オトモンマガドは黄昏れる   作:ムラムリ

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取り敢えず、ちょっとだけ続ける事にしました。


オトモンマガドは嗟嘆する

 水平線の向こうから遥々やって来た巨大な船が、積荷を一つ一つ丁寧に下ろしていく。

 この日ばかりはいつも釣りばっかりしているクシャルダオラとイヴェルカーナも場所を空けている。

 そして、それを手伝っている竜やらは大して居ない。力だけで言えば俺達の方が勝っているのに、大きな箱の一つ一つを人間が丁寧に運んでいる。

 手伝っている竜も、物を運ぶという事が出来るクルルヤックが数匹と、それからゴシャハギが一匹。それから大人しいただの草食の竜が紐を繋げられてゆっくりと竜車を引っ張っているくらいで、後は全部人間。

 積荷の大半が、竜なんぞに任せられない程に高価なものでもあるのだろう。

 

 目の前の光景をどう思う? とそのイヴェルカーナに聞かれて、そんな所感を返した。

「価値とか、色々分かっているのですね?」

「頼んでもないのにこいつが色々教えて来たからな」

 そのメル・ゼナが返してくる。

「俺達が海の向こうに行くには、信頼もそうだが、あの積荷分の価値も上乗せしなければな」

「俺達の重さで、か……気が遠くなる話だな。

 そう言えば、海の向こうまでどのくらいの距離があるのか、誰か知っていたりするのか?」

「私達は行った事はありませんが。ティガレックスは行った事がありますよ。

 船で数十日は過ごしていたみたいで、数年ぶりにこちらに帰って来た時は、見るからに痩せ細っていて……。久々のご飯では、涙も鼻水もとにかく垂らしていましたね」

「…………そうか、船に乗れたとしても、俺達の分の飯なんぞ大量に積んでられないか」

 そこまでして海を渡りたいか? って言われると、そこまでではないんだが。

「別に、お前は食い溜めが出来るだろう。かなり得意な方だろ?」

「そうだがな……、今は十日くらい何も食わなくったって平気だがな」

 こいつと比べてしまえば骨と皮ばかりとは言え、古龍には変わりないものをこれでもかと食ったからな。

「それでお前は? そういや退屈だからっていう理由だけでお前も海を渡りたいのか?」

「言ってしまえば番探しだな。俺の祖父も父とその兄妹も酷く苦労したようだし。俺もそろそろ探し始めようかな、と」

「そういう事か」

 メル・ゼナは結局キュリアを侍らせている方が余程に数が多い。

 キュリアを侍らせたまま番い、生まれた子供にも侍らせて。そうしたサイクルがある程度出来上がってしまったのだと。

「今の侵されているメル・ゼナは、凶暴だとは言え分かり合える程度の奴も多いとは知っているがな。

 ただ、ソレと交わるなんぞ、俺には想像出来ない」

 横顔をちらりと覗けば、苦々しいような表情を隠せていない。

 俺達が角を一番大事にするのと同じ程に、こいつは父親から強さと等しく、キュリアに対する憎しみを植え付けられている。

 難儀な事だ。

 それからも、人がちまちまと積荷を下ろしているのを眺めていると。

『おーい』

 目の前から俺達のライダーが走って来た。

 まだ大剣なんぞ持つのもやっとそうな、大人になりきってすらいないライダー。

 せっせと丘の上まで走って来て、ぜえぜえと息を整えているそいつに聞く。

「依頼か?」

『そうだよ! 前と同じで、ライダーになりたての僕なんかにまず来るはずのない、厄介な依頼だよ!!』

「ほう?」

 やる気満々な顔しやがって。

 

 

 

 ここから結構南に行った方に、一つの山があるんだけどさ、そこに盲目のタマミツネが住んでいるの。

 聞いた事ある? 天眼って。視力を失ったタマミツネが必死になっている内に特殊な力に目覚めたっていう。

 ……聞いた事あるんだ。博識だねえ。本当に何で僕に…………ああ、いや、続けようか。

 で、そのタマミツネなんだけど……。自分のライダーを殺したオトモンなんだよね。

 ……いや、討伐は出来れば避けたいというか、僕もしたくない。

 そのタマミツネは、そのライダーを殺した以外は、まだ誰も人は殺していないから。

 …………きな臭いなんてものじゃない。その殺されたライダーはね……タマミツネが視力を失うと時に特殊な力に目覚めるって事を知っていて……何十匹ものタマミツネの視力を奪っていた、らしい。

 その天眼になれた以外の、沢山のタマミツネが埋められていた痕が、後から見つかって。

 天眼になれたそのタマミツネは多分……それを見つけて、ライダーをその山の中で殺して、ずっとそこに居続けている。

 

 俺からしても悪趣味だな、と思っていると。

「それでそもそもの、依頼の目的は何なんだ?」

『可能ならば、オトモンにし直す事。無理なら……殺す事。

 人を殺していないとは言っても、それは結果的なものに過ぎないから。

 もうそれから何年も経っているけれど、天眼なだけあって、実力も生半可じゃなくて、警戒心も高くて、周りにも悪影響が強いみたいで、引き受けられるハンターもライダーもこれまで見つからなかったみたい』

 ……これは俺頼りじゃなくて、メル・ゼナ頼りの依頼だな。

 多分俺でも手を焼くというか、十中八九負けるくらいの強さがありそうだ。

 メル・ゼナは続けて聞いた。

「お前は、どうしたいんだ?」

『…………殺したくないけれど。でも、そんな甘い事ばっかり言ってられないって事も分かってる。

 でも、でも……僕も聞かされて、頭が真っ白になった。そんな……そんな酷い事をするライダーが居るだなんて思いたくもなかったから』

「まあ、そんな悪趣味な事をする奴は、俺等の中でもそんな居ないよな。

 殺す前に甚振る奴はぼちぼち居るが」

『……そうなんだ』

「戦うより殺すのが好きな奴が良くやってる。そういう奴等は食わない癖に殺すから、無駄に恨みを買って、勝手に死んでいくけどな」

「もしタマミツネが一匹で過ごす内にそうなっていたら殺すしかないが。

 ただ、何にせよ。行って、会ってみないと分からないだろう。

 そこから先は、お前の意思を尊重しよう。俺もこいつも、今はお前のオトモンだからな」

 あっけらかんと言うメル・ゼナに対して、ライダーはおずおずと聞いた。

『あ、あの……何で僕なんかの意思を尊重してくれるの? こんな弱っちいのに』

「健気な子供には力を貸したくなるものだろう?」

 ……そうか?

 そのメル・ゼナがお前は? と言うように顔を向けて来た。

「まあ……俺が無理やりオトモンになった時、街にまで戻ったらもう俺は縛られる側だって分かって、それを表に全く見せなかった事は褒めても良い」

 なんだかんだ、侵されたメル・ゼナと戦っていた間も、やれる事はきちんとやっていたしな。度胸はあるんだ、こいつ。

「それで、今回もお目付け役が同行するんだろ?」

『うん。オウガ夫妻がお目付け役』

「ふぅん。年寄り共ね」

 このイヴェルカーナとクシャルダオラの、厄介者だった父親を討伐したジンオウガとジンオウガ亜種。

 まだ動けるとは言え、もうとっくに全盛期は過ぎている奴等。

 ライダー抜きの単体ならどうにか勝てるだろうが、それでも確実に俺に深手を負わせてくるだろうとは直感出来る老獪さがある。

 

*

 

「久々の遠出は水入らずで楽しみたかったものだがな」

 雄のジンオウガが言うと。

「両方とも良い子ちゃんだから大丈夫よ」

 雌のジンオウガ亜種が返す。

「……」

 少なくとも、俺に対する良い子ちゃんが良い意味ではない事は分かる。

 俺の背に乗っているライダーが不安気に背中を叩いて来て。

『あんまり怒らないでよ』

「そこまで短気だったら、今の今まで生き残ってねえ」

「弱者の台詞だな?」

 適者の台詞だろと思いつつ返す。

「お前は煽る為に間違った事まで言うんだな?」

「ふぅん?」

 どうにも、少しは認めてやるというような顔をされた。

 別にお前達に認められなくたって良いのだが。

 

 急ぐ事でもないので、のそのそとした足取り。

 流石にこんなメル・ゼナまで居る団体に喧嘩を吹っ掛けてくる奴なぞ誰も居らず、挑発しあうのもすぐに飽きて黙って歩いていると、今度は上で人間同士が話し始める。

『運が良いだなんて……悪いの間違いじゃありません?』

『いや、結局ライダーなんてね、最後はオトモンをどれだけ活かせるかってところに落ち着いてくるんだよ。

 私がハンターみたいに武器を持ったりしても、結局ジンオウガが前脚を叩きつける方が強いんだから、全力で叩きつけられるように、土台作りをするのが私等ライダーの役目になる。

 そういう点でね、瞬間的な火力で言えば単体で古龍にも匹敵するマガイマガドと、古龍を正面から捩じ伏せる力を持つメル・ゼナがオトモンになった事は、その最大値が、そこまで伸びた事になる』

『だとしても、まだ手入れとか何もさせて貰えませんけど』

『そこはじっくり関係を深めて行けば良い。これから何年も、何十年も……もしかしたらお前が死ぬまで付き合う事になるかもしれないんだから』

 ……いや、それは無い。

 そう思ってると、メル・ゼナが俺を見ていた。

「……何だよ?」

「少なくともお前が思っているよりは長い付き合いになるだろうな」

「…………まあ、海を渡るまでは、少なくともな」

「海の向こうがお前にとって良い環境じゃなかったら、帰りたくなったらまたオトモンになり直すのか? そんな都合の良い事を許すと思うか?」

「…………」

 溜息。

 やっぱり俺は間違えたんだろうな。

 ただ……まあ、憂鬱になるとは言え、角が折れるとかに比べたらよっぽどマシではあるが。

 

*

 

*

 

『わ、わるかった、だ、だから、だからっ、やめ、やめてくれっ』

「命までは取らない。だが、同じように手前の両の目を、潰す」

『ひっ、いやっ、もうしない、もうしないからっ』

「もう? もう、なんだよ。もう、手前は終わったんだよ」

 押し倒す。抑え付ける。つい先日まで、コレを背中に乗せて至る所を駆け回っていた。

 今となっては、吐き気がする。コレを信頼出来るライダーだと信じていた事がとにかく気持ち悪い。触れる事すら最早したくない。

 だが、最後にしなければいけない事がある。

 爪を丁寧に添える。目がどこにあるかをなぞって確かめる。

『こ、こんな事しても、死んだタマミツネはどれも帰ってこないぞっ』

「…………」

 つい、殺しそうになった。けれど、それでは駄目だと必死に抑える。

 平べったい顔。鼻の上。窪みがある場所。

 爪を僅かに食い込ませ、滑らせる。

『いぎぃあああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛』

 手を離す。

「後は好きに生きて良いぞ。手前が今まで、幾多の私達にしてきたようにな」

『や、やだ、置いて行かないで、行かないでっ、どこっ、どこにいるのっ!? ぼくの目っ、目がぁっ!! 謝るから、一生かけて償うからっ、だから、助けてっ、助けてっ、助けてよお、助けてよおおおおおおおおお!!!!』

 

 それは、山中で無様に叫び続けた挙句、鳥竜どもに生きながら全身を啄まれて死んだ。一日経たずして。

 鳥竜どもは腹が減っていたのか、かなり綺麗に平らげて、残っていたのは地面にこびりついた血と、太い骨と、身に纏っていた鎧くらいのものだった。

 絆石も無価値なように、踏まれて砕けていた。

 それらも大雨が降った後には全て洗い流されて、今はもう何も残っていない。

 余りにも呆気なかった。

 もっともっと苦しんで欲しかった。

 

 

 

 ……目が覚めた。未だに夢の中では反芻してしまう、あの時の事。

 真っ白な視界。

 ヒレから伝わる空気の振動。鼻に届く僅かな臭い。

 ……また、誰か来たようだった。

 体が勝手に震える。

 そして、どうにも……私がどうしようとも勝つ事の出来ない相手が来たらしい。




やっぱりマガマガくん好きだし、ちょっと続き書こうかなーって思っていたら、以前構想してたもう一つの天眼タマミツネのオトモンものを思い出しまして。
MHST2プレイした後に、二つ名でも天眼ミツネをオトモンにするってどういうこっちゃって思って、悪趣味というか、憧れてしまったライダーが復讐されるって話をくっつけました。
原型は活動報告のどっかで投げてたはず。

まあ、取り敢えずこの天眼タマミツネ編だけは続けて、そっからはまた意欲次第っすかね。

ジンオウガ夫婦:
♂が元種、♀が亜種。
傍迷惑だったイヴェルカーナとクシャルダオラの父親をライダーと共に討伐した。
全盛期はライダー共々過ぎているが、まだまだ現役。
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