男の娘が魔女になって大変な目に遭う話   作:クエクト1030

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13話「え、なに?花嫁修業をつける?」

「良いお嫁さんを迎えるためには胃袋を掴むのが一番。これ常識ね、全員覚えるように」

 

「「はーい」」

 

「はい……?」

 

「くくっ」

 

 

 現在地は寮棟が厨房。

 

 僕たち圏域外派は、全員が猫ちゃん柄とかひよこ柄とかのエプロンを身に着けて、ススピロ先生の料理教室もとい、花嫁修業を受ける事になった。

 

 ──どうしてこんな事になったんだっけ。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 時は少し遡る。

 

 僕はススピロとの決闘に勝利して、彼女に襲撃の件の謝罪を受ける事になった。

 

 ため息を一つ吐いていたけど、すんなりと決闘の結果を受け入れて667教室前で僕とリーベ先輩に謝罪をした。しかもきちんと、誠意を持って応えてくれた。

 

 日本人以外であそこまで綺麗なお辞儀の角度を見るとは思わなかった。

 

 謝罪が終わった後、リーベ先輩は僕が一人で決闘を成し遂げた事に満足して、頭を撫でなでしてくれた。いつもよりも撫でが激しく髪の毛がくちゃくちゃになった。

 

 

 

 本題は、一旦解散したあと、ススピロがこっそり僕についてきて接触し、一目のつかない場所に連れ込んだ事だ。

 

 

 

「な、何?……え、本当に何!?」

 

「黙って。」

 

「……」

 

 

 僕は何故か壁においやられて、腕を頭の上で抑えられていた。

 

 本当に何故?

 

 

「アンタ……アンタ……」

 

 

 ススピロは顔を赤くしてもじもじとしながら言葉を選んでいるように思える。

 

 落ち着け。僕は今日きちんと香水をつけてきているし、この前の決闘の時だってきちんと香水はつけていた。

 

 この赤面はきっと何か自分の気持ちを告白する──恋愛感情とかそういう意味じゃなくて、そういう事だ。きっとそうだ、だからららららら。

 

 

「何で私の名前知ってるの」

 

 

 ススピロの口から飛び出したのは、そんな質問だった。

 

 

「え、えっと。見えたというか聞こえたというか」

 

「見えたって……!」

「あの、最中、に!公然の目前で私の心を覗いたの!?こんの破廉恥女!」

「朝日のひよっこなんてとんだ見当違いだった、アンタなんて夜の女王よ夜の女王!この変態!」

 

「えぇぇ……そんな事言われても」

 

 

 どうやら勘違いしているらしい。良かった……いやこれ別に良くないな?

 普通に恨み買ってないかこれ。

 

 拙い。とても拙い。

 

 この前は勝ち目0の完膚なきまでに叩きのめすって言って倒したはいいけど、本当はあれ、かなりブラフが混じってる。

 

 三か月でススピロに勝てるようになったのは勿論努力も関係してるけど、やった事は「出題範囲が分かってるテストの狙い撃ち」に等しい。

 

 ススピロが使うであろう魔法へのメタと、魔女の魔法戦へのメタでの相性勝ちみたいなもの。

 

 つまり、この恨みのまま再戦を申し込まれた場合、ススピロに僕対策をされた上でやられると……普通に負ける可能性が結構高い。

 

 

「はっ……!まだ精神干渉魔法かけてるんじゃないでしょうね!?音、音でしょ?どうせ音属性魔法でしょ。私が苦手な音属性でハメたんでしょ!解きなさいよ、そしたらズタズタにしてやるんだからぁああ!」

 

 

 そんな風に冷や汗をかいている僕をよそに、半分泣きながらそんな事を言われる。

 

 解いて欲しいのは僕の方なんだけどなぁ。

 腕、拘束されてるし。

 

 

「えっとそもそも私は精神干渉魔法は使えないんですけど……」

 

「嘘。ランク2の魔法、それも音属性魔法使うような魔女なんてどうせ大体精神干渉魔法使えるに決まってる!」

「私知ってる、それであんな事やそんな事をする魔女がいるって話……」

「アンタも、アンタもそいつらと同類なんでしょ!はーやーくー私の洗脳解けよー!!」

 

「ぐわあぁぁぁ」

 

 

 そのまま胸倉を掴まれて揺さぶられる。

 

 この状況で泣きたいのは僕の方なんだけどなぁ!

 

 

「もういい、解く気ないって事ね、それならそれで責任取ってもらうから!」

「アンタ私の嫁になれ!いい!?」

 

「は!?お嫁さん!?いやいやいや、ならないよ!?」

 

 

 急に何言ってんだこいつ!?

 

 お前この前まで僕らの事傷つけた犯人だったじゃん、いきなり花嫁になるとか思考回路どうなってんだ!?

 

 

「ちょっと待ったーー!お嫁さんとは聞き捨てならない!」

 

「誰アンタ──げぇ、リーベ!」

 

「リーベ先輩!?戻ったはずじゃ!?」

 

 

 閉じられていた扉を勢いよく開け放ち、混沌とした場に飛び込んできたのはリーベ先輩だった。

 

 助かったけど助かっていない。

 

 更にややこしくなりそうな予感がする。

 

 

「二人が人気のない怪しい場所に行ったのを聞いたから急いで引き返してきたんだよ!」

「ミコちゃんをお嫁さんにするのは私だよ。女狐は黙って引っ込んでね!」

 

「私はミコに乙女の大切な秘密を知られたんですよ、黙って引き下がるわけないでしょ!」

 

「秘密って。自分で嫌と言っても素敵な名前ではあるじゃないですか、カリ──むぐぐぐ!」

 

「み、ミコは黙って!いい、それ絶対言わないでね!?恥ずかしいんだから!」

 

「何々、カリが何なの?」

 

「カリって言うなぁ!」

 

「むぐぐーー!」

 

 

 二人で言い争いを始める中、僕の発言権は早々に失われていた。

 

 誰か助けてくれ。

 

 

「こうなったらどっちがミコちゃんのお嫁さんに相応しいか勝負だね……」

 

「はっ。戦う事しか能のないあなたが私と、花嫁能力で決闘を?随分とナメられたものですね」

 

「むむむ。私だってそれなりには……そ、それにそうやって相手をナメてかかって負けたのは誰だったかな?」

 

「むむむ。」

 

 

 何がむむむだよ。とりあえず離してくれよ、僕を置いてけぼりにしないでよ。なんで勝手に僕がお嫁さんになる話が進んでるんだよ。どちらかと言えば僕はお婿さんだよ。

 

 いや問題はそういうことじゃないよ。

 

 

「ぷはっ。待って!なんで私がお嫁さんになる事が前提で話が進んでるんですか!?」

 

「口封じのため」「好きだから!」

「えっ」「えっ」

 

 

 えっ。

 

 

「……あ」

 

「ふぅぅ~~んん??」

 

「まって!まってまって、違うの!いや違くないけど!?」

 

「り、リーベ先輩?」

 

「あのねミコちゃん!こ、これはね!?」

 

「へぇ~~?学園内でも数少ない黄昏の位階サマが、新入生に?お熱?ほぉ~~」

 

「ちょっとそこうるさい!」

 

 

 こ、告白された?いやその場の流れとかそういうアレだよね、うん。

 

 リーベ先輩も顔赤くしてるし。やっぱ違うんだ、そうそう。

 

 

「ふーーん。」

「よし二人とも、取引しよう。私の精神干渉魔法を解いて、私の本当の名前も言わない代わりに」

「花嫁修業をつけてあげようじゃん?」

 

「え、なに?花嫁修業をつける?」

 

 

☆☆☆

 

 

 

「──そして、胃袋を掴むためには料理を作る場所。その清潔さもまた肝要です」

「いいですか、魔法道具、魔法、あらゆる手段を尽くして汚れを消し去ります。汚れとは悪魔、ヴィシャップです。存在を決して許してはいけません」

 

「「はーい」」

 

 

 そうして、昨日まで敵だったはずの彼女が先生になっていた。

 

 なんでだよ!?てか嫁にするのはそんなポンと諦めていいのか!?

 

 ……なんかちょっとショックなんだけど。なんでだ。

 

 

「しかしどんなものを使えばいいのか、最初は戸惑うでしょうね。という事で今回はこちら。ススピロ液とススピロ棒を持ってきました。材料は簡単で──」

 

 

「はぁ」

 

 

 普通の料理教室……の前に掃除教室が始まった。

 

 しかも皆して先日までの復讐対象だったススピロを前に、従順にその指導を受けていく。興味津々すぎない?

 

 

 

 ただ正直、このススピロ液とススピロ棒はすごかった。

 液を浸した汚れは簡単に落ちて、棒は細かい場所もささっと掃除出来る。

 

 魔法みたいだけど、魔法でも魔法道具でもないっていうんだから、面白いもんだよね。

 

 ……なんか僕も流されてないか?

 

 

「はいこんな所です。まぁこの厨房の清掃度は10点満点中、7点はあげてもいいね。じゃあ待望の料理を始めていこうか」

 

「「はーい!」」

 

 

 どうしてリーベ先輩以外にもアナ先輩とフレスノ先輩も混じっているんだっけか……

 

 あぁそうだ。そもそも圏域外派にススピロを連れ込んできたから、その流れで雑に参加する事になったんだ。ムネメ先輩はいつもの冷やかしだし。

 

 

「今回用意した食材はこちら。普通の鶏肉と普通の野菜たち。ニンジンに──まずは包丁を使ってカットしていきましょう」

 

 

 全員が順調に指示通り野菜をカットして──

 

 

「うわあああ!?な、何ですかそのまな板!?」

 

 

 は、嘘でしょ!?リーベ先輩とフレスノ先輩のまな板が血まみれなんだけど!?

 

 うわ二人の手が真っ赤だ!!

 

 

「いったーい!」

 

「くっ、こんなに難しいものなのですか、料理というものは……!?」

 

「ふー、出来たぁ」

 

 

 アン先輩はそんな二人を尻目に淡々と食材の仕込みを終えてた。

 

 僕も遅れて完成するけど……

 

 これあれかな?魔法世界で生まれ育った魔女はロクな包丁の使い方を知らない感じかな?

 

 

「ほう。アンとミコの二人は見事なものですね、特にミコは慣れた手つき、綺麗に切り分けられてるし……色々切り方知ってるね、仕込み包丁も入れてあるじゃん」

 

「まぁね、自分で料理しなくちゃいけなかったし。学校の図書館から本借りてきて色々やった事もあるよ」

 

「素晴らしい。いい料理人になれるよ。アンもセンスあるね、少なくともそこのバカ二人に比べれば圧倒的。」

 

「え、えへへ……」

 

「「むむむ」」

 

 

 何がむむむだ。早くその血まみれのまな板どうにかしてよ。

 

 あ、魔法で洗い流した。

 

 ……血液ってかなり不潔じゃないっけ。この程度でいいのか……?

 

 

「とりあえずそっちの下手くそがまともに切り終えるまでは二人は待機しといて。血まみれの食材もきちんと別で調理します。殺菌する調理方法に切り替えますが……とにかく、廃棄は許されません。」

 

「流石カ……ススピロ。食べ物の大切さを理解している……」

 

「え、なにその後方彼女面は!?ちょっと、ミコちゃん!?」

 

「リーベ先輩、頑張って~~!」

 

 

 正直あまりの酷さにそれ以外にかけられる言葉が思いつかないので、リーベ先輩に送れたのは簡単な応援だけだった。

 

 ごめんなさい先輩、語彙力をもっと身に着けるように努めます。

 

 

「ぐぬぬ、任せ──いったーい!」

 

「生意気ですねこの刃物」

 

 

 刃物が生意気って何だよ。

 

 二人とも抑える指丸出しな上に包丁の持ち方が野蛮すぎる、なんだこれ。

 

 片方の手は猫の手とか教えられた事ないのか?エンコでも詰める気?

 

 

「魔女って普段から何でも魔法でやるから原始的な包丁は苦手とかそういう感じなのかな……」

 

「まぁそうね、そういう奴は多い。しかも魔法は使えても魔法道具は使えない、なんて奴もいるし」

 

「うぐーー!!」

 

「リーベ……アンタもその部類なのか……」

 

 

 リーベ先輩はかなり不器用らしい。例として言ったのがまさかの正解だったようで、発言者のススピロがドン引きしてる。

 

 そういえばリーベ先輩、僕を魔法世界に案内する時もなんか操作に悩んでいたような。

 

 ……あれ。って事はワンチャンどことも知らない場所に転移してた可能性あった、のか?

 

 いや、考えすぎだよね、うん。

 

 こっわ。

 

 

「でーきたー!」

 

「ふ、フレスノちゃん早い……!?」

 

「いや遅ぇよ。ふむ……まぁ及第点ね。フレスノは合格にしてあげる」

 

「よしっ、よしっ!」

 

「や、やりましまねフレスノ先輩っ……!」

 

「ありがとうございます、アン!」

 

 

 フレスノ先輩が包丁を終えて合格判定を受ける。

 

 呆れているススピロの声は聞かなかったものとする。

 

 大きさは不揃いだけど、食材がきちんと切り分けられた状態になっている事は事実だ。

 

 ……うん、まぁ。手が真っ赤な事以外は本当によく出来ましたって感じなんだけどね?

 

 

「うわーん!」

 

「あぁ……うぅーん、しょうがないですね」

 

 

 流石に見かねてリーベ先輩の手伝いに入る事にした。

 

 治療魔法とか色々あるにしてもこれ以上血が出るのはちょっと……ね。

 

 それにせっかく新鮮な食材が無駄になるのには変わりないんだし。

 

 

「いいですかリーベ先輩、片方の手はこうしたら丸めて猫の手にするんです。そうすると包丁の側面を高い位置で合わせる事も出来て安全でしょう?」

 

「う、うん。そうだね」

 

「それで、先端じゃなくて根本に近い腹の部分から当てて、根本から先端に体重を落とすようにして切り落とす。包丁の入れ方によって使い方が違う時もありますけど、今回はこうします」

 

「な、なるほどね?」

 

「これを最初はゆっくりやるんです。私やススピロは慣れてるからなので、速さは参考にしないでくださいね、まずはゆっくり確実に……」

 

 

 後ろから手を回す事は身体の大きさ的に不可能なので、逆にリーベ先輩の前に入って先輩の手を補助する事にした。

 

 先輩の手を上から添えて、基本的な持ち方と力の加え方をレクチャーしていく。

 

 ……料理を教えるならここら辺の基本から教える方が良かったんじゃないか?

 

 

「そうそう、トン、トン。ゆっくりですよ」

 

「……」

 

 

 先輩は話さなくなっちゃった。

 いや集中してるのかな。この位置、顔が見れないのが難点な事に気が付いた。

 

 でも補助に入ったおかげか、出血大サービスが起きる事もなく順調に食材が切り分けられていく。まぁ手を添えてるんだから当然っちゃ当然だけども。

 

 先輩もニンジンを二本切ったあたりで慣れてきたのか、手をそっと離してからも順調に進んでいった。

 

 

「うわー、あれ素でやってんのかな……」

 

「よし、これでオッケーですね」

 

「や……やったあああ!!」

 

 

 ススピロが何がボソッと言ったような気がするけど、無事にリーベ先輩の分も完了する。

 

 ふぅ、一仕事終えたような──いや、まだ食材切っただけだこれ。

 

 

 

 食材を切っただけ。

 

 そう。何気なく浮かび出た言葉はまさに、その通りだった。

 

 

 

 ──地獄のような魔女の料理は、まだ火蓋を切って落とされたばかりだった。

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