♢御手洗花子
花子は、ホラーが好きだ。サイコホラーにスラッシャー、サスペンス・スリラーにB級チックなホラーコメディも。様々なホラー作品を愛している。
ホラー作品が人間に与えるのは恐怖の感情だ。恐怖とは、生物が生存するために本能的に備えている感情であり、そんな原初の感情を刺激するホラー作品こそが最も至高だという思想を抱いている。これを両親に話すと、父親からは苦々しい顔で偏った思想だと批判され、母親からは花子ちゃんは面白いわね~と斜め上な感想を貰った。
兎に角だ。そんなホラーを愛する花子にとって一番許せないのは、ホラーになり切れていない未完成なホラーを見せつけられることだ。そして今まさに、目の前で正座している美少女集団はそんなホラーになり切れない茶番劇を見せつけてきた。これはホラー有識者である自分が、ホラーのなんたるかを教え込まねばならないだろう。
「花子~、もう遅いし帰ろうよ~? 魔法少女って自我強いやつ多いし、何言っても無駄だと思うけれど~?」
気だるげな口調で髪を指でくるくると弄りながら帰宅を促すのは、親友の芽衣だ。だが、今は花子も知らないような露出の多い衣装をまとい、元々クール系の美人ではあるが2割増しで顔面が綺麗になっている。
「その、魔法少女っていうのは何かしら? 単語としては聞いたことはあるけれど、私生憎アニメとかあんまり見ないのよね。もっぱらホラー映画ばかりだもの」
「うーん、そだな。簡単に言うと、魔法を使えるファンタジーな存在よ。ほら、ホラー映画にも変な能力使う怪人とか出てくんじゃん。あんな感じ~」
「なるほど⋯⋯それは凄いわね」
「「えっへへ~。それほどでも~」」
芽衣の説明に感心して目の前の少女たちを見ると、照れているのか全く一緒の動きで2人の少女が頬を掻いていた。少女たちの中央に座るこの双子らしき少女たちは、おそろいの青いワンピースに、肩まで伸ばしたセミロングの茶髪までも瓜二つで、何だか見ているだけで奇妙な感覚を覚えてしまう。
「別にあなた達のことを褒めたわけじゃないわ。ホラー演出はまったく出来ていなかったし。でも、見た目だけなら最高ね。双子の姉妹は有名なホラー映画にも出てくるくらいだもの。あなた達、名前は何というのかしら?」
「「私の名前はシャイニーダブルスだよ!! よろしくね!!」」
「ええ、よろしく。こっちも名乗らせていただくわ。私は御手洗花子よ。ところで、私は2人それぞれの名前を知りたいのだけれど。それとも、魔法少女は皆同じ名前を名乗らないといけない決まりだったりするの?」
隣にいる芽衣に視線を向ければ、芽衣はぶんぶんと首を横に振った。
「いや、魔法少女は皆違う名前を持ってるよ~。同じ名前だと申請できないようになってるくらいだし。ちなみに私の名前はメメ。この姿の時はメメって呼んでね。そっちの方が慣れてるし~」
「分かったわ、メメ。⋯⋯じゃあ、なんであなた達は同じ名前を名乗るのかしら? 双子だから?」
再び正面に座るシャイニーダブルスに視線を向けると、二人揃ってぶんぶんと力強く首を横に振った。首を振るタイミングまでばっちり同じで、やはりどこか薄気味悪い。これでもう少し動作を小さくすれば、ホラー感は増しそうだと思った。
「「私は元々ひとり! 魔法で2人に増えてるだけだから、双子じゃないよ!! その証拠に⋯⋯ほら、見て!!」」
シャイニーダブルスはそう言うと、目の前に落ちていた瓦礫に触れた。すると、その瓦礫とまったく同じ形の瓦礫がその隣にぽんっと音を立てて現れた。目の前で起きた不可思議な現象に、花子は目を丸くする。
「凄いわね!! これが、魔法少女が使う不可思議な力⋯⋯あなたの魔法ということね!!」
「「そうだよ! 私はなんでも2つにしちゃうんだ~!!」」
なんでも2つにする。それがシャイニーダブルスの魔法だというなら、2人がそっくりで同じ動きをするのも納得だ。花子が素直に賞賛し、拍手を贈っていると、羽根飾りの付いた帽子を被った少女が細長いラッパのようなものでシャイニーダブルスの頭をこつんと叩いた。
「「いたいっ!」」
「こら。一般人に魔法のことをペラペラ話すものじゃないよ? すまないね、うちのリーダーは素直さがいいところでもあり、悪いところでもある。大目に見てあげてくれないかい?」
「私は別に気にしていないのだけれど⋯⋯それよりも、リーダー? シャイニーダブルスが?」
集団で集まっているからには、魔法少女のグループ的なものなのだろうとは予想していたが、そのリーダーがシャイニーダブルスとは意外だった。まだ他のメンバーのことを詳しく知らないが、話してみた感じ幼げな印象だし、あまりリーダーシップがあるようにも見えない。だからこそ、その疑問が口にも出てしまったのだが、それが不満だったのかシャイニーダブルスは2人揃って立ち上がり唇を尖らせた。
「「むー、失礼な!! 私はこの怖がらせ屋集団『メディア・ノクス』のリーダー、シャイニーダブルスちゃんなのだぞ!!」」
「怖がらせ屋集団」
聞き馴染のない単語だったからか、芽衣⋯⋯いや、メメはぽかんとした間抜け面になっている。おそらくは花子も同じような顔になっているだろう。そんなこちら側の反応を気にせずに、シャイニーダブルスは得意げにメンバー紹介をし始めた。
「「このイケメンはミッド
「お嬢さん方、どうぞよろしく。今宵はよい夢が見られますように」
「もう日付越えてるけれどね~」
メメのツッコミを無視し、気障な態度で一礼すると、ミッド騎士はすっと後ろに下がる。次は自分の番だと判断したのか、前に出てきたのは先ほどテレビから出て来て胸をつっかえさせていた死に装束を着た少女だった。あの時は髪で顔が隠れてよく見えなかったが、こうして改めて正面から見るとおっとりとした優しそうな顔をしている。
「「この子は皆の自称お姉さん、
「よろしくね~」
声色までおっとりしている。そして相変わらず胸がデカい。思わずちっと舌打ちが漏れる。慌てて後ろに隠れたおりんに代わり前に出たのは、機械的なスーツを着た少女だ。顔が完全に隠れているのは魔法少女としていいものか疑問だが、誰もそこには触れないのでこういうタイプの魔法少女もいるのだろう。
「「このサイボーグみたいなのはぷれたん! こう見えてノリが良くてギャグとかも言ってくれるんだよ!!」」
『記憶装置に新たに2名の情報を登録。よろしくお願いします、エリザベートさんにメアリーさん』
「その記憶装置壊れてますわよ?」
『草』
「草生やすな~?」
ぷれたんは見た目とは裏腹にだいぶ言動が緩い。名前を間違えたのは彼女なりのジョークなのだろうか。どっちがエリザベートでどっちがメアリーかが気になるところだ。
「「お次はJ・J!! でっかいけれどビビりだから優しく取り扱ってね!!」」
「よよよ、よろしくおねがいしましゅ!!」
シャイニーダブルスの2人に挟まれる形で前に出てきたJ・Jの姿は、インパクトだけでは一番だった。なにせ、デカい。座った状態しか今まで見ていなかったので正確な身長が分からなかったが、こうやって立っている姿を見ると軽く2mは超えている。その上白いワンピースを着ているので、見た目だけなら都市伝説の八尺様のようだ。だが、頭に被せたホッケーマスクと腰のチェーンソーは、有名なホラー映画のキャラのイメージに近い気はする。
「いや、でもあの怪物の武器はチェーンソーじゃなくて鉈なのよね。そもそも作中で一度もチェーンソーなんて使っていないですし。安易なホラー知識で模倣しようとした結果がその姿なら減点ね」
「ひ、ひえ~!!」
ビビりという評価は本当だったようで、花子が見た目に対し辛口の評価をつけると怯えたようにぷれたんの後ろに縮こまって隠れてしまった。そんなJ・Jを横目に、ナース服と身体についたジッパーが特徴的な少女が一歩前に出てきた。
「「この子は新入りのリッカー・ザ・ジッパーちゃん! ミッドちゃんが3日前にスカウトしてきたんだ!!」」
「よろよろ~☆ 怪我とかしたらあたしに言ってね。ばっちり治してあげるから!」
服装は確かにナース服だが、ノリがギャルっぽくてあまり言葉に信憑性はない。名前にもジッパーが付いているということは、魔法になにか関係しているのだろうか。気になりはしたが、まだメンバーはあと1人残っていた。シャイニーダブルスが2人で引きずってきたその少女の姿を見て、意識をそちらへと切り替える。
「最後はこの子! フー・スー・ピー!! この時間は起こしちゃダメだよ! やばいことになるから!」
「すー、ぴー」
しー!と2人揃って唇に人差し指を当てるシャイニーダブルスの横で寝息を立てるフー・スー・ピーは、見た目だけなら一番幼く、白い貫頭衣をすっぽりかぶった姿はハロウィンのお化けの仮装のようだ。起こしたらどうなってしまうのか。興味はそそられるが、理性で好奇心を抑え込む。現時点で魔法少女に遭遇するという凄まじい体験をしているのだ。これ以上ヤバいことが起きたら、流石に一日の興奮摂取量の許容値を越えてしまうかもしれない。
「「以上が、『メディア・ノクス』の愉快なメンバーだよ! 覚えてくれたかな?」」
「ええ、覚えたわ。あなた達、見た目だけならかなりのインパクトだもの」
そう、見た目だけは全員ホラー映画に出て来ても違和感がない。ミッド騎士はあまりホラー感はないが、それ以外は魔法少女とは一見思えないほどの不気味さがある。勿論、よく見れば顔が整っているので美少女であることは分かるのだが。
花子が全員の見た目に関して言及すると、シャイニーダブルスは我が意を得たりとばかりに大きく頷いて目を輝かせた。
「「そう! みんなちょっと怖い見た目をしているでしょう? だから、この皆で怖がらせ屋をやったらうまくいくって思って集めたんだ!!」」
「ねえ、聞いてもいいかしら? 貴女はどうしてその⋯⋯怖がらせ屋をやろうと思ったわけ?」
先刻はつい勢いでホラーの指導をすると宣言したが、指導をする相手が本気でホラーを学びたいと思っていなければ意味はない。だから、この問いかけは花子にとってとても大切なものだった。
「「⋯⋯私ね、皆の心を動かしたいの。私の存在を、心の奥底に刻みつけたい」」
「「私のことをいっぱい」」
「好きになって」
「嫌いになって」
「「もらいたい」」
「「それには、『恐怖』がぴったりでしょう? だって、恐怖は生き物にとって、最も根源的な感情だもの!!」」
途中、シャイニーダブルスの声が重ならない瞬間があった。そんな僅かな違和感もかすむほど、花子はその答えに満足していた。何故なら、それは花子の自論とほぼ同じ考えだったからだ。
「あなたの考えはよく分かったわ。シャイニーダブルス。さっきも言った通り、私があなた達をもっと怖くなるようプロデュースしてあげるわ!!」
「まじかぁ⋯⋯。ま、花子がやるなら付き合うけどさ~。あんたら、花子に変なことしないでよ?」
「しないしない!! 私、花子とメメのこと、もうめっちゃ好き!!」
シャイニーダブルスの左の方が喋り、右はジェスチャーでハートマークを作る。どうやら、同時に話さないといけないというわけではないらしい。先ほど少し感じた違和感も、これで解消された。
「じゃあ今から早速⋯⋯!!」
「ちょい待ち。花子、スマホ見てみ?」
メメに促されてスマホを取り出して確認し、「あ」と声を出す。運転手の
「くっ、仕方ないわね⋯⋯!! シャイニーダブルス、私はまた明日ここに来るわ!! やると言ったからにはあなた達を立派なホラーリスト⋯⋯じゃなくて、怖がらせ屋にしてみせるから、覚悟しておいてね!!」
「ホラーリスト呼び、リストラされてる⋯⋯」
びしっと力強く指さして決意表明してみせると、シャイニーダブルスは2人揃って目を丸くしたかと思うと、その顔をぱっと綻ばせた。
「「分かった!! 私たちここで待ってるね!!」」
花子とメメは、『メディア・ノクス』のメンバーに見送られ、廃ホテルを後にする。しかし、これは決して別れではない。これからしばらく付き合うことになる魔法少女たちの顔を脳みそに叩き込みながら、入り口で手を振り続ける彼女たちに花子も手を振って応えるのだった。