男の娘が魔女になって大変な目に遭う話   作:クエクト1030

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28話「決闘宣言その1」

 プロトとの出会いから翌日。僕は黎明の位階に該当する講義を受けていた。黎明の位階に上がったとは以前さらっと触れたけれど、経緯について少しだけ詳しく話そうと思う。

 

 まぁそう難しい話でもなく。ススピロとの決闘の話が周囲に流れていき、魔法学の先生の一人から「黎明の位階へと昇格して受けられる授業のレベルを上げた方がよいのではないか」と提案を受けたからだ。

 ヒルフとの戦いは流石に格差がありすぎる事と、リーベさん、ムネメ先輩がいた事で僕が前線に加わっているものとは考えられていなかったようだ。

 

 実際その通りだし、それで変に飛び級しても絶対に授業追いつけないから良かった。

 

 もう少し基礎的な勉強を進めてからにしたかった所はあるけれど、昇格しても下級の授業を受ける事は引き続き可能との事だったので昇級する事にした。思い返せば、最初の魔法学の授業や魔法薬学の授業でリーベさんが僕に同行してくれたと考えつつ。

 

 

 

「流石に難しいなぁ……ノートにメモ取るのも大変だ」

 

 

 

 黎明の位階の授業中と言えども、今受けているのは魔法学の授業。ランク2相当の属性の取り扱いと、その注意点。また術式のより細かな書き方が説明されている。

 基礎的な部分を並列して学んでる最中だから正直全てを理解出来てるわけじゃないけど……それでも、言っている事を何となく推測・逆算して噛み砕く事は出来そうだ。

 

 

 

「ふーん、あんたもう黎明の位階になったんだ。入学してから1年以内か。まぁ私を打ち負かしたんだからそれくらいになって貰わないと困るけど。」

 

「えぇ、別の先生から推薦されまして。基礎的な授業を受ける事は変わらず可能らしいので上がる分にはいいかな、と……と?」

 

 

 あまりにも自然に話しかけてきたので何でもなしに返答したけど、途中で違和感に気がつく。話しかけて来た相手は──

 

 

 

「げぇススピロ!なんで──」

 

「コラ、今授業中。静かにしろ」

 

「むむ。」

 

 

 

 ススピロだった。何故ここに、まさか自力で教室へ……

 いや不自然な事ではないんだけどね、ススピロも黎明の位階の魔女だし。ただまさか同じ授業で隣の席で、しかも話しかけてくるとは思わなかった。

 

 花嫁修行の時も思ったけど一応僕とススピロって因縁のある相手なんだけどな?決闘で決着はついてるけど、それでもお互いに思うところはあると思うんだけど……まさか僕が一方的に考えてるだけ?

 

 

「へー……ノートの書き方、マメだね。まぁ真面目ちゃんだし想像通りか」

 

「覗かなくていい。うわ、ススピロのは汚ったな……」

 

「うっさい。」

 

 

 ヘアピンを一本弾き飛ばしてくる。先に見て来たのはそっちなのに。

 

 

「……で、なんか用なの?」

 

「用って訳でもない。でも気になってね、ヒルフさんを倒した圏域外派の悪戯娘ちゃんの噂ってやつをさ。知ってる?あの一件からヒルフさん、ヒルフ派に目を向けてくれるようになったんだよ」

 

「はぁ」

 

 

 

 話半分に僕は講義の方に耳を傾ける。いや、半分でも意識をススピロの話に引っ張られた、と言い換えてもいいかもしれない。僕が拉致された時に自分の派閥をきちんと統率した方が良い、と僕は言っていたから、もしかしたらその事を思い出してきちんと指導するようになったのか、なんて思ったから。

 

 まぁこの魔女社会でそんな責任感持ってる人は少ないと思うけど……特にヒルフはその言葉に対して何故自分がそんなことをしなければならないのかって、言ってたし。

 

 

 

「でね、調子乗ってた擦り寄り組が軒並みお灸を据えられててさぁ。ざまぁないて感じよね〜、爵位持ちって事だけ目当てにしてるのほんっとキモかったし」

 

「ススピロもそうなんじゃないの?襲ってきたし。」

 

「一緒にしないで。私はあの時ヒルフさんから直接お願いされたんだよ。まさかリーベもいるとは思わなかったけどね。あの時はほんっと肝が冷えたわ」

 

「リーベさんがいるって分かってて攻撃するとか、よく出来るね?というか何でススピロはそこまでするわけ?」

 

 

「ま……ちょっと、恩があってね」

 

 

 講義の終了のチャイムが鳴る。先生は授業の最後に要点を大きな丸をして囲み、足早く退室していく。この学園の教師の殆どは授業が終わるとこうしてさっさと去ってしまう。

 

 けどこれはやる気がないってよりも、忙しいせいだ。その証拠に、先生が休憩中でも授業で気になった点や応用のアイデアを相談しに行くとほとんどの人は嬉しそうに相談に乗ってくれた。

 

 ……まぁ、たまに意地悪な人もいるけども。

 

 

 

「あんた、この後予定入ってる?」

 

「入ってないよ。部屋に戻ってノート纏めて教わった事を実践するっていう大切な大切な予定は入ってるけどね」

 

「じゃあ入ってないようなもんね。ちょっと付き合いなさい」

 

「拒否権は?」

 

「ない!」

 

「はぁ……分かったよ。その前に教材を置くのと、圏域外派の皆さんには挨拶していくからね?」

 

「はいはい、お好きにどうぞ」

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

「ふぅ。まさかリーベじゃなくてアンにあそこまで絡まれるとは思わなかったわ」

 

「何でですかね。自分の胸に手を当てて考えてみては如何ですか?」

 

「いやぁ今日も豊かね〜!隣のチビまな板とは違って!!」

 

 

 

 圏域外派に一度戻り、ススピロとどこか言ってくると伝えるとアン先輩が引っ付いて「行っちゃ駄目!」と、隣のススピロを睨みながら強く引き止められた。

 

 リーベ先輩も睨んではいたけど、フレスノ先輩との電話魔法を持つ事で許可は降りた。あの戦い程でないにしても、殺気立ってるのは心臓に悪い。正直ここまで心配されるとは思わなかった。もっと警戒した方がいい、のかな?

 

 ……最後の最後までアン先輩は引っ付いて来たけど、最近どうしたんだろうか。ロビーに帰ってくる度に膝に乗ってきたりして、リーベ先輩の視線も怖いんだよね。

 

 

 

「はぁ。で、どこ行くの?」

 

「ま。ついてきてよ」

 

 

 

 

 

 

「ここは?」

 

「入るよー」

 

 

 寮棟の一角、ススピロが遠慮なしに入った部屋には多くの魔女が集まっていた。部屋は圏域外派よりもかなり大きな空間になっていて、統一されたインテリアというよりも各々の持ちよった雑貨を好きに置かれている自由な内装、といった雰囲気。

 

 

「失礼します……で、何ここ?」

 

「ヒルフ派のロビー」

 

「……は?」

 

 

 は?

 ……は?

 はぁああああ!?

 

 敵地ど真ん中じゃねぇか!!

 

 

 

「あ、この子がミコちゃん?」「へーかわいいね」

 

「ススピロちゃんとヒルフ様倒したってこの子!?」

 

「バカ、倒したのはリーベでこの子は援護でしょ」「悪戯じゃないっけ?」

 

 

 

「……うん?」

 

 

 

 逃げ足を第一に考える僕を他所に、室内の魔女たちは和やかな空気で雑談している。仲間のススピロを倒しただけでなく頭目のヒルフを倒した圏域外派の怨敵女……が僕にかけられているタグだと思ったんだけど。

 

 なんだか、様子がおかしい。

 

 

 

「あー悪いね。ヒルフ派のロビーって言っても、さっき言った擦り寄り女共の集まりじゃないの。ヒルフさん個人にそれぞれ惹かれて集まった奴らね」

 

「は、はぁ……いやだとしても」

 

「ヒルフ様を倒した、というか傷つけた事はあんま良く思ってないけど、それでもあの人が擦り寄り共ときちんと向き合うようになった。それはさっき言ったっしょ?」

 

「う、うん」

 

「その点で感謝してるんだよ。自分で自分の敵をきちんと払ってくれたからね。私らじゃ規模的に自浄するの無理だったし。ま、ヒルフさんの手を煩わせたってのは反省しなきゃだけど」

 

「……?いまいち話が飲み込めないんだけど」

 

「ありがとうね、ミコちゃん!」「朝日のひよこの癖に勇気あるね!」

 

「??」

 

 

 

 

 

 

 詳しく事情を聞くと。

 まず第一に、ヒルフ派には同じ派閥内にも更に二つのタイプが存在していたらしい。

 

 一つ目はヒルフ……というよりは、彼女の家であるクヴェーレ家を目当てにしている人たち。要するに家柄を目当てにお近づきになろうとする人の集まりで、規模的にはヒルフ派全体の7割を占めていた。

 前に聞いた、ヒルフ様にために〜と言って勝手に行動しているのはこのグループで、その殆どがむしろヒルフの行動の邪魔になっている。

 

 二つ目はススピロたち……つまり今このロビーに集まっている魔女たちのグループで、彼女たちはヒルフ個人に何かしらの恩や尊敬を持っていた。例えば「魔法の理論が分からなかった所を教えてくれた」ことや「綺麗だから好き」だとか。あるいは「黄昏の魔女として尊敬している」とか。

 些細な事とはいえ、クヴェーレ家へ近づくのではなく、ヒルフ本人へ敬服や感謝を感じ、ついていこうとするグループだった。

 

 

 

「そんなまともそうなグループなら、何で私たちを襲ったんですか?」

 

「ヒルフさん、何でかは知らないけどリーベのことすごく嫌ってるのよね」

 

「……嫌いだから攻撃したんですか?おかしいとか、止めるべきだって考えたりは」

 

「別に。思う所がないわけじゃないけど、彼女が嫌いだっていう感情を私たちが違うって否定する理由にはならないでしょ。忙しい身でうざったい連中に付き纏われてうんざりするってんだから、代わりに鬱憤を晴らす手助けくらいはするよ」

 

「はぁ……」

 

「ま、それが巡り巡ってヒルフさんも負けたわけだし。それはそれでヒルフさんの自業自得。それで失ったものもあるかもしんないし、それで得たものもあるからね」

 

「本当に自分勝手だね」

 

 

 

 うんざりする。けど今なら……彼女たちの言いたい事も少しだけ分かる所は、ある。もしリーベさんや圏域外派の皆が嫌いな相手がいた時。嫌いという事を先に聞いていたら……僕もきっと、第一印象は最悪になるだろうから。

 大切な人と感情を共有する事は、僕が想像するよりも人にとっては重要で、大切で。とても制御が難しい事なんだと思う。

 

 ……だとしても、何も分からずに攻撃するのはどうかと思うけど。

 

 

 

「で、私を呼んだのは結局何でなの?挨拶するだけなら帰ってもいいかな。さっきからフレスノ先輩が叫んでるし」

 

 

 

 魔法越しに「うわあああミコくんが拉致られました!」「あ、ごめんなさい早とちりです。うわぁリーベ先輩落ち着いて、落ち着いて!」と聞こえてくる。

 

 後ろがヤバい。

 

 

 

「あーさっき言ってた電話魔法?だっけ。音魔法使いの癖に洗脳魔法使いじゃなかったんだフレスノ」

 

「……それ以上、先輩方の悪口を叩かないでくれる?」

 

「けほん。ごめん、今のは失言だった」

 

 

 

 また一つこほん、とススピロは咳払いをして僕に向き直り、彼女は真剣な面持ちで話の本題に入る。その顔つきはいつもの、また先ほどまでのへらへらとして、ぶっきらぼうで不真面目なニヤついた色ではなく、鋭い視線で僕を見つめる断固たる覚悟を持った人間のもので。

 

 

「圏域外派、黎明の位階ミコ・マレガカリ。」

 

 

「ヒルフ派、黎明の位階ススピロ・タベルナがここに──決闘を申し込みます」

 

 

 

「……はい?」

 

 

 

 ススピロは、僕に再戦の申し入れをした。

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