男の娘が魔女になって大変な目に遭う話   作:クエクト1030

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10話「熱望する」

 私の故郷は魔女の圏域の外にあった。

 あった、というのは今は存在しないという事。

 

 私の故郷は津波のような夥しい数の魔法生物の襲撃に遭って、更地になった。たまたま薬草を取りに遠くへ出掛けていた私だけが生き残った。

 

 故郷は一つの街だった。村よりも規模が大きくて、ある程度の自衛能力もあったのに。

 

 

 

 化け物が、群を生して街を呑み込む。轢き潰す光景。

 

 

 

 そこに残っていたのは、判別のつかない、肉の残骸で。

 

 

 

 私の目には、街が消えていく光景が焼きついた。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

「っ!!」

 

 

 目を覚ます。そこは保健室で、ミコちゃんの眠るベッドの側だった。

 あの後ミコちゃんは私たちが泣いている間に寝てしまっていたらしい。私は今も自分の感情に振り回されて、ミコちゃんが意識を落とす瞬間を見ていなかった。

 

 私が見ていない間に。いや、私が見ていられたはずの間に……。ミコちゃんは……。

 

 

 

 私はまた家族を失うのかな。友達を、仲間を。

 また。また。また……。

 

 

 

「嫌だ……私を置いてかないで」

 

 

 まだ眠っているミコちゃんの手を握る私の口から、弱音が溢れる。

 あれからどれだけ経ったのだろうか。そう思って懐中時計を取り出して確認すると、日付はとうに過ぎ、針は朝の六時を指していた。

 

 アンちゃん、フレスノちゃんは書き置きを残して退出していたらしい。

 授業に向かうのでミコちゃんをお願いします。そういった旨が書き残されている。

 

 

 

 今ここには、私しかいない。

 

 

 

 目の前にはまだ完全には癒え切っていない幼気な少女が、すぅ、すぅと寝息を立てている。私が守らなければいけない、絶対に。この命に代えても。

 

 

「私が弱いから……私がもっと鋭敏な感覚を持っていたら、勘が鋭かったら。情報に聡かったら……」

 

 

 頭が中が後悔で満たされていく。

 事実あの時、私よりもミコちゃんの方が先に攻撃に気が付いていた。

 私はあくまで後手でも対応出来る力があるというだけであって、まだ朝日の魔女でしかないミコちゃんに、察知能力という点で完全に遅れて……。

 

 

 

 そして、ミコちゃんは身を盾にした。

 

 

 

 自分の力では何も出来ないと理解しているだろうに、私を守るために自分の身体を差し出した。

 

 

「うぅーん……」

 

「!」

 

 

 苦しそうな呻き声が聞こえる。

 私はすぐに回復魔法の《治れ(ハイレン)》を唱える。魔法に魔力を通す度に一つずつ、一つずつミコちゃんの傷が消えていく。声は少し柔らかいものとなって寝息が落ち着いていく。

 

 あぁ、私にもっと光属性の適性があれば一瞬で治してあげる事が出来たのだろうか。

 

 

「んん……すぅ……」

 

「……」

 

 

 何だろう、この気持ちは。

 

 この子の呼吸の一つ一つ、寝言一つ一つに胸が締め付けられる。

 この子の呼吸が落ち着く程に私の呼吸は荒くなり、寝言を発する度に、飲む唾は音を立てて喉を落ちていく。

 

 

「可愛い……」

 

 

 呼吸の音が愛おしく、汗ばんだ肌が鼻腔を満たし、透けたシャツ、乱れた髪の毛が欲望を沸き立たせる。

 あぁ、汗ばんでいるという事は熱いという事だろう。なら脱がしてあげなきゃ。胸元のボタンを外して呼吸を楽にしてあげて、それで、それで……。

 

 

「はぁ……はぁ……はっ!」

 

 

 わ、私を何を考えているんだろう。

 こんな幼気な女の子に、私を守ってこんな重傷を負った子に、私は一体どんな劣情を抱いた?

 

 

「は、恥を知りなさいリーベ。ふぅ、落ち着いて……落ち着いて」

 

 

 胸に手をあてて呼吸を整える。

 呼吸をする度にミコちゃんの甘い、とても甘い香りが鼻を通る。

 

 思い返せば、私がこの子の案内をした時が始めだった。

 あの時のミコちゃんはとても、とても魅力的に見えて。

 案内人として可能な限り気持ちを抑えようとしたけどボサっとした髪の毛とダボッとした服が退廃的に見えて──

 

 

「──」

 

 

 もう一度その顔を見つめて。私は辿り着いてはいけない答えに辿り着いてしまった。

 

 

「わ、私は……傷ついている子が、好きなの?」

 

 

 どうやら認めるしかないらしい。

 初めて出会った時も、そして今も。

 

 

 

 私は、ボロボロの彼女に興奮している。

 

 

 

 私は家族が、友達が、仲間が傷つく事が、とてもとても嫌だというのに。

 

 

「ち、違う。これはミコちゃんだから。そう、ミコちゃんだから……」

 

 

 そうだ。私はこの子にだけ興奮しているんだ。私が誰でも構わない加虐趣味の女というわけではない。そう、この子。この子だけ。私はこの子が好きなだけ。

 

 

「ふふ。ふふふふ。この子がボロボロになって、それでも健気に立ち上がる姿に?そんな。酷い。」

 

 

 でもどうだろうか、この子の色気は?

 汗だけじゃない。その血の香りも、傷の痛みに苦しむ表情も、全てが色香を帯びて、厭らしく私を誘っているようじゃないか?

 

 

「んん……リーベ、さん?」

 

「!」

 

 

 心臓がドキッとする。

 敬語を忘れて、初めて出会った時のように、私の事を呼んでくれる純真無垢なミコちゃんがそこにはいた。 

 

 

「寝ちゃってたのか……」

 

「う、うん。身体はどう?」

 

「だいぶ楽になりました。もしかしてまた回復魔法で治してくれていたんですか?」

 

「うん。ちょっとでもミコちゃんが楽になればいいな、って思って」

 

「……ありがとうございます。すみません、私が勝手に出しゃばったばっかりに」

 

 

 あぁ、申し訳なさそうな顔をしないで。

 私の事なんて大丈夫だよ、今のあなたの方がよっぽど心配なんだよ。

 

 はぁ、顔の汗を拭っている所も色っぽい。キスの一つや二つ、したくなってくる。

 

 

「う。汗すご……身体もよくなりましたし、自室に戻ってまた休もうと思います。えっと……え。翌日!?す、すみませんこんな長く看病してもらって!」

 

「いいんだよ、お礼の言うのは私の方だから」

 

「そんな。あ、そろそろ先輩授業ですよね!?早く行ってください、遅刻しちゃいますよ!」

 

「私にも責任があるからね。ミコちゃんを一人で自室には送ったりしないよ。授業にはミコちゃんを送ってから向かいまーす」

 

「あ、あはは。ありがとうございま……わっ!?」

 

 

 汗だくのミコちゃんをおんぶする。

 

 

「く、臭いですよぉ」

 

「ぜーんぜん!じゃ、行こっか~!」

 

「は、はいぃ……」

 

 

 背中できっと赤面しているミコちゃんの声が耳元で聞こえる。

 私はそのままミコちゃんを送り届けて、戸締りをよくするように言い聞かせた。

 

 

 

 やましい事をする?とんでもない。

 ただでさえ怪我をしたままの身体にそんな事するなんて、そんなのただのレイプだよ。決して、決して許される事じゃない。

 

 

「~♪」

 

 

 

 だから代わりに。

 おんぶした時に汗の染み付いた、このコートで我慢するんだ。




 香水の持続時間は半日とちょい程度です。
 基本的にその日の朝に使うのと、遅くまで活動する場合は追加でプッシュしています。なのでワンプッシュでお手軽に時間を追加出来ますね!
 香水を使える状態なら、ですけど。
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