♢コマンドーS.G.T
「アニュレールと文車文が標的の誘拐に失敗したそうです。戻り次第詳しい話を聞くつもりですが、組長も同席しますか?」
「通話漏れてたから、何となく事情は把握しているわ。同席したいところだけれど、アーカイブの確認をしなければいけないから今回は不参加で。私の代わりに貴女がしっかり聞いて対策を考えなさい」
「はっ!」
オイラーの顔には隠しきれない怒りと失望が浮かんでいた。アーカイブを確認するというのは半分建前で、もし同席していたら最悪部下を殺してしまうと思って自制したのだろう。それくらい、オイラーがこの作戦に向けている思いは大きい。
オイラーが1人配信部屋に入ったのを確認してから、コマンドーS.G.Tは会議室へと移動する。その道中で、汗を拭きながら訓練室から出てきたサンデッドと遭遇した。
「サンデッド、ちょうどいいところに居たな。お前もアニュレール達からの任務報告の場に参加しろ。どうやら標的の周囲にはなかなか手ごわい魔法少女がいるらしい。お前が戦闘に参加する可能性は高い」
「⋯⋯はっ! 上司の命令でしたら謹んで従わせていただきます!」
サンデッドは、最近になって熱海組に加入してきた新入りの魔法少女だ。普段こうして話す分には堅苦しさを感じるくらいには真面目だが、ひとたび敵との戦闘になると容赦なく『暑い日差しでこんがり焼いちゃうよ』という魔法で辺り一面燃やし尽くす。戦闘力という面では熱海組の中でも随一だ。
しかし、コマンドーS.G.Tはサンデッドの言動にやや不自然さを感じることが多々あった。先ほども一瞬、こちらに返事をする際に目の奥の殺意を隠しきれていなかった。サンデッドがどんな意図で熱海組に加入してきたかは知らないが、もし裏切るようならその時はその時。きっちりけじめをつけてもらう。それまでは、怪しい魔法少女でも有効に活用してみせよう。
サンデッドを連れて会議室に入り、待つこと十数分。その間特に会話も無かったが、各々好きなことをして時間を潰していた。コマンドーS.G.Tが暇つぶしによく用いるのは携帯ゲーム機だ。旧型の携帯ゲーム機で遊ぶのは、王道のRPG。やはりゲームはRPGに限る。それも、バトルがコマンド形式のものだ。
コマンド形式のバトルは、考えることが多くてやりごたえがある。敵と味方の行動順に、敵の攻撃パターン、アイテムを使うタイミングなどを把握し、適切な行動を選ぶことで勝利を掴み取る。この積み重ねていく感覚が、コマンドーS.G.Tはたまらなく好きだった。勿論、この遊びは単なる趣味ではなく、自分の魔法である『コマンド形式で戦うよ』にも活かされる。古今東西のあらゆるコマンド型RPGを遊ぶことによって、戦いのバリエーションを増やすことが可能になってくるのだ。
「すんません! ちょっと遅れました!!」
「ノックして入ってこんかボケナス!!」
ステージのボス戦に差し掛かったタイミングで、バァンと勢いよくドアを開けて入ってきたアニュレールに、反射的に怒鳴りつけてしまう。ゲームが良いところだっただけに残念だが、仕事に戻る必要がありそうだ。怒鳴られてしゅんと肩を落としているアニュレールを、着席するように顎をくいっと椅子の方へ向ける。そこには既にちゃっかりとアニュレールの横をすり抜けて入ってきた
「ぶんぶん、お前は上司の前で勝手にモノを食うなと何回言ったら覚えるんだ」
「? 机の上に用意してあるモノを食べないのは失礼なのです。ぶんぶんは魔法少女だからお腹は空かないけれど、この食感がたまらなくよいのです」
今の文車文は、潜入時に魔法少女だとバレないように施していた地味メイクを解いているので、かなり華やかな見た目をしている。金髪にところどころ黒のメッシュの入った髪型は、変身前の文車文が蜂であるからだろうか。昔、オイラーが死にかけの蜂を気まぐれで助けたことがキッカケで組にペットとして飼われ、いつの間にか魔法少女になっていたという異色の経歴を持つ文車文は、変身前が虫である故に人間の常識やマナーが通用しない節がある。コマンドーS.G.Tはことあるごとに指導して人間の習性を教え込もうとしているのだが、なかなかうまくいかない。
「おいぶん吉! 会議室にせんべいのカスこぼしてんじゃねえぞ!! へへ、すんませんコマンドーの姐御。うちからも後できつく叱っておきますんで⋯⋯」
下手に出た態度でこちらの機嫌を伺ってくるのは、アニュレール。性格といい魔法といい、特攻して荒らすのに向いている魔法少女だ。なんだかんだでトラブルを起こすことも多いが、コミュニケーション能力が高く、組の誰とでも仲が良い。ちなみに、薬指に指輪をつけているのでどうやら既婚のようだが、結婚相手に関しては誰も知らない。これは、組員のプライバシーまでは深堀りしないというオイラーの方針によるものであった。
「ご機嫌取りはいい。とりあえず、改めてどんな魔法少女と戦ったのかを報告しろ」
「へい! えーっと⋯⋯おれが見たのは、チェーンソー振り回すクソデカい魔法少女と、透明になれるスーツっぽいものを着ていた魔法少女、後はレイピア持って帽子被ったイケメン風の魔法少女っすね。直接は見ていないけれど、弾の軌道的にあと数人はあの場に居たかな?」
指折りしながら人数を数えていくアニュレールに、もぐもぐとせんべいを食べ続けていた文車文が横から口を挟む。
「いつもお嬢に付いてくる親友の女の子、あれもたぶん、魔法少女なのです。乗り込んだ時、隠れている姿見えたのです。あと、お嬢の傍に見た目が瓜二つの魔法少女が2人いたのです。あれも絶対、魔法少女なのです」
「マジか! よく気が付いたなぶん吉! てか標的のことお嬢呼びって。なんかこう、もうちょい呼び方あるだろ」
「普段は『お嬢様』呼びなのです。変えるのめんどいし、『様』外しているだけでも褒めてほしいのです」
マイペースな文車文だが、アニュレールよりも視野は広い。普段運び屋をやらせているからだろうか。今のところ、魔法少女の数は全部で6人。だが、これで全員とは限らない。もう少し情報を入手した方がいいだろう。
標的の自宅は、流石魔法の国出身の元貴族と言うべきか、結界が張られていて容易に攻め込めない。標的が比較的自由に動いている廃ホテルは、さらうにはちょうどいいスポットなのだ。魔法少女が大勢いたとしても、標的が廃ホテルに居るタイミングの方が作戦を実行しやすい。いつか戦うことも視野に入れると、情報の入手は必須と言えた。
「まさか廃ホテルを拠点にしている魔法少女が大勢いるとはな⋯⋯というか文車文、お前いつも標的を廃ホテルに送り届けた後は何をしているんだ?」
「? 何って、特に命令もされていないから、車の中でぼーっとしているだけなのです」
「はぁ⋯⋯まあいい。これに関してはちゃんと命令していなかったこちらの落ち度だ。次に標的が廃ホテルに行く際は、こっそり後をつけて魔法少女が何人いるか確かめろ」
「了解なのです」
文車文は、テーブルの上に置いてあったせんべいの最後の一枚を頬張りながら、敬礼してみせた。それを見たアニュレールが「おれ様まだ食ってねえのに⋯⋯」としょんぼりしているが、そちらは無視してサンデッドに視線を向ける。サンデッドはというと、こちらが2人と話している間、一言も話さずにじっと2人を、特にアニュレールを睨みつけるようにして見ていた。当の本人はその視線には気づいていないようだが、やはり何を考えているかよく分からない奴だ。目的を探るためにも、少しこちらから仕掛けてみるか。
「サンデッド、お前も付いていけ。ぶんぶんのスマホのGPSを追えば、魔法少女の身体能力なら容易に追いつける」
「⋯⋯それで、標的の少女の誘拐を行えばよいのでしょうか?」
「いや、そこまでする必要はない。お前の魔法は広範囲殲滅型だから、下手したら標的まで死んでしまう。ぶんぶんの報告だけでは心配だからな。お前の目でも魔法少女の確認をしてもらいたいだけだ」
「⋯⋯そういうことでしたら、承知しました」
素直に命令に従い、頭を下げるアニュレール。やはり狙いはよく分からないが、もしここで裏切る様子を見せるならば、その時は組総出で叩き潰すまでだ。標的の周囲に群がる魔法少女たちと一緒に、殺して海にでも沈めてしまえばいい。
「ひとまず、決行は次に標的が廃ホテルに行く時だ。目的は廃ホテル内にいる魔法少女の把握。くれぐれも正面切っての戦闘は避け、情報を手に入れることだけに専念しろ。分かったか?」
「りょうかいなのです!」
「⋯⋯はっ!」
コマンドーS.G.Tの指令を受け、各々返事をする部下2人。その時になって、アニュレールが慌てた様子で自分の顔を指さしながらずいっと顔を近づけてきた。
「⋯⋯あれ? コマンドーの姐御、おれ様の仕事は?」
「お前は今回は留守番だ」
「そんな~!!」
大げさなリアクションで残念がるアニュレール。こいつに関しては潜入向きではないため、今回の出番はない。だが、いずれ標的を攫う際には最前線で突入してもらうことになるので、その時に働いてもらうことにしよう。
「ちなみにぶんぶん、標的が次に廃ホテルに行く予定はいつだ?」
「明日なのです」
「⋯⋯よく知らんが、最近の女子高生は週に何度も心霊スポットに行くものなのか?」
「コマンドーの姐御、それは絶対ないですぜ。標的がおかしいだけです」
あまりにも頻繁に心霊スポットに行く標的に自分の常識を疑いかけたが、アニュレールが冷静に指摘してくれたおかげで自信を取り戻した。とりあえず、明日だ。明日、文車文とサンデッドに廃ホテル内の魔法少女の情報を探ってもらう。その数とある程度の魔法を把握したら、一気に攻め立てよう。