魔法少女育成計画HorrorHour   作:赤葉忍

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ホームセンター危機一髪

♢御手洗花子

 

 昼食を食べ終え、花子たちはホームセンターを訪れていた。何気にホームセンターに来るのは初めてだったりするので、少し興奮している。思った以上に広い内装と、所狭しと並べられた商品の数々に、花子は目を輝かせた。

 

「ホームセンターって凄いのね! 見たこと無いモノがいっぱい置いてあるわ! あ、テントもあるじゃない! ねえ芽衣、あれ買って今度一緒にキャンプに行きましょうよ!!」

 

「徒歩で来てるの忘れんな~? 買っても持ち帰る手段ないって」

 

「あらあら~。持ち帰りなら私の魔法を使えば楽にできるわよぉ~? ブラウン管テレビも売ってあるし、ここから運べるわ~」

 

「おりんは花子を甘やかさないでくださ~い」

 

 テントの購入は芽衣の制止もあって泣く泣く諦めたが、それでも店内に置かれた商品を見ているだけで十分に楽しい。廃ホテルの修繕用の木材などを買いに行ったリッカーとシャイニーダブルスとは一旦別行動を取り、花子は芽衣とミッド騎士、おりんの4人で店内を巡る。

 

「ふふ。はしゃいでいる花子の姿は年相応で可愛らしいね」

 

「ほ、褒めても何も出ないわよ!」

 

 さらっと甘い誉め言葉を吐いてくるミッド騎士はずるい。照れくさくなってぷいっと視線を逸らしたところで、こちらをじっと見つめている少女と目が合った。

 

 その少女は、眼鏡をかけたやや地味な見た目をしていた。服装も露出の少ないロングスカートで、いかにも真面目な委員長といった感じだ。知らない顔だが、その雰囲気がどことなく誰かに似ているような気がする。

 

「ねえ、芽衣、あの子見たことある?」

 

「え? う~ん、見覚えはないね~。でも、なんか誰かと似ているような気もするかも⋯⋯?」

 

 芽衣は他人の顔を覚えるのが得意だ。過去にも、駅に貼られていた指名手配犯の写真を覚えていて、町で偶然見かけた犯人を警察に通報したことがあった。思えば、この特技は芽衣の魔法とも関係しているのかもしれない。そんな芽衣が見覚えが無いというならば、やはり同級生などではないのだろう。ならば、2人とも感じているこの既視感は一体なんだろうか。

 

 その既視感の正体に花子が気づくよりも先に、店内に銃声が鳴り響く。途端に、聞こえていた他の客の話し声がピタリと止み、BGMがはっきりと聞こえるようになった。花子以外の3人は銃声を聞き即座にその方向を向き、花子も遅れて3人に視線を合わせる。すると、そこには覆面マスクを被った成人男性数人が銃を構えて立っていた。

 

「おい、お前ら全員床に伏せろぉ!! 逃げようとする奴らは容赦なく撃ち殺すからなぁ!?」

 

 まさか、こんなことがあり得るのか。廃ホテルでの襲撃に続いて、人生で2度も銃を持った人間を見ることになるとは思わなかった。だが、2度目だからか思ったよりも落ち着いている自分がいる。それに、いくら銃で武装した成人男性が数人居たとしても、こちらには魔法少女が3人。シャイニーダブルスとリッカーまで合わせたら5人⋯⋯いや、頭数だけなら6人は居るのだ。あまり脅威には感じなかった。

 

「ねえ、あの人たちどうするの? たぶんあなた達なら問題ないと思うけれど⋯⋯」

 

「そうだね。私たちなら制圧するのは容易い。だが、相手の人数や正確な位置を把握してから動いた方がいいだろう。無駄に一般人の犠牲は出したくないからね。メメ、任せてもいいかな?」

 

「あんたに言われなくても、もうやってま~す。⋯⋯うん、今見えてる奴ら以外にも、あと数人、裏口とかに銃構えた奴らが居るね。それと悲報。私ら以外に、魔法少女っぽい奴が1人紛れてる」

 

 いつの間にか、芽衣は変身を済ませて魔法で襲撃者の位置を把握していた。そして、魔法少女が1名紛れているという報告で、緊張が走る。もしや、この前の襲撃者と関係しているのだろうか? そんな花子の疑問に答えるかのように、店内に凛とした声が響く。

 

「一般人を銃で脅しつける蛮行、許せないわ! 神の名の下に、このクロソフィアが裁きを下します!!」

 

 声が聞こえたのは、さっきあの眼鏡をかけた少女を見た方向だった。そこに立っていたのは、見たことの無い魔法少女。白銀の鎧を纏った魔法少女は、やや固い表情で十字架を模したロッドを男たちに突き付けていた。

 

 

♢クロソフィア

 

 ホームセンターに立ち寄ったのは、たまたまだった。先日のカジノでの任務で、まったく役に立てなかった反省から、少しでも身体を鍛えた方がいいかとトレーニング機器を買いに来た。そこでまさか、こんな事件の現場に出くわすことになるとは思わなかった。

 

 魔法少女相手だと役に立たなかったが、一般人の犯罪者相手ならば、自分でも魔法少女として人助けができるかもしれない。そう思いついた時には、変身して名乗りを上げていた。先ほど見かけた同年代くらいの少女たちは見知った顔ではなかったし、変身した今の自分が楠美香だと気づく人間は居ないだろう。銃を持った相手の前に立つのは怖かったが、自分は魔法少女だ。大丈夫だと鼓舞し、ロッドを目の前の相手に突き付ける。

 

「なんだ、このコスプレ女! この銃が見えねえのか!?」

 

「私の祈りの前に銃など無力です! 醜い心を浄化してあげます!!」

 

 突然現れたクロソフィアに動揺しているのか、男たちは銃を構えたまま動こうとしない。それならばと、クロソフィアは両手を胸の前で構え、祈りの言葉を紡ぐ。

 

「こいつ、何ぼそぼそ言ってやがるんだ⋯⋯? 邪魔だ、死にてぇのか!!」

 

「──主よ、我の祈りに答え、この者の悪しき魂を浄化したまえ! サントゥ・アーリオ!!」

 

 10秒ほど呪文を唱え、両手を天に掲げ、片足を上げるポーズを取る。すると、ロッドから白い光線が放たれ、正面に立つ男に命中した。

 

「あれ、僕はいったい何を⋯⋯? はわわ、こんな危ないモノ、早く捨てなくっちゃ!」

 

 光線が当たった男は、憑き物が落ちたような表情になり、持っていた銃を慌てて落とす。そしてそのまま、神に祈りを捧げるポーズを取り始めた。

 

 これがクロソフィアの魔法、『聖なる十字架で悪を討ち滅ぼすよ』の力だ。これがあれば、どんな悪人だって改心させることが出来る。誰だって、正しい生き方を選ぶことが出来る。確かに、以前笑美に指摘された発動まで時間がかかってしまう欠点はあるが、それにさえ目を瞑れば正義の魔法少女に相応しい魔法なのだ。

 

「タク!! こいつ、タクに何しやがった!!」

 

「出しゃばった罰だ! 最初の犠牲者にしてやるぜ!! あの世で泣きべそかきやがれ!!」

 

「きゃっ!?」

 

 覆面マスク集団の1人が放った弾丸が身体に当たり、反射的に悲鳴をあげる。しかし、痛みこそあるものの、銃弾は鎧に当たって弾かれていた。銃弾が効かなかったことで動揺する男たちとは対照的に、クロソフィアの心からは恐れが消え去る。あの男たちは、自分たちの障害にはならない。これでようやく、誰かを救える。特別な存在になることが出来る。

 

「あなた達では、私の鎧に傷をつけることすらできません。さあ、観念してお縄に⋯⋯」

 

──パァン!

 

 クロソフィアの声を遮り、再び銃声が響く。その銃弾は、クロソフィアの横を通り過ぎ、背後で「きゃあ!?」という誰かの悲鳴が聞こえた。慌てて振り返ったクロソフィアの目に、太ももを撃たれて血を流す30代くらいの女性の姿が飛び込んできた。

 

「な、何故このようなことを⋯⋯!! 罪もない一般人を撃つなんて!!」

 

「へ、へへ⋯⋯!! これ以上怪我人を増やしたくなければ、大人しく降参しろぉ!!」

 

 どうやら、男たちは銃が効かないクロソフィアではなく、一般人を狙って人質とすることを選択したらしい。なんて卑劣な⋯⋯と歯噛みすると同時に、周りの人間を人質に取られることを考慮していなかった自分の甘さに腹が立つ。

 

 いったいどうするべきだろうか。このまま無理やり奴らを制圧した方がいいだろうか。しかし、相手の数が多い。全員を制圧する前に、さらに被害者が出てしまうかもしれない。それに、今はまだ怪我で済んでいるが、もし致命傷になるような傷を負わされるような人が出てしまったら⋯⋯そう最悪の想像をし、クロソフィアの顔面は真っ青になった。

 

 そんなクロソフィアを見て、もう動けないと判断したのだろう。僅かに出ている口元に笑みを浮かべる覆面マスクの男たち。その男たちの背後の棚に置かれたブラウン管テレビが、突然ザザザ⋯⋯とノイズを放ち始めた。

 

 テレビに一番近い男が、何の音かと振り向く。その足元目掛けテレビからにゅっと生えてきた青白い手が、男をテレビの中へと一瞬で引きずり込んでいった。

 

 同時に、ホームセンターの明かりが一斉に消える。唯一の明かりは、クロソフィアの持つ十字架のロッドだけ。闇に包まれたホームセンターで、クロソフィアは誰かが囁く声を聞いた。

 

「──さあ、私たちの時間の始まりだ」

 

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