魔法少女育成計画HorrorHour   作:赤葉忍

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花子先生のホラー講座

♢御手洗花子

 

 この前は、おりんの仕事場の壮絶さにショックを受けてしまいホラー指導どころではなかったが、まだ本来の目的を見失ったわけではない。今日も今日とて、花子は芽衣と一緒に廃ホテルまでやって来ていた。

 

「ねぇ花子~。もう来るのやめようよ~。この前ので関わったら変なことに巻き込まれるって学んだでしょ~?」

 

「確かにこの前はちょっと圧倒されちゃったけれど、まだ諦めてはいないわ! 私は途中で投げ出すのは死んでもゴメンなのよ!」

 

「はぁ~。毎回付き合わされる私と(ふみ)さんのこともちょっとは気にして欲しいなぁ~」

 

「文には申し訳ないと思っているわ。でも、あなたは別に嫌がってないでしょ?」

 

 今日も車を運転して貰った文には車で待ってもらっている。いつも長時間待たせてしまうのは心苦しく思っているのは事実だ。しかし、芽衣に関しては別にこちらから来てと頼んだのは最初の一回だけで、今回もただ「行く」と報告したらついてきただけだ。この親友はいつも気だるげだが、なんだかんだで毎回こちらのやることに付き合ってくれる。そんな芽衣だからこそ、遠慮なくずばずばとなんでも言えてしまうのだ。

 

「まあ、嫌じゃないのは確かだけれどさぁ~。もうちょっと丁寧に扱ってもらいたいよね。私だってか弱い少女なんだし~」

 

「本物のか弱い少女は自分でか弱いなんて言わないわよ。それにあなた、魔法少女だし魔法が使えるのでしょう? もしピンチになったらか弱い私を守ってくれていいのよ?」

 

「わ~お。説得力ある」

 

 2人で軽口を言い合いながら入り口のドアを開ける。相変わらず薄暗いホテル内には、既に数人の先客が居た。そのうちの2人⋯⋯いや、正確には1人がぱたぱたと足音を揃えてこちらに駆け寄ってきた。

 

「「花子ちゃんにメメちゃんだ! 久しぶり~!」」

 

 そっくりの顔の2人、シャイニーダブルスが声を合わせて近づいてくる。ちらりと横に視線を向けると、芽衣はいつの間にかメメに変身していた。流石の危機管理だ。

 

「この前来た時はあなた、217号室に居たとかフー・スー・ピーが教えてくれたわよ」

 

「「あ、あの日来てくれてたんだ~。もー、スーちゃんも教えてくれたらよかったのに~!」」

 

「あたしに言われても困るのよ? そんなこと言うならあの部屋に入れるようにしてほしいのよ?」

 

「それは無理でーす! あの部屋に入れるのは私とミッドちゃんだけ~!」

 

 シャイニーダブルスのうちの片方が答え、片方がばってんのジェスチャーを取る。その反応にフー・スー・ピーは不満げに頬を膨らませた。そして、この場に居るのはシャイニーダブルスとフー・スー・ピーだけではなかった。おろおろとした様子で立ち尽くすJ・Jと、我関せずといった風にカッコいいポーズの練習をするぷれたんもいる。2人とも、まだちゃんと会話したことがない相手だった。

 

「あ、あうあうあう⋯⋯。また来てるぅ⋯⋯。あのJK、意味が分からなくて怖いですぅ⋯⋯。なんでこんなヘンテコ魔法少女の溜まり場にわざわざ来るのぉ⋯⋯?」

 

『我らのことまで無意識にディスってて草。まあ概ね同意ですが』

 

「ひょえええ!! そそそ、そんなつもりじゃあ⋯⋯!!」

 

 なんだか勝手に騒いで盛り上がっている。見た目のインパクトの強い二人が騒いでいると情報量が多すぎてかなり五月蠅い。ここは、向こうのペースに飲まれてしまう前に自分のペースに持ってきた方がいいだろう。花子は、用意していた小型のプロジェクターの設置を始める。メメに手伝ってもらいながら数分で準備が完了した時には、その場からフー・スー・ピーだけがどこかに消えていた。前回も面倒と言ってホラー指導を受ける気は無かったが、今回も同様に面倒だと判断したのかもしれない。

 

 とはいえ、1人消えてもまだ4人⋯⋯シャイニーダブルスを2人で1人と数えると3人だが、逃げずに残っている。シャイニーダブルスは興味津々と言った様子で体操座りしてこちらを見上げているし、ぷれたんもいつの間にかポップコーンまで持ってきて準備ばっちりだ。J・Jはおろおろと周囲を見渡してから、諦めたように床に座りこんだ。座っていても立っている花子と同じくらいの座高なのは流石の存在感だ。花子は、目の前の魔法少女たちを見回し、一度大きく咳ばらいをした。

 

「えほん。えー、では、今からこの私、御手洗花子によるホラー講座を始めるわ。この講座を受ければ、あなた達も恐怖のなんたるかが分かり、ちゃんとした怖がらせ屋集団になれるはずよ!」

 

「「わーい!! ぱちぱちぱち~!」」

 

『やんややんや』

 

「わ、わたしでも誰かを怖がらせることができるんでしょうか⋯⋯?」

 

 思った以上にノリがいい。盛り上げてくれるとこちらとしても気分がよくなるというものだ。メメは興味なさそうにスマホをいじっているが関係ない。今は目の前の生徒たちに集中する。

 

「まず、そうね⋯⋯。ホラー作品といえば、どういった演出を思い浮かべるかしら。J・J、あなた答えてみなさい!」

 

「わ、わたしぃぃぃ!!? え、えーっとぉ⋯⋯なんかいきなりバケモノが飛び出してきて、うわー! みたいな、奴ですかぁ⋯⋯?」

 

「いわゆるジャンプスケアと呼べれる演出ね。確かにホラー映画ではよく見られる手法だわ」

 

「「じゃんぷすけあ⋯⋯って、なに?」」

 

『ジャンプスケア。突然大きな音を出したり衝撃的な映像を用いて見る者をびっくりさせる演出方法。マホペディアより引用』

 

「説明ありがとう、ぷれたん。でも、個人的にジャンプスケアをホラーとは認めていないわ。あれが観客に与えるのは恐怖というよりは驚きよ。勿論、その手法を用いているホラー作品を否定するわけではないけれど、好みではない」

 

 そこで一度口を閉じ、花子はプロジェクターを操作してパワポで作成したスライドを壁面に映し出した。そこにはでかでかと、『ホラーに必要なのは場所とシチュエーション!』と書かれている。

 

「恐怖を演出する上で最も大切なもの。それは場所とシチュエーションよ。たとえば⋯⋯同じホラー映画でも、舞台が山奥の廃ホテルと、都心にある高級なホテルだった場合、どちらがより怖いと感じるかしら?」

 

「そ、それは廃ホテルの方が怖いと思いますぅ⋯⋯。って、ひぃ!! ここがそうじゃん!!」

 

「そう。この場所はスポットとしては満点なのよ。ただ、勿論都心の高級ホテルだと必ずホラーにならないかと言えばそうでもなくて、場所は普通なのにそこで過去何人も人が死んでいる⋯⋯みたいな情報があれば不気味に感じるわ。それがホラーで大切な2つ目の要素、シチュエーションね!」

 

 花子はばぁん! とスライドを映した壁を力強く叩く。その音にJ・Jがひぃっ!?と飛び上がった。いけないいけない。自らジャンプスケアを否定しておいて、似たようなことをやってしまった。心の中で反省しつつ、ホラー講座の続きに戻る。

 

「場所とシチュエーションの2つを与えられると、観客は次第にホラーの空気に呑まれてくるわ。その状態になったら、恐怖を与えるのにジャンプスケアは必要ないの。じわじわと、真綿で首を絞めるように追い詰めていくことが大事。そして、それを実行するにはそのための空気づくりが必要よ」

 

「「はいはーい! じゃあ、具体的にどんなことをすればいいですか~?」」

 

「そうねぇ⋯⋯。私個人の好みの話にはなってしまうけれど、日常を徐々に浸食していくような恐怖演出をするならば、まずは恐怖を与える対象とある程度親密になっておくことね。通常の状態を把握して貰ったところで、徐々に違和感を増やしていくの。積み重なった違和感は、やがて大きな恐怖へと変わるわ」

 

「「ふむふむ。なるほど〜」」

 

 シャイニーダブルスは片方が相槌を打ちながら片方がメモを取るという器用な芸当をやってのけている。積極的にこちらの話を聞く態度を示してくれるのは好感度が高い。ぷれたんとJ・Jもシャイニーダブルスほどではないがちゃんとこちらの話を聞いてくれるのは高ポイントだ。

 

「こ、怖がらせ方も色々考えないとダメなんですねぇ⋯⋯。わたし、いつも適当にチェーンソー振り回しているだけでした」

 

『安心していいですよJ・J。我も特に何も考えていない。常に何も考えずに生きている』

 

 ぷれたんはマスクのせいで表情がよく分からないが、見た目に反してかなり言動が適当だ。その印象は初対面の時よりもこの数分でだいぶ強くなった。J・Jは身長に反して気が小さ過ぎる。怖がらせるのにはあまり向かないメンタルかもしれない。

 

「誰かを怖がらせる時には、その相手の内面を知ることはとても大事よ。無心で襲いかかって恐怖を与えるのは、パニック映画のモンスターの役目。貴女たちには考える頭があるんだから、しっかりと恐怖演出を考えるべきだわ」

 

「ひょええ〜!! わ、わたしにできるんでしょうか⋯⋯」

 

 自信なさげにJ・Jが俯く。あまりにも弱気過ぎて少しイライラしてきた。発破をかけてやるべきかと一歩近付いたその時、隣でうつらうつらと舟を漕いでいたメメが突然目を開き、叫んだ。

 

「花子、危ない!!」

 

 その直後、銃声がホテル内に鳴り響く。なにがなんだか理解が追いつかないうちに、花子の目の前にチェーンソーを抱えたJ・Jが涙目で立っていた。

 

 キュイインと唸りをあげるチェーンソーがすぐ近くに見え、驚きと恐怖で心臓が高鳴る。J・Jが飛んできた銃弾をチェーンソーで切ったのだと分かったのは、真っ二つに切られた銃弾が落ちたのを視認した時だった。

 

「し、侵入者ですぅ⋯⋯。ははは、排除、しますかぁ〜?」

 

「「うん、やっちゃって! ぷれたん、J・J!!」」

 

『了解。任務、侵入者の排除。只今より開始いたします』

 

 シャイニーダブルスの指令を受けて、ホッケーマスクをすっぽりと被ったJ・Jと、マスクの目元を赤く光らせたぷれたん。先ほどまでの様子とは打ってかわり、すっかり戦闘ムードになったぷれたんとJ・Jをぽかんと眺める花子を、メメが物陰へと引っ張る。2人が見守る中、魔法少女の戦いが始まろうとしていた。

 

 

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