男の娘が魔女になって大変な目に遭う話   作:クエクト1030

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21話「苦痛で繋がった鎖」

「合流って言ってもムネメ先輩どこだ……!?」

 

 

 僕は拉致現場から逃げ、校内を駆けていた。

 校内は爆発音が鳴っているというのに嫌に落ち着いている。日常的にどこぞの教室で爆発の事故が起きているからかな……

 そういえば魔法薬学の授業の時も誰も驚いてなんかなかったな。

 

 

 

 続いて響く、破裂音に耳を劈く切断音、そして落雷の音。

 戦闘の激化を表す轟音が、発生源を転々としながら校内を轟く。

 

 

 

「なに?」「なんだろ」

 

 

 この辺りでようやく、教室から顔を出す人がちらほら見え始める。

 

 

「戦闘起きてます!逃げて!」

 

 

 僕はムネメ先輩を探しがてら、避難を促すために叫んだ。

 けれど。

 

 

「なーんだ喧嘩か」「大袈裟だなあの子」

 

 

 なんて声が聞こえて、次々と首が引っ込んでいく。

 爆発なんて日常茶飯事だから、日常性バイアスの延長線上なのだろうか。諦めずに被害を伝えていても、気の抜けた、あるいは苛立ったような答えばかりが返ってくる。

 

 

 

 しかし「私」は見た。一瞬にして死に絶えた魔女たちの姿を。確かに「私」はヒルフ派の魔女か、あるいはヒルフ本人か。拉致を受けて、拷問を受けて、その上に腕を切り落とされた。

 しかし「私」がそうされたからといって、皆がみんな殺されるまではやりすぎだ。それにそこまでの罪はないんじゃないか。

 

 それに。

 

 

「リーベさんに人を殺してほしくなんかない……!」

 

 

 それは僕の本心だった。例え誰かが傷つけられても、大切な人だとしても……魔女の世界での殺人が常識だとしても。人の生き死にが簡単なものであっていいだろうか。

 

 

 

 それともこの考えは、僕がまだ大切な人が傷つく姿を見ていないが故の……幼稚で甘い考えなのだろうか。

 

 

 

「……あれ、ミコじゃない?」

 

「ヒルフ様が捕まえたとか聞いたけど」

 

「えー、ヒルフ様が逃がすわけないし。捕まえる係が失敗したんじゃない?」

 

「じゃあ私たちで捕まえよう!きっと喜んで貰えるよ!」

 

 

 無視されようが小馬鹿にされようが、必死に声をかけていく中で。

 そんな会話が聞こえた。

 

 

「……なんで」

 

 

 何が良くてヒルフに従うのかは分からない。

 魔女には魔女の間での価値観があるのかもしれないし、僕が見たヒルフの側面は極々一部分の唯一の欠点なのかもしれない。

 けれど、他者を妄信して、その人間のためと言って。見ず知らずの他人を平気で生贄に捧げる精神性は理解し難い。

 

 

『そんな事言うもんじゃないよ。もしかしたらヒルフに洗脳されてるのかもしれないし』

 

 

 「私」はそう言う。

 

 

「本当に、彼女たちに命を奪われない権利があるのか?」

 

 

 疑問が浮かびあがって、怒りが湧いてくる。彼女たちと、自分自身に。

 「私」は何故そんな平和ボケした事をほざくんだ。何故「彼女たちに殺されるまでの謂れはない」と考えるんだ?もう一度あの残酷な魔女の元に引き摺り出そうとする彼女たちに。

 

 

 

 そんなわけあるのか?

 

 

 

 こいつらは他人のために他人を平気で犠牲にする。

 指先を切り刻まれる感覚、出血によって身体が冷え命が失われる感覚。

 いつ激痛に襲われるかも分からない恐怖。

 

 

 

 それを、何の正統性もなく、他人へ平然と振る舞う者たち。

 そんな人に。こんな酷い事をした彼女たちには。罰を受けるべきだというのも本心だ。なのに誰にも傷ついて欲しくないのも本当で、勿論リーベさんに人殺しなんかして欲しくなんかないのは本当で。

 それなのに、目の前の魔女たちは罪を重ね続けようとするから。

 

 

 

 目の前の世界と僕は、酷く矛盾していた。

 

 

 

「っ……いや、でも」

 

 

 そんな事を思いながら走っていると、彼女たちは授業中であろうに教室を飛び出して道を塞ぎだす。

 

 

「いや、邪魔をするなら……」

 

 

 呪文を唱えて杖を現出させ、残った片腕で照準を定める。身を守るためには迎撃するしかないから。

 

 

 その時だった。

 

 

 尋常でない殺気を纏った気配が僕たちの間へと駆け抜けるのを感じ、思わず立ち止まる。

 

 

「発見……なんだこいつら?あぁそうか、雑魚に囲まれてたか」

 

 

 瞬きをした次の瞬間に、ムネメ先輩が姿を現していた。

 先輩が僕の顔を見る直前まで帯びていたのは、訓練中含めて感じた気配とは全く異なる憤怒、そして──殺気だった。

 

 けどそれも僕を見つけるとふっと和らいで、周囲を見渡して状況を理解すると。

 

 

「殺す間も惜しいな。」

 

「うわっ!」

 

「跳ぶぞ、大人しくしろ。フレスノ、ミコ回収したからそっちに跳ぶ」

 

 

 僕を片手でひょいと脇に抱えて、縮地で瞬間移動した。

 

 

 

 

 

 

 また一つ瞬きをした時には既に圏域外派のロビーに到着しており、抱えられていた僕はそのままソファに寝かされる。

 

 

「良かった救助でき──みみみミコちゃん、片腕はどうしたんですか!?」

 

「うわぁ!は、早く治療しなきゃ……!?ポーション、ポーション!再生ポーション!」

 

「ヒルフに斬り落とされました。出血はリーベさんがポーションをくれて何とか止まってます」

 

「なな、何でそんな冷静なんですか!?」

 

「えっ何でですかね……?皆さんがいるから安心してるのでし」

 

「うわーっ!?倒れましたよ!アン、早くポーションを!急いで!」

 

「まま、待ってください……!」

 

 

 僕は安心した事で、ぷつっと糸が途切れたように気絶した。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 僕はその後、アン先輩特製の再生ポーションで身体が再生するまで意識を失っていたらしい。

 

 

「ぅ……うん、ここは」

 

「良かった、目を覚ましました!」

 

「ミコちゃあぁぁん、良かったですぅ目を覚ましてぇぇ……」

 

「うわっ、痛ったぁ!アン先輩今は抱きつかないで!!」

 

「起きたか。じゃあ俺はリーベの援護に向かう。何かあったら知らせろ、必ず戻る。」

 

「了解です」

 

 

 アン先輩が飛び込んできて、その衝撃が胴体から片腕に伝わって激痛が走る。

 再生は出来ても痛みは完全には消えないらしい。

 

 すぐ後に気が付くけど、この時自分の腕が再生している事には気付いてなかった。

 まぁ色んな事が急に起きて目を覚ました直後だから、当然っちゃ当然だけど。

 

 僕がアン先輩を宥めている間、ムネメ先輩はフレスノ先輩と二人合点をして、僕に一瞥だけ残して姿を消した。会話の流れからして、リーベ先輩の元に向かったのだろう。

 

 

「大丈夫ですよ先輩、この通り何とも……何と、も……は!?腕が生えてる!?」

 

「部位を復元させる再生のポーションを使いましたから。結構貴重な素材使って、調合も大変なんですよ。アンに感謝してくださいね」

 

「ってことはアン先輩が調合を?すごい……ありがとうございます先輩」

 

「えへへ……私、あんまり魔法得意じゃないけど魔法薬学とかは得意だから、便利な道具いっぱい作ってるんだよっ」

 

 

 膝の上で甘えるように僕を見上げるアン先輩は、自慢げに話して仰向けに寝っ転がった。可愛い……けどこの人こんなに距離感近かったっけ?

 

 

「私とアンは普通の生活でも困難してますからね。私もアンには毎日助けられてばかりです」

 

「そうなんですか?それはまたどうして」

 

「私が音属性の魔法を研究しているからです。アンはヒルフ派の子たちに目をつけられてしまったから、ですね」

 

「えっと、どちらもよく理解が……いやアン先輩はまだ分かりそうですけど、フレスノ先輩はどうして?音属性魔法を研究することの何が悪いんですか?」

 

「……音属性は単純な音、波、そういった性質から延長して、暗示や催眠といった側面を持っています。精神干渉魔法、と分類されるものの、ベースになる性質ですね」

 

 

 音属性、確か僕の適正は風と共に3だったかな。

 ススピロ対策に少しだけ齧っただけで、単純な音としての側面以外はまだ知らなかった。

 

 暗示や洗脳……精神干渉魔法、か。だからススピロはあそこまで難癖をつけてきたのか。

 

 

「要するに他人を自分の意のままに操ることができる魔法が、特許申請出されているものだけでも、ごまんとあるんですよ。他人に自分の心を操られるなんて好きな人がいるわけないでしょう?それで、音属性魔法使いはイコール、他人の心を操ってくる悪趣味な魔女なんだって、そんなイメージがあるんです」

 

「……そのイメージで、フレスノ先輩も虐めの対象に?」

 

「はぁ、そういうわけです。私が研究しているのは遠い場所同士でも安定し、かつ安全な連絡手段になる魔法なんですけどね。精神干渉魔法なんて基礎で覚えた程度ですよ、出来るのなんて軽い暗示だけです」

 

「フレスノ先輩はね、私たちの物理世界で言うところの電話の魔法を開発してるんだよ」

 

「特許申請が受理されている魔法の中にも、既にその電話魔法はありますけどね。でも特許が降りた魔法ていうものは大抵が高いんです」

 

「学校でも授業で特許の降りてる魔法を教えられますけど、あれはどうなんですか?」

 

「あれはこの学園っていう、つまりは組織の力です。学園全体に対して修学することを条件に相応の魔力を支払って契約してる。組織の財力にものを言わせて、私たちはまだその恩恵に預かれているってだけです。私たちが独り立ちしたら、もう今までのように好きに魔法を学ぶことなんて出来なくなるし、そう簡単に有用な魔法を……それも講師付きで簡単に学べることなんてなくなります」

 

「うぐ……本来あった物理世界での未来が思い起こされる……」

 

 

 物理世界でも同じようなものだからかなり頭が痛い。特許が記された本を読むにも図書館を利用してるし、何か分からない点があれば先生に聞ける。でも卒業したらそんな事は無くなる……学校学園ってやっぱり超有益な組織だ。

 

 

「ふふん。だから私はですね、ミコちゃん。この電話魔法を、クソ安い使用料で特許申請を出すつもりなんです。そんでもって、圏域の外に行っている人とを繋ぎたいんです。転移魔法で同じことができれば本当はいいんですけどね。流石にそっちは高度すぎて手が出ません」

 

 

 フレスノ先輩は自慢げに、それでいて悲しげに笑う。

 その悲しみの中には自分の力の不足に対する自嘲も含まれているようだった。

 

 

「立派な夢じゃないですか。それなのに……」

 

「えぇ。それなのに石を投げてくる魔女というものはいるものなのです。何を言われようと研究を続けてたんですけどね。でもある日、本当に石を投げられるようにもなったんですよね」

 

 

 嫌なものを思い出しているんだろう。

 苦い顔をして、頬をかく。

 それでも先輩は、僕に何があったのかを話してくれる。

 

 

「そこからは流石に精神も参ってきて……そんな時にリーベ先輩に出会ったんですよね。そのまま圏域外派に加入して、暫くはこのロビーか自室かのどちらかに引きこもってましたよ。アンが入ってきてからは、変身魔法が使えるパウダーを作ってくれまして。やっとそこから授業受けるの再開、って感じでしたよ」

 

「その時のフレスノ先輩、すごい震えてた……」

 

「あはぁ、恥ずかしいですね。まぁ、そうです。そうでした。私だって、ただ石を投げられただけでも怖かったんですよ」

 

 

「……だからねミコちゃん、怖かったでしょう」

 

 

 そう言って、先輩は僕を抱きしめた。

 膝にいるアン先輩も、何も言わずに身体を寄せる。

 

 二人とも、僕が安心できるように……こうして身を寄せてくれているんだ。

 他者と触れることは、言葉よりもより強く伝わるから。

 

 当時のリーベさんも、安心してもらえるようにこうしてたのかな。

 

 落ち着く。慰められる。安心する。

 

 

 

 でも。

 

 

 

 今そうするべきではないと思う。

 

 

 

「……お二人とも、ありがとうございます」

 

「だからね、あとは先輩たちが何とかするまでここで待ってよう?私たちに出来る事なんて、何もないですから」

 

「それは……」

 

 

 それはどうだろう。

 出来ることがあるかないかで言えば、あるのではないだろうか。

 

 それに。

 

 

「これは私が捕まったせいで起きた事なんだから」

 

「……」

 

「何か出来ることは、探さないといけません」

 

 

 

 その言葉を聞いた先輩は苦笑いを溢した。

 僕の言葉が予め分かっていたかのかもしれない。

 

 だって、その顔はあまりにも引き攣っいて、泣きそうな顔をしていたから。

 

 

 

「やっぱり、そう言うんですね……この前のリーベ先輩との喧嘩も似たようなものなんでしょうね」

 

「え?」

 

 

 

 そして僕の目を真っ直ぐ見つめて、次の言葉を僕に告げる。

 その声には断固たる決意と、心から絞り上げられた苦しみが、確かに込められていた。

 

 

 

「だから──君をここから出すわけにはいかないんだよ、ミコくん」

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