ハピエン教団(団員1名)信者の俺、魔法少女アニメの世界に招かれたのでハッピーエンドを死守するため戦っていたらいつの間にかクソデカ感情を向けられていた   作:pfk

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9話 不思議なお隣さん Side:紫蝶

 魔法少女戦隊のミーティングを終えた私は、お菓子パーティーで盛り上がる下級生を残して一足先に自宅へ戻って来ていた。

 元々知り合いもいない戦隊の中で唯一の3年生であり、加入も一番最後だったこともあって正直まだ馴染めているとは言い難い。なんだか気まずさを感じて、用事があるからと嘘をついて抜け出してしまった。

 

 それに元々、私は人付き合いが得意じゃない。

 わざわざ実家を離れて中学時代の同級生がいない他県の高校に進学したのも、煩わしい人間関係を断ち切るためだった。

 

 それが間違いだったとは思わない。思わないけれど、

 

「幼稚だったわ」

 

 友達なんていらない、と言ったら嘘になる。

 高校に進学した当初は、二度と親しい相手なんて作りたくないってくらい思いつめていたけれど、時間が過去を少しずつ忘れさせてくれて、今では戦隊の子たちともっと仲良くなりたいと思えるようになっていた。

 

 同級生は……、流石に無理でしょうけど。

 今までずっと話しかけるなオーラを纏って、話しかけられても冷たくあしらい孤高を貫いてきたから、今更私と仲良くしようとする同級生はいない。

 お高くとまりやがってとか、氷の女王とか、色々陰口も叩かれてるようだし、そんな私に話しかけるような勇者はいないでしょうね。

 

 でもそれは良い。元々、そういう裏で陰口を叩くような人間や、容姿だけ見て寄ってくるような猿を遠ざけるための自衛だったのだから。

 

 唯一後悔があるとすれば、コミュニケーション能力を磨くのを疎かにしていたせいで、戦隊の子たちとどうやって距離を詰めて行けばいいかわからない、ってことくらいかしら。

 

 ピンポーン!

 

「はい」

 

 録画していたコント番組を見ながらそんなことをつらつら考えていると、不意にインターホンのチャイムが鳴った。

 けれど、応答してもカメラには誰も映ってないし声も聞こえない。

 

「もしもし? ……どちら様ですか?」

 

 反応がない。いたずらかしら。それともインターホンの故障?

 荷物が届く予定はなかったと思うけれど……、勘違いしてて不在再配達とかになったら良くないし、一応様子だけ見てみましょう。

 

 ドアスコープ越しにも誰の姿も見えないけれど、念のためドアチェーンをかける。

 

「いたずら……?」

 

 ピンポンダッシュをしている子供でもいるのかもしれない、などと考えながら扉を開くと、インターホンに映らない程度の位置にラフな格好の男性が立っていて、インターホンの前というか下の方にでっぷりとした三毛猫がちょこんと座っていた。

 

「あの、何か御用ですか?」

「いや俺じゃなくて、うちの猫が、ですね……」

 

 配達員という風体でもないし、ましてや知り合いでもない。

 何か良からぬことでも考えているのではないかという警戒もあり、威圧するように声をかけた。

 するとその男は、しどろもどろになりながら視線を彷徨わせて、落ち着かない様子で何やら言い訳を始めた。

 

「はぁ? 何言って」

 

 猫が、なに?

 まさか猫がインターホンを押したとでも言いたいのかしら。

 これって新手のナンパ? 歳は私と同じくらいに見えるけど……、もしかしてストーカーとか……

 

 ピンポーン!

 

 あまりにも衝撃的な光景を目にして思わず思考が止まる。

 足元にちょこんと座っていた三毛猫が、デブ猫と言っても過言ではないその見た目に反して軽やかに壁を蹴って宙に舞い、前足でインターホンを押したのだ。

 

 そしてちょっとだけ開けていた玄関の隙間からするりと私の家に侵入してきた。

 

「え? え?」

「馬鹿! 猫! 戻って来い! ねこー! バカな真似はやめろー! お前は完全に包囲されている! 大人しく出てこーい! 今ならまだ許してやるぞー!」

 

 男性が本気で焦ったように声をあげ、猫に投降を呼びかけていた。

 猫に人の言葉がわかるはずもないのに、あまりにも必死なその様はちょっとだけ滑稽で笑いそうになった。

 

「え~っと、お姉さんすみません。うちの猫が悪戯でインターホンを押してしまったみたいでー。猫アレルギーとかじゃねければですね、ほんとに申し訳ないんですけど捕まえて引き渡してくださるとありがたかったりするかなーと。あと警察には通報しないでくれると助かるかなーと。いや本当に申し訳ございませんがよろしくお願いいたします。保健所なら通報してもいいです」

 

 深々と頭を下げてとにかく猫を引き渡して欲しい、あと警察には通報しないで欲しいと懇願する男性を見て、これは本当に猫の気まぐれで起こった不慮の事故で、他意はないんだろうなということが察せられた。

 

 それがわかったからか、少しだけ気が抜けてしまった。

 

「猫! 3秒間だけ舞ってやる」

「ふっ」

 

 短すぎるっ

 

「え?」

 

 懲りもせずに猫に呼びかけるその姿と内容に、思わず内心でツッコミを入れて笑ってしまった。

 そして頭を下げたままだった男性が顔を上げて、凄く意外そうな顔で私を見ていた。

 咄嗟に、にやけてしまった口元を隠して視線が合わないように下を向く。

 

 不意に素の部分を曝け出してしまったようで、なんだか恥ずかしくて。

 

「にゃー!」

「お前この猫だからってやっていいことと悪いことがあるんだからな! 本当にうちの馬鹿猫がすいませんでした!」

 

 可愛らしい鳴き声をあげながら猫は男性の元へ帰って来て、その男性は猫が逃げ出さないように抱きかかえながら再び深く頭を下げた。

 

 悪気があったわけではないみたいだし、それを口実に連絡先やら名前やらを聞いて来る様子もないし、警察を呼ぶほどのことではないわね。

 

「いえ、猫のやったことですから」

「そんな子供のやったことですからみたいに」

「ふふっ」

 

 ボケたつもりはなかったのだけれど、小気味の良いツッコミを受けてまたしても思わず笑ってしまった。

 再び口元を隠して下を向く。笑いの沸点が低すぎると思われたかしら……。

 

「ほんと突然すいませんでした。あ、俺はちょっと前に隣に越して来た尾張って言います。怪しい者ではございませんので、失礼させていただきたく……」

「ああ、お隣さんだったんですか」

 

 たしかに隣の部屋は空き部屋だった。

 でも新しい人が入居してたのは知らなかったわ。

 私が学校に行ってる間に引っ越し終わったのかしら。

 

「……あの、一つだけ聞いてもいいですか?」

 

 お隣さんということがわかって、もう一段警戒心が緩んでしまいつい呼び止めてしまう。

 一つだけ、どうしても気になることがあった。

 

「は、はい、なんでしょう」

「その子、ねこって名前なんですか?」

 

 この人、ずっとねこ、ねこって呼んでたのよね。

 

「あ、あー、いやそうなんですよー。良い名前が思いつかなくて仮でね! 猫って呼んでたらそれが名前として定着しちゃった! みたいな感じですねー、はい」

「猫にねこって、ふっ、変な人ですね」

「ほんとですよね! では!」

 

 お隣さんは愛想笑いを浮かべて、しきりにペコペコと頭を下げながら隣の扉を開いて自宅へ戻って行った。

 これをきっかけにお近づきになろうなんて微塵も考えてない感じで、むしろなるべく関わりたくないというような態度にも見えた。

 

 もしかしたら、私みたいに人間関係で嫌な思いをしてきた人なのかもしれないわね。

 

 それにしても不思議なお隣さんだったわ。

 面白い人、というのはそうだけど、なんとなくそれだけじゃなくて。

 一見普通の人にしか見えなかったけど、どこか浮世離れしているような気もして……。

 

 だけど決定的にこれだと言い表す言葉も思いつかなくて、最終的には猫に話しかける変な人という認識で落ち着いたわ。

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