私は1人で生きていける   作:ふぁ!?

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他の超かぐや姫!作者の皆様が完結したりラストスパートにかかっているのに対し、今だにこの辺でウロウロしてる作者です!
なんかお気に入り登録者400超えてるぅ!?UAもめちゃくちゃ増えてるぅ!?ありがとございます!良ければ感想とかもモチベになるんでお願いします!ところで皆さんマジで何処からこの作品見つけてるんですか…?

あと、今回アホみたいに長いです。ここまで書き切ろうってラインまで書いてたら過去一長くなった。え?どのくらい長いんだって?基本2000字ぐらいだとしたらね…今回はその6倍つまり12000字だよ…!こんなに長いのは今回だけなんで次回からは2000字に戻ります。こんな駄文を長く書いてすまねぇ…!


第6話

『暮葉〜!朝だよ起きて〜!』

 

耳元で充電しているスマホからアラーム音にしては元気で、アラーム音にしてはまるでこちらに呼びかけているような声が部屋に響く。

 

「おはようございます…」

 

『おはよう。暮葉』

 

アラーム音、ではなくヤチヨさんに挨拶をする。こうやってヤチヨさんが起こしてくれるのは何も初めての事じゃない。こういう時は大きく分けて2つのパターンがある。

 

1.私が寝坊している時

 

2.ヤチヨさんのテンションが高い時

 

上京してすぐの頃に1度寝坊してしまった時はヤチヨさんは私以上に焦っていたのでたぶん今回は後者だろう。そうなるとヤチヨさんのテンションが高い理由は1つだけ。

 

「今日はライブですか?」

 

『そう!よく分かったねぇ〜』

 

「ライブの日は毎朝モーニングコールをされ続ければ流石に分かりますよ」

 

何故ヤチヨさんがライブの日に私を起こしに来るのかは分からない、前に聞いた時は『う〜ん…勇気を貰いに来てるから、かな?』となんだかはぐらかされた回答をされた。

 

「ライブ。成功すると良いですね」

 

『お任せあれ〜!このライブはヤッチョにとってとーっても、とーっても大事なライブなんだ』

 

いつもはどうやってファンの皆を楽しませるか、どうやって喜んでもらえるかを楽しそうに考える。そんなヤチヨさんが今日はいつになく真剣だ。

 

「そんなに大事なんですか?」

 

『そりゃ〜もう!この日の為にヤチヨは8000年生きてきたと言っても過言じゃないからね!』

 

「それは凄い…」

 

ヤチヨさんは歌って、踊れて、分身も出来る、8000歳のAIライバーとして活動している。今のもそういう設定の話なんだろう。

 

「では、お祝いしないとですね」

 

『え!暮葉お祝いしてくれるの!』

 

「と言っても、私はツクヨミに入れないので出来る事が限られますが」

 

ヤチヨさんが作った世界。VR空間ツクヨミはスマコンと呼ばれるコンタクトレンズを使用して入る空間だ、目が見えない私はスマコンを着けてもツクヨミに入る事は出来ない。

 

『う〜ん、何してもらおっかなぁ〜!』

 

「そんな期待されても困るんですが…」

 

私に出来るのなんてヤチヨさんの配信にスパチャするとか、ヤチヨさんの動画の再生数に貢献するとか、そのレベルの事しかないんだけど。

 

『ライブが終わるまでには考えとくね!』

 

「できれば軽いものでお願いします」

 

こうやってヤチヨさんとお喋りをしているが、既に身支度は終わっている。私は冷蔵庫からゼリー飲料を多めに取り出し一部を袋に移し鞄の中に入れ、1つはその場で開けて飲む。今日はぶどう味だ、他は冷蔵庫の上に置くとヤチヨさんに確認してもらう。

 

「ヤチヨさん、このゼリー飲料の味教えてもらえますか?」

 

『りょ〜!右からマスカット、りんご、いちごだよ』

 

「ありがとございます」

 

私はそれら3つを別の袋に入れて手に持ち、玄関の方へと向かって行く。

 

『3連休も終わって今日から学校だもんね』

 

「と言っても、もう少ししたら夏休みですが」

 

『暮葉は夏休み何か用事あるの?』

 

「無いですね、去年と同じで今年も勉強ですかね」

 

学校にも地元にも友人は居ない。当然と言えば当然だ、ファションの話も出来ない、ゲームの話も出来ない、遊びに行こうにも場所を選ばないといけない、私と一緒だと何も出来ない。だからあの人は私を…

 

『う〜ん。今年はちょっと違うかもよ?』

 

「違う?それはどういう」

 

『あ!ヤッチョそろそろライブの準備しないと!さらばーい!』

 

それっきりヤチヨさんは喋らなくなってしまった。ヤチヨさんが言った言葉の意味を考えながら私は白杖と袋を手に部屋を出た。

 

「えー!やだー!」

 

「離れなさいよ!」

 

外に出るとあの人と少女が何やら言い争ってるようだ。

 

「おはようございます。酒寄さん」

 

「あ、暮葉。おはよう」

 

「聞いてよ暮葉ー!」

 

そう言って私に抱きついてくる少女。…ん?

 

「あの…また大きくなってません?」

 

「朝起きたら私達と変わらないぐらいまで成長してたの…」

 

驚異の成長スピード。3日でこのペースなら1週間経つ頃にはおばちゃんになってるのでは…?老人ホームって宇宙人いけるかな。

 

「彩葉がクソマズパンケーキ食べさせるし私を1人にするー!」

 

「クソマズパンケーキ?」

 

「これ!」

 

その言葉と共に口に何かをねじ込まれる。これは…?

 

「うっ…!」

 

体が拒否反応を起こしている…!私は何を食べさせられたんだろうか、噛む度に口の中の不快感が増していく…!というかこれ本当に食べ物…?不快感を我慢しつつなんとかソレを飲み込む事に成功した。

 

「な…なんですかこれ」

 

朝一なのに何故か全身が倦怠感で襲われているんだけど…?

 

「彩葉が作ったパンケーキ!これを私に食べさせようとしてるんだよ!酷くない!?」

 

これが…パンケーキ…?そこまでパンケーキに詳しい訳ではないけど昔食べたパンケーキは甘くてふわふわしていた。断じてこんな噛む度に不快感が増し、食べれば倦怠感に襲われる劇物では無い。

 

「な、なによ…これにすると1食100円ですむのよ」

 

「…酒寄さん。私もあまり良い食生活では無いと思ってますけど流石にこれはダメです。健康に害が出るレベルです。これはパンケーキではなく1種の兵器です」

 

「そこまで言う!?」

 

私がゼリー飲料を食べてたから良かったものの、固形物を食べてたら今頃…うん、これ以上考えるのはやめよう。

 

「とりあえず今日はこれでも食べてて下さい」

 

そう言って私は手に持っていた袋を前に差し出す。

 

「中にゼリー飲料が3つ入ってます。あまり良いものでは無いですが、少なくともそのパンケーキよりはマシです」

 

「わぁ〜い!ありがとう暮葉!」

 

「そんなに酷いかな…?」

 

「酒寄さんはまともな物を食べて下さい」

 

「それは暮葉にも言える気が…」

 

「少なくともゼリー飲料はまともな部類です」

 

市販品がこんな劇物な訳ないでしょうが。というかこの人こんな食生活なのに昨日私の事怒ったんですか。

 

「あ、そうでした。すいませんが少しこちらに来てもらえますか?」

 

私は少女を呼ぶと誰かが、恐らく少女が私に抱きついてきた。

 

「呼んだ〜?」

 

「呼びましたけど抱きつかなくて良いです。ちょっと顔を触らせて下さい」

 

「ん〜?良いよ!暮葉に触られるのは気持ちいいし!」

 

「……」

 

否定したいけど触ってるのは事実だから否定しようがない。

 

「では、失礼して…」

 

私は少女の顔に触れる。昨日、というか今朝と言うべきか、とにかく前に触った時とあまり変化はない。強いていうなら昨日より輪郭がしっかりとしたぐらいかな。

 

「はい、ありがとうございます」

 

「えぇーもう終わりー?」

 

「前は赤ちゃんから急成長したので覚えるのに時間がかかっただけで、今回は特に大きな変化は無いのでそんなに触る必要は無いんです」

 

ぶーぶー、と文句を言う少女の頭を軽く撫でる。

 

「暮葉ってなんでそんなに私の顔覚えようとするの?」

 

「なんで、ですか…」

 

今まで聞かれた事の無い質問なので少し戸惑う。

 

「目が見えないので、せめて親しい人の顔ぐらいは覚えたいから…ですかね?まぁ、貴方の場合は別の理由もありますが」

 

「別の理由?」

 

「私なりのアルバムを作ってるんですよ」

 

「アルバム?」

 

今まで静かにしていたあの人が声をあげた。

 

「私には写真はただの紙にしか感じません。私には映像はただの音にしか聞こえません。私には物事を視て覚える事ができません」

 

「だから私は形で覚えます。赤ちゃんの頃の貴方の形、少し成長した貴方の形、小学生くらいに成長した貴方の形、そして、私達と同じくらいに成長した貴方の形、それらをもって私は私だけのアルバムを作ってるんです」

 

この3日間で自分でも驚くくらいに、この娘に情が湧いている事が分かる。

 

「アルバム、そっかぁ〜…そっかぁ〜!」

 

そう言うと少女は私に飛びついてくる。

 

「なんですか」

 

「じゃあしっかり覚えてね!」

 

そう言うと少女はより一層力強く抱きついてくる。痛くはないけど夏場なので密着してる部分が暑くなっていくのを感じる。

 

「暑いんですが…」

 

「彩葉も!」

 

「え?ちょ…!」

 

少女は一度離れたかと思えばすぐに腰に手を回されて誰かに引き寄せられる。

 

「暑いんだけど!」

 

「これどういう状況ですか?」

 

隣からあの人の声が聞こえる、たぶん少女が私とあの人に抱きついているんだろう。

 

「あ!これなら形だけじゃなくて匂いも覚えられるよ!」

 

スンスン、と匂いを嗅ぎ始める少女。

 

「流石にそれはやめて欲しいんですが…!」

 

「アンタいい加減に…!力つよ!」

 

こんなに引っかれたら汗だくになるし、両腕も拘束されてるから形覚えるどころの話じゃないんだけど。

 

「これじゃあ手が使えないので何も覚えられませんよ」

 

「じゃあ私が覚える!私が暮葉と彩葉の匂いと形をずっーと覚える!」

 

「匂いはやめて」

 

この娘が来てからずっと振り回されている。だけどこの娘に振り回されたおかげで、5年間話さなかったあの人とも話すきっかけにもなった。この娘に振り回されるのを少し楽しんでいる自分がいるのも事実、最初は大変だったけどこの娘と過ごす日常も悪くないかもしれない。

 

「…あ!暮葉。時間!」

 

「え?」

 

私のスマホからアラーム音が鳴り響く、このアラーム音は本当にギリギリのタイミングの時間に鳴る様に設定していて、いつもなら電車の中で解除するこのアラーム音が鳴るという事はつまり…

 

「「遅刻!?」」

 

私はなんとか少女の腕から抜け出して、白杖を使いつつ安全を確認しつつ早歩きで動きだす。

 

「え!暮葉も彩葉も行っちゃうの!?」

 

「アンタ部屋から出ないでよ!」

 

「学校が終わったらすぐに帰るので待ってて下さい!」

 

私は階段の手すりに手をかけた瞬間に後ろからもの凄い力で引っ張られた。

 

「やだぁ~!一緒居て!」

 

「こら!暮葉から離れなさい!」

 

「やだぁ~!」

 

「あの離して…!」

 

「1人にしないでぇ~!」

 

さっきこの娘と過ごす日常も悪くない、そう思ったけど少し考えないといけないかもしれない。

 

学校にはギリギリ間に合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん。君の学力なら進学だって問題ないよ?」

 

放課後の職員室、担任と私の進路について話しあっていた。

 

「いえ、進学は難しいです」

 

「いやいや、君の学力ならそれこそ東大だって夢じゃないよ」

 

そう言って豪快に笑う担任。

 

「正直、高校の勉強も人より理解するのに時間がかかります。大学なんてとてもじゃありませんが今の私の学習スピードでは遅かれ早かれついて行けなくなります」

 

無知は罪。私は1人で生きていく為に猛勉強した。私は中学でも高校でも特別にスマホでの授業撮影が許可されているから、家に帰りそれを理解出来るまで聞き、教科書の内容をスマホで読み取り音声として聞く、見える人がすぐに理解できる内容でも私には理解するのに時間がかかってしまう。今でこそギリギリなのにこれ以上レベルを上げるのは無理、だから私の進路は変わらない。

 

「でもなぁ…酷な事を言うが君は普通の仕事に就くのは難しいだろう」

 

「先生の懸念はもっともですが、なんと言われようが私は就職します」

 

「うーん…」

 

「大学の様に毎日やる内容が変わるような所ではなく、ある程度決まった内容の仕事なら私でも出来ます。現に私はアルバイトをして給料を稼いでます」

 

私は1人で生きる為に勉強してるだけであって、進学したいから勉強してる訳じゃない。

 

「それに、今の私の給料では大学の学費は払えません」

 

「親御さんに頼れないのか」

 

「無理ですね」

 

学費と生活費を自力で稼ぐ条件で1人暮らしを認めて貰っている状況で、大学の学費の援助なんて頼んだら連れ戻されるのは目に見えている。そもそも大学に行く気は無いけど。

 

「まぁ、もし気が変わったら教えてくれ。進学にしろ就職にしろまだ時間はある、ゆっくり考えような」

 

失礼しますと頭を下げて職員室を出る。廊下では学生の笑い声や雑談の声で満たされている。

 

「これからどっか行かね?」

 

「いーね!行こ行こ!」

 

「帰ったらツクヨミ集合な」

 

「おっけー、待ち合わせ場所はいつもの所で」

 

他に寄る所も無いので教室に戻り鞄を手に持ちそのまま帰路に着く、廊下も階段も下駄箱も校庭もどこに行っても話し声や笑い声が聞こえる。この3日間は常に側に誰かが居てくれたので少しの寂しさを感じつつ歩き続ける。電車に乗り最寄り駅で降りある程度歩くと学生の声は行き交う人々の声に変わった。

 

「ねぇ、あの子見て可愛い〜」

 

「誰か尾行してるのかな?」

 

まだ夏本番では無いとは言えやはり暑い、日傘でもさしたい気分だけど日傘をさすと白杖と日傘で両手が塞がってしまい、もしコケてしまった時に受け身が取れないし日傘が人に当たるかもしれないので、結局この直射日光を浴びつつ帰るしか無い。そう言えばあの娘は大丈夫だろうか?大人しく部屋で待っているだろうか、部屋とか荒らしてないと良いけど、変な所を弄って火事になっていたり…凄い心配になってきた。一度嫌な想像をすると簡単には消えないようで歩くスピードが自然と速くなる。

 

「えい!」

 

誰かの声と共に私は腕を掴まれ何処かに引き寄せられる。先ほどまで少女の心配をしていた私の思考は一気に自分の心配に変わっていく、誘拐、物取り、通り魔、嫌な想像が頭によぎっていく。いっその事白杖でぶん殴ろうかと思ったが、抱きつかれる様な抱えられている様な状態で動けない。なら大声で助けを呼ぼうと息を大きく吸って声をあげようとする。

 

「暮葉捕まえた〜!」

 

何故私の名前を?というかこの声は

 

「…貴方。部屋で留守番してる筈では」

 

「暇だから来ちゃった!」

 

どうやら私を拘束しているのは例の少女だったようだ、そう分かった瞬間、全身の力が抜けていきその場に座り込んでしまう。

 

「おとと、暮葉?大丈夫?」

 

「えぇ…まぁ、大丈夫です」

 

なんとか全身に力を入れて立ち上がり少女に聞く。

 

「それで、暇だから来た貴方は何をしてるんですか?」

 

「彩葉と暮葉の後をつけてたの!」

 

「……何処からですか」

 

「学校?って所から!」

 

どうやらだいぶ前から後をつけられていたらしい。

 

「はぁ…じゃあ酒寄さんは何処に?」

 

「暮葉の前を歩いてたよ?そんで暮葉の歩くスピードが速くなったから、このままじゃ彩葉追い越しちゃう!と思って捕まえたの!」

 

どうやらあの人は私の前に居たらしい、お互いに気付かなかったのならそれなりに離れていたのだろう。

 

「それなら普通に声かけて下さい」

 

「そうすると彩葉にバレちゃうかもじゃん」

 

後をつけているのなら遅かれ早かれバレると思う。

 

「という訳で暮葉も一緒に彩葉の後つけよ!」

 

「帰りますよ」

 

「えぇー!?」

 

何を驚く事があるか

 

「当たり前です。貴方は見つかると色々と不味いんですから大人しく部屋に」

 

「あ!彩葉が行っちゃう!行こ暮葉!」

 

「ちょ!」

 

少女は私の手を掴むと歩き出した。こうされると私は抵抗出来ない、少女1人で尾行させるよりもまだ私が一緒の方が安全かな、と自分を無理矢理納得させる。

 

「ねぇ、暮葉1個聞いてもいい?」

 

「なんですか」

 

何か変な物でも見つけたのだろうか。

 

「なんで暮葉は彩葉の事名字で呼ぶの?姉妹なんでしょ?」

 

予想外の質問に一瞬返答に迷う。ここではぐらかしてもたぶんこの娘はあの人に聞くだろう、ならいっその事正直に話してしまおう。

 

「……あの人が私の事を嫌ってるからですよ」

 

「彩葉が?」

 

「色々とあったんですよ。私があの人に嫌われる事をして、あの人の妹じゃなくなったんです。だから私はあの人の事を名字で呼ぶんです」

 

少し話しすぎた気もするが言ってしまったものは仕方ない、少女は。んー、と唸ったかと思えば。

 

「それ、勘違いじゃないの?」

 

「…勘違い、ですか?」

 

「うん。だって彩葉、暮葉と話してる時嫌そうな顔してないし」

 

「顔に出さないだけですよ」

 

「今朝だって私が暮葉と彩葉に抱きついた時、何も言わなかったよ?」

 

「我慢してたんですよ」

 

「えぇー?」

 

少女は納得出来ない、といった感じの声を出す。

 

「でも、やっぱり勘違いだと私は思うな〜」

 

「何を根拠に」

 

「あ!彩葉がお店に入った!行こ!」

 

私が続きを口にする前に少女は私の手を引っ張って走り出すので私もつられて走り出す、私が走ると転んだり人や物にぶつかるリスクが増えるのでなんとかして少女を止めようと声を出そうとすると。

 

「むぐっ!」

 

「あ、ごめん」

 

少女が急に止まり、私は止まるタイミングが分からずそのまま少女にぶつかってしまった。…鼻が痛い。

 

「大丈夫、暮葉?」

 

「大丈夫です…それより何で急に止まったんですか?」

 

「目の前に階段があってね、このまま行くと暮葉が転んじゃうと思って」

 

どうやら私を気遣って止まってくれたらしい、気遣ってくれるのはありがたいけど、それなら走らないでほしいと少し思った。しかし階段か、少女の言う通り走りながら階段を登るとなると流石に危ない、かと言って私がゆっくり階段を上がっている間に少女1人で店に行くのは違う意味で危ない、そうなると少女に私のペースで階段を上がってもらうしかない。私が少女にそう提案しようとすると突然ひざ裏に手を回され私は持ち上げられた。

 

「え、えぇ!?」

 

「こうしたら2人で一緒に行けるよ!」

 

「ちょっと待ってくだ「いっくよー!」

 

私が言い切る前に少女は私を背負ったまま走り出した。この状態なら私が転ぶ心配はないけどそれとは別の恐怖が私を襲う、少女が階段を一段一段登る度に私の体は揺れる。

 

「落とさないでくださいよ!?転ばないでくださいよ!?」

 

「任しとき!」

 

不安しか無いその回答を今は信じるしか無い。この自由奔放な少女に降ろせと言っても無駄だろうと思い、このまま少女が安全に階段を登りきるのを願うしかない。大丈夫、階段を登りきれば降りれる、大丈夫。と自分に言い聞かせる。

 

「到着〜!」

 

「な、なら降ろして「中入ろ!」え」

 

またしても私が言い切る前に再び動きだす少女、階段よりは揺れないがそれでも怖いものは怖い。チリンチリンとベル音と共に冷気が全身を包む、どうやら店の中に入ったらしい。…待って店に入ったのなら他の人になんならあの人にもこの状態が見られるのでは?流石にそれは恥ずかしい…!

 

「あ、あのそろそろ降ろして…」

 

「うんま〜!これ美味しい!」

 

「…え?」

 

美味しい?何が?というか今更だけどここ何のお店?美味しいって事は飲食店なのかな、だとしたら注文もしてないお金も払ってないこの娘が食べてる物って…

 

「っ…!すいません!この娘が勝手に食べちゃったみたいで…!代金はお支払いします!」

 

なんとか財布を取り出そうと鞄に手を伸ばすが背負われている状態で上手く鞄に触れない、だけどそんな事言ってられないのでここは無理矢理でも降りて鞄から財布を取り出そうと身をよじる。

 

「え、は?暮葉?それにアンタなんでここに…!というかそれ私のパンケーキ!」

 

「…ん?」

 

「よっ、彩葉!」

 

あの人の声?パンケーキ?何がどういう…?

 

「????」

 

「あ、暮葉も食べる?」

 

「むぐっ」

 

そう言うと少女は私の口に何かを入れた。なんか今朝もこんな事あったような。

 

「…美味しい」

 

何を口に入れられたか分からないけど、ふわふわしてて甘いソレはとても美味しいかった。

 

「というか、いい加減降ろしてください…」

 

何かを食べたおかげで少し冷静になった私はようやく地に足をつける事が出来た。

 

「えぇと、これはどういう状況なんですか?」

 

「いや、それは私のセリフなんだけど…」

 

「暮葉と一緒に彩葉の後をつけてたの!」

 

「はぁ!?」

 

家に居ると思っていたのに、何故か自分の後をつけていたらそう言う反応になるだろう。

 

「えー可愛い。誰この子達?」

 

「彩葉の服着てる。彩葉の友達?この子は…彩葉に似てるね」

 

知らない人の声と共に誰かに頬を触られる。というか他に人が居たの?そんな話全然聞かなかったんだけど、じゃあ私はこの人とその友人におんぶ姿を見られたって事?…恥ずかしい…!

 

「パンケーキ好き?はいこれもど〜ぞ。貴方も食べる?って顔赤いけど大丈夫?」

 

「え、あ、大丈夫です!それと私目が見えないので…」

 

「そうなの?じゃあ、はい。あーん」

 

「え?あの、そう言う事じゃなくて私は別に…」

 

「あーん」

 

「あの…?」

 

「あーん」

 

たぶんこれ食べないと終わらないなと思い、大人しく口を開く。

 

「…美味しいです」

 

「そう?良かったー」

 

先ほどと食感は似てるけど味はチョコのような味で美味しい。という事はさっき食べたのもパンケーキだったのか。

 

「パンケーキ?これが?彩葉の全然ちが〜う」

 

確かに、あれはパンケーキでは無く似た形状の何かだった。

 

「紹介してよ彩葉、こんな可愛い友達2人も独り占めはズルいって」

 

私は友人ではないんですけど。

 

「いや友達っていうか…なんていうか…」

 

流石に月から来た宇宙人!なんて紹介は出来ないでしょう、ここは何か適当な話でお茶を濁そう。

 

「月から来たの!」

 

「…え?」

 

「ツキ…?」

 

「ジです!築地から来たんですよこの娘!」

 

ここまでの流れで分かってたけどこの娘自由すぎる!咄嗟のカバーにしては頑張った方だけど流石に苦し紛れすぎるか。

 

「わ〜美味しいお鮨屋さん教えて〜」

 

どうやら何とかなったらしい。この娘はもう少し危機感をもってほしい。

 

「可愛いね、お名前は?」

 

しまった!名前なんて考えてない!咄嗟につけようにも何をもって名付けすれば良いのか分からない、どうしよう…

 

「な、名前?名前は、えーと…か、かぐや!」

 

「かぐや〜〜かわよ〜」

 

「え〜ぴったりだね」

 

「かぐや?かぐや、かぐやかぁ〜!」

 

どうやら何とか切り抜けたらしい、あの人も咄嗟に付けた名前なのだろうけど、本人も気に入っているようだ。

 

「ごめん先帰る!ありがとね、ごちそうさま!この埋め合わせはまた今度!」

 

あの人はそう言うと私の手を掴むと私の体は凄い勢いで引っ張られてた。すぐに熱気が体を包んだ。少しの間、私の体はまるで宙を浮いているような浮遊感に襲われていたが、だんだん速度が落ちていくのを感じ、私の足は地面に着いた。

 

「さっきの建物涼しかったね、あれ彩葉の部屋でも出来ないの?」

 

「正気!?なんで勝手に外出てんの!?部屋に居てって言ったじゃん!月から来たって何!?暮葉が誤魔化さなかったら大変な事になってたんだよ!?なんで私の服着てんの!」

 

「だってーつまんないんだもん」

 

かなり怒っているあの人に対し、かぐやさんはいつもの調子を崩す事なく答えた。

 

「あのね、そんな風に生きてるといつか自滅するよ。時には我慢って物も必要で…」

 

あの人がまるで母のような事を言い出したと思ったら途中で喋るのをやめ、深いため息を吐いた。

 

「ねーこれどうやって使うの?」

 

「スマコンじゃん。私のやつ持ってきたの?」

 

「彩葉のノートPCで買えた」

 

「「は?」」

 

今なんて言った?スマコンを?買った?スマコンって確かスマホとかPCぐらいの値段がする筈…そんな簡単な買い物じゃない。

 

「ウォレット残高452円…死ぬ気で働いたんですけど…!死ぬ気で貯めたんですけど…!」

 

「あ、なんか銀行?のデータ書き換えればウォレットの数字増やせるっぽかったよ!やるっ?」

 

「それは絶対にやらないで下さい」

 

今日1日で分かった事は、かぐやさんにはまず常識を教えなければならない。

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

 

意気消沈と言った感じのあの人を連れてなんとかアパートに帰ってきた私達の前には今。

 

「まーずは、生のとうもろこしから作ったポタージュ。こっちは新ごぼうとアスパラのカリカリサラダ温卵付き。メインはトマト煮込みハンバーグ、ズッキーニのソテーをそ・え・て♪」

 

かぐやさんが作った料理がある。とてもいい匂いがして食欲をそそられるが恐らくこれも。

 

「これも…私のウォレットで…?」

 

「そだよ〜」

 

あの人から声にもならない悲鳴が聞こえる。

 

「良いから食べて!」

 

「お金がないのよ…貧乏なのよ、なんなのよ…美味いじゃないの…なんなのよ、あんた…久しぶりの美味しいご飯で…身体が喜びに満ちていくじゃないのよ…」

 

どうやら美味しいらしい。では私も食べようかな

 

「暮葉」

 

「私も頂きますね、料理の場所を教えてもらっても「あーん」…え?」

 

「あーん」

 

「あの…」

 

「あーん」

 

なんかこの感じさっきもあった気がする。これ私が食べないと終わらない感じ?

 

「…あーん。…美味しいです」

 

「良かったー!」

 

「あの料理の場所を…「大丈夫!暮葉にはかぐやが食べさせてあげる!」え」

 

今なんと…?

 

「あの、目が見えなくても場所さえ分かれば食べられますから「あーん」あの?「あーん」聞いてます?「あーん」……」

 

「あ、あーん」

 

恥ずかし…でも美味しい。

 

「「悪魔」」

 

「悪魔じゃないよ、かぐやだよ〜!」

 

今日何回目かのこの人との意見があった瞬間だった。ちなみにこの後本当にずっとご飯を食べさせられた。その間、何故かポケットのスマホが異様に熱を持っていたけど、食べ終わったらいつも通りの温度に戻っていた。寿命かな?一度修理にだそうかな。それとスマコンの代金は断られたが食費に関しては半分出させてもらった。流石に一ヶ月452円では生きていけないよ…

 

「あのさぁ…マジでここでは匿えないよ」

 

それはそう、流石に宇宙人をここで保護するのは厳しい。でもアテも無く外に放り出すのなんてマネは絶対にしたくない。

 

「ただでさえ親に無理言って1人暮らしさせてもらってるんだから、面倒事に巻き込まれたらすぐに連れて帰られちゃうし…ねぇ、聞いてる?」

 

それは私の部屋でも同様、というか私の部屋で預かるとなると目が見えないのでたぶん事故が多くて大変な事になる未来しか見えない。

 

「タカタカタカタカ…!ターン!」

 

かぐやさんは全然聞いてないようだ、というか何か叩いてる音がするけどいったい何をしてるんだろう。

 

「出来たぁ!」

 

「まさかサイバー犯罪とかじゃないですよね!?」

 

「流石にそれは…え、違いますよね?」

 

そうなると本当に匿えなくなんだけど。

 

「見て彩葉、暮葉。携帯ゲーム見つけたから弄ってみた!」

 

見てと言われても見えないんですけどね。というか弄ったって、何を弄ったんだろうか。

 

「これ犬DOGE!」

 

いぬどーじ?犬は辛うじて分かるけど、どーじって何?

 

「これでいつでも一緒〜!」

 

「ご機嫌ですね、てか一生住む気かよ」

 

「だって他に行く所ないし、もし捕まったらかぐやちゃん解剖されちゃうかも〜」

 

「月には帰れないんですか?」

 

「頑張って思い出そうとしてるんだけど、難しくて〜ぐぬぬ…」

 

まぁ、そんな都合よくはいかないか。

 

「はぁ…迎えがくるまでだからね」

 

「いいの!?」

 

「目立たない!外出ない!私と暮葉の邪魔しない!この3つが守れるなら家居て良いよ」

 

「え〜!?じゃあかぐや何も出来ないじゃん!暮葉〜」

 

「仮に私の部屋に来るとなるとプラスで怪我も自己責任がつきますよ」

 

「なんでぇ!?」

 

目が見えないから何が起きるか私にも分からないからね。

 

「嫌ならこの話は無かった事に」

 

「やだー!意地悪なし!」

 

「ハッピーエンドにするんでしょ?この状況も自分でハッピーエンドにしなよ」

 

「この映えないつまんない家で!?」

 

「それ私の所に来てもそうですよ」

 

そんなつまんない部屋なのだろうかここ、そんな事を考えていると突然アラーム音が鳴った。慌てて自分のスマホを確認するが私のスマホから鳴っている訳ではない、そもそもこのアラーム音は聞いた事がない、となると。

 

「あ!この時間までに予習やるつもりだったのに…」

 

どうやら、あの人のアラーム音らしい。

 

「なに?何処行くの!またかぐやを置いてくの!?」

 

「離して、ただツクヨミに行くだけだから」

 

「どっか行くじゃん!かぐやも連れてって!」

 

「アンタそもそもスマコンが…あーそっか、買ったんだもんねあーもう、あ!それと食費は定額制!」

 

「増えた!?」

 

どうやらあの人とかぐやさんさツクヨミに行くらしい、そうなると私は部屋に戻らせてもらおう。

 

「そう言う事なら私はここで」

 

「え〜!暮葉も行こ!」

 

「ちょっとかぐや!暮葉は…」

 

「あーすみません、私は目が見えないのでツクヨミに入れないんですよ」

 

「えぇ!?やだー!暮葉も一緒がいい!」

 

そう言って暴れ出すかぐやさん。うーんどうしよう…

 

「我儘言わないの!」

 

「やだぁ~!」

 

「アンタねぇ…ん?かぐや、これなに?」

 

「これ?暮葉の部屋の前に置いてたから持ってきた」

 

「私の部屋の前ですか?」

 

なんだろう、ゼリー飲料は注文してないし、誤配達?でもこのアパートには私とこの人しか住んでないし、もしかしてまた防犯グッズだろうか?

 

「勝手に持ってきちゃダメでしょ」

 

「すいません、ちょっと貸してくれますか?」

 

とりあえず渡してもらう。材質はダンボールで形は四角、大きさはそこまで大きくない、誰から送られて来たんだろう?一度箱を置いてスマホの読み上げ機能で確認してみる。

 

『yachi8000』

 

「yachi8000?誰?」

 

「知らないですね…」

 

「えぇ?これ危ないんじゃないの?警察に相談したほうが…」

 

「あ!中にスマコン入ってた!」

 

「は!?馬鹿!なんで開けたのよ!」

 

「かぐやさん…」

 

どうやらかぐやさんが開けてしまったらしい。

 

「中に手紙が入ってたよ!」

 

手紙の内容を要約すると、このスマコンは私のように見えない人でも使えるスマコンの試験機らしい、それを私に使って感想を教えてもらいたいとの事。

 

「えぇ、胡散臭くない?」

 

「そうですね、流石にこれは…」

 

どう考えても怪しい、やはりこれは警察に届けようか。

 

「えぇー!これ使えば暮葉もツクヨミに行けるんでしょ?行こうよツクヨミ!」

 

「いや、流石に怪しいですよこれ」

 

「いや絶対にダメなやつでしょ」

 

「えぇー!!」

 

その後もなんとか説得しようにもかぐやさんは聞く耳を持たず、どうしようかと思っていた所に一通のメールが私のスマホに届いた。

 

『酒寄暮葉 様

 

このメールはツクヨミ管理人の月見ヤチヨより送信しています。

まず最初に、今回はスマコン試験員として応募して頂きありがとうございます。そちらのスマコンは月見ヤチヨがプロデュースした安全なスマコンです。使っていただければ使用データが自動的にこちらに送信されるシステムとなっていますので是非楽しんでご使用下さい』

 

…また応募した事の無い物に当たってる。

 

「え!?ヤチヨプロデュースのスマコン!?何それ!?」

 

「私も聞いた事無いですね」

 

ヤチヨさんそんな事言ってたかな?

 

「じゃあ!これで暮葉もツクヨミに行けるね!」

 

どうやらそういう事らしい。なんか腑に落ちない点が幾つかあるけど、かぐやさんが早く行きたくて我慢出来ないようなのでとりあえず使ってみよう。大丈夫、例え変な事があっても最初から目が見えないからこれ以上失う物はない。私は決意を固めスマコンを起動した。




過去一長い小説の後には何があるかって?知らんのか、過去一長い後書きがあるんじゃ!という事で軽く色々と説明と言い訳をさせてもらいます。
まず、ヤチヨのテンションが高いのはライブをすると彩葉に会えるからっすね。
次に、暮葉が就職希望なのは彩葉と違って母親に認められたい訳では無く、1人で生きる力が欲しいので、1人で生きる力=金ってことで就職を希望してます。
で、えー言い訳なんですけど。暮葉がスマコンを使えるのは作者のエゴです。スマコン使えるんならなんで目見えない設定にしたねん!って怒られそうですが、超かぐや姫!って物語にツクヨミが大きく関わってくるのでツクヨミを抜くとなると、どうしても話がつまらなくなるので暮葉にはツクヨミに入って貰いました。ツクヨミに入らないルートを期待していた人には申し訳ありません。
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