「今回の罰は10件の任務で手を打ちましょう」
淡々と書類を書き上げながら校長先生は話す。
僕たちは、先月起きた僕の誘拐を発端とする殺人及び建物を破壊した事件について、校長先生に呼び出されていた。
「今回は喧嘩にしては少し規模が大きかったですね。まぁそれも仕方ないかもしれませんが。ともかく、それで今回の責は無くなるということで」
「「はーい」」
呼び出された僕たち圏域外派は大人しく返事をする。
……えっと。罰ってこれだけ?
「あの」
「どうしました、ミコくん」
「いえその。この措置を取ってもらった事自体は感謝しているのですが。いいんですか?」
「いい、とは?」
「その。だって色んな人殺してしまって……」
「あぁ。」
なんだそんな事か、というような顔で校長先生は紅茶を一口含む。
「ほとんどの魔女は一命を取り留めてますよ。リーベさんはあくまで身体を貫いた程度ですから、よっぽど希死念慮に苛まれているような者でなければこの程度では死にはしません」
「ヒルフさんも生きていらしているようですしね」
「はっ!?あいつ生きてたの!?今度こそあいつは殺したと思ったんだけどなぁ……」
リーベさんは驚きのあまり立ち上がって叫んだ。
嘘でしょ、あれでも生きてるってなに?
「まぁそれに、魔女を殺す事自体は大した罪にはなりませんよ。今回は建物を大きく毀損させたことへの罰が9割です」
「えぇ……」
「ミコくん。いいですか、魔女の社会とはこうしたものなのですよ。弱ければそれまで。弱いのなら弱いで、立ち回りを上手くしろ。逆に言えば、強ければ何でもいいのです。横暴に振る舞おうが、誰かに優しくしようが、強者には自分のやりたいことを意のままに行う、権利があります」
「今回はリーベさんたち圏域外派の力が勝り、勝者となった。それまでのことです」
「……」
まるで子供を諭すかのような優しくも、キッパリとした口調。
適者生存ではなく、弱肉強食。
強者にこそ全ての権利がある世界。
「とはいえ。また喧嘩をして同じ被害を出されても面倒ですので、早めに誰かからの首輪をつけてくださいね、ミコくん」
「……首輪?」
☆☆☆
「えっと、なんですかこれ……?」
「首輪だね」
校長先生から解放されて圏域外派のロビーに戻ると、皆んな揃って衣装部屋から首飾りを何種類も引っ張り出してロビーに並べ立ていた。
「あの、首輪ってそもそもなんですか?」
「あー首輪ね。首輪っていうのは──」
「説明しましょう!首輪というのはつけることで特定の魔女の所持物として証明できるものでして、つまり首輪を身につけることで実質的にその魔女の庇護を受けることになるのですよミコくんちゃん!」
フレスノ先輩が急に熱弁し出す。
「うん?所持物!?」
「そうです!お前は俺のもの!」
「なんで!?嫌ですよそんなの!」
物扱いは嫌だ!というかそんなの奴隷じゃん!?
「形式上そうなるから私も首輪をつけようとはしなかったんだけど……今回みたいなことがまた起きたら困るからさ。私の名義なら滅多に手を出す子はいないと思うし」
「り、リーベさんまで」
「首輪をつける際には強い強制力を持つ命令を持たせられるんですよ!ちなみに人気なのは強制発情とかお座り、ちんちんとかの芸を仕込むことで──」
「フレスノちゃんそーいう事いちいち言わなくてもいいの!」
「あいたっ!」
拳骨を食らってる。
そんなの犬じゃないか……やっぱり断固として御免被るぞ。
「大丈夫、それはあくまで両者間で同意する場合のみだから。それに今回はあくまでも所有者と被所有者の関係を作るだけ。私とミコくんは変わらず対等な恋人だし、命令とかもないから」
「ほ、本当ですか?」
「本当!フレスノちゃんもごめんなさいして!」
「す、すみません。つい興奮して私の願望がもれ」
「ふんっ」
「いったーー!!」
また拳骨喰らってる。
正直怖いんだけど……いや。リーベさんなら信頼出来るし、それに信頼したい。単純にこれ以上余計な迷惑をかけたくないっていうのもある、しね。
「じゃあ……まぁ。」
「でもー、せっかくなら可愛い首輪がいいじゃーん?」
「え、あ、はいそうです、ね?」
……だから引っ張り出してたのか。
この中から好きなの選んで自分でつけてね!ってこと?
なにその遠回しな羞恥プレイ!?
「ミコくんも好きなの選んでね、私たちも似合いそうなの選ぶから〜」
「こ、これ似合いそう……えへへ、可愛い……」
「やっぱり私はですね、ミコくんちゃんにはとびきり可愛いものととびきりえっちなものが似合うと思うんですよね。あとこういうワンちゃんがつけるようなものも倒錯的で大変素晴らし……」
「やっぱり男なら金属だろ。」
「みんな凄いノリノリじゃん……」
全員すごい乗り気で首飾りを選び始める。
珍しくムネメ先輩もノリノリで参加してるな……着せ替えする時も毎回スルーだったのに。かっこいい系統なら乗り気だったりするのだろうか。
「うーん。これとか……いやちょっと恥ずかしいかも。もっと大人しめで普段からつけやすいものの方が」
まぁ僕も自分で探すんだけどさ。
なんか皆んなが楽しそうにしてるってだけで僕も楽しくなってくるよね!
やってる事はやばいけど!!所有物の証を自分で決めるって変態みたいじゃんね!!
「みんな出揃いましたか〜?」
「ではお披露目です、一斉にテーブルに置いてください、ドン!」
暫くして。
テーブルに、各人が選出した首輪が置かれていく。
首輪、といってもフレスノ先輩が言ったように犬がつけるような首輪というわけではなくて、殆どは首飾り。
ネックレスとかチョーカーとか、それこそリボンなんかもある。
……まぁ、本当の首輪もあるけど。誰だこれ置いたの。
「えーっと。これ、僕が試着する流れですよね?」
「流石ミコくんちゃん、もう慣れっこですね!」
「慣れたくないんですけど……!」
「はぁ、まぁ首飾りなら別にそんなですし。じゃあえーっと……ムネメ先輩のからで」
ムネメ先輩が選んだのは、銀のチェーンがついて十字架が下がってるネックレス……これ普通に物理世界にもあった気がするぞ。
こういうの男の人が身に付けてたな、あとはクラスの悪ガキ男子がこっそり身に付けてたり。中学の記憶が蘇る。
「どうせこいつら可愛い系統だろ。中にはこういうのもあっていい。」
「ムネメ先輩……!」
うぅ、僕に向けられるチョイスを考えて幅を持たせてくれるなんて……!
やっぱりムネメ先輩は優しい。うんうん。
「わ、私のもつけてっ」
「えーっと、これは……すごいモコモコしてますね?」
アン先輩のチョイスは桃色のシュシュみたいなモコモコがついている……チョーカーの分類になるのかな?後ろに留め具がついてて分解して着脱できるし、首にフィットしてるからそういう事だよね。
「チョーカー?ですかこれ。なんかネックウォーマーにも近いような」
「ふわふわもこもこは、可愛い」
「な、なるほど」
「それに私もお揃いでつけたい……!」
「……じゃあこれアン先輩が付けたいやつって事ですか?」
「うん」
正直だ……ま、まぁ普通に可愛いからいいけども。
あとモコモコなの、暖かそうなのがいいよね。着けてみても肌に触れる部分に金属が当たらないのもポイント高い。あったかーい。
「えー……じゃあ次、フレスノ先輩どうぞ」
「なんか嫌そうな声ですね。ふふん、私は三種類選びましたよ、どうぞつけてください!」
「とりあえずこれ以外から」
「アーッ!首輪ァー!」
犬の首輪を放り捨てて他のものを試着する。やっぱこれフレスノ先輩のチョイスか。
残った一つはトゲトゲがついてるチョーカー。これはゴスロリって言えばいいのかな。ああいうのでありそうな雰囲気。これはまぁ、いいかも。
「……」
「おほー、似合ってますよ!」
もう一つはロリータ系って言えばいいのかな……白とピンクの大きなフリル付き……完全にフレスノ先輩の趣味だろこれ。
まぁ、まぁ。犬の首輪よりは、マシだから。
「はぁ……」
「(ふふふふ。最初に無理難題をふっかけて次に妥協点として本命を飲ませる!上手くいきましたねぐへへへへ)」
「えーっと、じゃ最後。リーベさんのを試着しましょう」
「うわフレスノちゃんすごい顔してる……あぁえっと、はいこれ!」
「あ、これは……シンプルでいいかも」
「でしょでしょ〜!」
リーベさんが選んでくれたのはレースのついたチョーカーで、真ん中に小さな宝石が下げられているものだった。
レースもフレスノ先輩が選んだようなフリッフリなものではなくて、黒色の控えめな幅。それに意匠も綺麗だけど、ゴテゴテじゃないからコスプレ感もなくてかなり良い。
「これ、いいかも……!」
「えへへ」
「他の二つはペンダントと、あとはリボンですね」
「ペンダントはシンプルに綺麗でしょ?リボンはミコくんが着けてもいいならだけど、可愛いからいいかなって」
「……まぁ、リーベさんが望むなら」
「ほんと!?やったーー!」
「エッ、じゃあ私のも!!」
「フレスノ先輩はやです。」
「くそおおおお!!」
フレスノ先輩は膝をついて叫ぶ。
迫真すぎる。どんだけ着けさせたいんだよ。
この前は普通に頼れる人だと思ったけど実は結構やばい人なのかもしれないなフレスノ先輩。気をつけよ……
「ところでこれ全部が『首輪』なんですか?」
「うん。……あ、正確には一部はそうじゃないよ。普通のアクセも混じってる。まぁどっちにしても、変な強制力とか無くすためにこれから全部の首輪の魔法を解体して、新しく首輪の魔法を刻む必要があるね」
「へー、そんな入れ替えも出来るんですね。すごい」
「まぁね。じゃあちょちょいっと」
リーベさんが杖を出してそれぞれの首輪候補と睨めっこすると、一つ一つにリーベさんの魔力が宿っていく。
「よし、これで完了っと」
「どれどれ……おー、すごい。なんだかリーベさんに守ってもらえてる感じがしますね」
試しに首輪をつけてみると、さっき感じた通り、首元にリーベさんの魔力を感じる。着けている感覚としては締め付けられというよりも、優しく包まれている感じ。
「迷いなく着けますね」
「え、だってリーベさんが作り直してくれたものですし」
「……えへへ」
なんか周りの視線が突き刺さているような気がする。何故?
「じゃあ早速身に付けて〜」
「えぇ」
「部屋行こっか!」
「……え?」
僕は首にペンダントを下げたまま。
リーベさんの部屋に連れ込まれた。