男の娘が魔女になって大変な目に遭う話   作:クエクト1030

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18話「手を繋ぐ」

「お、お待たせしましたっ」

 

「全然待ってな、い……」

 

 

「か、か、か」

 

 

「可愛い~~!!」

 

「うぐぅ」

 

 

 集合場所は寮棟を出た先にある木を傘にベンチが置いてある待合所だった。

 待ち合わせに5分遅刻してやってきたミコくんだったのだけれど……

 何と、何と。

 

 

 

 

 

 

 彼は完璧なロリータファッションで登場した。

 

 

 

 

 

 

 全体的に白と桃色の配色で彩られたヘッドドレス、ジャンパースカート、プラットフォームシューズ。

 スカートは膝の下まで伸びているけど脚の露出はきちんとあって、肌色と白いフリルつきの靴下、シューズとのグラデーションが100点以上を醸し出していた。

 

 ミコくん……いいやッ、ミコちゃんの艶やかな黒髪がパステルカラーとは一見アンマッチしているように見えるけど、それが逆にイイ!

 本来そういう服装をしない子が、可愛い服装を望んでしている感が更に増していて唆るッ!実際どうなのかはさておいて!

 メイクもしてるね、素材がいいからナチュラルメイクに血色の良いチークとピンクのリップでよ~く整ってる。

 

 

「誰にやってもらったのぉ~~?」

 

「フレスノ先輩とアン先輩です……デートするんでしょって言われて、衣裳部屋に監禁されてました……」

 

「あははは!よく似合ってるよ、ミ~コちゃん!」

 

「ぐすん」

 

 

 一度に大量の尊厳が失われたのかミコくんは静かに涙を流す。

 う~ん、可哀そうな姿もまた可愛いね!

 

 

「じゃ、早速出発しよーう!」

 

「はい……わっ」

 

 

 落ち込むミコくんを励ますためにも、今日のために組んだ「ぷわーふぇくとな」デートプランを遂行すべく。私はミコくんの手を引いて街へと繰り出した。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「ここは……」

 

「魔法道具店が立ち並ぶストリート、通称A・F(エー・エフ)ストリート!」

 

「すごいごちゃっとしてる……帽子にこっちはネックレス?良く分からないオブジェクトもあるし、色んなものを売ってるんです、ね?」

 

 

 先ずは、色んな魔法道具(おもちゃ)が売られている商店街、通称AFストリートに足を運ぶ。ちなみにAF自体はアーティファクトの略称。魔法道具の中でも特に強力なものを指す分類名だけど、その名前にあやかってるわけだね。

 

 

「いっぱいあるでしょ~?魔法道具って聞くと杖みたいひ便利、とか。道具、みたいなイメージの方が出てくると思うけど、大抵は下らない悪戯アイテムとか、あとは日常に便利なものだったりするんだよ~」

 

 

「例えば……おっ。店主さん、この石は何ですか?」

 

 

 目についたのは1cmくらいで幾つかの文字が刻まれた石。私はそれを指さして、ちっちゃな店主さんに質問する。

 

 

「これは昨日作った奴だよぉ。この石と水をグラスに入れてグラスの縁をなぞると必ずドの音が出るんだぁ」

 

「楽器ですか。あれって水の量で音の高さを調整する奴だった気がしますけど、石入れるだけで制御出来るのは……なんだか面白いような、面白味が半減してしまうような」

 

 

 そうは言うけど、ミコくんは明らかに目を輝かせながら音の出る石を見ていた。石によって出る音も違うみたいで、ド、ミ、ラ。色んな音を試してる。

 見た感じ、この石はシンプルな音を出す魔法を刻んであるみたいで……魔力も少しだけ貯めておけるみたい。初心者でも作れるいいおもちゃだと思う。

 

 

「あはは、魔法道具ってそんなもんだよ。こっちは?」

 

「それは氷森のバター(アフアカトルフリオ)を混ぜたポーションの一つだねぇ。今掴んでるのは傷の治りをよくしてくれる奴だよぉ」

 

氷森のバター(アフアカトルフリオ)って何ですか?」

 

冷たい森林(ボスケフリオ)って森の奥地で取れる果実だねぇ。少し前に朝日のひよこちゃんにお願いして取りに行って貰ったんだよぉ。氷森のバター(アフアカトルフリオ)はランク3相当の水属性の魔力がぎちぎちに詰まっててねぇ。これを更に凝縮して抽出すると、ランク4にまでなるんだぁ」

 

 

 ……うん、あれ?なんか言ってる事すごいな。ランク4を扱うとなると私と同じ位階になるんだけど。さっき初心者でも作れるって言ったけどこの人、実はすごい魔女なのでは?

 

 

「傷、症状の悪化に対して水属性の『停滞』の力を適用してくれるのが一番の特色だよぉ、これを飲んでおけばとりあえず死ぬ事は無し。多分!」

 

「……え、さっきの下らないアイテムよりよっぽどすごい物じゃないですか、これ」

 

 

 うん、さっきのおもちゃと比べ物にならないくらい歴としたポーションだこれ。ランク4相当かつ属性の性質を狙って引き出して利用してるから……

 

 

 

 え、ってことはこの店主、本当に私と同じ黄昏の位階の魔女じゃん。

 

 

 

「下らないって失礼だなぁ。それにすごくたって売れないんだよぉ?」

 

「え、なんでですか?」

 

「数が少ないんだよねぇ、氷森のバター(アフアカトルフリオ)ってぇ。他の希少な素材と比べれば採取も簡単なんだけどぉ、微妙に面倒で数が少ないから値段を上げざるを得ない……」

 

「世知辛いですね」

 

「そんなもんなんだよぉ」

 

「ふふ。まぁ武闘派な魔女からは売れるだろうし、何にしても需要がないわけじゃないんだよ。一本くださーい」

 

「はいよぉ。」

 

 

 驚きを隠しつつ、私は手のひらに魔力の結晶を形成してポーション一つと引き換える。魔女の社会は物々交換……いや、魔力交換が基本なのだ。

 

 

「うん、妥当だねぇ。まいどありぃ」

 

「へぇ物々交換、なんですか?」

 

 

 ミコくんは結晶とポーションとを引き換えた事を不思議そうに見つめる。

 アンちゃんを遊びに連れて行った時も似た反応したっけかな?

 

 

「そ。物の魔力の量と質で価値を測って、妥当だと思ったら交渉成立。量と質さえあれば今みたいに自前の魔力だけで支払う事はいくらでも出来るよ。常日頃から結晶作って保存しておいたり、ね。まぁ他にも貴重な品物だったら魔力が相応じゃなくても交換出来たりするけどね!」

 

 

 ちなみにさっきのポーションはミコくんが全部の魔力を出してもやや足りないかな〜くらいの価値だった。まぁそんなこと言わないけどね、買ったの私だし!

 

 

「へー……ってそれ、自分でお金を作れるなら貨幣価値崩壊してるような」

 

「そうでも無いよ。魔女社会は魔法と魔力で成り立つからね、さっきの結晶だって店主はまた別の実験に使ってすぐ消費するだろうし、研究者は特に自前の魔力だけじゃやりたい事を実現する事は難しいの」

 

「だから研究の副産物を売って少しでも賄う、と」

 

「そゆこと〜。このポーションだって希少とはいえ、危険度が低いなら依頼に支払った魔力は大して多く無いはずだしね」

 

「安く仕入れて高く売るって原則はこっちでもあるんですね」

 

「だね!」

 

 

 ミコくんはなるほど、と納得してまた何かを考え始める。

 よくよく思うけど、ミコくんはかなり勉強熱心な魔女だよね。

 ムネメは物理世界から来た魔女と私たちは時間感覚が違うから短時間で詰め込もうとする、って言うけど、別にそうとは限らないと思うんだ。

 

 アンちゃんも物理世界から来たけど、他の魔女と同じで結構のんびりお勉強してるし。

 

 

 

 ま、そんな真面目なところも魅力だよね!

 

 

 

「これは?可愛いデザインですね」

 

「髪留め。自動で髪型も編んでくれるぞ、買うか?」

 

 

 私が勝手に一人考えてる間にミコちゃん隣のお店に行ってたや。

 ちょっと駆け足で合流しよっと。

 

 

「わ、ほんとだ可愛い花柄」

 

「うちは髪の毛周りのアクセ作ってっからな。なんか買ってけ、魔力くれ。」

 

「すごいストレート……」

 

「あはは……こういう人もいるいる」

 

 

 今度の店主は無愛想な子みたい。

 でもアクセ屋だけあって頭周りがとってもおしゃれ。服は着崩してるからアンマッチだけど……髪の毛周りにしか興味ないのかな?

 

 

「これとか……こほん。リーベに似合いそうですね」

 

「バレットだ。でも色が少し地味じゃない?」

 

「リーベは素体がいいんですから、派手な装飾だとむしろ邪魔しちゃうじゃないですか。大人しめの飾りでリーベ自身を引き立たせた方がいいと思うんです」

 

 

「……わー」

 

 

 真剣な顔で言われると流石に照れちゃうな。

 この子真面目にそういう殺し文句言ってくるとこあるよね、恐ろしい……!

 

 

「なんだリア充か。死んでくれないか?」

 

「この人、物売る気あるんですかね?」

 

「あはは……じゃあそれと、あとこれもくーださい」

 

「あいよ。ん、確かに貰った。まいどありー」

 

 

 私はミコくんが選んでくれたバレットと、髪留めを一つずつ購入することにした。

 

 

「そっちは?」

 

「こっちはミコちゃん用。綺麗なお星様とお月様がついてて可愛いなって思ったからね。プレゼント〜」

 

「わぁ……ありがとうございます……!」

 

 

 目を輝かせて受け取る。そうそう、素直にそうやって喜んでくれると贈った側も満足度高いんだ〜!キラキラさせてるお目目もかわい〜!私もテンション上がるなぁ〜!

 

 

「大事にしますね、リーベ」

 

「うん!」

 

 

 ルンルン気分の私とミコくんはもう暫く手を繋いで。

 ウインドウショッピングを続けることにした。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 ぐぅぅ、とお腹の虫が鳴く。二人の目が合って照れ笑いをし合う。

 時間も頃合いと思い移動を始めたところなのでちょうど良い。私は予約したレストランへとエスコートする。

 

 

「ここだよ〜」

 

「レストラン……ぺー、ペルリア?」

 

 

 レストラン「ペルリア」。少しだけお高めだけど、低い位階の魔女でもたまの贅沢として手を出しやすいお店。

 

 

「看板、崩した字だから読みにくいよね〜、そこがおしゃれなんだけど」

 

「わかります。私もこういうデザインの崩し字結構好きです。おしゃれだし、かっこいいし。書道の授業は結構楽しかったなぁ」

 

「書道?」

 

「日本の文化です。墨と筆で文字書くんですよ」

 

「へー、羽根ペンじゃなくて?」

 

「えぇ。まぁ現代ではメジャーな筆記手段ではないですけどね。文化継承のためとかそんな感じだと思います」

 

「物理世界も教育には力入れてるんだ~」

 

 

 筆かぁ、面白いこと聞いたかも。今度暇な時に圏域外派のロビーでその……書道?教室でも開いてもらおうかな?

 

 

「わぁ、おしゃれ……」

 

 

 はてさて、私たちは会話もそこそこにレストランの扉をくぐる。

 中は木造の内装に控えめな規模のシャンデリアと、テーブルにひとつずつ置かれる魔法道具のランプが照明になって、薄明るい落ち着いた雰囲気を醸し出している。

 

 

「何名様でしょうか」

 

「二名です。予約していたリーベ・ニヴルヘイムです」

 

「リーベ様……はい……はい。伺っております。個室を用意しておりますのでどうぞこちらへ」

 

 

 従業員(ガール)は予約を書き留めたノートをぺらぺらとめくってから顔を上げると、私たちを指定した個室に通してくれる。

 このレストラン、値段はさっき言った通り手を出しやすいのに、個室も完備している所がすごいんだよね。空間も弄ってるから維持魔力も結構かかると思うんだけど、どうやりくりしてるんだろ。

 

 私たちが案内された通りにテーブルにつくと、メニュー表を開かれ、説明を受ける。想定した通りミコくんはよく分からないようだから、私がさっさと決めて注文することにした。

 

 

「慣れてるんですね」

 

「ふふん、カッコつけたいだけだよ」

 

 

 腕を組んで自慢して返す。実際カッコつけるために下調べは入念にしてきたかんね……!行ったこともまぁ何回かあるけど、このお店に特別詳しいかって言われたら全然だし。

 

 今注文したのも最近行った子にオススメ聞いただけなのだ。えへっ。

 

 

「……あっ。私マナーとか分からないんですけど」

 

「だーいじょーうぶ。そのための個室だよ。それに簡単に教えてあげるよ、食事を楽しむのが優先ではあるけど、ね!」

 

「ふふっ。ありがとうございます」

 

 

 完璧すぎる……今私は超かっこいい自慢の彼女に違いない。

 

 

「お待たせしました。まずは前菜の──」

 

 

 そうこう話していると、早速前菜が運ばれてくる。

 色々説明を受けるけど全部聞く必要はないので、ガールにはそれとなく目配せして簡単な説明にだけ留めてもらった。

 

 聞いて楽しむ視点は勿論あるけど、今回はミコくんに魔法世界のお店や食事を楽しんでもらうことがメインであって、細かい説明はどうでもいいからね。

 

 

「いただきます……あ、美味しい。」

 

 

 ミコくんは早速前菜を口に運んで、頬を綻ばせる。

 

 

「うん、いいね。ニンジンのソースが優しい」

 

「葉物も柔らかくて美味しいです。新鮮な野菜はやっぱりいいですね」

 

「ね〜」

 

 

 そうして、私たちの早めのディナーは幕を開けた。

 時折お互いにあーんってしたり、あるいは料理がおいしくて黙々と食べちゃったり。

 

 ミコくん学食以外ではまともな食事体験してないらしいから、一つ一つに反応してた。うーん、財布の紐が緩むとはこの事か。

 

 

「ごちそうさまでした……」

 

「おいしかったね」

 

「はい。それに……食べさせ合いっこもその、楽しかったです。ありがとうございます、リーベ」

 

 

 彼は照れくさそうにしながらも、幸せそうに、はにかんだ。

 

 

「──ふふ、どういたしまして、ミコ」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 食事も終えて、まだ昼過ぎ。

 今回作ったプランでは食後の散歩で最後となる。

 例え学園内だとしても夜は危険だからね、寮棟の外にいるのはあまりよろしくない。ススピロを破ったとはいえ、ミコくんはまだ朝日のひよこちゃんだし。

 

 とはいえ、お日様の下でデート終了というのもなんだか風情がないと思った私は、とあるデートスポットを選ぶことにした。

 魔女たちの間ではありふれて定番だけど、ミコくんにはきっと喜んでもらえるはず。

 

 

「急に暗くなりましたね」

 

「ここは『常に夜になる現象』が起きている森だからね」

 

「……大丈夫、なんですか?」

 

 

 現象と聞いてミコくんの顔が険しくなる。いい危機感だね、成長してる。

 

 

「うん。これは害のない現象だからね。夜になる以外は何もなし」

「ま、強いて言えば暗いところが危険かな?足元には気をつけてね」

 

「はい」

 

 

 選んだのは、「常に夜になる現象」が根差している森、常夜の森(ノックス・ディエス)。安全な現象だから道を作って打ち枝もして、きちんとお手入れした森にされてるんだよね。

 

 

「ふぅー、結構歩きますね」

 

「食後の運動にはいいでしょ?」

 

「ですね」

「あっ、開けてきた」

 

 

 森を道なりに進むと視界が晴れていき、草原に出る。

 

 

「わぁ……」

 

 

 広く広い草原は夜空に広がる万点の星々の光によって照らされていて、穏やかな風に草々が靡く姿が良く見える。

 そして夜空に大きく浮かぶ満月は唯一の訪問客である私たちを覗き込んでいて、星々を背に抱えていながらも明るい光を放っていた。

 

 

「よく星が見えますね」

 

「そうだね」

 

 

 ミコくんは星空に夢中なようだった。

 そして……私たちはそれ以上、言葉を交わさなかった。

 理由は明白。美しい景色を前に、言葉は不要って決まっているからね。

 

 

「……」

 

「……」

 

 

 夜空を眺め続ける。思えば私もこうして空を見上げるのは久しぶりかもしれない。

 自分一人だと、案外目を向けることのない場所というものはあるんだな。

 

 

 

 そう何となく思い耽っていると、ミコくんが肩を寄せてきた。

 

 私もまた、何も言わずに肩を寄せる。

 

 

 

 瞳と瞳が合う。

 お互いに少し気恥ずかしかくて、照れ笑いをする。

 

 

 

 草原の靡く音が静かに響く。

 

 夜風は少し冷たいけど、お互いの体温をよく感じさせてくれた。

 

 また少しだけ、時間が過ぎて。

 

 

 

 私たちは星空から目を背ける。

 

 

 

 

 

 

 唇が触れ合った。

 

 

 

 

 

 

 ……

 

 ……

 

 

 

 私たちは手を繋いで。

 もう暫く、この時間を共有する事にした。

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