オトモンマガドは黄昏れる   作:ムラムリ

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オトモンマガドは観念する

「何やら色々話していたようで」

 きっと、タマミツネがずっとこちらの居場所まで把握出来ていた事まで気付いていながら、全く動いていなかったメル・ゼナ。

「……お前のそういうところ、好きじゃない」

「どのみち、俺だけでは最善には辿り着けない。

 あのタマミツネの首根っこを掴んで無理矢理オトモンにしたところで解決にはならない。

 そして、何の不自由なく生きてきた古龍たる俺が話したところで、タマミツネには響かない」

「その為に俺に危険を冒させたと?」

「信頼していると言ってくれ」

「…………」

 結局そうやって俺はこいつにいつも丸め込まれるんだ。

「それで? 我等がライダーはあのタマミツネに対しどのような判断を下すのだ?」

 目を向けられた、俺の背から降りたばかりのライダー。

 やはり、メル・ゼナの手下にしか見えないな。……俺も含めて。

『……すぐに決められない事だと思う。それで、すぐに決めなくても良いと思う』

「随分と甘い答えだな?」

『うん。でも……ちゃんと期限を決めるよ。十日間、ここに居続けてタマミツネが隠れ続けるようなら……』

 そこから先の言葉を、ライダーは続けられなかった……のを、メル・ゼナがさも当然のように続ける。

「殺すしかないな。どれだけ同情する過去があろうとも、その為に好き勝手する輩は人からしても竜からしても傍迷惑なだけだ。

 それに、ああいう振る舞いをし続けるなら、まず惨めな最期を迎える事になる。万一幸福を得られたとしても、その下には無駄に踏み躙られた屍がこれでもかと転がっている」

『そう、だね……』

 メル・ゼナは真っ直ぐとライダーと目を合わせて続けた。

「期限の時が来たら、私の背中に乗れ。そしてタマミツネの最期をその目に焼き付けろ」

『……うん』

 ……普通、あんな眼光を受けたらまずビビると思うんだけどな。

 

*

 

 ジンオウガ共は、タマミツネを見つける事もなければ、背後を取られて会話を強要される事もなかったらしい。

 ただ、気配だけは僅かに感じたとか。

 そうして渓流に戻ってきて、それからは大した捜索もしないまま一日、二日、三日と経っていった。

 時々狩りに赴いて、はたまた軽く模擬試合をし。

 雑談なぞすぐに飽きて、どうせだからとまた山の中を探索し。

 俺がライダーと居ようと居なかろうと、タマミツネが再び声を掛けて来る事はなかった。

 

 そして、期限と決めた半分も過ぎ、ライダーの落ち着きが少しずつ失せてきた、その七日目の事だった。

 夜、満月に近い、鬼火を使わずともある程度は動ける明るさの下で気晴らしに歩いていると、タマミツネとばったり出くわした。

 思えば、姿を見る初めてであり。俺が見てきたどのタマミツネより大きく……俺よりも大きく、ヒレも立派だった。

 ハンターが言うところの、最大金冠くらいはありそうだった。

 ……この体躯で、俺達に全く気付かれずに野山を移動していたのか。

 そう思いつつ、どうにも何かを探しているようで声を掛ける。

「何をしているんだ?」

「最後にもう一度だけ、怒りを晴らしたくてな。私が殺したあの屑の、骨の欠片や装備の欠片でも見つかれば、それを砕きたくてな」

 最後に、か。

 溜息。

「嫌か? 私が仲間に加わるのが」

「そうだな。俺だって強いはずなのに、俺の周りがそれとは比べ物にならない奴ばっかりになるからな」

「ははは。精々精進する事だな」

 俺の半分の半分程度しか生きていないであろう若造に、俺がどう努力して追いつくって言うんだ?

「それで? 随分と決心までに時間が掛かったな」

「お前達を見ながら、色々と反芻していた。

 あの屑とお前達は本当に違うのか? とな」

 メル・ゼナだけは最初から気付いていたのだろう。そして、結局あいつはずーーーーっと見られている事をおくびにも出さなかった訳だ。

 タマミツネは空高くに頭を持ち上げ、その屑を思い出す事に、けれど余り苦々しい顔はせずに続けた。

「あの屑と、私に絆というものはあったのか? あったとしてそれは、お前達と違ったものだったのか?

 あの屑が私に見せてきた嘘で塗り固めた誠実さと、お前達のライダーが見せる誠実さには、私にも違いが分かるものだったか?

 あの屑が他者と関わる時に、自分が後ろめたいところなど何もないと堂々としていた様と、実際にお前達が交流している時の感情には何か違いがあるものだったか?

 その答えを探っていた」

「出たのか?」

 だからこうして最後のけじめをつけようとしている?

「……いや。忘れたい記憶を掘り返しても、そんな違いが分かる程にもう、鮮明ではなかった」

「……へえ?」

「騙されていた時の私は、屑の事を好んでいたはずだ。

 寝食を共にし、あの時の私は絆というものすら感じていたとも思う。

 でも、どうにも、鮮明ではない。

 記憶に光景というものが紐づいていないからなのか? それともその所業を隠しながらライダーとして活動していたからなのか? それも分からなかった。

 ……お前は、その内あのライダーと別れるとして、その記憶はすぐにでも色褪せていくのか?」

「今のところは、簡単には忘れられなさそうだな」

 まだオトモンになって日が浅いが、深い山の奥で日々を暮らしていた時よりも何もかもが濃過ぎる。

 ラージャンや古龍すらもが当たり前のように人と共に生きている事も。

 人の文化を学んだティガレックスが居る事も。

 こんなタマミツネと会話する事も。

「絆というものが無いのにか?」

「絆、ね……」

 あのライダーと絆というものが全く無いと言われたら、多分違う。

「上手く言えないが……ただ仲良しこよしである事だけが絆という訳ではないだろう」

 メル・ゼナとも、どちらかと言えば俺は付き合わされている側だ。メル・ゼナが俺なんぞより何倍も強くて逃げられないから。

 だが、絆というものが全く無い訳ではないだろう。

「……そうだな。

 私があの屑に、犠牲となったタマミツネ達と同じ事を味わせようとした事に、何も躊躇を抱かなかったのが、きっと答えなのだろうな。

 過程がどうあれ、私とあの屑の間には、真の絆は結ばれていなかった」

 そこまで言うと、再び辺りの草を掻き分けて、その屑の残滓を探し始めた。

「明日にはそっちから姿を現す、で良いのか?」

「ああ。少なくとも、ここに来たライダーはあの屑よりは良い奴そうだ」

「街にまで行ったら、沢山のライダーが居る。色々聞いてみれば良い。

 良い意味で頭のおかしい奴等ばっかりだからな」

「良い意味で頭のおかしい……?」

 そう形容するのが一番似合っている。

 

*

 

*

 

 街に戻ってきて、翌日。

 近々出航するのか、今度は積荷を船へと運び入れている様を同じように丘の上から眺めながら、腕刃の手入れをしていると。

 ラージャンがのそのそとやってきた。

 すぐ隣に座って、他の誰にも聞こえないような小声で話してきた。

「俺さ、野良のままだったらあのタマミツネと出会していたんだよ。

 普通のタマミツネは何匹も殺した事はあるけどな、アレには……殺されるな」

「でも、野良だった頃のお前が襲い掛かるのは、止められなかった、と」

「だな。俺はオトモンにならなかったら、アレに戦いを挑んで、ほぼほぼ何も出来ずに殺されていたな。

 ……オトモンになってから、ライダーにリベンジしようと何度も挑んで、負け続けて、角も片方折って。

 そうしている内に俺もライダーも強くなっていたけどな。

 ……。

 …………。

 ……俺はラージャンだが、ただのラージャンでしかないんだよな……」

 ラージャンらしからぬ、かなりへこたれた雰囲気。

 その、垂れた尻尾。

 ラージャンは、激昂状態の時にその尻尾を千切られると、元には戻れなくなるらしい。

 その分より強くなるが、明らかに寿命が縮むのだとか。

 俺達マガイマガドが角を折られると狂うのと、どこか似ている。

 そこまで察したのか。

「俺も丸くなったからさ。こういう事言える相手がお前くらいしか居ないってのも分かってるし。

 ティガレックスの作る飯を楽しみにしているし。

 もし、俺がライダーに勝てたとしても、多分殺さねえだろうし。

 尻尾を千切ってまで、命を削ってまで強くなろうだなんてもう思えないんだよな」

「……俺達、強いはずなのにな」

「本当にな」

 元々野で生きてきた者は、生まれからオトモンとして生きてきた者には敵わない、だなんては思いたくはない。

 とは言え、タマミツネも幾多の犠牲の上に生き残る事の出来た個であるだけで、生まれつき異常ではない。

 生まれつき異常なのはティガレックスだけだ。

 

 暫くすると、今朝から健康診断だとかでギルドの方に連れられて行ったタマミツネが、ライダーと一緒に丁度出てきたところだった。

 そして、ライダーがタマミツネに乗ると、するするとこちらに向かってくる。

「また何か依頼でも引き受けたのか……?」

「大忙しだな」

 そして案の定、やってきたライダーは聞いてきた。

『メル・ゼナはどこ?』

「知らない。厩舎で一緒に寝たが、起きたらもう居なかったからな。ここ辺りを好きに飛んでいると思う。

 それで……また依頼か? 何でこうすぐさま依頼を受けるかね……」

『いやだって、僕の意志とは別にオトモンが増えていくんだから。厩舎に住ませるのだってタダじゃないし、この前、狂竜症や傀異化の予防注射だって受けたでしょ? あれだって結構お金掛かってるし、何より僕には元々、こんなデカいオトモンを住ませるだけのお金なんて全く持ってなかったんだから』

 溜息。

 あのチクっとした、形容し難い僅かな痛みまで思い出した。

「…………お前のオトモンになってから、毎日が濃過ぎる」

 そういうところに、生まれながらにしてオトモンとして生まれた竜の強さはあるのかもしれないが……。

「それで、今回の依頼は?」

『あの船と一緒に、何か来たみたいなんだよね。船には大した危害を加えなかったみたいだけれど、ちょっかいくらいは出されて気が気でなかったらしくて。

 ここの近くの川を遡っているかもしれないのを、調べろって』

「タマミツネだけで十分ではないのか?」

 それに対して、タマミツネが答えた。

「雷を使うみたいだからな。私とは滅法相性が悪い」

 水の中を泳ぎ、雷を放つ……それだけでもう候補は殆ど絞られたようなものだが。

「俺も水は苦手だぞ? 泳げはするが、鬼火は出せなくなる」

『うん、だから正直今回もメル・ゼナが居ないと不安というか無理だと思うんだけど……』

「まあ、あいつの事だ。勝手に探してすぐに合流するだろう。それまでは軽く調べておけば良い」

『そうだね。じゃあ、早速行こうか』

 のっそりと体を起こして、思い出した。

「あ、いや、明日からではダメか? 明日はティガレックスが飯を作る日な事を思い出してな」

『ごめん、お金がないっていうの、ちょっと嘘で。お金がないどころか、借金が沢山あるの。

 借りた鳥竜一匹からライダー生活を始めるはずだったのがさ、今やこんなでっかい竜や古龍ばっかりでさ。

 だから無理』

「…………」

 大きく、溜息。

 拒否して無理に留まったところで、ティガレックスの飯を食えない事も分かりきった事だ。

 だが、それよりも……こいつは、こいつなりに俺達を養うつもりではあるらしい。その代わりに振り回される羽目になるが、不思議と俺の中の鬱憤は吹き出すようにも見られない。

「仕方ない」

 度胸だけはあるこのライダー。

 メル・ゼナは健気な子供には力を貸したくなる、だとか言っていたが、まあ……俺もこいつが成長したらどうなるのか、気にならない訳ではない。

 ……何だかんだ、俺も楽しみ始めているのかもな、この新しい生活を。

 諦めて、伸びをして。

 軽く鬼火を出して、体の調子を確認してから聞いた。

「それで、今回のお目付役は?」




これで一旦一区切り。

それぞれの強さイメージ(ライダー抜き)
原初ゼナ
100
天眼タマミツネ
65
ティガレックス
50
イヴェルカーナ、クシャルダオラ、ジンオウガ、ジンオウガ亜種、マガイマガド
35~45
ラージャン
30~40

何だこの魔境!?!?
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