スマホのアラーム音が部屋に響く、このアラーム音が鳴っているのなら今は朝6時なのだろう。私は手探りでスマホを探しアラームを止めて布団から起き上がる。手を使って家具の配置を確認しながら冷蔵庫まで歩いて行く。冷蔵庫の中には1食で1日分の栄養とエネルギーを摂取する事ができるゼリー飲料と飲水しか入っていないので分かりやすい、私はゼリー飲料を手に取り冷蔵庫を閉め、蓋を開けゼリーを飲む。
「ん、今日はりんご味か。」
昨日はマスカットだったけ、適当に冷蔵庫に詰め込んでいるので毎日なんの味か飲むまで分からないのが朝の密かな楽しみだったりする。朝ご飯もすんだので次は身だしなみを整えよう、今の状態が分からない私にとって何を整えればいいのか分からない。
「こんな感じ…なのかな」
とりあえず髪の毛のハネは無い…はず、こういう時はどうしても人の目が欲しくなってしまう。
「ヤチヨさん。今日の身だしなみはどうですか、変な所はありませんか?」
『大丈夫、今日も暮葉は可愛いよ。ヤッチョが保証しちゃう!』
大丈夫らしい。可愛い…は正直分からない。家族や友人、自分の顔すら分からない私には容姿の良し悪しなど分かる筈もない。ちなみに今のは『ヤッチョがお助け!』というアプリで、AIライバーの月見ヤチヨが運営予定のアプリで、私のような人の為にスマホやPCのカメラ機能を通じて生活の一部を手助けしてくれるアプリを作りたいらしく私はそのアプリのテストユーザーに選ばれたらしい、テストユーザーに応募した記憶は無いけどたぶん知らず知らずの内に応募ボタンをクリックしたのだろう、しかし上京したその日にテストユーザーになるなんてなんともタイミングが良い。
「いつもありがとうございます。ヤチヨさん」
『良いの良いの、ヤチヨがやりたくてやってるだけだから。それと敬語、もうちょっとラフな感じの方がヤッチョは嬉しいなぁー』
「敬語は癖なんです」
ヤチヨさんにこう言われるのは何も初めての事ではない。誰かに頼る事が多い私は敬語で接する事が多く、いつの間にか敬語で喋ることが多くなってしまった。
『でも家族にはそうじゃないでしょ?』
「家族に対してもこんな感じですよ」
思い出されるのは上京する前にした母との会話
『お母さん。お願いがあります。』
『なんや、言うてみ』
『私、東京の学校に通いたいです。』
『…1人でか』
『はい』
『アンタ、自分が1人で生きてけると思ってるんか』
『それを証明する為に私は東京に行きます』
『生活費と学費はどないすんねん。アンタに稼げるんか』
『私でも働ける所に内定を貰っていますので自力で稼ぎます』
↓(4時間ぐらいの話し合い)
『……ええよ。やってみ』
『ありがとうございます』
昔は家族に対して敬語で接する事は無かった。けど、父が亡くなり母が厳しくなったあの日からいつの間にか私は家族に対しても敬語になっていた。
『双子のお姉さんにも?』
「はい」
私は双子の姉についてヤチヨさんに話しただろうか?いやヤチヨさんが知ってるのだからいつかポロっと言ってしまったのだろう。私はそこで思考を止め、着替えを終え通学用の鞄を持ち。
「ヤチヨさん。これから学校なのでもう大丈夫です」
『りょ〜。暮葉気をつけてね?何かあったらヤチヨでも誰でも良いから頼るんだよ』
私は子供か。ヤチヨさんはそう言うとそれっきり喋らなくなった。私がヤチヨさんに頼るのは家の中だけとテストユーザーになった日にそうヤチヨさんと話し合い決めた。外でもヤチヨさんに頼ってしまっては1人で東京に来た意味がない、私は1人で生きてける事を証明しなければならないのだから。私はスマホをスカートのポケットに入れ玄関へと手探りで歩き出す。玄関に着くと靴を履き慣れ親しんだ相棒とも言うべきそれを握り外へと出る。
「あ…」
隣から声がした。どうやらあの人も同じタイミングで学校に行くようだ。
「おはようございます。酒寄さん」
「お、おはよう…暮葉」
私は声がした方を向き挨拶をする。酒寄彩葉。隣人で同じ学校の同級生。そして
「あ、あの暮葉。一緒に」
「お誘いは嬉しいのですが私と一緒に居ると要らぬ注目を集めるので」
私はそう言うと反対方向を向き白杖を使いゆっくりと歩き始める。あの人、姉がどんな表情で私に話しかけてくれたのかは分からない。何故なら私は生まれつき
目が見えないのだから
序盤で分かった人も多いと思いますが暮葉は目が見えません。
あと玄関で手に取ったのはただの白杖です。
もの凄く軽い説明
酒寄暮葉(くれは)
家にいた頃は普通のご飯を食べていたが上京してからは食べ安く、手頃な値段のゼリー飲料を飲んでいる。ヤチヨはそれをやめさせたい。彩葉とは何かありそう…?