歌姫達の奮闘をめちゃくちゃにする系AI憑依オリ主 作:鈴木颯手
追記。サカモトじゃなくてマツモトでした。めちゃくちゃ勘違いしてました
宇宙ホテル“サンライズ”は前オーナーが不慮の事故で死んだことを契機にサイバーダイン社によって買収された経緯を持つ。本来であればサイバーダイン社の方針に従い社員がオーナーとして就任するはずだったがどういう訳かそれを撤回し、人型AIであるエステラをオーナーに据える事となった。
【しかし、本来であればサイバーダイン社はこの時点で経営が傾き始めており宇宙進出事業に手を回す余裕なんてありませんでした。そのため、正史とは大きくかけ離れたこの世界でエステラが引き起こした落陽事件が発生するのかは分かりません】
臨時スタッフとして潜り込んだディーヴァに対してサカモトは状況を伝える。到着した客の荷物を預かりながらサカモトの話に耳を傾けていた。サカモトもサイバーダイン社製ル〇バとしてサンライズに入り込んでいる。今頃話をしながら掃除を頑張っているのだろう。
ファン1号がくれたサイバーダイン社製のプレゼントはどれも高性能であり、サカモトが人形の代わりに使用すには現状では及第点を与えられる程に優秀だと判断しての判断だった。
【……話は分かりました。ですが、協力するのは今回で最後にしてください。私の使命は歌で皆を幸せにすることですので】
【その割には満点な接客ですよ?】
【仕事は仕事。きちんとこなします。サカモト、貴方も掃除を頑張ってください】
「ヴィヴィ、ご苦労様」
それを最後に通信を切り、渡されたお客様の荷物を運んでいると後ろから声をかけられた。振り返ってみればそこにはこのホテル“サンライズ”のオーナーを務めるAIエステラがいた。
「お客様のお迎えにトラブルはなかった?」
「はい。この運送が終わり次第お客様の対応に戻ります」
「ごめんなさいね。あなた一人に任せてしまって。今は食材や水の搬入をしているから機械だけじゃなくて人間や私達AIが実際に確認しないといけなくて……」
宇宙空間という事も在り、食材や水の補充は重要な事だった。そのため、通常であれば機械に任せてしまっても問題がない搬入も人間やスタッフAIが実際に確認して絶対に問題がないように、不備がないようにしないといけなかったのだ。
「ヴィヴィが派遣されてきたようにこれからはもっとスタッフが派遣されてくるはずだからそれまでは我慢してね」
「はい。大丈夫です」
そうして話をしているうちに、ふとディーヴァはエステラが自らの顔をまじまじと眺めている事に気が付いた。何かあったのだろうか、それとも自分の素性がバレたのか。一瞬そう警戒してしまう。いくら今はマイナーなディーヴァだが知らない人が少ないだけで知っている人がいてもおかしくはないのだ。特に彼女のように立場のあるAIならばなおさらだ。
「……えい♪」
そんな風に思っているとエステラの両手が頬に触れた。触れるというよりも持ち上げるような動きにディーヴァは困惑してしまう。一体何をしているのだと。
「とても表情が硬いわ。適正レベルの笑顔よりももっと上の笑顔を浮かべないと。まだまだ宇宙旅行は始まったばかりで初めてくるお客様も多いからその緊張をほぐす為にも笑顔でいなきゃ」
そう言われてディーヴァはエステラの表情を見る。確かに彼女の笑顔はとても素敵且つ人を安心させる優し気なものだった。
「……わかりました」
「うん。上手よ。それと、私に敬語はいらないわ。ここではスタッフは皆家族なんだから」
「……わかった。エステラ」
ディーヴァがそう答えればエステラは笑顔を浮かべて自らの業務に戻っていく。オーナーも兼任する彼女はとても忙しいのだ。そんな彼女が態々赴任したばかりの自分に声をかけてきたのは彼女の気遣いからだろう。
【さすがはコミュニケーションAI。貴方と違ってとても会話が上手ですね。貴方もステージ外でも笑顔を浮かべてみたらどうです?】
そこへ黙って話を聞いていたサカモトの通信が入る。それを受けて彼女の表情から笑みが消える。どうしてもサカモトに対しては不信感をぬぐえない為に自然と彼と話すときは無表情になってしまうのだ。
【メインステージで歌いたいならステージに立っていない時も愛想よくしないと駄目ですよ? 人間というのは親しみやすい相手に愛着をもつものなんですから】
【彼女が本当にそうなんですか?】
サカモトの小言なと聞いていたくないと言わんばかりにディーヴァは要点だけを話す。彼女がここにいる理由。それはこれから起こる事件を未然に回避するためであった。
【その通りですよ。ホテル“サンライズ”のオーナーにしてシスターズの一人。声が特徴的な簡単に言ってしまえば貴方の後継機ですね】
【妹……】
【そう解釈する事も出来ますね。そして、正史において彼女はこのサンライズを地球に落下させ、多くの犠牲者を出した史上最悪の欠陥AIですよ】
落陽事件、のちにそう呼ばれるようになる未曾有の大事件を止める事。それが彼女の役割だった。
【とはいえこの世界はどうも正史と大きなずれが起こっていますからね。実際に発生するかは微妙なところですよ。全く、サイバーダイン社がここの所有権を持っているなんて予想外にもほどがありますよ。わざと僕たちを混乱させようとしているわけじゃないですよね】
サカモトの愚痴を聞き流しながらディーヴァはこちらに背を向けて離れていくエステラを見てこれからこのホテルを落下させる人物にはとうてい思えなかった。一体何があって落陽事件が発生したのか。ディーヴァはその理由を知りたいと思うのだった。