♢メメ
メメが物陰から確認できたのは、黒いマスクで顔を隠した集団。その全員が少女のように見えるので、魔法少女だろう。全員が銃を構えている。隣に隠れる花子から「あれも魔法少女なの?」という疑問が飛んできたが、銃を持つくらいなら魔法少女の中では割と普通の方だ。それで言うなら、チェーンソーを持っていたり機械のスーツを着ている方が魔法少女らしくないだろうと説明したら、納得したように頷いてくれた。
J・Jはホッケーマスクで顔を隠したまま、銃を持った集団に近づく。1歩、2歩。動きはそこまで速く見えないのに、歩幅が大きいせいでもう接近している。慌てた様子で至近距離から銃を撃とうとした魔法少女の持つ銃が、ギャリリリと音を立てて両断された。
「えっとえっと、まずは武装解除! なるべく殺しは無しで、脅かす方向性で⋯⋯はわわ、こんなことならミッド騎士さんが作ってくれた排除マニュアル読み込んでおくべきでした~!!」
涙声で情けない悲鳴を上げつつ、J・Jは的確に魔法少女の持っている銃だけをチェーンソーを振り回して両断していく。その暴れっぷりは凄まじく、数人がかりで取り押さえようとした魔法少女たちを身体を捻って投げ飛ばしている。体格差を考慮しても凄まじい膂力だ。
そして、派手に暴れているJ・Jとは対照的に静かに敵を無力化しているのがぷれたんだ。襲撃してきた魔法少女は、今や誰もぷれたんの姿を視認できていない。暴れまわるJ・Jに視線が集まる中、突然一人の魔法少女が悲鳴をあげ、倒れこんだ。何が起こったのか確認するため、メメはそっと自分の左目に手を置いた。
すると、脳内に自分の現在地を中心とした半径1kmの円状のレーダーと、多数の〇が表示された。そのうち、今肉眼で確認している光景と照らし合わせて、激しく動いている〇のうち、視認できていない〇を対象に選択する。その直後、左目の視界が切り替わり、今まさに魔法少女のアキレス腱を切りつけている映像が映し出された。
メメの魔法は、『視界をちょっと借りられるよ』だ。先ほどのように、脳内で生物の位置を捉え、対象を指定することで、一定時間その相手の視界を借りることが出来る。ぷれたんの名前と見た目からモチーフ元が何となく分かっていたのでもしかしてと思って試してみたが、やはりあのスーツには透明になる機能が備わっているようだ。
確認を終えたメメは、魔法を解除し視界を元に戻す。この魔法を使っている間、今回ならば手で隠していた左目の視界を、対象から奪っている。ぷれたんに関しては花子が気に入っている『メディア・ノクス』のメンバーだし、戦闘の邪魔をするのもよくないだろう。
戦闘開始からまだ数分も経過していないが、ざっくりと数十人いた魔法少女たちは既にその半数が無力化されている。ここに来てようやく透明な襲撃者のぷれたんの存在に気付き始めた魔法少女も現れてきたが、この様子だと殲滅までそこまで時間はかからないだろう。
「ねえ、シャイニーダブルス。あの魔法少女集団は一体何者なのかしら?」
突然の襲撃で一時は動揺していた花子も余裕を取り戻してきたのか、ちょこんと2人で座るシャイニーダブルスに対しそんな疑問を投げかけていた。シャイニーダブルスは、それぞれ両手に旗を持ってJ・Jとぷれたんを応援しながら、花子の問いかけに答えた。
「ん~、知らない顔だなぁ。でも、あの背中のマークは見たことあるかも? ねえ、何か知ってる?」
「ん~、見たことないなぁ。でも、銃を使う魔法少女の集団の噂は聞いたことあるかも? ねえ、何か聞いてる?」
珍しく声は揃わず、バラバラの回答だ。しかし、どちらも言っている内容にさほど差異はない。要するに、よく知らないということだ。詳しい話を聞くなら、ミッド騎士あたりがいいだろうか。最初に会って以来あまり顔を見てはいないが、副リーダーと紹介されていたし、シャイニーダブルスよりはまともそうだ。
「くそっ、こんな魔法少女たちが護衛に付いてるなんて聞いてないぞ!?」
「
焦った様子で連絡用と思われる端末を取り出した魔法少女の腕を、ぷれたんが発射したレーザーが撃ちぬく。落とした端末は、J・Jがチェーンソーで破壊した。
「あ、あの、変な人呼ばないでいただけると嬉しいですぅ⋯⋯!」
助けを呼ぶための手段も失われ、心が折れてしまったのだろうか。ぐったりと座り込んだ魔法少女たちを、姿を現したぷれたんが手際よく拘束していく。
「どうやら一段落ついたみたいね」
ほっと息を吐いた花子に返事をしようとしたその時、異常に気付く。脳内のレーダーが、こちらに高速で接近してくる2つの〇マークを表示していた。咄嗟に口を開け、J・Jとぷれたんに警告する。
「こっちに誰か来てる! 気を付けて!!」
直後、ホテルの壁を突き破って飛び込んできたのは、バイクにまたがる2人の魔法少女だ。1人はバイクを運転していて、その顔はヘルメットで覆われてよく見えない。だが、背中から昆虫の羽根のようなものが生えているのが見えた。もう一人は、バイクに立った状態で乗る背丈の小さな魔法少女。ボロボロのマントには、『熱海組』とデカデカと記されている。尖った歯を剥き出しにして笑うと、その魔法少女は背丈の割に大きな両手を突き出し、叫んだ。
「ぎゃはははは!! おらおらおらぁ!! おれ様の薬指以外が火を噴くぜぇ!!」
閃光と爆音。発生源は魔法少女の手元だ。爆発のような衝撃と共に撃ちだされたのは、薬指を除いた4つの指。放たれた指は、まるで意志を持っているかのように動き、J・Jとぷれたんを襲う。
『緊急回避!!』
「ひぃ!! 気持ち悪いですぅ⋯⋯!!」
自分では対処困難と判断したのか、J・Jの背後に隠れたぷれたん。J・Jは涙目になりながらもチェーンソーを振るい、飛んできた指の弾丸を切り落とした。
「「きゃー! こっちに来る~!!」」
「しまっ⋯⋯!」
シャイニーダブルスの悲鳴で初めて、J・Jの方に向かっていなかった指の弾丸がこちらへ飛んできていることに気が付いた。今からでは回避も難しい。せめて花子だけは無事であるようにと、咄嗟に花子を床に押し倒した。
「──おっと。私が留守の間にとんだ害獣が入り込んだみたいだ」
しかし、予想していた衝撃は襲ってこなかった。聞き馴染の無い声に恐る恐る視線を上げると、いつの間にかやって来ていたミッド騎士が指の弾丸をレイピアで切り落としていた。
「流石ミッドちゃん! カッコいい!! 大好き!!」
「あはは。リーダーにそう言われると、照れてしまうね」
シャイニーダブルスが1人は言葉で、1人はジェスチャーでミッド騎士を褒めたたえ、ミッド騎士は気障な笑みを浮かべてそれに応える。これで、この場にさらに魔法少女が1人増えた。
この状況を見て流石に不利だと悟ったのか、無くなった指から血を流している魔法少女はチッと大きく舌打ちした。
「あーあ。こりゃ流石に無理か。組長にも無駄なケンカはすんなって釘刺されてるしなぁ⋯⋯。仕方ねえ、帰るぞぶん吉! 雑魚ども回収してからなぁ!!」
「了解なのです」
バイクのハンドルを握っている魔法少女は、端的にそう答えると、アクセルを踏む。ギャルルルと音を立ててその場で90度旋回すると、拘束されていた魔法少女たち目掛けバイクの後方から網を発射した。
「じゃあなお前らぁ!! 今度はもっと激しく殺りあおうぜぇ!! ひゃっはー!!」
去り際に、いつの間にか生えていた中指を立てて舌を出し、こちらを挑発しながら魔法少女2人組は帰っていった。その後ろに、網に絡み取られた大勢の魔法少女を引きずりつつ。
まるで嵐が来たかのような出来事だった。すっかりボロボロになってしまったホテルの入り口付近は、ミッド騎士の指示のもとJ・Jとぷれたんが片付けに走り回っている。ちなみにこの間、シャイニーダブルスは応援するだけで何もしていない。この魔法少女よりミッド騎士の方がリーダーに相応しいのではないだろうか。
「うーん⋯⋯」
「花子~? なんか難しい顔してるけれど、どしたん?」
隣に立つ花子がさっき魔法少女たちが帰っていった方向を見ながら唸っていたので、気になって尋ねる。花子は考え込むように側頭部をポンポンと指で叩いていた。
「さっきバイクを運転してた魔法少女の声⋯⋯どこかで聞いたことある気がするのよね」
「勘違いじゃないの~? 花子って魔法少女の知り合い、私以外にいないっしょ?」
「あなたと『メディア・ノクス』の子たちだけ⋯⋯なはずよねぇ? うーん、勘違いかしら」
しばらく考え込んでいたが、結局花子が答えに辿り着くことは無かった。この日は結局、残りの時間は片づけを手伝わされることとなり、ホラー講座の続きを最後まで行うことは出来なかったのであった。