男の娘が魔女になって大変な目に遭う話   作:クエクト1030

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11話「決闘宣告」

「ヒルフ派、黎明の位階の魔女ススピロ・タベルナ!」

 

「……え、なに?」

 

 

 教室を出て呼び止められたススピロとその取り巻き。そして廊下を通っていた周囲の魔女たちがざわめく。

 

 

「圏域外派、朝日の位階の魔女ミコ・マレガカリがここに──決闘を宣告します。」

 

 

 僕は先日の報復を果たしに、決闘を申し込んだ。

 

 

「は。なに?決闘?なにそれ」

 

「魔法世界に敷かれてる数少ない法律の一つだよススピロ……!お互いの同意の上で決定する手段の一つ!」

 

「同意の上?じゃあ私同意しないんで、帰ってください。てか誰あなた。朝日のひよっこちゃんが何の用?」

 

「私は被害者です。先日、リーベ・リヴルヘイムと667教室を出た私たちに対して、あなたは魔法による攻撃を行い、私は重傷を負いました。今回はその件について謝罪を求めます」

 

 

 淡々と続ける僕の言葉を聞いて、ざわめきが大きくなる。

 

 

「被害者って、もしかしてこの前お願いされてた──」

 

「アンタは黙ってて!なに?被害者がなんだって?同意の上じゃないと出来ないんでしょ?」

 

「いいえ。被害者側からの申し出の場合、宣告となり加害者側に拒否権は存在しなくなります」

 

 

 魔女の決闘は二種類に分かれる。

 

 一つは取り巻きが言った、同意によって執り行われる決闘。

 これは互いの利益や目的がぶつかった際にその権益を受けるかを決めるためのもの。

 そしてもう一つは、被害者側からの宣告。

 決闘の宣告が行われた場合、加害者側はそれを拒否する事は出来ない。

 復讐を始めとした、正統な慰謝の権利を勝ち取るための法。

 

 

 

 そしてどちらも、一度負ければその結果が覆る事はない。

 

 

 

「これ本当?」

 

「本当だよ、実際に行われるのなんて初めて見たけど……」

 

 

 そう。何故なら魔女の社会においては、被害者になるような者が、加害者に決闘を申し出ても大して意味はないからだ。実力に差があった上での被害なのだから、大抵の場合は返り討ちにあって終わり。

 

 

「ふーん……アンタ朝日の位階なんでしょ?」

 

「そうです。数か月前に入学したばかりですね」

 

「そう。いいよ、受けてあげる」

 

 

 ススピロはにたにたと笑みを浮かべる。まぁ、位階とこの前の重傷からそういう判断をするのが普通だ。そもそも重傷を負うような弱い魔女ならすぐに返り討ち出来るわけだし。

 

 それはそうと、拒否権は元々ないってさっき言ったんだけどな。

 

 

「決闘についてご存じないようなので、公平を期すために説明しましょう。被害者による決闘の宣告の場合、被害者が勝利した場合に支払う代償、そして決闘を行う日時と場所を決める必要があります。日時と場所については即時、もしくは七日以内に決定する必要があります」

 

 

「今回、代償は加害を行った667教室前でミコ・マレガカリとリーベ・ニヴルヘイムに対して、公開謝罪を行う事を要求します。開催日時については、最短で即座に行うように。最長では、一か月以内から指定を。そして勝ち負けは、降参させるか、戦闘続行不可能なまでの怪我を負わせる事で決まります。殺傷は許されないらしいですからね」

 

 

 自分より格下の魔女からの説明という事で、ススピロは引き攣った笑顔を浮かべる。

 正直説明しようが説明しないがどうでもいいし、まさか知らないとは思わなかったから善意によるものだったけど……こいつがムカついてくれるなら一石二鳥だ。そのまま存分にムカついて欲しい。

 

 

「場所は魔法戦闘用屋外実験場を。日時は移動を含め一時間後を希望します。そちらは?」

 

「はいはい。それで文句ないよ。さっさとやろうか」

 

「ではそのように。」

 

 

 あっけなく話は進んでこちらの要求が全て呑まれる。そんな簡単にいくものだろうかと思いつつも、僕は一度別れる事にした。

 

 

 

 その時だった。

 

 

 

「《切り刻まれよ(フェリメント・ムイト)》」

 

 

 離れるために背を向けた僕に対して、魔法が放たれる。

 先日僕を切り刻んだ、無数の風の刃。

 

 

 

 あぁ、やっぱりそうするんだな。この人は。

 

 

 

 けれど、あれから僕は鍛えられた。基礎的な体力を作って、ちょっとした武術も身に着けて。結局バレてからはリーベ先輩にも力を貸してもらって、魔法を覚えて模擬戦闘も繰り返した。

 

 

 

 だから。

 

 

 

「《一面落下(落ちろ)》」

 

「──は?」

 

 

 これくらいだったら、もう撃ち落とせる。

 平面に対して働く重力を強化する、力属性の重力魔法。

 風の刃はそのまま地面に叩き伏せられ、肉ではなく床を切り刻む事で満足して消滅する。

 

 

「……一時間後ですよ」

 

「……」

 

 

 開いた口が塞がらないススピロを置いて立ち去る。

 魔女の時間感覚は、毎日普通に勉強して普通に遊んで普通に寝るだけの最低限の努力しか行わないもの。

 そう、僕たち物理世界の人間と何も変わらない。殆どの学生も同じ程度だろう。

 

 

 

 だからこそ。

 

 

 

 短くとも数ヶ月。遊びも無く、血の滲むような効率的で限界を無視した鍛錬を行った魔女に……勝てるわけがないだろう。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「来ましたね」

 

「さっきのまぐれで……まさかとは思うけど、いい気になってないよね?」

 

 

 時間通りにススピロはやってきた。

 強気に見えるけど、声色からしてさっきの一合での動揺を隠し切れてはいないらしい。

 

 魔法戦闘用屋外実験場……屋外運動場。

 運動場には圏域外派の皆も見学に来てくれている。他にも野次馬に来た魔女が何人もいる。この場の全員がこの勝負の証人になってくれるというわけだ。

 

 

「開始の合図はそちらからでいいですよ」

 

「……アンタ、調子に乗りすぎ。《調理開始(コジニェイロ・ローバ)》《仕込みの(シカトリス・)──はぁ!?どこいった!?」

 

『ふっ。上手い』

 

 

 観客席からムネメ先輩の声が聞こえる。

 使ったのは、唯一この短期間で覚える事が出来た業術の「縮地」だ。

 ムネメ先輩がマリシオに僕を投げた時に使っていた瞬間移動の技。

 まだ未熟だから移動距離は長くないけど、それでも。

 

 

 

 慢心して攻撃魔法を初手で使わなかったススピロの意識の盲点をついて、視界から姿を消すくらいはどうとでもなった。

 

 

 

「《貫通装填(ペネトレーション・セット)》」

 

「っ!」

 

 

 背後を取る。

 そして通過した魔力に貫通能力を付与する魔法陣を展開し、魔力弾を連射する。

 

 

「《まな板(タブア・ヂ・コルタール)》!」

 

 

 ススピロの背面に魔力の壁が出来る。

 

 

「うがっ、なんでっ!?」

 

 

 が、この程度の障壁は難なく貫通して、ススピロの背中に何発もの魔力弾が突き刺さる。力属性の代表的な強みは、重力魔法、そして力を操作する性質。

 要するに万物のエネルギーの操作で、魔力を中心としてエネルギーの概念を内包して指している。

 流れ方、性質、形状を操作して貫通能力を付与した弾丸は、シンプルにして強力な攻撃手段になる。やってる事は銃火器と同じだしね。

 

 

「あれ。防げないんですか?」

 

「うるさい!──あぁくそ、痛い、痛い痛い!」

 

 

 壁が完全に崩れ去っても、僕は容赦なく連射し続ける。

 魔法陣を通す事での貫通付与だから、魔法陣を一度展開してしまえば、後は詠唱も必要ない魔力弾をただ速く、正確に連射すればいい。

 

 

「《突風(ヴェンタニア)》!はぁ、はぁ……!」

 

「逃げるんですか?おかしいなぁ。私よりも強いんですよね?位階も上ですし」

 

「黙れ……ふー、意趣返しのつもり?性根悪いね。だからリーベ共々目の敵にされてるんじゃないの?性格悪いからねぇアンタらの派閥。汚いものは掃除しなきゃ。しかも規模も小さいしね。吹けば飛ぶようなゴミが風に吹かれただけじゃない。あ、ちっこいのはアンタも同じか。背も胸も小さいチビだもんね?」

 

 

 突風を吹かせる魔法で自分を吹き飛ばし、大きく距離を取った彼女は。

 青筋を浮かべているのが声で分かる程、取り繕う事のない罵詈雑言を並べ立てる。プライドばかりが高い人っていうのは、知性が低くてもこうも──『暴言を並べるのはそこまでにしておいた方がいいんじゃない?』──うるさいな「私」は。

 

 ムカつくけど考えるだけだし。言わなきゃいいんでしょ、言わなきゃ。

 

 まぁとにかく。こいつの言う通り意趣返しは済んだ。

 後は勝てばいいだけなんだけど……

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

『フー……いいかミコ。魔女という生き物について重要な事を教えてやる』

 

『げほ、それは今地面を舐めた姿勢で拝聴すべきことですか……』

 

『どっちでもいい。いいか、確かに決闘で負かせばそれで目的を達成できる』

 

 

 

『だが。』

 

 

『その後はどうだ?もし納得がいかなければ、相手は決闘なんて方法を使わずにまた襲って来る事もあるだろうな。その時は手段も問わないだろう。奇襲、夜襲、強襲。多対一も辞さない。あらゆる手段を用いて復讐を果たす……』

 

『ならどうすれば?もっと強くなれって事ですか?』

 

『それも間違っちゃいない。だが重要なのは別だ』

 

 

『それは──』

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「それは『勝ち目0、完膚なきまでに叩きのめして絶対的な格付けを済ませる』こと……!」

 

「──あ”?」

 

「来い、お前の全力を見せてみろススピロ・タベルナ」

 

 

「その上で、叩きのめしてやるから。」

 

 

「クソガキが──」

 

 

 

 完全に沸点を超えた、憎悪と怒りに満ちた低く小さな声。

 人間の怒りというものは、度を超えてしまうと時として、耳を劈く高音の絶叫でなく、低く小さな一言になるものらしい。

 

 

 

「いいよ。お前が殺してくれとせがむまでズタズタに切り刻んで、焼き上げてやるから」

 

 

 

 彼女の杖に魔力が集まっていく。

 

 今度は見逃さないと言わんばかりに見開かれた目は僕を見つめて、殺意の籠った詠唱は彼女が最も得意とするであろう魔法をこの世に現出させる。

 

 

 

 魔法陣が幾つも浮かぶ。

 

 その一つは獲物を無慈悲に切り裂く刃へと魔力を研ぎ上げ。

 

 また一つは全てを焼き尽くす業火へと魔力を変じさせる。

 

 

 

「私はどんなクソみたいな食材でも美味しい料理にするって決めてるんだよ……だからせめて、活きの良さだけは証明してよね。ひよっこ!!」

 

 

 

 

 

 

 僕の格上に位置する、黎明の位階。

 

 ススピロ・タベルナの本気とやらが、見られるらしい。

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