歌姫達の奮闘をめちゃくちゃにする系AI憑依オリ主 作:鈴木颯手
「くっ!」
メタルフロートの責任者にして世界初のAIとの結婚を成し遂げた冴木タツヤは現在人気のない高速道路を爆走していた。別にこれは冴木博士の趣味という訳ではない。自動運転が進み、人がハンドルを握る事自体が珍しくなってきているとはいえ彼に走り屋の血は流れていない。
ではなぜ高速道路を危険な速度で運転しているのか。単純である。後方から同じような速度で追いかけてくる二台の車に命を狙われているからだ。
事の起こりは一時間前程になるだろうか。OGCのおひざ元であるアラヤシキにて会議を終えて愛するAI、グレイスの元へと帰ろうとしていた冴木博士は突如として後方から二台の車から銃撃を受けたのである。突然のこととはいえ慌てて冴木博士は車を自動運転からマニュアル運転に変更し、逃走を開始したのだ。
「くそっ!」
とはいえ冴木博士の運転技術では逃げる事で精いっぱいであり、二台の車を振り切る事が叶わなかったのだ。警察に通報しようにもジャミングを受けているのか携帯は使い物にならなくなっており、助けを呼ぶことは出来ていなかった。
このままではいずれ限界を迎えて車が衝突する成り追跡者の手に掛かるかするしかない。そんな風に思い始めていた時だった。突如として天井が凹んだのだ。それはまさに何かが落ちてきたような形であり、突然の事に驚き上を向いてしまったほどだ。
『失礼。運転をもらいますよ。貴方の運転技術は見ていて不安しかありませんからね』
そして、そんな音声と共にハンドルが勝手に動き出した。自動運転の如き動きに驚くも先ほどよりもスマートな走りとなり、少しずつ追跡者の車を引き離していく。
「あいつらの仲間ではないのか?」
完全に信じる事は難しいがそれでも自分を奴等から逃がそうとしているのが分かった事で冴木博士は一時間ぶりに安堵をする事が出来た。
そして、そんな冴木博士に答えるように車の天井に飛び乗ったAI、ディーヴァは後方から追い上げてくる二台の車に視線を向けていた。
【まずはあの車を止める事から始めましょう。さぁ! 乱暴な暴力で行け!
【うるさい】
それが本業ではないしその呼び名は不本意だと感じながらもディーヴァは車から追いかけてくる車に飛び乗るとエンジンルームに拳を叩きつける。人間よりもはるかに高い筋力を持つディーヴァの拳は一撃でエンジンに損傷を与えて車を止める事に成功した。
「っ!」
しかし、相手は道連れと言わんばかりに窓から銃を出して射撃をする。それを間一髪のところで躱したディーヴァは再び冴木博士が乗る車に飛び乗った。
これで残り一台だが先ほどの一撃を見て警戒しているのか少し距離を取り、射撃を行ってきた。確実な方法に見えるがディーヴァたちの前にそれは下策だった。
マツモトが周囲の機械にハッキングをすると消火用の液体が撒かれ、車をスリップさせていく。どれだけの運転技術があろうともこうなってしまえばコントロールなど不可能であり、追跡者の車は回転しながら壁へと激突した。かなりの速度で突っ込んだためにあの車が動く事はないだろう。
【これで取り合えずの障害は無くなりましたね。さぁディーヴァ。車に乗り込んで冴木博士との短いデートと行きましょうか!】
【マツモト、少し黙っていてください】
なんにせよ冴木博士の自宅まではまだ少しの時間がある。先程の追跡者の仲間が来ないとも限らない以上ディーヴァとマツモトは冴木博士に事情を説明するためにも後部座席のドアを開けて車へと乗りこんでいくのだった。
【……目標の暗殺に失敗。予定を変更する】
一方、そんなディーヴァたちの一連の行動を遥か遠くから眺めている者がいた。バイクに乗り、双眼鏡から一部始終を見ていた男は通信でそう呟くとエンジンを入れてバイクを走らせる。
【冴木タツヤに例の歌姫が接触した。何らかの意味があると思われる。今後は監視を徹底するとともに冴木タツヤの暗殺は中止する。再開するかは今後の動きを見て決めるものとする。
男の命令に対して何かしらの返答が帰ってくることはない。しかし、それが返事を意味している事を理解している男は通信を終えるとジャミング装置を解除しながら次の地点へと向かうのだった。