矢で分身を一掃、残った本体をエメラルドメディックの翠玉の槍で貫き、何とか勝利するという流れだった。
前回の武人悪魔の時とは役割が異なる形となり、それはスカーレッドアーミーが相手の特性を見抜いて即興で考えた作戦だった。
つまりこの戦いは、スカーレッドアーミーの指揮力が問われる一戦。もしも触手悪魔との戦いで折れてしまっていたら、バッドエンド改変はおろか、原作部分の戦いですら敗北する可能性がある。
「無限に分身を生み出せるとは考えにくい! 悪魔の魔力が切れるまで分身を倒し続けるぞ!」
……そっちを選んでしまったか。
原作の戦闘において、スカーレッドアーミーの内心描写には二つの選択肢があった。
一つは今指示した通り持久戦に持ち込んで悪魔の魔力切れを待つ作戦。
そしてもう一つは、さっき解説した方の作戦だ。
分身一体一体の力はそれほどでもないため、一見前者の方がリスクが少ない安定択のようにも見えるが、それは魔法少女の方が魔力が多ければの話。
大抵の悪魔は潤沢な魔力を持っており、持久戦になればガス欠を起こすのは魔法少女が先になる可能性が高い。
スカーレッドアーミーもそれは妖精から教えられて知っているはずであり、だからこそ原作ではリスクを取ってでも短期決戦を選んだんだ。
嫌な予感が当たってしまったかもな。
意図したものか無意識にかはわからないけど、今回のスカーレッドアーミーの選択は自分たちの後に控えている存在を勘定したものになっている。
つまり自分たちが倒し切れなくても、ハッピーエンドキーパーが何とかしてくれると雑念が混じってしまってるんだ。
良くない、これは実に良くないな。
「どうしたどうしたぁ! 先に息切れしたのは貴様らの方だったみたいだなぁ!!」
最初こそ優勢に、余裕を持って分身を倒していた魔法少女たちだけど、次第に処理が追い付かなくなって押され始めていた。
スカイブルーアーチャーはこの時点の魔法少女戦隊では唯一4節魔法を使えるのだが、詠唱には時間がかかる。原作の作戦はその時間稼ぎも兼ねたものだったわけだけど、今回はそれが出来ていなかった。そしてもう、大技を使う魔力は残されてないだろう。
勝てるはずの戦いに負けてしまったことは残念だ。本当に、凄く残念だ。でもちょうど良かったとも言える。ケツモチが控えているという気の緩みは、ここで締めておくとしよう。
「
「出たなハッピーエンドキーパー! この我が引導を渡してくれる! ハァァァァ!!」
光学迷彩を解除して光の雨を降らせ、まずは分身を一掃する。
すると、戦闘のどさくさに紛れて身を隠していた本体が姿を現し、気合を入れるような雄叫びと共にプレッシャーが増大し始める。バッドエンド改変の力を解放したな。
「助力感謝するハッピーエンドキーパー! 力を合わせて――」
「すぐに終わります。下がっていてください」
スカーレッドアーミーの言葉に被せるように言い放ち、それぞれ動き出そうとしていた魔法少女たちを手で制する。
だいぶ消耗してるとはいえ、今回はいつもより早めに介入したから魔法少女戦隊にも戦う力が残っている。ただ、今回の目的は共闘じゃない。まずは圧倒的な力の差を見せつける。
「この我を今までの雑魚と同じと思うな!! 悪魔分身・一騎当千!」
「
今までとは比べ物にならないほどの規模の分身を生み出した悪魔に対し、瞬時に光の千斬撃を発動して迎え撃つ。
元々今の魔法では本体だけあえて打ち漏らす予定だったが、丁度千体の分身を出してくれたお陰で手加減する手間が省けたな。
後は想定外という演技をしておかないとな。
「今の魔法で終わらせるつもりだったのですけれど、思いの外しぶといですね」
「フ、フフ、フハハハハ!! そうでなくてはなぁ!! ならばこの我の全力を見せてやろう! 悪魔分身・千軍万馬!!」
今度は千体分の悪魔の分身と、一万体の魔獣が生み出される。
魔獣というのは悪魔の眷属的な生き物で、知恵のない怪物だ。悪魔よりは弱いけど、これも普通の人間では勝てない。
「……これは、参りましたね」
ヤケクソ改変にもほどがある。
こんなの絶対今の時点の魔法少女戦隊じゃ勝てねーよ。
もっとバランスってもんを考えろ。
「貴様はここで終幕だ! 死ね! ハッピーエンドキーパー!!」
「仕方ありませんね……。
今度は相手の数に関係なく、全ての敵性存在に光の斬撃を浴びせる魔法を発動し、魔獣、分身、本体全てを切り刻む。
辞世の句を聞いておきたいところだったけど、全身バラバラであっと言う間に消滅してしまったからそんな暇はなかったみたいだ。
さて、本題はここからだ。
「流石だな、ハッピーエンドキーパー」
「――ゲホッ! ゴホッ!!」
戦いが終わったことを感じ取って話しかけて来たスカーレッドアーミーには応えず、俺はその場で激しく咳き込み始める。
「だ、大丈夫か? 体調が悪いのか?」
「お気に、ゲホッ! なさら――ゴフォッ!」
口元を手で押さえ、光学迷彩魔法で隠しておいた血糊を破きつつ魔法を解除し、あたかも激しく吐血したかのように装う。
さらにしゃがみ込んで顔を伏せ、零れ落ちた血糊を衣装が拾うように気を付ける。地面に血糊を残してしまったら、万が一それを調べられた時に演技がバレる。
真っ白な衣装がじわじわと赤く染まっていく。
「ち、血が!」
「……やはりまだ、大技は2回が限度、ですか」
苦悶の表情で意味深な言葉を残しながら光と化し、俺はその場を立ち去った。